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花ざかりの理樹たちへ その52 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



『直枝くんへ



 突然こんなお手紙を見てビックリしたと思います。

  けど、どうしても直枝くんに直接伝えたいことがあるんです。



   良かったら、良かったらでいいんです。

    もし良かったら私と会ってもらえませんか?

     午後3時30分に理科室で待っています。



                    杉並 睦美』



「…………?」

手紙を開くと、こんな文面が書かれていた。

「??」

もう一度、手紙をよく見る。

…………。

たしかに杉並さんから僕宛の手紙だった。

杉並さんとはほとんど話もしたことがない。

その杉並さんが…僕に言いたいこと?

同じクラスなんだから、わざわざこんなことをしないで休み時間に直接言ってくれればいいのに…。

――それに理科室って。

放課後の特別教室棟は全くと言っていいほど人がいない。

もしかして、人に聞かせたくないような話?

まさか……。

一昔前のマンガとかだと、下駄箱に手紙が入っていて、手紙の場所に行くと告白されたりする。

まさかね。

今時そんな古典的なことをする人もいそうにない。

う~ん。

いったい何の用かな?

僕は首を捻る。

う~~~ん。

…………。

……。



――キーンコーンカーンコーン……――



「ではみんな!! 気をつけて帰るように、以上!」

「解散っ」

授業が終了し、放課後に突入した。

教室が喧騒に包まれる。



杉並さんはいそいそと道具をカバンに詰めている。

よし。

――ガタッ

話しかけようと思い、席を立った。

「理樹っ、放課後だぜ! 遊ぼうぜっ!」

「一刻一秒が惜しい…早く遊ぶぞ、理樹」

杉並さんの席に向かおうとした矢先、少年のように目を輝かせた真人と謙吾が寄って来た。

「ごめん、先に遊んでて。僕も後から混ざるからさ」

杉並さんが席から立ち上がる。

「あ、すぎ――」

声を掛けようとしたら…。

「理樹がいなきゃ寂しいじゃねぇかよっ! オレは理樹がいなきゃダメなんだよっ!」

真人がすごくワガママだった!

「すぐ戻ってくるから、ガマンしてよ。ね、真人」

「けどよっ」

うわ、大の男(しかもマッチョ)がいじけてるし!

「むぅ…用があるのだから仕方ないだろう」

謙吾もちょっと寂しそうだ。

「そうだな…真人」

「んだよ、謙吾」

「――俺が考案した“後ろの胸筋だぁれ?”をやらないか?」

「“後ろの胸筋だぁれ?”だぁ…?」

さすがの真人も、そんな遊びじゃあ……。

「めちゃくちゃ面白そうじゃねぇかっ!!」

ものすごい食いつきだった!

「ぼ、僕もすぐ戻ってくるからね」

…杉並さんはもう教室にいなかった。

指定の時間まで後10分。

たぶん杉並さんはもう理科室に行ったんだと思う。

「後ろの胸筋だぁれ?」「謙吾っち」「ほう…よく見破ったな」とやっている二人を置いて理科室に向かうことにした。





理科室へ向かう途中。

「ここから先は特別教室しかないが…どこへ行こうというのだ、理樹君?」

――ふぅ~っ

「ひゃぁぁぅ!?」

いつの間にか横にいた来ヶ谷さんに、耳に息を吹きかけられた!

「く、来ヶ谷さんっっ」

「はっはっは、キミの怒った顔は非常に魅惑的だ」

「そそられるぞ」

満足気な笑みを浮かべる。

「……」

僕は来ヶ谷さんを置いて歩き始めようとする。

「なんだ、耳に息はお気に召さなかったか?」

「当たり前でしょっ」

「ふむ、ならば耳に息は自重するとしよう」

口元に手を当てて、ふむと考え込む。

「して…次からの挨拶は耳たぶを噛むのと首筋に口づけ、どちらがいい? 二択だ。他の選択は認めん」

「って、なんでグレードアップしてるのさ!?」

「ダメか?」

「ダメに決まってるからっ!」

必死に言い返す。

「はっはっは、理樹君は本当に可愛いな」

完全に僕をからかって遊んでるよ、この人…。



「――話は最初に戻るが、この先は特別教室しかないぞ」

「あ、うん…理科室にちょっと用があってさ」

「理科室に用?」

来ヶ谷さんが訝(いぶか)しげな顔をする。

「つまり今の理樹君の言葉を意訳すると、誰もいない理科室でおねーさんとゲッチューラブラブでくんずほぐれつとしたいのだな?」

「いやいやいやいや…」

とんでもない翻訳だった!!

「なんだ、違うのか」

「そうなると…ほう、なるほど、そういうことか」

また一人で頷いている来ヶ谷さん。

「はぁ…今度は何を思いついたのさ」



――スチャ!



「これか」

いつの間にか、来ヶ谷さんが手紙を手にしていた。

「え? あ…ちょっとそれっ!」

杉並さんからの手紙だ!

ポケットに入れておいたはずなのにいつの間にっ!

「どうだ? おねーさんのテクニックは」

不敵な笑みを浮かべる。

「もう…上手すぎるよ」

スリの才能があるのかもしれない。

「…………」

「えろい…」

「えろくないからっ!!」

…年がら年中、そんなことで頭がいっぱいなのではないか、と思えてきた。



「――なるほど」

手紙を読んだ来ヶ谷さんが頷く。

「うん、今から会いに行こうと思って」

「けど…いったい何の話だろう?」

僕は首を傾(かし)げる。

「キミも立派な女性だ。少しは女性の気持ちを汲んであげてもいいものだがな」

「いーやいやいやいや!」

僕はとりあえず男の子だっ!

「……まあ、考えても答えが出ないものは出ないものだ」

「――特に人の考えることはな」

「ほら、もう時間だぞ」

時計を見ると、もう3時30分だった。

「女性を待たせるものじゃない」

「来ヶ谷さんのせいでしょっ」

「はっはっは、小さいことは気にするな」

「はぁ…もう」



僕はため息をつきながら理科室へと向かった。

――不気味な笑みを浮かべた来ヶ谷さんを置いて。