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花ざかりの理樹たちへ その59 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。





「二回戦に移ろうと思うが、いいか杉並女史?」

「(こくこく)」

杉並さんは頷きながら、嬉しそうに携帯電話をいじっている。

「杉並さん、理樹ちゃんのメールアドレスもらってから嬉しそうデスネ?」

葉留佳さんが杉並さんの携帯電話を覗こうとする。

「え!? そ、そ、そんなことないけど…」

そう言いながら携帯電話をポケットにしまい、僕をチラリと見る。



――ブルブルブル~



僕の携帯電話が振動した。

見ると――



『 わ~い、やったネ! 私たちの勝利だよっヾ(^▽^)ノ

  次もいっしょにがんばろ☆

  負けるなファイト~~p(^-^)q 』



「うわぁ…」

メールではわりと積極的みたいだ…。





「――次の勝負は、西園女史とこの私が直々にお相手をする」

「……よろしくお願いします」

二人が僕らの前に立ちはだかる。

来ヶ谷さんと西園さんか…。

「どうした、理樹君?」

「……どうしたのですか、直枝さん?」

二人の目は爛々と輝きを放っているっ。

あの目は…絶対に悪巧みをしている目だっ!

「――杉並女史は、この勝負に勝ったら…理樹君の電話番号でどうだ?」

「え、ホント…?」

杉並さんも目を輝かしている。

…餌付けされてるっぽい気がするよ…。



「……では、我々の勝負方法を発表します」

西園さんの静かな物言いが恐怖感を倍増させる。

「勝負方法は――」

僕はゴクリと生唾を飲む。

「――『口説き』対決です」

………………。

西園さんが言い放った途端に、辺りが静かになる。

「………………え?」

「口説き…対決?」

僕と杉並さん、そして他のみんなにもクエスチョンマークが浮かぶ。

「……はい、口説き対決です」

「ふえ? それって何するの?」

小毬さんが首を傾げる。

「ルールは至って簡単です」

「杉並さん、直枝さんそれぞれがわたしか来ヶ谷さんを口説き落としてください」

「わたしたちの心を動かすことが出来れば合格です」

そんなことをさらりと言う西園さん。

「そっ、そんなの無理だよっ!」

第一…恥かしいよっ!

「……大丈夫です」

「相談時間を設けますので」

「私と来ヶ谷さん以外でしたら、誰とでも相談して結構です」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

「……どのように口説いてくださるのか楽しみです」

西園さんはもう期待で胸いっぱいのようだ!

「私も一度でいいので情熱的にあぴーるしてもらいたいのですっ」

「私も理樹ちゃんを口説きたいよー」

「いやいやいやっ」

クドや小毬さんまでそんなこと言い出すしっ!

「本気になってしまったらその場でカップル成立ということで異論はないな?」

「ダメだからっ!」

何を考えてるんだっ、この人は!

「あの…」

杉並さんが小さく手を上げる。

「私そんな……くっ、口説くなんて、恥かしくて……む、無理」

顔を真っ赤にして首を振っている。

「恥かしくて無理とな?」

「う、うん」

来ヶ谷さんが、フムと口元に手を当てる。

「キミは――」

「?」

「その『恥かしい』という感情で、今までどれだけ損をしてきたのだ?」

「――!?」

ビクリ、と反応する杉並さん。

「その感情のせいで自分を出せずに、何度も逃げ出してしまったのではないか?」

「…………」

「本当は……そんな自分を変えたいと思っているのではないか?」

来ヶ谷さんの声は柔らかい。

「け、けど…自分を変えるなんて…」

杉並さんは来ヶ谷さんから目を逸らす。

「なに、キミだってやれば出来る」

「そんな…やれば出来るだなんて――」

軽々しく言わないで、というニュアンスが聞いて取れる。

「いや、キミはもうその階段を登り始めている」

「え…」

「さっきはあんなに頑張って腕立て伏せをやってのけただろう?」

「あ…っ」

「これは、キミも出来ることの証明に他ならないのではないか?」

「…!」

来ヶ谷さんの手が杉並さんの肩に乗せられる。

「今回はキミのその恥かしがり屋を克服するのにいい機会だ」

「どうだろう、頑張ってみては?」

「キミなら――出来る」

来ヶ谷さんに向ける杉並さんの目がキラキラと輝き出す!

「うん、私…がんばるよ!」

杉並さんからやる気があふれ出している!

「杉並女史がやる気を出したところで、早速開始とするか」

「直枝くん、がんばろうね!」

「う、うん」

来ヶ谷さんに良い様に言い包められていることは…言わないほうが良さそうだ…。

「……では、5分ほど相談時間を設けます」

「私と来ヶ谷さんは向こうで談笑していますので、終わったら呼んで下さい」

そう言うと二人は「あんな娘たちに迫られたら自制が効かないかもしれん」「……校内では我慢してください」と言い合いながら教室を出て行った。





――イスを円形に組んで、みんなで相談を始める。

「直枝くん、私からやってもいい?」

「うん」

杉並さんの柔らかくなった表情を見る。

どうモチベーションが上がったのであれ、楽しそうに遊びに参加してくれるのは良かった。

「問題は相手ですネ…」

「そうだね…」

西園さんと来ヶ谷さんのどちらかにアプローチする訳だけど…どちらも一癖も二癖もある。

「ゆいちゃんなんてどうかな~」

「来ヶ谷さんかあ…」

「姉御ねぇ…」

――ちょっと想像してみる。



『く、来ヶ谷さん…わ、私……だ、ダメっ…やっぱり、そんなこと…い、言えない…よっ』

『言わずとも――』

優しく杉並さんの肩を抱き寄せる来ヶ谷さん。

『キミの気持ちは私の心の奥深くまで届いている』

『え…』

『レストランを予約しておいた――夜景が綺麗なところだ』

『それって…』

『――好きってことだよ……心から、キミを』



口説き落とされる…!

「どうかな~?」

「(ふるふるふる~!!)」

「(ふるふるふる~!!)」

僕と葉留佳さんで全力で首を振る。

「くるがやがダメなら、西園さんだな」

鈴の言う通り、消去法的に西園さんしかいない。

「わふー…西園さんは西園さんで、はーどるが高いのです…」

「あーたしかに、取っ掛かりがないというか何と言うか」

「「「「「う~~~ん」」」」」

みんなで考え込む。

「やっぱそこはお見合い風に探り探りでいくしかないんじゃねぇか?」

珍しく真人から建設的な意見が出される。

「ふえぇ…ご趣味は、みたいな?」

「それで『うわ! 奇遇~! 実は私も』とみおちんの趣味に合わせて盛り上げていくっていうセンポーですネっ!」

「わふーっ、あたかも合コンなのですーっ」

そんなので大丈夫かなあ。

「西園さんの趣味って何だろ…」

うーんと唸る杉並さん。

「西園さんって意外な趣味を持ってたりするからね」

「そういえば……」

クドが何か思いついたようだ。

「クド、何か知ってるの?」

「はい、西園さんはよく、びーえるがどうとか話しているのですっ」

「あ、それ私もよく聞くよ~」

「「「「「 BL? 」」」」」

みんながみんな首を傾げる。

BL…いったい何だろう?

初めて聞く言葉だ。

「それって…何?」

「いえ…私もよくは知りません」

「ごめんね、私もわからないよ~。何かの略とか?」

クドも小毬さんもその名前しかわからないらしい。

「BL…あーあれな」

忘れてたみたいに言う鈴だけど、絶対わかっていない。

「なんだよ鈴、知ってるなら早く言えよっ」

「ふみゃっ!?」

「…………」

考え込む鈴。

「ボンレス・レディだ」

自信満々だし。

「それ絶対違うし、レディに失礼だから」

「なにー!? たまにいるぞ、キャミソールの肩紐が食い込んでまるでボンレスハ――むむむ~っ!」

急いで口を押さえる。

「そういうこと言っちゃダメだからーっ!」

「私わかっちゃったよ~」

嬉しそうに口元に手を置いている小毬さん。

「『ぼくロイヤルデストロイヤー』じゃないかな」

「かっくいいのですーっ」

「え、何それ?」

「ほえ? わたしの絵本の主人公だよ」

「いや…西園さんは小毬さんの絵本の主人公なんて知らないだろうし…絵本向きじゃないよね、その名前。ナシの方向かな…」

「えええぇぇぇーっ!」

「では、『便秘気味のルイージ』なんていかがでしょうかっ?」

「ただでさえ出番少ないのに、トイレに篭っちゃったら見放されちゃうよ……ナシでお願い」

「なら、ここは渋めに『ブリーフのロング一つ…』なんてどうだ?」

「一生の内で一度たりとも言うことのないセリフだよね、それ……ナシだよ」

「わかったわかったーっ『ブックマークはロリコンサイトー!!』」

「自信満々に公言することじゃないからね。そういうのはそっと自分の心に秘めておこう、という意味でナシかな」

「あ……『ぼくらロリコン』」

「それ、もう開き直ってホームページ開設しちゃってるよね、流れから言って。ナシにしておこうよ」

「ふみゃーっ! 理樹もツッコんでばっかいないで、少しは考えろっ」

「うーん…」

脳裏にチラつく恭介の顔を振り払い、僕もBLの意味を考える。

BL……ぼったくりランチ……ちょっとパンチが利いてない気がするなあ。



――ガラガラガラ~



「……そろそろ時間ですがよろしいですか?」

そうこうしている内に西園さんが戻ってきてしまった。

「え、ええっ…な、何も決まってないっ」

「あーこれはもうぶっつけ本番で行くしかないデスネ」

葉留佳さんがポンと杉並さんを押す。

「け、けど…」

「杉並さん、がんばって~」

「がんばってなのですーっ」

「え、え、ええ…っ」

結局、何も決まってない状態で行くことになってしまった。





「あ、あの……私、杉並睦美と申します」

ペコリ、と頭を下げる。

「……西園美魚です。以後、お見知りおきを」

西園さんも上品に頭を下げる。

――二人は机を挟んで、向かい合って座っている。

お見合い、というシチュエーションだ。

「…………」

「…………」

「あの…っ」 「あの…」

「…………」

「どうぞ」 「どうぞ」

「…………」

「…………」

遠くの喧騒を聞き取ることが出来る。

それくらい教室は静けさに包まれていた。



「すげぇぜ、杉並…見事なまでにお見合いっぽい雰囲気を作り上げてやがる」

「きっと素じゃないかな…」

「お母さんたちが『ここは若い者に任せて…』って逃げ出したくなる気持ちがわかるね」

「これが俗に言う一触即発なのですっ」

「いっぱつしょく…あーあれな」

妙に納得している小毬さんとクドと鈴。

「いや、色々間違ってるからね」

「なあ、全然ムラムラと来ないんだが」

来ヶ谷さんに至っては、一体何を期待していたのだろう。



「……杉並さん」

西園さんが口を開く。

「えっ、な、何?」

カチコチになっている杉並さんに代わり、どうやら西園さんがリードに回るらしい。

「……お好きな食べ物は?」

「ばっ…バナナ…っ」

「……ほう」

「あ……えっと、だって…おいしいし…」

一生懸命話を続けようと頑張っている杉並さん。

「…………」

「え、あっあとその…お手ごろだし、黄色いし」

続けようと頑張るのはいいけどムリしすぎだった!

「そうですか」

「あぅ…」

もう結構です、と言わんばかりに切る西園さん。

だけどその顔は、慌てふためく杉並さんを見たせいか…満足そう。

「……では、杉並さん」

「う、うん」

「ご趣味は?」

「…はい」

「BLを少々」

あ、言った。



「ンハぁッ――――!?」



杉並さんがそう言った瞬間、西園さんが鋭く息を吸い込み、目をカッと見開いたまま起動停止した!!

「…………」

「――――――」

「…………」

「――――――」

「あの…?」

「――――――」

「あの……西園さん…?」

「――――――」

「あの~西園さん?」

「――――……」

杉並さんが、西園さんへと手を伸ばす。



――ガシィーッ!!



「え、え!? 西…!?」

西園さんが突然杉並さんの手を両手で握った!

「……! ……!」

顔は紅色し、呼吸は荒めだ!

「かっ、かっ、かっ感激しましたっ!!」

「え、ええっ!?」

「初めて見ました! その趣味を胸を張って堂々とおっしゃる方はっ!!」

「しかもお見合いの席ですよ、ここは!」

「あなたのその勇ましさ……まさに神ですっ!」

西園さんはイスから立ち上がり、杉並さんの手を握りながら興奮気味にまくし立てている!

「あっあのBLって――」

喋ろうとしている杉並さんの口に、西園さんが人差し指を当てる。

「――もう、わたしたちの間に語る言葉は必要ありません」

「秘蔵本をお見せしましょう」

「えっ、えっ!?」

杉並さんを立ち上がらせ、そのまま引っぱっていく。

「腐っても鯛といきたいですね」

「えっ、ど、どこ行くの!?」

その言葉が聞えているのかいないのか、そのまま杉並さんを引きずって教室の出口へ向かっていく。

「土方と沖田ではどちらが…もちろんピスメではなく銀魂のほうです」

「え、え??」

「では、骸と雲雀ではどちらがお好みですか?」

「え、え、え??」

「飛影と蔵馬なら趣味がはっきりとわかりますね」

「わ……私、幽助…」

「ほう、それはまたマイナー路線です」

ガラガラガラ~。

「あ、なっ、直枝く――」

ピシャッ。

………………。

……二人は教室から出て行ってしまった……。



「……なあ、今のは一体何なんだ……?」

「さ、さあ…」

閉じられたドアを見つめ、みんな唖然としている。

「ふむ、杉並女史は見事西園女史のハートを動かしたな」

「文句なしの合格だ」

今ので…本当によかったのかな…。