花ざかりの理樹たちへ その68 ~放課後編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
ここは街中。
今はリトルバスターズのみんなと、恭介たちが指定した場所に向かっている途中だ。
けど…。
「わふー、鈴さん! このペット屋さんを見てくださいっ」
「ん?」
「ちっちゃい恐竜がいるのですっ!」
「うわっ、ホントだっ!」
「のんのんのん、クーちゃん、鈴ちゃん、それはね恐竜じゃなくてエリマキトカゲといいます」
「さすがこまりちゃんだなっ」
とても楽しそうにペットショップのショーウインドウに張り付く三人。
――別な方向へと視線を移す。
「ふむ…タコヤキ1パック600円か。店主、もう少しまけてはくれないか?」
「いやあ、譲ちゃんには悪いがこれ以上はまかんないねぇ」
「……ぐすっ……」
「どうした西園女史?」
「……実は病弱で入院してしまった母に、ここのタコヤキを食べさせてあげたいと思ったのですが……」
「あー、母ちゃんはウチの常連さんかなんかかい?」
「……はい、元気な頃はいつも夕方頃に来ていたはずです。ほら、あの……」
「ああ、もしかすっとあのメガネの?」
「……そうです、以前から視力が悪かったのですが…持病が悪化してしまい……」
「……もしかしたら…もう目が…いえ、明日の手術が成功すれば…」
「……手術前に母を励ますために、ここのタコヤキを食べさせてあげたいのですが……」
「ぐすっ……ぐすっ……お金を…ぐすっ…落としてしまって……ぐすぐす」
「西園女史、私もキミに協力してあげたいところだが持ち合わせが200円しかないのでな…すまない」
「……いえ、わたしが悪いんです……母にはスーパーの試食コーナーのウインナーでも……」
「待ちな、お譲ちゃんっ!!」
「おじさん感動した!! ホント感動した!! お譲ちゃんの優しさに感動した!!」
「ほらよ、3パック」
「……ですが、お金が……」
「バッキャロー! 金なんて野暮なもんはいらねぇ! 持ってけ泥棒っ!」
「……おじさん……」
「これ食って……元気だしな」
…………。
おじさんの心には温かい気持ちが、二人の手には温かいタコヤキが残ったのだから良しとしておこう…。
――さらに別なほうに目を向ける。
「道路はゴミ箱ではありません。それをわかっていますか?」
「ゴミは所定の場所に捨ててください。町の美観が損なわれます」
「あ…なんか…スンマセン」
佳奈多さんは街中でも委員長っぷりを発揮してるし。
――佳奈多さんから目を離し、後ろを向くと…
「……」
杉並さんが後ろに手を組みながら、ジグザグに歩いていた。
…………。
彼女はきっと、タイルの色がついている場所だけを選んで踏んでるんだと思う…。
「あはははははははーっ! 理樹ちゃん理樹ちゃん」
――突然、葉留佳さんに袖を引かれた。
「どうしたの?」
「真人くんの勇姿を見てやってくださいナ……ぷぷぷふーっ!!」
思いっきり吹き出している葉留佳さんが指を差しているほうに目を向ける。
…何かの店の入り口の前で、真人が髪を七三分けにし白い付け髭をくっつけ、両手をワキワキとさせながら突っ立っていた。
「真人、何やってるの?」
「え? ヘラクレス・カーネルおじさん」
「…………」
こんなのが店の横に立っていたら、お客さんが泡を吹くと思う。
「……はぁ……」
このメンバーで出かけると、なかなか前に進まないよ…。
「――イトーヨーカドーの横、って書いてたけどどこだろ?」
そろそろ指定された『あやめ』とかいう店の近くのはずだけど、どの店かはよくわからない。
「わかりやすいようにプラカードでも持って立っててくれればいいのにー」
辺りをキョロキョロと見回す葉留佳さん。
「いや、それはさすがに…」
恭介ならやりそうで怖い。
「――あ! あれ、謙吾君かな?」
小毬さんが遠くを指差した。
「どれ?」
みんなで小毬さんが指差した方を見る。
「……あー……うん、間違いなく謙吾だね」
「謙吾だな」
「ふむ、紛(まが)うことなく謙吾少年だな」
「プラカードより目立つわね、街中だと」
そこには、剣道着とリトルバスターズ・ジャンパーの着こなしが眩しい謙吾が、腕組をして壁に寄りかかっていた。
「……いい目印です」
「目印って言わないであげてよ…」
――近づいていくと。
謙吾がこちらに気付き、壁から背を離し軽く手を上げた。
みんなで「こうして見ればカッコイイ分類ですヨ、謙吾くん」「……ネジさえ落としていなければ凛々しいのですが」と話しながら、その店の前に到着した。
「みんな、遅かったじゃないか」
「何かあったのではないかと心配したぞ」
そう言いながら、ぽむ、と僕の頭に手を乗せる謙吾。
「遅れてごめん」
「いやなに、気にするほどではない」
「――この店でホントにいいのか?」
鈴がアングリと口を開けて店を見上げながら、謙吾に質問した。
「ああ、そうだ」
鈴がそう質問するのも無理はない。
店の外側は薄茶色のレンガ造り風で、白の木枠の窓、装飾が施された扉、横の植え込みには綺麗な緑、洒落たバルコニー。
けれど、何の店なのかがわかるような物は見つけることが出来ない。
フランス料理店と言われれば納得がいくし、高級洋菓子店にも見える。
どちらにせよ、高校生の僕たちには無縁な場所としか思えない佇(たたず)まいだ。
「……ふえぇぇ~」
「なんか入りづらいぞ」
「いやー、何と言うか…すごいですネ」
みんなも店の外観を物珍しげに見回している。
「うわぁ…」
恭介がわざわざ呼び出したんだから、きっと普通の店じゃないんだろうなぁ…。
「どうした理樹?」
謙吾が怪訝そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「ここって……いったい何の店?」
「そうだな、説明するより中を見せたほうが早いだろう」
「ついて来い」
そう言うと、謙吾は颯爽(さっそう)と入り口へと向かい歩き出した。
「――謙吾、その前にちょっといいか?」
不意に真人が謙吾を呼び止めた。
「ん、なんだ?」
「さっきから気になっていたんだが……おまえの腰に刺さっているそれ、なんだよ?」
言われてみれば、さっきから謙吾の腰には刀を差しているかのように白い丸い筒が刺さっていた。
謙吾の格好に妙にマッチしてたから気にならなかったよ…。
「ふっ、これか?」
なぜか誇らしげな表情で、抜刀するように腰の筒を引き抜いた。
どうやらポスターか何かのようだ。
「知りたいか?」
「じらさないで早く教えろよっ」
「そこまで言うなら仕方ない……理樹、ちょっとそっちを持ってくれ」
「うん」
――シュバッ!
謙吾がクールな笑みを浮かべ、それを華麗に広げた!
その途端。
「ふ、ふええええぇぇぇーーーっ!?」
「うみゃっ!?」
「これは……」
「直枝くんの……」
「「「「「「「 等身大ポスターーーーーーーーーッ!? 」」」」」」」
「ええええええええぇえぇえぇえぇえぇえぇーーーっ!?」
焦ってポスターを覗き込むとそこには…。
スポーツタオルで首の汗を拭いている体操服ブルマ姿の僕がぁっ!?
しかも、輝くような笑顔を浮かべてっ!!
「どうだっ!!」
「どうだ、じゃないでしょーーーっ!!」
「写真をポスターにするキャンペーンがあったので試しにそれをやってみたんだが」
「いたく気に入ってしまってな、この直枝理樹等身大ポスターは一生涯家に飾ろうかと考えている」
「そんなこと考えないでよっ!!」
「はっはっはっ、照れることないぞ理樹」
「照れてないからっ!!」
あぁあぁあぁ、謙吾のネジが外れすぎて会話の繋ぎ方すら覚束(おぼつか)ないよっ!
「みんなも謙吾に何とか言ってやってよ!」
みんなの顔を見渡すと…。
「うらやましいよ~」
「うらやましいのですー」
「うみゅ…それ、どこで作ってもらったんだ?」
「くっ、おねーさんもそこまでの発想はなかった…まだまだだったようだな…」
「……即売会で売り出しましょう」
「やーやーおねえちゃん、あれがあればいつでも理樹ちゃんに会えますヨ?」
「私は…いらないわ」
「いいなあ…それ、勝沢さんたちに見せてあげたいな」
「くそぅ、超欲しいぜっ! 頼むからくれよっ! ちょっと殴らせてやるからさ!」
みんなめちゃくちゃ羨ましがっていた!!
「安心してくれ」
謙吾が白い歯をキラリと輝かせながら、親指をビッと立てる。
「そう言うだろうと思ってな、全員分の注文はつけてある」
「「「「「おおおおーーーっ!」」」」」
もちろんみんなは「謙吾君やさしー」「へっ、さすがオレのライバルだぜ…」「ネジが外れてもその辺はしっかりとしているな」と口々に謙吾を賞賛している!
…もう、好きにしてよ…。
「ほぇ?」
嬉しそうにポスターを見ていた小毬さんが首を傾げた。
「ねえ、謙吾君」
「どうした神北」
「このポスターね、理樹ちゃんの唇のとこだけちょっとふやけてない?」
「ぬぉっ!?」
謙吾の顔が見る見る青ざめた!
「うんー、やっぱり理樹ちゃんの唇のとこがふやけ――」
「気にするな」
いつになく真剣な謙吾の眼差しが小毬さんを見つめている。
「……」
「けどくち――」
「気にするな」
「……」
「……」
「く――」
「気にするな」
「うあああああああああああああんっ、謙吾君がこわいぃーーーっ!!」
小毬さん、追求しないでおいてあげてよ…。
世の中には知らないほうがいい真実だってあるんだ…。
――ガチャ
表で騒いでいると、店の扉が開いた。
「おっ。おまえら来てたのか」
中から恭介が出てきた。
ぽむっ。
僕の頭に手を乗せる恭介。
「いきなり呼び出しちまってすまなかったな」
そう言いながら僕と、みんなを見回す。
……。
僕の頭ってそんなに手を乗せやすいのかなぁ。
「――ん?」
恭介の目が杉並さんと佳奈多さんで止まった。
「どうやら新しい仲間が増えたみたいだな」
「あ……えっと、私は……その……直枝くんと同じクラスの、杉並睦美といいますっ」
「よ、よよよよ、よろしくおねがいしますっ」
恥かしがり屋も少し治ったとはいえ、まだちょっと恥かしがっている。
「杉並か、よろしくな」
「は、はいっ」
恭介の目が佳奈多さんに移る。
「――勘違いしないで下さい」
「私は、要注意人物であるあなたたちが妙なことをしないように監視のために来ただけです」
上級生である恭介に怯まずに見据えながら、腕を組みピシリと言い放つ佳奈多さん。
「なんだよ、一緒に遊んだほうが面白いぜ?」
その言葉に佳奈多さんはツンそっぽを向いた。
佳奈多さんは口ではそんなことを言ってるけど、わざわざ一緒に来たということは…きっと僕たちと普通に遊びたいんじゃないかな。
「…何?」
僕の視線に気付いた佳奈多さんが口を尖らせた。
「ううん、なんでもないよ」
相変わらず素直じゃないよね、佳奈多さん。
***
『ナオエ13』(ボツ+加筆)
――じろじろ
――じろじろ
――じろじろ
「なーなーあれ……」
「オイ、あそこの……」
さっきから妙に周りの目が気になるなあ…。
横を歩いている小毬さんの顔を見る。
小毬さんは僕が見てることに気付くと、その大きなくりくりとした瞳で数回瞬きをすると、ニコッと笑った。
「どうしたの理樹ちゃん?」
「あ、うん…なんでもない」
あ、そっか。
今まであまり気にしたことがなかったけど、リトルバスターズの女性陣は……かなり可愛い。
そんなみんなが集団で歩いているんだ。
人目を惹かないわけがないのだろう。
「なんだ理樹君、さっきから落ち着かないな」
「うん…さっきから人の視線が気になっちゃって」
「やっぱりリトルバスターズのみんなって、結構人目を惹くんだろうね」
来ヶ谷さんも、変なことさえしなければとても美人だし。
「確かにそれはあるかもしれんが、恐らく一番目を引いてるのは――」
「――言わずもかなキミだろうな」
「……へ?」
僕を「やれやれ」といった表情で見つめている来ヶ谷さん。
「まさかとは思ったが…気付いていなかったのか?」
「う、うん」
「ならば、そうだな――あいつを見てみろ」
来ヶ谷さんが目で示しているほうを向くと。
「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
「おい、頼むから落ち着いてくれ……」
「………………」
僕が目を向けた先には、何と言うか…緩みきった顔で絶叫している人がいた。
「どうだ、理樹君と目が合っただけであの顔だ。あからさまにキミに欲情しているだろう?」
「あ、あは、あは、あははは……はぁ」
男なのに男にここまで欲情されるなんて…。
……もうお婿にいけないかもしれない……。
「理樹君、ちょっとさっきの奴に笑顔を向けてみてはどうだ?」
「え、けど…」
「なに、それだけで彼にはいい思い出が出来るんだ」
そんなものかなぁ…。
ニヤニヤとしている来ヶ谷さんが気になるけど。
「じゃあ、ちょっとだけ」
…………。
……。
にこっ!
「な…お、マジ…うそ…ま……ぐはァァァァッ!?」
ブーーーッ、バターンッ!!
「お、おい!? しっかりしろって!」
「正直……たまりません……――ガクッ」
「谷口ぃぃぃーっ!!」
「………………」
僕が笑顔を向けた先では、突然の惨事が起こっていた……。
「はっはっは、さすが理樹君だな」
「……直枝さんの笑顔は百万ボルトですか」
「はぁぁ……ありがと……はぁぁ」
男への帰り道がどんどん狭くなっていく気がするよ…。
「ふむ」
「理樹君、次はあのベンチに座ってこっちをチラチラ見ている奴に幸せをおすそ分けだ」
もうヤケクソだった。
にこっ!
「ぐあああああああっ!!」
ズルズルズルッ…ぱたん。
「いたぞ、右前方」
にこっ!
「がはぁっ!?」
ドサッ……。
「左でこちらを意識しているウチの生徒!」
にこっ!
「なんじゃこりゃぁぁーっ!?」
ガクッ……バタンッ!
「11時方向から接近中の男子3人組!」
にこっ!
「ぎゃぼっ!?」
にこり!
「ひでぶっ!」
にっこり!
「うわらばっ!!」
「危ない理樹君、後ろだ!」
くるっ、にこっ!
「うわぁぁぁぁーーー…………」
「ハリウッドの刑事もののアクション映画さながらですネ」
「……次は行列の出来る店でインベーダーゲームと洒落こみましょう」