花ざかりの理樹たちへ その69 ~放課後編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
「「「「「「「「 うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~……………… 」」」」」」」」」
店の中に入ってすぐ、女性陣から黄色い声とも溜息とも取れるような感嘆が漏れた。
みんなの目はキラキラと光り輝いている!
「すっご~いっ!」
「わふ~…まるでおとぎの国に来てしまったかのようです~」
「うわぁ……」
僕もついつい声を漏らす。
まず店に入って最初に目に飛び込んできたのが、中世ヨーロッパのお姫様が着ていそうな、見る者全てを圧倒するほどゴージャスなドレス。
それだけでも驚くのに、店の中の広い空間には様々な服が飾ってある。
ファッション・ショップだとは思うけど…いつも着るような洋服やアクセサリーではない。
フリルとリボンがあしらわれた膨らみの大きなスカートや、翡翠色のこれまた黒のフリルがアクセントとなっているロングスカートとヘッドドレスのセット、楊貴妃を彷彿とさせるような豪華絢爛な着物まである。
入り口から離れた方を見ると、ウェディングドレスなんかまで飾ってある。
「恭介…この店って……」
「ご明察」
「いや、よくわかんないから聞いたんだけど」
「あれ、そうなのか?」
「この店は言わば服飾店――客の依頼を受けて様々な服を作っている店だ」
「へぇ……」
なるほど。
どうりで珍しい服ばっかりなわけだ。
「趣味の世界だね…」
「まあ、そうとも言えるな」
そこへ真人も割って入ってきた。
「見ろよ」
「やっぱ女ってのは、こういうのが好きなのかねぇ」
女性陣を見ると、まるで水を得た魚のように服と服の間を飛び回っている。
「わふーっ! 私にぴったりのガラスの靴があったのですーっ! 王子様が迎えに来てくれるでしょうかーっ!?」
ガラスの靴に足を通し、頬を赤らめ腕をぱたぱたぱたぱたさせているクド。
「ほわぁぁぁ~~~~……」
ドレスを体にあて、鏡を覗き込んではトリップしている小毬さん。
「これいいな」
猫耳を持って何かを考え込んでいる鈴。自分の頭にかけようとしている。
「うみゃぁっ!?」
あ、僕の目線に気付いて大慌てで棚に戻した。
「……」
西園さんはどこかの学校の制服のセットを体に当てている。
青っぽいジャンパースカートに白の半袖のシャツ、赤のリボンタイ。
「……非常召集。先、行くから」
いや、よくわかんないけど…。
「葉留佳君、これを着て戦うウエイトレスと洒落込もうじゃあないか」
「姉御っ!? こんなスカート丈が短いの着たら下着見えちゃいますヨ!」
「ぐたぐた言ってないで早く着ろ急いで着ろ今すぐ着ろ」
「え、マジ…ホ、ホントにコレ着るの?」
来ヶ谷さんは、フリフリの前掛けとコルセットが付いた、ピンク色の大きく胸のはだけた衣装を葉留佳さんに強要してるし。
「このアクセサリー可愛いな…買っちゃおうかな…」
「えっと、いち、じゅう、ひゃく…せん…まん……――」
がま口を手に持ったまま凍結した杉並さん。
「…………」
佳奈多さんはと言うと、ウェディングドレスの前で微動だにしない。
ここからだと後ろ向きで顔はよく見えない。
「あれ?」
「どうした理樹?」
辺りを見回すけど、店員さんの姿がどこにも見えない。
「恭介、ここの店の人は?」
「いない」
「……え?」
「この店は今日一日俺たちの貸切だからな」
「……」
「……」
「……え?」
「だから、この店は今日一日俺たちの貸切だって」
すまし顔でそんなことをさらっと言う恭介!
「貸切ってここ…これ全部?」
「ああ」
恭介がフッと笑う。
「そのドレスもそこの衣装も向こうのメイド服も、ここの店の物全部な」
「え、え、ええええええええええええええぇぇぇーーーっ!?」
「そんなに驚くことないだろ?」
「驚くな、って言うほうが無茶だよっ!!」
確かこういう衣装は、貸し出しにもお金がかかるはずだ!
それを全部って!
「いやなに、ここの店長とは旧知の仲でな」
「ちょっと手土産を送ったら、あっさりOKをくれたという訳さ」
「手土産って…いったい何をあげたの?」
よっぽど高価なプレゼントでもしたのだろうか?
「え? おまえの等身大ポスター」
「ぶはっ!?」
なんで僕のブルマ姿が見ず知らずの人にまで渡ってるのーっ!?
「きょ、きょっ、恭介ーっ!」
「安心しろって理樹」
「俺はちゃんと観賞用、保管用、布教用と3つ作ってもらったからな」
「俺の部屋にもおまえの笑顔が飾れるから心配は無用さ」
ニカッと白い歯を覗かせる!
「誰も恭介用のポスターのことなんか心配してないよっ!」
「ん? ああ、店長の反応が気になるのか?」
「店長なら『このコが男!? ああ、神はなんと罪作りなのだっ! 是非とも拝見したいがポスターで我慢しておくとしよう! おっと、彼女の服ならばいつでも無料で仕立てようではないか!』と言ってたな」
って、女装までバラしてるしーっ!
「うわぁぁーっ! もう恥かしくて外も歩けないーっ!」
「うぅぅぅ…恭介、ひどいよっ!」
「なんだよ理樹」
怒る僕の肩に、恭介が腕を回してきた。
「ある意味プロに誉められたんだぜ?」
「もっと喜べよ」
「全然喜べないっ」
もう!
いくら恭介でも、知らない人にまでそんなことバラすことないじゃないかっ!
「……」
「そんなに膨れるなって」
――つんつん、つんつん
僕のほっぺをつついてくる。
「ム……だってっ」
文句を言おうとしたら。
「悪い悪い、さっきのは軽い冗談だ」
「…え?」
「たしかにポスターは渡したが、写ってるのが男だなんて一言も言っちゃいない」
「店長はポスターの理樹を見て、可愛らしい女の子だとさ」
肩に回していた腕を外して、ぽんぽん、と僕の頭を手で軽くタップした。
「はぁぁ……なんでそんな意味のない冗談を言うのさ」
恭介は、肩を落とす僕の言葉を聞いたのか聞いてないのか、みんなの方に足を向け歩き出した。
歩きながら少しだけ顔を僕の方に向けた。
「おまえのすねた顔、可愛かったぜ」
「~~~~~~~っ!!」
「――よぉしみんな! 俺に着いて来てくれ」
恭介はとんでもないことを言い逃げしたっ!!
「あぁ~っ! もうっ!」
いったい何考えてるのさっっ!
「こっちだ」
恭介は店の一番奥のドアに手を掛け、開け放った。
――みんなでその部屋に入る。
部屋は、教室より一回り大きいくらいの広さだ。
「……立食パーティーが出来そうです」
西園さんが言うように、内装はパーティーを催すにはちょうど良いような洒落たデザインだ。
中世と現代を混ぜ合わせたような内装の壁には、きっと高いであろう絵も飾ってある。
天井からなんてシャンデリアが下がっている。
「恭介、追加の椅子を持ってきたぞ」
「サンキュー、そっちに一緒に並べてくれ」
部屋の半分には、洒落た喫茶店で使っていそうな白のパイプ椅子が並んでいる。
謙吾が持ってきた二つを入れて、ちょうど人数分だ。
もう半分はと言うと、何も置いていない。ガランとしている。
「――なるほど」
何に納得したのか、来ヶ谷さんの目がいつにも増して輝きを放っている。
……そんな様子に、僕の不安もいつにも増してきた。
「馬鹿兄貴、ここで何かするのか?」
「ああ、そのためにおまえらを呼んだんだ」
「はぁ…飛び切りの笑顔ね」
恭介なんて子どものような無垢な笑顔だ。
「――よし、理樹以外は好きなところの腰を掛けてくれ」
「え、僕は?」
「おまえはここ」
みんなが椅子に腰を下ろし、僕たちはみんなと向かい合って立っている。
「いやー、学習発表会を見に来たかのようですナ」
「手品とかしちゃうのかな……」
葉留佳さんと杉並さんが言うように、まるで出し物を披露するかのようなポジションだ。
「――みんなに集まってもらったのは他でもない」
言いながらいつものように巻物のような布を取り出した。
「理樹、ちょっとそっち持って」
「う、うん」
恭介がみんなの顔を見る。
「さっそく何をするか発表したいと思うが……おまえら準備はOKかっ!?」
「なんの準備だよ?」
「もちろん、ワクワクする心の準備だっ」
「恭介氏、焦らすのにも程があるぞ」
来ヶ谷さんの言葉を受けて、満面の笑みの恭介が、
――だーっ!!
巻物を走って広げた!
「これより『第一回 おまえも興奮! 俺も興奮! みんな興奮! リトルバスターズ大コスプレパーティー』を開催するっ!!!」
「「「「「「「「 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーっ!!! 」」」」」」」」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチーーーーーーッ!!!
恭介が拍手と言う前からスタンディングオベーションだっ!!
「おまえら、ワクワクを100倍にしろぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉぉーーーっ!!」
「「「「「「「「「「 もう100倍でーーーーーーーーすっ!!! 」」」」」」」」」」
――キラキラキラキラキラキラキラーっ!
ワクワクが100倍を超えたとびきりの瞳が僕一人に注がれるっ!!
「ひ、ひ、ひ、ひやぁ…………」
……僕の身の危険も100倍を軽く越えたのは言うまでもない……。