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花ざかりの理樹たちへ その72 ~放課後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。





「――じゃあ次、小毬な」

「はいっ、がんばりまっす」

――次のコスプレモデルに決定した小毬さんが「よぅし」と意気込みながら更衣室へと消えていったのが数分前。

今、更衣室からは…。



『……一人で着れますか?』

『だいじょーぶ』

『……ゴソゴソゴソ』

『ほわわ…っ!?』

『――ガタタタタン、ゴトンズベン!!…………――』

『う、うあーんっ』

『これ、馬づらハムスター?』

『……いえ、カピバラだと思います』

『う、うあああーーーんっ! またまたまた見られたーっ!!』

『……神北さんらしいインナーだと思いますよ?』

『それ、ぜんぜんフォローになってないーっ!』



たぶん、服を着ている最中に脚を引っ掛けて転んだんだ……。

しかも下着のプリントが何だったかまで聞えてきちゃっている。

「……」

小毬さんが転んでいる様子が目に浮かぶ。

「――どうやら理樹君は小毬君のパンツを妄想中のようだな」

「うわっ!?」

いきなり来ヶ谷さんが耳元で囁いてきたっ。

「いやいやいやいやいや……妄想なんて、しっ、してないからっ」

ちょ、ちょっとだけ想像しちゃったせいか……どうにも言葉のキレが悪くなってしまった!

「むぅ…」

「悪いが、今のキミの容姿では女の子が女の子に欲情しているようにしか見えんぞ」

「欲情なんてしてないからーっ!」

「直枝くん、レズだったんだ…」

「なにぃ…理樹はれずなのかっ」

「鈴も杉並さんもそんなとこだけ食いついてこないでよっ!!」

「そもそも僕は男でしょーっ!」

「「……」」

「…いやいやいや、そんな『え、コイツ何言ってるの?』みたいな顔されても困るから…」

「その顔で男って言われても、しょーじきこまる…」

「直枝くんが男の子なら、私たちも男の子っていうこと…?」

「…………」

もう、誰も僕のことを男だと認識していないのかもしれない…。



そうしている間に更衣室のドアが開いた。

「フッフッフ…」

ほくそ笑みながら葉留佳さんが登場する。

「華麗に変身を遂げた小毬ちゃんを見たいかーーーっ?」

まるで高校生クイズのようなノリだ。

「ええいウザイ、前置きなんかいいからさっさと小毬君を見せろ」

「そーだ、早くこまりちゃんを出せっ」

「ええーっ、こういうノリが大事なんじゃないデスカーっ」

ちなみに僕の隣では、恭介と謙吾が「オーッ!」とやろうとしている途中のポーズで凍結している…。

遮られて、やたら中途半端な格好で終わっちゃったのだ。

「なんだこの不完全燃焼感は…」

「俺たちの振り上げた右腕とテンションをどうすりゃいいんだよ…」

「とりあえず小毬さんが出てきたら、そのフラストレーションを叩きつければいいと思うよ…」

「なるほど、焦(じ)らしプレイか!」

恭介たちは中途半端に上げかかった右腕をプルプルさせながら、今か今かと待ちわびている。

腕くらい下ろしてもいいのに…。

「ではでは、コマリンどーぞーっ!」

『よぅし』

葉留佳さんのコールと共に、少し恥かしそうに、けどやる気に溢れた小毬さんが更衣室から現れた。

こちらに入って来るなり、コスチュームにぴったりのセリフ。



「みなさん、検温のお時間ですよ~」



そのセリフが恭介たちの中途半端に止まっていた右腕とテンションを解き放ったっ!!

「「オォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーッ!!」」

「ふぇぇぇええええええーーーっ!?!?」

高々と突き上げられる拳!!

空気をも揺るがすシャウト!!

「――ピュゥゥゥ~~ィッ!! ピュゥ~~~~ッ!!」

歓喜に震えるがごとく指笛を鳴らしまくる恭介!!

「検温、きたァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーッ!!」

まるで織田裕二を彷彿(ほうふつ)とさせるように、天井まで叩き壊しそうなほど右腕を突き上げる謙吾!!

彼らの溜め込んでいたパワーが今、情熱と共に炸裂したっっ!!

「ほゎあぁあぁあぁ……み、みんなそんなに検温したかったのっ!?」

もちろん小毬さんは、何がなんだかわからず目が点だっ!

この人たちはどれだけ溜め込んでいたんだっ!?

「おまえら……」

「こまりちゃんが困りまくってるだろーーーっ!!」

――ズガンッ!! グキャンッ!!

そして、鈴の蹴りが二人に猛烈ヒット。

「「……スンマセンデシタ……」」



「――小毬さん、とても可愛らしいのですっ」

小毬さんは、ナース服に身を包んでいる。

色はピンク色。

膝丈ほどのスカートと白色のストッキングの組み合わせ。

ナースキャップを被り、手にはカルテらしき物と消毒液が入っているであろうグラス、それに浸かった体温計だ。

「うん、どこからどーみても看護婦さんだな」

「エンジェリックコマリンと言っても過言ではないだろう」

「へぇ…よく似合ってるわ」

「えへへ、ありがと」

はにかむ小毬さん。

うん、小毬さんには「白衣の天使」という言葉がピッタリだ。

「んじゃね…」

台に消毒液入りのグラスを置き、体温計を抜き出す小毬さん。

「では…宮沢謙吾さんっ」

「ん? 俺か?」

「お熱計りましょうね~」

――ずぼっ!

謙吾の剣道着の襟から手を突っ込んだ!

「おぅっ!?」

「は~い、腕をちょーっと上げてください」

「む、むぅ…」

「ここらへんかな~、ここかな~」

ゴソゴソ。

「むむむぅ…」

「ちゃんとワキに挟まりましたか?」

「あ、ああ」

「おっけー、ですよー」

「……」

「宮沢、顔赤いわよ?」

佳奈多さんからの的確なツッコミ。

「……こういうことは……苦手だ」

いくらネジが外れた謙吾と言えども、やっぱりこういうのは照れてしまうらしい。

「お次の方は…直枝理樹ちゃん」

「お熱を計りましょ~」

「え、えぇー」

ナース姿の小毬さんがニコニコしながら近づいてくる。

な、なんか照れちゃうな……こういうのって。

そんなことを思いながら、胸のリボンを外そうとすると。

「理樹ちゃんは脱ぐのたいへんだから、お口で計りますね~」

「はい、咥えてくださいね」

「……え、うん……――あむっ」

「……」

「理樹」

鈴がこっちを見ている。

「なんか残念そうな顔してないか?」

「ん、んんんんんんーっ(し、してないからーっ)」

「――じゃあ、謙吾君は何度だったかなー?」

「待て小毬」

「ふえ、どうしたの恭介さん?」

「……俺にはないのか?」

…恭介の真剣な眼差しが小毬さんを射抜いている。

「あぅ…ごめんね。体温計が2本しかなくって」

「な……ま、マジかよ……」

「くそ! 俺には……なしかよ……っ」

「俺は高校入試の面接で『高校に入って一番したいことは?』と問われ『検温です!』と答えるほど、期待に胸を膨らませていたってのによ…」

どんだけ検温したいんだ、この人は。

「そ、そこまでだったとは気付かなかったよ…」

「――理樹ちゃん、ちょっといい? 恭介さんに体温計譲ってあげて」

僕はコクリと頷いた。



――ちゅぷっ。



口から体温計が抜かれる。

「では棗恭介さん、お熱計りますね~」

「ああ、頼むぜ」

「はいっ」



――ずっぽ。

……。

そのまま恭介の口へ入れられる体温計。

「……」

「……」

え……と。

それってまさか……。

「かっ、神北さんあなたっ!?」

「どうしたの、かなちゃん?」

「どうしたの、じゃなくて!」

「もしかして今のは、ウワサに聞く『間接キッス』……ですかーっ!?」

「――――――っっっ!?」

「――――――ッッッ!?」

クドの言葉に、僕も恭介も一気に真っ赤になる!

「え……あ……」

耳まで赤くなっている僕と、顔を染めて口元を押さえている恭介を交互に見て…。

「ほわぁっ!?」

ようやく自分のやった行動に思い当たったようだっ!

「ふ、ふええぇえぇえぇぇえぇえーーーっ!?」

「そ、そそそそんなつもりじゃなくてーっえっと、えっとえええーっと」

「どどっどどどどどうしようっ!?」

ちなみに小毬さんも真っ赤になってパニック状態だっ!

「謙吾君っ」

――ずぼっ!

謙吾のワキから体温計を引き抜く!

「そうですっ! こっち、こっちでしたっ!!」

――すぶっっ!

……謙吾のワキから引き抜かれた体温計が、そのまま真っ直ぐ恭介の口へ。

「……」

「……――――っっ」

「ぷぎゃはぁああああああああああああああぁぁぁーーーっ!!」

恭介の顔色が信号のように赤から青に変わり、床に倒れこんだっ!!

「ほ、ほわぁあぁあぁあぁっ!?」

「わふーっ!? 恭介さんの顔色がぶるーなのですっ!?」

「神北さん、そういうのは消毒をしてからでしょう!?」

「しょう…消毒! 消毒っ!」

小毬さんが消毒液入りのグラスを手に取った!

「恭介さん、消毒ですっ!」

「ちょ……まっ――」

――ドバドバドバーッ

倒れこんでいる恭介の口になみなみと注がれる消毒液!!

「はんぎゃああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー――――……」

「ほわぁあぁあぁ、恭介さん、どうしたんですかっ」

「わふー、恭介さんの顔色が青紫なのですーーーっ!!」

「恭介さん、しっかりしてください、恭介さぁ~~~んっ!!」

…………。

……。

「なあ、理樹」

「なに、真人?」

「ドジっ娘ナースってのはTVで見てる分にはいいけどよ…」

「うん…」

「実際に目(ま)の当りにすると、死の恐怖すら感じさせるな…」

「そうだね…」