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花ざかりの理樹たちへ その73 ~放課後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。





――小毬さんのコスプレが終わり、次のコスプレイヤー選びとなった。

「「「「「 じゃーんけーんっ、ぽいっ! 」」」」」

「おりょ、分かれたね」

葉留佳さん、来ヶ谷さん、西園さん、クドがグーで、他全員がパーだ。

ルールなら少数派だった4人で再度ジャンケンなんだけど。

「――恭介氏」

「ん?」

「ルールを変えるようで悪いが、今回はこの4人でコスプレをやらしてもらえないだろうか?」

…来ヶ谷さんの目が妖しく光っている。

「何か考えがありそうだな」

「無論オーケーだ、なんか面白そうだしな」

「……何をするのですか?」

西園さんは、どこか不安そうだ。

「それは更衣室に入ってから教えよう」

「私は可愛いらしいのが良いのですーっ」

そう交わしながら、4人は更衣室へと向かっていった。

「――ああ、そうだ」

入る前に来ヶ谷さんが振り返った。

「ソファを4脚ほど用意してくれ。3人掛けのヤツをだ」

「わかった、たしか奥にあったはずだな」

「うむ、頼んだぞ」





「――ふぅ」

「直枝くん、横いい?」

「いいよ、杉並さん」

持ってきたソファに腰を掛ける。

4脚なので、それぞれ二人づつ腰を下ろしている。

「恭介、なんでテーブルまで用意すんだよ?」

「必要になると思ってな」

ソファの前にはアンティークな丸テーブル。

見るからに高そうだ。



座って落ち着くと、更衣室から声が聞えてきた。

『わふーっ!? スゴイのですっ大きいのですっ特盛りですっ』

『はっはっは、おねーさんのおっぱいはハンパなく大きいぞ』

『このブラはオーダーメイド?』

『うむ』

『……少し、触ってもいいですか?』

『ウェルカムだ』

『――ぴとり、ぺちぺち』

『……ケンカ売ってますか?』

『いや…人の胸を触っておいて一方的にキレられても困るんだが』

『……わたしはそちらの仕切りで着替えますので、決して覗かないでくださいね』

『……』

『……決して覗くなーってコレ、絶対前フリですよネ』

『ではでは、みおち~ん』

『…………』

『あ、水玉ブラ』

『ゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!』

『ありゃ、お肌までまっかっか』

『みっ、みっ、みないでくださいっ!』

『葉留佳君』

『無理矢理とはマナー違反だぞ』

『三枝さんはダメダメなのですーっ!』

『うひゃっ!? ワンコ娘にまでダメダメ言われたーっ!』



女の子同士の集まりのせいか、会話が生々しい。

「………」

な、なんか気恥ずかしいよね…。

「直枝くん、顔、赤いよ?」

「そ、そう?」

「……」

「……」

「やっぱりレズ?」

「違うからぁぁぁーーーっ!!」





お喋りをしているうちに、更衣室の扉が開け放たれた。

「あ、ゆいちゃんたちが出てくるよー」

みんなの期待の目が扉へと向けられる。



――ザッ、ザッ、ザッ



凛とした足取り。

「ほわぁぁぁ……」

風に遊ぶ髪。

「すごいな……」

まるで背景にバラが散っているかのごとく。

「へぇ……」

颯爽(さっそう)と歩くその姿は……。



「「「「 リトバスホスト部へようこそ 」」」」



完全にホストだった!!

「す、すごいよみんなーっ」

小毬さんなんて目からお星様が出るんじゃないかと思うほどキラッキラしている。

「はっはっは、では一人一人紹介するとしようか」

「ウチのみんなにはそれぞれ『売り』があってな」

「まずは……」

「我がリトバスホスト部の小悪魔、ジワリジワリと攻めるその攻めが指名客を生む――」

「西園美魚君だ」

西園さんがサッと前へ出る。

「どーも」

「いつものみおじゃないぞっ!?」

うわわ、すっかり役に入りきっている!

西園さんは、黒のベストを華麗に着こなしている。

スタイルゆえか…男形がピッタリのようだ。

ベストの下は折り目一つない綺麗なワイシャツ、そして黒のネクタイでしっかりと決められている。

腰に腕を当て少し腰を捻った立ちポーズ。

いつもの西園さんなら絶対にやらないようなナルシストポーズだ!

そして――

「よ・ろ・し・く」

流し目を送りつつの小悪魔的な笑み!

「か…かっこいい…ね」

うわっ、横に座っている杉並さんは、もう目がハートになっちゃってる!



「――続いて」

「女だろうが男だろうが、そのマスコット的な魅力でハートを萌やし尽すロリショタ系――」

「能美クドリャフカ君」

「よろしくおねがいしますなのですーっ」

クドは髪を後ろで一本結いにし、黄色のニットにワイシャツ、ネクタイ、下は黒のズボンという姿だ。

その胸にはしっかりとウサギさんのぬいぐるみを抱きしめている。

「なんか、ねむねむ~です」

うさぎさんを抱いて目をコシコシと擦る姿は、母性本能をくすぐられる!

「こっ、このクドはかわいいな…」

「わぁぁ…クーちゃんおいで、抱っこしてあげるよ~」

鈴も小毬さんも子猫を見るような目になっている。

「ぐぁ…俺は決してロリでもショタでもないが、こいつはヤバイぜ…」

恭介…わざわざ言い訳はさまなくてもいいのに。



「――続くは」

「三枝葉留佳君だ」

「………………」

葉留佳さんが、おずおずと前に出てくる。

……?

いつもと様子が違う。

「…………」

「葉留佳、どうしたの?」

「……!」

佳奈多さんの問いかけにビクリと反応した後、首をふるふるふる~と振る。

「ど、どうしたっていうの?」

葉留佳さんの姿を見る。

スーツなのだが、ちょっと大きめだ。両腕は不安を隠すかのように胸の上に置かれていて、袖からは指先だけが見えている。

髪はアップに結われているが、サイドからは髪が長く下がっている。

「……ボク、その……」

困ったような顔。潤んだ大きな瞳。

「――彼女、いや彼はこのホスト部きっての恥かしがり屋だ」

「……あ、あの……」

そこまで言った後、俯き顔を背ける葉留佳さん。

あ、またこっち向いた。

「……あ、あのさ……」

「な、何よ?」

「………………よろしくおねがいします」

「はぁ? よ、よろしく」

佳奈多さん、なぜか礼儀正しく頭下げてるし。

「……クスッ、よかったよ」

「っ!?」

葉留佳さんのホッとしたようなはにかんだ笑顔に、これまたなぜか頬を桃色に染める佳奈多さん。

「恥かしがり屋だが、その分一つ一つの行動に破壊力を秘めているのがこの葉留佳君の魅力だ」

……。

恥かしがり屋のホストなんて、きっと商売上がったりだと思うんだけど。

「……どうしよう、ボクさ…今なんか……」

「胸が…」

「高鳴った……」

「なに訳の分からないことを言ってるのよ!」

葉留佳さんも相当に悪ノリしてるなあ。



「――最後はこの私…いや俺か」

威風堂々とした様子で前に一歩踏み出し、モデルのようなポーズを決める来ヶ谷さん。

たったそれだけの行動で、まるで周りにバラが散っているかのように見える!

「「「おおぅ…」」」

みんなからの感嘆の声が上がる。

「来ヶ谷だ。一応、このホスト部のナンバーワンということになっている」

「そうだな、キングとでも呼んでくれ」

きっと恐ろしく高価であろうスーツは、まるで来ヶ谷さんのために仕立てられたのではないかと錯覚するほどだ。

中のシャツは上のボタンが外してあり、より刺激的な魅力を引き立てている。

スラリとしたその完璧なプロポーションは――

「宝塚みたいだね~」

小毬さんの例えがピッタリだった。

「ふむ、宝塚か……」

「だが」

来ヶ谷さんがソファに座っている小毬さんに近づき、ひざまづいた。

「そんな俺を独占してしまうのは――」

チュッ。

「ふえっ!?」

小毬さんの手を取ると、その手の甲に軽い口付けをした!

「――どこの麗しの姫かな?」

「ふぇえぇえぇ………………んきゅ~~」

「う、うわっ、こまりちゃんが目を回したっ」

どうやら耐性のない小毬さんには刺激が強すぎたようだ!







ソファの前のアンティークの丸テーブルには、洒落たティーカップ。

その中には薫り高い紅茶が注がれている。

ヨーロッパ貴族の午後のティータイムのような雰囲気……なのだが。



「――これ、高そうなティーカップだね~」

向こうのソファに腰掛けている小毬さんと鈴、そしてホストと化している来ヶ谷さんを見る。

「ああ、それはウェッジウッドだ」

「だがそのティーカップも実に可哀想だ」

フゥ、と息を吐く。

「どうして?」

来ヶ谷さんが頬杖を付くように手を自分の頬に当てて、ドキリとするような笑みを浮かべる。

「所詮ただの陶器に過ぎぬのだからな」

「――小毬君という女神の前では」

「え!? え!? ひ、ひ…」

「ひえぇえぇぇぇ…………――」

「わっ、またこまりちゃんが目を回したっ」

「おっと」

倒れそうになった小毬さんの腰に手を回し支える来ヶ谷さん。

「……」

腰を支えられ、小毬さんは逆“くの字”になりながらも向かい合う二人。

なぜか小毬さんの足はピンッと上に向けて伸ばされ……まるでディズニーミュージカルの決めポーズのような格好になっている。

「……ゆい…ちゃん……」

「俺のためにも、まだ倒れないでくれ」

「キミと過ごす時間が……短くなってしまう」

「ふゎ~い…」

小毬さんの目はトロンとし、すっかり夢見心地乙女の表情だ!

「くるがや、こまりちゃんに手を出すなっ」

あ、鈴が怒った。

「すまない、ヤキモチを妬かせてしまったようだな」

「そんなもんやくかーっ!」

「機嫌を治してはくれないか、姫?」

「姫って呼ぶなぁーっ!」

「なんだ鈴君、キミには姫という言葉がよく似合うのに…イヤなのか?」

「なにぃ…似合うのか?」

「こういうことは人に言われなければ気付かないものさ」

「なるほど…」

「もう一度言うが、キミは姫としての自覚を持ったほうが良い」

「そうだったのか…気付かなかった」

何度も頷く鈴。

「なら、姫って呼べーっ!」

「はっはっは、可愛いな、姫は」

鈴もたいがい単純だ!







佳奈多さんと謙吾と、恥かしがり屋設定の葉留佳さんが座っている席に目を移す。

「……」

「……」

「……」

し~~~~ん。

まったく話が弾んでなかった!

「の、喉が渇いたわね」

居たたまれなくなったのか口を開き、ティーポットに手を伸ばす佳奈多さん。

「あ、それはボクの仕事……」

あれ…一瞬葉留佳さんの目がキラッと輝いた気がする。

そして葉留佳さんも手を伸ばし…。



――ぴとっ!



ティーポットの上で重なる手と手。

「ひゃぁ!?」

葉留佳さんがビクリと驚き手を引っ込めた!

「どうしたのよ?」

訝(いぶか)しんでいる佳奈多さんと、目をそらし佳奈多さんと触れてしまった手をキュッと抱きしめモジモジしている葉留佳さん。

「……手に触れただけでこんなにドキドキするなんて……」

チラチラと佳奈多さんを見ながら呟いている。

「何よ?」

「え!? まさか今の聞えちゃった!?」

どこか白々しい。

「いえ、よくは聞き取れなかったけど」

「う、ううん、ならいいよ」

「なんでもない……その、気にしないで。独り言だから」

「あ、そ」

「……」

「……」

沈黙が続く間に、3人分の紅茶を注ぐ謙吾。

「……」

「……」

ぽや~~~~~~っ。

葉留佳さんがぽや~っと、佳奈多さんが紅茶を飲む横顔を見つめている。

「なに?」

「あ、え、えーっとさ……なんでもない」

またそそくさと目線をそらしてしまう。

「はぁ…物事は明確に表現なさい」

「ただちょっと……」

「ただ?」

「……」

今度は俯く葉留佳さん。

「何よ? はっきりと言いなさい」

「ただね……」

「佳奈多の目って吸い込まれそうなくらいキレイ……」

「ってボクは何言ってるんだろっ」

両手でほっぺたを押さえ、ブンブンと顔を振っている!

「なななっ!?」

佳奈多さんの顔に朱が差し込んだ!

「なっ、何言い出すのよっ!?」

「言えって言ったのは佳奈多だよ?」

「ボク、はずかしかったけど…けど…佳奈多の目がキレイで、それでボクどきどきしたから……」

「ど、どうしよ……なんでかな、言ってるだけでドキドキしてきちゃった……」

「ただ大好きな佳奈多の話をしてるだけなのに……――アッ!?」

あたかも「ついうっかり!」みたいな胡散臭い驚き方だっ!

こんな演技に騙される人なんて…。

「……っ!? ……っ!?」

……いた。

「なななっ…」

――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!

紅茶を一気にあおる佳奈多さん!

「ぷはっ! はぁ…はぁ…どっ、どうしたって言うのよいきなりっ!」

ちなみに佳奈多さんはゆでダコ状態だ。

「いや~、おねえちゃんのこと好きだなーって」

葉留佳さん、素に戻ってるし。

謙吾は黙々と佳奈多さんの空になったティーカップに紅茶を注いでいる。

「すすす好きってあなた……っ!」

――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!

「ぷはっ…はぁ…はぁ…はぁ…」

どうやら紅茶の一気飲みで気分を落ち着けているらしい。

そして謙吾は黙々とティーカップに紅茶を注いでいる。

「おねえちゃんは、私のことどう思ってる?」

「え、え、え、は、葉留佳のことっ!?」

――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!

「ぷはっ! わ、私は……その……その……」

「ほれほれ、言ってみてよー言ってよー」

期待半分、イタズラ半分っといった葉留佳さん。

そして謙吾は黙々とティーカップに紅茶を注いでいる。

「葉留佳のことは……っ」

――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!

「ぷはっ!」

「私のことは、なに?」

「……」

「どうしたの、おねえちゃん」

「……お腹痛いわ……」

「ええええーっ!?」

……。

佳奈多さんはトイレに駆けて行った…。







――今度はクドと恭介、真人が座っている席に目を向ける。

「えーっと、えとえと……」

「なんてすてきなじゅりえっとなのでしょう」

すごい棒読み。

「俺たち男だぞ?」

「わふ……では、えーっと、えーっと……」

「あっ」

「井ノ原さん、井ノ原さん、どうしてあなたは井ノ原さんなのですか?」

「んなもんオレに訊かれてもよ」

「ううー…でしたら……」

「きゃんゆーせれぶれいと?」

「いや、まだその予定はないが…」

「わふー、ホストは難しいのです…」

やっぱりクドにはちょっと荷が重かったのかもしれない。

「そうですっ」

何かを思いついたのか、ズボンのポケットを漁っているクド。

「西園さんからメモをもらっていたのでしたっ」

「えーっとですね――よいしょっと」

居住まいを正し、恭介を見つめている。

「コホン」

「――あなたを見ているだけで、このちっちゃなお胸が張り裂けそうです、お兄ちゃん」

「……ぐっ…ぐぐっ……」

「ぐはあああああああああぁぁぁーーーっ!!」

恭介、のた打ち回る。

「も、ももも、もう一回頼む」

「あ、はいっ」

「あなたを見ているだけで、このちっちゃなおムネが張り裂けてしまいそうです、お兄ちゃん」

「んぎゃああああぁぁぁーーーっ!!」

「すげぇ嬉しそうだな…」

「――……能美、今度は俺のことを『お兄たま』と呼んでくれないか」

「はいっ」

「お兄たまーっ」

「ぐはっ! つ、次は『にいさま』」

「にいさまっ」

「やべぇ…いいのかよこれマジで……次『にいにい』で頼む」

「にいにい~」

「ひぃぃぃーーーゃっほう!! ホスト部最高ーーーっ!!」

「泣きながら喜んでんじゃねぇよっ」

うわぁ…真人がまともに見えるよ…。

「――あ、これを忘れていましたっ」

「恭介さん、井ノ原さん、どーぞなのですっ」

クドが恭介と真人にコーヒーカップを渡している。

「能美…」

「はい、なんでしょう?」

「なんだこれ?」

「来ヶ谷さんから教えてもらったのですが…」

「なんでもこれは『ウィンナーコーヒー』と言うそうです」

「様々な国で親しまれている飲み物らしいのです~」

確かコーヒーにたっぷりの生クリームを浮かべたコーヒーのことだと思ったけど。

まさか…。

「へぇ…初めて見たぜ、ウィンナーが入ったコーヒーなんてよ」

ってやっぱりっ!!

真人の言う通り、二人が手に持つコーヒーカップからはニョキリとアルトバイエルン的なウィンナーがそそり立っている……。

「オレ苦いのとかダメなんだよ…ミルク入れてもいいのか?」

「構わないとは思いますが、みるくとしゅがーはこれに合うのでしょうか?」

「やっぱウィンナーなんだからケチャップとかソースだろ、普通」

ケチャップとソースを出す恭介。

「ではホストとして、この不肖クドリャフカ、かけさせていただきますっ」

「お、わりぃな」

――ドゥブドゥブドゥブ。

「恭介さんはどうしますか?」

「塩コショウ」

「それはまた通っぽい選択ですっ」

――パラパラパラパラ~。

「私は素材の味を堪能したいので、そのままでいただきますっ」

「能美も乙な選択だな」

「はい、ホストたるものいつも通で乙でクールでなければいけないのですっ」

「そいつはいい心掛けだ」

「こいつひょっとして、ナンバーワン狙えるんじゃね?」

「かもな」

「――では早速…」

「「「ブフゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」

いやまあ…。







「――そんなに余所が気になる?」

西園さんの声で、こちらに目を戻す。

ホスト役になりきっているベスト姿の西園さんが僕にジト目を向けていた。

服装しか変わりないのに…言葉遣いと、色っぽさを帯びた瞳で、まるで別人に見える。

ちなみに、何が起こったのかわからないけど……杉並さんはすでに顔を真紅に染めソファに轟沈していた。

「そんなに魅力ない?」

いつもとは正反対なのに、なぜかその言葉遣いが似合っているのは演技力ゆえなのだろう。

「え、いや…そんなことはないけど」

「ふーん」

「ならさ――」

「他の人なんて無視して、オレだけを見つめてくれなかな?」

「理樹君の視線が奪われてるだけで嫉妬しちゃうよ」

西園さんが下から覗き込むように僕を見てくる!

イタズラっぽさの中に色気を発しているその表情は…まさに小悪魔そのものだ!

「聞いてる?」

人差し指と親指を僕のあご先に当て、クイと自分の方へ向ける。

「ひゃぁ……」

うわわわーっ!?

いつもの物静かな西園さんと今の積極的で男言葉の西園さんのギャップに、どうにもドキドキしちゃうよっ!

「あれれ、おかしいね。どうしたのかな、顔赤いよ?」

「いや、それは……」

――さわさわ。

突然、手が僕の頬を撫でた!

「ひゃっ!?」

「ほっぺまで、ほら…こんなに熱くなっちゃってさ…本当にどうしたのかな? フフッ」

言葉が白々しいよっ。

人差し指で僕の横髪で遊び…そのまま僕の耳に触れる指先。

「ゃうっ!?」

「くすくす……耳まで」



――ツツツツー。



一通り耳の筋を撫でた後に、その指先が這うようにあごを伝う!

「ひゃぁうっ!?」

「あはははっ、すっごーい!」

「トマトみたいって表現があるけどまさにそれだね」

「にっ、にっ、西園さーーーんっ!!」

クスクスとイタズラっぽく笑う西園さん。

イヤでも自分の顔が真っ赤になっているのがわかるっ!

「そっ、そろそろお芝居は終わりにしてよーーーっ!!」

「お芝居?」

「何を言ってるのかわからないよ…ほらほら子猫ちゃん」

まるでネコをあやすようにあごの下をまさぐってきた!

「……ぁ、ぁぅ……」

も、もう恥かしすぎて…声も出ないよぅ…。

「あははっ、恥かしくて声も出なくなっちゃった?」

頬を赤らめながらも僕のあごの下をまさぐる西園さんは…小悪魔そのものだっ!!

「――あれ?」

わざとらしくティーカップを覗き込む。

「飲み物も進んでないね」

「あ、わかった」

「もしかして……」

西園さんがティーカップに口を付ける。

「オレに飲ませてもらいたいの? ――口移し、で」

え、えええぇぇぇーーーっ!

――ブンブンブンブンッ!

全力で首を振った!

「ぷっ…あははははっ」

突然お腹を抱えて笑い出す西園さん!

「冗談だよ」

「なに、そんなに一生懸命首振っちゃって」

「もしかして……本当に期待しちゃった?」

「それって…」

西園さんの手が優しく僕の頬に添えられる。

今までのイタズラ顔がなくなり、いつもの優しい西園さんの笑顔。

「ホント恥かしいね」

「~~~~~~~~~~っっっ!!」

うわわわわわわわーーーっ!!!

なんかもう、泣きたくなるくらい恥かしいよーーーっ!!



絶対に西園さんだけは敵に回しちゃいけないと思った僕であった……。





「――では、これにてリトバスホスト部は終わりだ」

「次の選出に移るとしよう」

たった10分足らずの出し物だったにも関らず、メンバーの半数が息も絶え絶えになっていた…!