花ざかりの理樹たちへ その76 ~放課後編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
「ついにこの時が来たか」
「見ろ、この筋肉さんをっ! やりたくてウズウズしてやがる」
「へっ」
「オレの美しい筋肉ラインでおまえらにギャフンと言わせてやるぜっ!」
「んじゃ、選び直そっか」
「うむ、そうだな」
「ギャフーーーーーンッ!!」
「うわ…初めて見たよ、本当にギャフンって言う人……」
今回のモデルは真人だ。
嬉しそうな真人とは反対に、一部を除いた女性陣の顔からは「ウッワ…」という表情が見て取れる。
「まぁ、そう言うなって」
「真人だって服装で化けるかもしれないだろ」
「それはないな」
「……それはあり得ません」
「鈴も西園さんもそんなこと言わないでさ、見てあげようよ」
「……」
「ほわっ!? 真人君が涙目っ!?」
「井ノ原さん、馬子にも衣装と言うくらいですしきっと良くなりますよっ」
「うん、井ノ原君も…たぶん今より少しは良くなる…と思うよ?」
「……」
クドと杉並さんは、これで本気で励ましていると思ってるんだから余計にタチが悪い気がする。
「わかったぜ…」
「こうなったらマジあいつイケてるんじゃない、というところを見せつけてやんぜっ!」
「その発言自体がイケていないがな」
「……」
「ほわわっ、だいじょーぶ、真人君はイケてるよ~」
「はい、イケイケなのですっ」
「あ、ありがとよ…」
そう言い残し、モデル・真人と着替えの手伝いに立候補した小毬さんとクドが更衣室に消えていった。
――更衣室から声だけが聞えてくる。
『真人君はどんなコスプレがしたいの?』
『いやな、実は前から決めてあったんだよ……ゴニョゴニョゴニョ』
『えぇぇぇーっ!? それって、あの!?』
『オレならいけるんじゃねぇか、と不思議な自信があるんだよ』
『わ、私にも教えてください~』
『ゴニョゴニョゴニョ』
『わふーーーーっ!? それは神がかり的な発想なのですっ!』
『私も確証はありませんが、井ノ原さんでしたら着こなしてしまうのではないかと思いますっ』
『けどそれ、真人君のイメージと正反対だよね』
『そこがまたいいんじゃねぇか』
『それは西園さん風に言うとギャップ萌えってヤツですかっ』
『ふえ? ギャップ??』
『はい、普段とまったく逆の性格にドキドキしてしまうことだそうです』
『『へぇ~』』
『真人君がその役をやるなら私たちも着替えちゃおっか』
『それはぐっどあいでぃーあ、なのですっ』
『おう、よろしく頼むぜっ』
『まずは井ノ原さんに合うサラサラのカツラとリボンの準備からですねっ』
『よぅし、がんばろー』
「……今、非常に不穏当な単語が聞えたのだが」
来ヶ谷さんがタラリと冷や汗を流す。
「カツラとリボン…まさかね」
佳奈多さんも顔が真っ青だ。
「……今のは悪い冗談、ですよね?」
西園さんは懇願するような瞳を恭介に向けるが。
「いや、俺たちの予想は合っているだろうな」
「恭介よ、このままではマズいぞ」
「ああ……」
「総員、第一種戦闘配備!!」
「「「「「総員、第一種戦闘配備!」」」」」
「いやいやいやっ、そこまですることないからっ」
『……ふえぇ……』
『……わふー……』
『ど、どうなんだよ?』
『ビックリです…』
『私もビックリだよ~……』
『だから何がだよ?』
『まさか井ノ原さんがこんなに可愛く変身してしまうとは思いもしなかったのですーっ!』
『今の真人君、女の子の私たちが言うのもなんだけど、とってもとってもかわいいよーっ!』
『マジかよっ!?』
『『マジマジ』』
『テレビで出てるそのままだよ~』
『まんまなのですっ』
『仕上げにお化粧もしなきゃね』
『病弱な設定ですから色白でしょうか?』
『うん、そうしよ~』
『では、パタパタパターなのですっ』
『こっちもパタパタパタ~』
…………。
……。
『ほわぁぁぁ~~~~』
『ふぇぇぇぇ~~~~』
『もう誰がどう見ても女の子だね……』
『はい、井ノ原さんが女の子になってしまわれました……』
『へっ…』
『生まれ変わったオレはどうよ?』
『えーっと、クーちゃん、こういう時ってなんて言うんだっけ?』
『萌えですっ、萌えと言えと教わったのですっ』
『うわぁ~~~~っ真人君、すんごい萌えだよ~』
『萌え萌えです~』
『『萌~えっ! 萌~えっ! 萌~えっ!』』
『よせっての、照るじゃねぇかっ』
『オレまで燃えてきちまったぜ!』
『では小毬さん』
『うん、真人君、お披露目の時間だよ~』
『まずは私たちが最初に出るから、メインの真人君は最後に出てきてね』
『OK』
――ガチャッ!
更衣室の扉がついに開け放たれた。
「あ、姉御…で、出てきちゃいますヨ…」
「大人しく腹をくくるしかあるまい」
「けど、こまりちゃんたちはかわいいと言ってたぞ」
「ごめん鈴、小毬さんたちの可愛いはあまり当てにならないと思うよ…」
「おまたせいたしましったっ!」
まずは小毬さんが登場した。
「あれ?」
真人だけじゃなく小毬さんもコスプレをしたみたいだ。
「あら、可愛らしい格好をしてるじゃない」
「素朴な雰囲気が出ていて好感が持てるな」
「うん、小毬さんらしい感じがするね」
「えへへ~、真人君に合わせたんだけどね」
小毬さんの格好は佳奈多さんと謙吾にも好感触だったようだ。
生地の柔らかそうな黄色のシャツ。
その上に赤のベスト。ベストの首はV字になっていて紐がクロスされている。
下は薄い赤色のロングスカートだ。
頬のチークが強調されていて、子どもっぽさが溢れている。
野山を駆け回りそう、そんなイメージだ。
「こまりちゃん、かわいいぞ」
「えへへ~ありがとね」
「では、続いてはクーちゃんの登場ですっ」
「クドまでコスプレしてるのか?」
「うんー」
ドアの方に目を向けると。
――てくてくてく。
「めぇ~めぇ~、なのですっ」
出てきたクドは、着ぐるみに包まれていた!
モコモコしていて……えーっと、羊?
着ぐるみから顔だけ出してわふーっとしている。
首には金色のベルがつけられていて、歩くたびにチリンチリンと音を立てる。
「クド公、それ…羊?」
「何を言ってるのですか、三枝さんっ!」
「へ、違うの?」
「どこからどう見てもヤギさんじゃないですかっ、全く、ぷんぷんですっ」
どうやらヤギだったらしい…。
怒った様子もぬいぐるみにしか見えないよ、クド…。
「…………」
横を向くと、佳奈多さんがほっぺたを押さえてポヤ~っとしていた。
そして、こそこそと携帯電話を取り出す。
「どうしたの、佳奈多さん?」
「え、え!?」
「…なんでもない。面白い格好してるから。滅多に見れるものじゃないでしょう?」
……。
素直に撮ればいいのに…。
「ではでは、ついに真人君のと~じょ~ですっ!」
「とーじょーなのですっ!」
小毬さんとクドのコールと同時に場内に戦慄が走る!
「………………待たせちまったな……………………」
――ギィコ……ギィコ……ギィコ……。
扉の奥からは地の底から響くような不気味な音が漏れ聞えている。
「な、なんだこの金属音は……?」
――ギィコ……ギィコ……ギィコ……。
「こ、これ、車椅子の音かな?」
「……た、たしかにそうです」
「ひぇぇぇぇ、お、おねえちゃん…っ…」
「だ、大丈夫よ…化物が出てくるわけでもあるまいし…」
空気が淀んでいく。
「効果音をつけるとしたらゴゴゴゴゴだろうな、絶対」
荒い呼吸で汗を拭う恭介。
とても、重苦しい。
――ギィコ……ギィコ……ギィコ……。
ゴクリ…。
誰かの息を呑む音。
魔界を思わせる空気の中、小毬さんとクドが口で奏でている楽しげなドラムロールが恐怖により一層の拍車をかける。
ドアから車椅子と青いスカートが覗く。
目が…離せない。
みんなも同じなのだろう。
魍魎(もうりょう)が井戸から出てくる時のように、ドアから目が離せないでいる。
恐怖のせいか、余りにゆっくりに、まるでスローモーションのような動きにさえ見える。
ハァ…ハァ…ハァッ。
誰かの荒い息。誰のとも判断がつかない荒い息。
『それ』がドアから姿を現す。
車椅子。
青のワンピース。
金髪にリボン。
――グリンッ!
目をカッと見開いた顔がこちらに向けられた!!
ま……
まさかこれは……っ!
「ハイジぃぃぃぃぃぃぃッ!!! おじぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁーーーんっっっっ!!!」
クララだっ!!!
ごついクララが出ていらしたっ!!
「「「「「「 ひっぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーっ!?!?!? 」」」」」」」
一瞬にしてリトルバスターズ全員の血の気が音を立てて引いたっ!!
――ガタンッ! バタンッ!
西園さん、杉並さん、早くも再起不能ッ!!
だが誰もそれに構っている場合ではなかったっ!
「――――――――ッ!?!?!?!?!」
「うわわわっ、り、鈴! そんなにつ、強く、だ、抱きついちゃ、だ、ダメだよっ」
「うわおわ、おおおお、おねえちゃぁぁぁんっ!!」
「葉留佳、あいつの目を見ないで!! 石にされるわっ!!」
「ひ、久方ぶりだよ、このおねーさんが戦慄を覚えたのは……」
「うわ、うわ、うわぁぁあぁあぁあぁあぁあぁぁっ!?」
「謙吾落ち着けっ! 気持ちはわかるがまず落ち着いて状況判断だっ!」
パニックがパニックを呼んでしまっている!
――すぅぅ、はぁぁ、すぅぅ、はぁぁ……。
呼吸を整え、真人の様子を見る。
真人は張り裂けんばかりの青のワンピースに身を包んでいる。
髪の毛だけは良家のお嬢様であるかのような金髪でふんわりとしたロールだ。
可愛らしいリボンが付いている。
車椅子は……正直、筋トレグッズの一種にしか見えない。
そして顔。
たぶん小毬さんとクドは病弱を意識して白めにしたんだと思うけど……。
金髪も相まってか、まるでデスメタルをシャウトするボーカリストのような顔になってしまっている…。
「真人君、みんな喜んでくれてるみたいだねーっ」
「井ノ原さんのあまりの可愛さに二の句が継げられないのですっ」
「へへっ、これもおまえたちのお陰だなっ」
「「よかったねっ」」
嬉しそうにしている3人。
って、え!?
今の僕たちの様子が喜んでいるように見えるのっ!?
「では井ノ原さん、打ち合わせたアレでみなさんを虜(とりこ)にしてやりましょうっ」
「やっちゃおーっ」
「え、ま、まだ何かあるの?」
「理樹っちよ…楽しみなのはわかるが、それは見てからのお楽しみってヤツだぜ」
「そうじゃなくて――」
「クーちゃん、ミュージックスタートっ」
「ぽちっとな、ですっ」
問答無用で何かが始まってしまった!
――ヨ~レヨ~レヨッヒッヒ~♪
音楽が流れ出した。
小毬さんが大きく息を吸い込む。
「――クララのばかぁ、いくじなしっ!!」
何かの演技が始まった。
「クララなんてもう知らないっ」
駆け出す小毬さん!
「ちょっ…待てよっ、ハイジっ!」
「うお…うおおおおおぉぉぉぉっ!!」
真人(クララ)の車椅子の車輪を持つ手が震えだした!
――ギシ…ッ、ギシシッ、ミシミシミシミシッ!!
悲鳴を上げる車輪!
「うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉーーーっ!!」
真人(クララ)の腰が徐々に上がっていくっ!
こ、これは…!
「だああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
――グアタァァァーンッ!!
後方へ吹き飛び壁に叩きつけられる車椅子!
クララが…。
クララが…っ。
クララが立ったっ!!
クララが雄雄しく立ち上がったっ!!
スカートをひるがえし、己(おの)が拳を天高く突き上げているっ!
……。
い……。
いーやいやいやいやいやっ!!
「ありゃクララじゃなくて世紀末覇者の間違いだろ…」
恭介は正論を言っている!
「ああ…あのクララは秘孔を突いてきそうだ…」
謙吾は正論を言っている!
「…………………………」
葉留佳さんは目を真ん丸にしたまま身動き一つしない! 事態をうまく飲み込めないようだ!
「…………………………」
佳奈多さんは目を真ん丸にしたまま身動き一つしない! 事態をうまく飲み込めないようだ!
「…………………………」
来ヶ谷さんは引きつった乾いた笑みを浮かべている! ドン引きしているようだ!
「………………」
鈴は戸惑っている! どうやら小毬さんたちが関ってるので、真人を蹴るに蹴れないようだ!
「……」
西園さんはピクリとも動かない! 失神しているようだ!
「……」
杉並さんはピクリとも動かない! 失神しているようだ!
みんなが茫然自失の間に、笑顔満点の二人が真人の元に近寄った。
「井ノ原さん、とーっても可愛いのですーっ!」
「ほら、みんなも理樹ちゃんのときくらい驚いちゃってるよー」
「それってもしかして、オレが理樹バリに可愛いってことに他ならねぇんじゃねぇかっ!?」
「ハッ…」
「どうしたんだよ、小毬?」
「これは……もしや真人君の秘められた才能っ!?」
「なにっ!? オレには才能があったのかっ!?」
「はいっ、井ノ原さんの魅力にみなさんメロリンラ~ブなのですっ」
「やべぇ…女装にハマっちまいそうだぜ」
「これからもやっちゃいなよ、ゆ~」
「ですよっ、ゆ~」
「いーーーやいやいやいやいやっ!」
ようやくツッコミを入れることができた!
「ふぇ? どうしたの理樹ちゃん?」
「んだよ理樹、オレにヤキモチ妬いちゃったのか?」
「そうじゃないでしょっ!」
「……」
「……」
「……」
「「「 ? 」」」
「3人して首をかしげないでよぉーっ」
まさかツッコミ不在だと、ここまで事態が悪化するとは思いもしなかったっ!!