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花ざかりの理樹たちへ その85 ~買い物編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。

 

 

 うう……。

 あっちも下着…。

 こっちも下着…。

 どこを見ても女の子用の下着だらけだ…。

 いやまあ、当たり前なんだけど。

 これが目にやり場に困るということか…実感したよ、すごく。

 


「はぁぁ……――うわわっ!?」

「どうしたの、理樹ちゃん?」

「な、なんでもないよ……」


 目を上げた途端、下半身だけのモデルがあってビックリ。

 あぅうぅうぅ。

 逃げ出したいけど。


「理樹ちゃんはどんなのが好み?」

「な、直枝ならシンプルなのがいいんじゃない? その…み、水玉なんてどうかしら!」

「いえいえ、リキにはせくしーならんじぇりーが意外と似合うかもしれませんっ」

「ほう…クドリャフカ君もわかっているな。おねーさんも是非理樹君には過激なヤツを着けたいいやむしろ着けろ」

「……あぅあぅ……」


 みんなに四方を囲まれて逃げ出すどころじゃないっ!

 し、四面楚歌だ…。


「小毬さん小毬さん、あのブラジャーがとても素敵ですー」

「うわぁホントだ、下と合わせて欲しいね~」

「少々クドリャフカ君には大人っぽ過ぎはしないか?」

「そんなことはありませんっ! プンプンですっ」


 そしてみんなの会話も生々しいしっ!

 僕だって今は、そりゃ女の子の格好してるけど……ちゃんと中身は男だ。

 居心地がとても悪いっ。


「――周りが見えんというのは、不安感があるな」


 ちなみに謙吾はというと、目を閉じて来ヶ谷さんの肩に『電車ごっこ』のように手を掛けて移動中。

 小毬さんたちに「自分たちが選ぶ下着は謙吾君にぜったい見られたくない」と言われたからだ。

 そうまでして来ることもないと思うけど…。

 

 


「リキリキー、見てくださいー」

「どうしたのクド…………ブッ!?」


 クドは自分のスカートの上から黒のセクシー系パンツを当てていた!


「どうでしょうか? これなのですが私に似合いますか?」

「いっ! い、いや…その………」

「……ど、どうなんだろ……」

「どうして目をそらすんですかっ?」

「ハッ!? このぱんつはまだ私には早いという意思表示なのでしょうかっ!?」


 そ、それ以前に、まともにクドの方を見れないっ!

 

 こんなところにいたら精神的に持たないよーっ!

 


「どうした理樹君、顔に『ハラショーハラショー僕、下着に囲まれて幸福死しそう』と書いているぞ」

「そんなこと微塵も思ってないからっ!!」

「その割には随分と顔が赤いな…やはりあれか、レズの類か?」

「なんでそんな発想になるのさっ!」

「こんなところに連れて来られて恥かしいだけっ!」

「理樹ちゃんは下着選ぶだけで恥かしいなんて、ホント恥かしがり屋さんだね~」


 もう誰も僕のこと男として扱ってないよね…。


「そんなに恥かしがり屋では、こんなパンツはいつまで経っても履けんぞ」


 来ヶ谷さんが手にしているのはお尻の部分がただのヒモ…って!!


「そんなの一生履かないからっ!」

「なに? オシリのパンティラインを見せたくないときに重宝するぞ」

「いやいやいや、ライン気にすること一生ないからね…」

「では佳――」

「嫌」


 即答だった。


「ならば小毬君」

「ふえ?」

「履け」

「ほえぇーっ!? 私持ってるのスカートばっかりだからそんなの履いたらオシリのラインどころかオシリ見えちゃう~っ」


 オシリを押さえて大慌ての小毬さん。


「転んだ瞬間にジ・エンドね」

「ほ、ほわぁあぁあぁっ!? それもうお嫁もらえない~~~っ!」

「仕方あるまい。クドリャフカ君」

「はいっ! そのような大人ならんじぇりーは初めてなのでドキドキするのですーっ」

「その体型じゃ無茶よ、無茶」

「がががーーーんっ!?」

「…ですが、こういうのは履く人を選ぶのは事実ですよねー…よねー…ねー…」

「そうだね~。オシリに自信ないと履けないよね、こーゆーの」

「来ヶ谷さんなら履きこなせそうね」

「はっはっは、よせよ。照れるじゃないか」


 ……………。


「――理樹女史の顔が真っ赤だな?」

「!」

「あれれ? どうしたの理樹ちゃん?」


   ――ふ…ふるふるふるふるーっ


「なんでもない、ということかしら?」


   ――こくこくこくこくっ!



 うわぁーわーわーっ!!

 首を振るのでせいいっぱいだっ!

 お願いだから、そういう赤裸々な会話は僕がいるところではやめてほしいっ!

 

 

 


「――あ、あれ?」

「どうしたのだ、理樹君」


 今さら気付いたけど。

 来ヶ谷さんの後ろにくっついていたはずの謙吾がいない。


「謙吾少年か?」

「あ、うん。さっきまで確かに来ヶ谷さんの後ろに着いて来てたよね?」

「ああ、奴なら…ほら、向こうだ」


 小毬さんの制服の上からブラジャーを宛がっている来ヶ谷さんがあごで指し示すほうに目を向けると。

 


「――来ヶ谷、どうしたんだ? さっきから微動だにしないのだが?」


 

 …………。

 健気に目をつぶっている謙吾は……。

 

 …マネキンの肩に掴まり、その下着装着マネキンに話しかけていた…。

 


「変わり身の術だ」

「いやいやいやいやっ、謙吾が可哀想だからっ!」


   下着姿のマネキンに掴まっている謙吾は……ごめん、アブナイ人にしか見えない…。


「いいじゃない、普段宮沢は生真面目過ぎるからこれくらいハメを外したほうがいいわ」


 そういう問題じゃないと思う。


「宮沢さん…一生懸命マネキンさんに話しかけているのです…」


 


「――おまえ、さっきから様子がおかしいぞ?」

「――返事をしてくれ」


 ガッタガッタガッタ。

 

 下着姿のマネキンに会話を求めて揺さぶり始めたっ!

 もはや親友の僕でも近寄りがたい!


「自分でやっておいてなんだが……シュールな図だな」


 この人、やっぱり鬼だ…。


「パシャ~」

「うわわっ、小毬さん写真撮っちゃダメっ!」

「いい思い出になるよ~、たぶん」

「絶対ならないからっ!」


 

 そんなことを言っていると、遠くから声。

  「――どうかなさいましたか?」

  「――あの人、変なんですっ」

 




「「「「「 あ 」」」」」


 警備員が来た。

 


「キミ、ちょ~っと別のところで一緒に話でもしようか」

「む……え?」

「ぬおわぁぁっ!? なんだこれはぁぁぁーっ!?」


 あ、ようやく自分がマネキンに話しかけてたことに気付いた。


「こ、こ、こっ、これは違う!!」

「俺はただ友達に下着を買ってあげようかと思って来ただけでだな!」

「あー、わかる、オジサンわかるよキミの気持ち。けどそのお友達、もう素敵な下着を身に着けてるからね」

「ちっちちち違うマネキンではなくだな、ち、違うんだっ!」

「わかるわかる。フィギュアが突然話し出したら嬉しいとかね。うん、わかるわかる。だからちょっとオジサンと警備室行こうか」

「オッ、俺は、理樹に下着を買って上げようと思って……」

「理樹? 男の子? んーここ女性の下着売り場だからねぇ。男の子は、あー……キミか」

「別に悪いことしたわけじゃないから、ちょ~っとオジサンとお話しするだけ、大丈夫。形式的なことだからね」

「う、う、うわぁぁぁぁーーー………………――――」


 

 …………。

 ご、ごめん謙吾……。

 僕……。

 恥かしくて出て行けなかった…。

 

 警備員に連れられ遠ざかっていく謙吾の後姿を見送る僕たち。


「安心しろ、理樹君」

「マネキンと会話していただけなら心配されるだけで終わるさ。運が良ければ茶菓子くらい出るだろうよ」

「いやいやいやいやっ、そういう問題じゃないよねっ!?」

「いいじゃない、直枝」

「邪魔者もいなくなったことだし、羽を伸ばして買い物が出来るわ。ね、来ヶ谷さん」

「そうだな、佳奈多君」

「「……ふふふふふふふ……」」

「ふえぇーっ、なんかゆいちゃんとかなちゃんがコワイーっ」


 

 

 この二人に逆らってはいけない。

 僕はそう思ったのだった……。