※バックアップページです。本体はこちらです。
花ざかりの理樹たちへ その90 ~買い物編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。





 買い物も終了し、僕たちはランジェリーのテナントを後にした。



「買ったね~」

「うん…私もね、可愛いの見つけちゃって…上と下組み合わせで買っちゃった」

 嬉しそうにはにかみむ小毬さんと、照れくさそうに袋を抱きしめて歩く杉並さん。

 他のみんなも買った品が入っているショッピングバッグを下げて浮き足立っている。

「姉御ーっ、てぇへんだ、てぇへんだーっ」

「どうした、葉留佳君?」

「あんなところで真人くんがスッポンポンで『ケンゴーケンゴー』って叫んでるっ!」

「なんだと?」

「と、見せかけて姉御がどんなの買ったのか拝見とりゃーっ!」



――ひょい、すかっ!



「ひゃぁっ!?」

 見事に葉留佳さんが伸ばした手は空を切っていた。

「はっはっは。おねーさんの手から品を奪おうとは、ティラミスにハチミツをかけて餡子をのせるほど甘いな」

「うう…隙を突けばもしかしたら奪えるかと思ったのにぃ」

 来ヶ谷さんに隙なんて存在しないんじゃないかな…。

「では、葉留佳君の買った下着を拝見」

「ありゃ?」

 来ヶ谷さんの手には、さっきまで葉留佳さんが持っていたはずの買い物袋が。

「いつの間にーっ!? じゃなくて、ここで出さないでーっ」

「なに、隙間から少々覗くだけさ」

「少しだけッスよ?」

「――ほう」

 チラリと袋を覗き込む来ヶ谷さん。

「若草色とはな。葉留佳君にしては大人しい色合いではないか」

「あ~、いやあ」

 ぽりぽりと頭をかく。

「お姉ちゃんと一緒におそろいのブラを買い――」

「~~~っっ!!」

 佳奈多さんが大慌てで葉留佳さんの口を引っぱった!

「ふぐぐに~~~っ!? おねえひゃん、な、なにひゅるのさ~~~っ!」

「うるさい」

 ジタバタしている葉留佳さんと、口を引っぱっている佳奈多さんの姿はどこか微笑ましい。

 なんて言ったら怒られそうだけど。

「……ぽ」

「いや、なんで西園さんまで赤くなってるのさ…」

「……同じ顔、同じ体、同じ下着……咲き乱れる百合の花」

「……禁断の恋もありかと思います……ぽっ」

 …西園さんの考えはいまいちわからない。

 それにしても、みんな買い物した後はいつも以上にテンションが高めだ。

 女の子って本当に買い物好きなんだなあ。

 それに比べて。



「はあぁぁぁ……」



 隣を歩く恭介は可哀想なくらい真っ白に燃え尽きている。

「――なあ、理樹」

 青白くなっている恭介の顔が僕に向けられた。

「どうしたの、恭介?」

「このビスチェなんだが――」

 買い物袋を死んだ魚の目で見つめている。

「せっかく買ったんだから、使ってくれると助か――」

「ごめん恭介、遠慮させてもらうよ…」

「毎日とは言わん。週一くらいでどうだ?」

「いやいやいや…」

「月一は?」

「それもちょっと…」

「年一」

「ごめん……それ、無理」

「……」

「……」

「うはぁあぁあぁあぁーーーっ!! これ、すげぇ高かったんだぞーーーっ!!」

 恭介が責任買取したビスチェは凝った作りだけあってビックリするほど高かった。

 いやまあ、僕のせいだから払おうとしたんだけど……。

 店員さんが「割り勘なんてありえなくない!?」といった目で恭介を睨みつけて(後の店員さんは実際に口にしていた)、結局恭介が全額支払うことになった。

「さすがの恭介くんも涙目ですナ」

「当たり前だろ!?」

「野口32人だぞ!? 野口だけで一学級編成できちまうからなっ!」

「なんで野口換算なのさ…」

「……『ドキッ、野口だらけの学級編成~ポロリもあるよ~』」

「……たしかにドキリとしますね」

 やっぱり西園さんの考えはよくわからない。

「私もさっそく明日からは新しい下着を着けたいと思いますので、リキもご一緒しましょうっ」

 クドが嬉しそうに買ったばかりの下着が入った袋をペチペチと叩く。

「いやいやいや、僕は遠慮しておくよ…」

 クドは絶対僕が男だということを忘れてるんだと思う。

「けど、よくまあミニ子サイズのブラがあったもんだね」

「ここのお店は小さい方でも安心コーナーなるものがありますから」

「って、なにを言わせるのですかーっ!?」

 色々と自爆してるし。

「んで質問なんだけど」

「はい、なんでしょう、三枝さん?」

「ミニ子、ブラする必要あんの?」

「……はっ!?」

 クドの笑顔が一瞬で凍結した!

 …ちょっと僕もそれは思っちゃったけどっ!

 みんなの目からだって「それ、地雷!」といった雰囲気が滲み出しているっ!

「ががががーーーんっ!?」

 案の定、大きな瞳を点にするクド。

「そっ……そそそそそそそっ」

 よろめき始めた!

「それは私に対する言葉の暴力ですかーっ!?」

「ちょっとクドリャフカ、大丈夫?」

 慌てて佳奈多さんがよろめくクドの肩を支える。

「どうせどうせ……」

「私はブラジャーをつけるにも値しないヒンヌー教徒ですよー…よー…よー…――」

「ほわぁっ!? くーちゃんが一気にやつれて見えちゃってるよーっ」

 しかもあまりのショックに新しい宗教まで開拓しちゃったようだった。





――みんなでいつものように大騒ぎしながらテナントが並ぶ通りを歩いているときだ。

「お」

 恭介が通りの向こうを見つめて声を上げた。

「向こうから歩いてくるの、鈴じゃないか」

 指差す方向を見ると、遠くの人ごみの合間から制服と特徴的な髪がチラチラと覗いている。



「う~~~ん…あ~っ! ホントだ、りんちゃんだ~」

「わふ~…ここからだと見えないのです~っ」

「クド公はチビ助だな~。しょうがない、このはるちんが一肌脱ぐとしよう」

「ってなワケで高い高いーっ」

「うわぁ!?」

 葉留佳さんがクドの小脇を抱えて持ち上げた。

「どう? 鈴ちゃんだった?」

「あ、見えました、間違いなく鈴さんですっ。さんきゅ~なのです」

「いやいや、どういたましてー」

「はぁ、そこまでして見ることでもないでしょう…」

 僕も佳奈多さんの言う通りだと思う。

「ふむ、可愛らしい小袋を持ってごきげんそうにこちらに向かって歩いて来ているな」

「……私はこの距離でそこまで事細かに見えている来ヶ谷さんと恭介さんが不思議でなりません」

「ホントだよ。恭介、よくあんな遠くにいるのに見つけられたね」

「そりゃな」

 恭介が満足そうに微笑んだ。

「なんせ鈴は俺の大切な妹だからな」

「お兄ちゃんならどこにいてもわかる、ってものさ」



――……じと~~~っ



「おまえら、なんでジト目で俺を見るんだよっ!?」

 ……うん。

 恭介の話す『妹』『お兄ちゃん』にはどうしても邪(よこしま)な雰囲気があるような気がしてしまう。







「――おまえら、遠くからでもすぐわかるな」

 鈴もすぐに僕たちを見つけて、そのまま合流した。

 自然に僕の隣に肩を並べる鈴。



「どうだ、おまえら?」

 フッと恭介が勝ち誇った笑みを漏らした。

「兄妹ならどこにいたってわかるものさ、な、鈴?」

「なにが言いたいんだ、こいつ」

 物の見事に顔をしかめている。

「おまえら、ごちゃごちゃしすぎだ。遠くから見てもすぐわかるぞ」

「そうだよね~、この人数でいたらわかりやすいよね」

「とゆーか馬鹿兄貴までいたのには、しょーじき気付かなかった」

「……見事なまでの一方通行ですね」

「ぎゃはぁぁぁぁーーーっ!?」

 恭介が頭を抱えて悶絶しているっ!

「うわっ、なんだコイツきしょいぞっ!?」

「棗先輩、公共の場で転げまわらないで下さい」

 そういう行動を取るのが良くないんじゃないかな…。

「りんちゃんはどこ行ってたの?」

「あ、あたしか?」

「そ、それはだな……ちょっとしたヤボよーだ」

 なぜか鈴が急にモジモジとし始めた。

「そーいや、鈴ちゃんがこまりんに呼ばれても来なかったなんて珍しいよね」

 たしかに葉留佳さんが言うとおり、鈴が小毬さんの誘いを断るのは珍しいことだ。

「う……ごめん、小毬ちゃん」

「わわわっ、それは私が勝手に呼んだだけだから全然気にしないでよ~っ」

「…あっ」

 杉並さんが鈴を見て、クリクリとした目で瞬きをした。

「どーした、杉並さん?」

「その可愛い袋…」

 小さく指差した方を追うと、鈴の手には可愛らしい買い物袋が下がっていた。

 ……あ。

 そういえば鈴、さっき僕と佳奈多さんと謙吾で買い物をしてたときにアクセサリーのウインドウを見てたっけ。

 それを買ったのかもしれない。

「私もね、そこのお店だいすきなんだ」

「そうか、これは……」

 嬉しそうにそこまで言いかけてビクリと反応する鈴。

「うわわわわっ!」



――ババッ!!



 すごいスピードで袋を自分の後に隠した!

「こっ、これは…そのなんだ…そのな」



――ちらり。



 なぜか鈴と目があった。

「どうしたの、鈴?」

「うわぁぁーーーっ!? 違うぞ、違うからなっ! 勘違いしちゃダメだからなっ」

 顔なんて真っ赤にして、ブンブンと左右に振っている。

「理樹はあっち向けーっ」

「えええーっ」

「み、見るなーっ!」

 その慌てふためく様子を見た杉並さんの頭の上にはいっぱいハテナが浮かんでたけど。

「あのえとそのっ、変なつもりで言ったんじゃなくてね…えとね……私ね……」

「……あぅ……」

 目がウルウルし始めた!

「ごっ……ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ」

 鈴の勢いに押されて、半泣きで水差し鳥のように謝りはじめた!

「わ~っ、杉並さん落ち着いてーっ」

「そういうことじゃなくてだな、杉並さん、ご、ごめんっ」

「私……変なこと言っちゃったの…かな……あのね…だから…そのあのえと……」

 自分が買ったショッピングバッグをぎゅっと抱きしめて今にも泣き出してしまいそうな杉並さん!

「うわぁーっ、泣くなっ。杉並さんは全然悪くないぞっ」

 僕が鈴を見ていると、また目が合った。

「…?」

 小首を傾げると。

「うみゃっ!?」

 鈴が慌てて買い物をした袋を僕から見えないように背に隠した!

「わかったぞっ、悪いのは全部理樹だったんだっ!」

「って、ええええええええぇぇぇーっ!?」

 思いっきりわけのわからない責任転嫁された!

「え…直枝くん…なの…?」

「ふぅ……間違いない」

 大きく息を吐き出して、神妙に頷く鈴。

「間違いしかないでしょっ、それっ!!」

 どうしたのかはわからないけど、いつもの鈴と様子が違う気がする。

「ふむ」

「つまり鈴君が言いたいことはこうだ」

「――理樹君の可愛さこそが罪である」

「そういうことではないか」

「なるほど、あたしはそれを言いたかったのかっ」

「ふえぇ…なんか深いね」

「いやいや、深くないからっ!」

「……なにせ年上の男性に下着を貢がせているくらいですから。罪といって過言ではないでしょう」

「うわぁーーーっ、変な風に言わないでよーっ!」

「そうか、俺は理樹が可愛いゆえに貢いじまったのか。妙に納得だ」

 恭介は恭介で自分を納得させるのに一生懸命だ!

「もう、鈴っ、いきなりどうしちゃったのさっ!」

 鈴を見ると。



「……よかった、バレてないな」

 ボソリと呟いて、大きく溜息を吐いていた。