花ざかりの理樹たちへ その97 ~買い物編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
■■■ エピソード・鈴 ~前編~ ■■■
「どうしたらいいかわからない?」
「そーだ」
バカ兄貴から景品の『理樹と二人っきりになれる券』をもらったのはいいが、どーしていいのかちっともわからない。
うみゅみゅ…準備はしてあるんだが…。
鞄の中に忍ばせている袋をチラッと確認する。
理樹はもうゲームセンターの出口であたしを待ってるし…うみゅ、困った。
「本来なら自分で考えて欲しいところなんだが」
「ちっともわからんから訊いてるんだろっ」
バカ兄貴は『やれやれ』とでも言いたそうな顔だ。
「理樹と二人なんていつものことじゃないか。そう気負(きお)うことでもないだろ?」
「気負うわっ! 理樹と二人でデパートを歩くんだぞっ」
「いいじゃないか」
「いっ、いいわけあるかっ! まっ、まっ、まっ、まるで……」
「おりょ、鈴ちゃんの顔がどんどん赤くなっていきますナ?」
「……うみゅみゅ……」
あっ、あたしと理樹が……。
「りんちゃん、りんちゃ~ん? 大丈夫~?」
「……ふみゅみゅ……」
まるで…。
デ、デ、デ…デー…ト…するみたいだろっ。
――どっき、どっき、どっき、どっき、どっき、どっきっ!
うみゃっ!?
そう考えたらすごいドキドキしてきたぞっ!
「わふー…小毬さんの声も聞こえていないみたいです」
「心ここにあらずといったところだな――抱きついてみるか」
――むにっ
と、とりあえず理樹にどんな挨拶をしたらいいんだ?
その前にあたしは理樹の右を歩けばいいのかっ!?
それとも左側を歩けばいいのかっ!?
どっちがいいだっ!?
困ったっ!
くちゃくちゃ困ったっ!
「……あの鈴さんが、来ヶ谷さんが抱きついたのにも関わらず無反応です」
「こうも無反応だと抱きついた私が寂しいじゃないか。スリスリと」
「姉御が頬ずりしても反応なしですヨ」
「ヤバイな…こいつはかなりの重症だ」
「――恭介氏、鈴君にいつもの無線機を貸してやったらどうだ?」
「頑張ってこい、と送り出してやりたいところだが……まあ、この様子じゃ仕方ない」
「鈴」
デっ、デッ、デートといったらやっぱり星空かっ!
そんなんデパートのどこに行ったら見れるんだっ!?
困ったっ!
くちゃくちゃ困ったっ!
「鈴、おい鈴」
「………………んっ?」
気付くと兄貴があたしの肩を揺すっていた。
「そんなに心配ならこいつを持っていけ」
「ん? おおー、これは」
きょーすけの手にあるのは、前にあたしが使っていた小型無線機だった。
「困ったことがあったらこれを使え」
「やっぱり初めてだからりんちゃんも不安だと思うけど、私たちがいると思えばだいじょーぶっ」
「鈴さん、れっつごーなのですっ」
「こまりちゃん、クド……みんながサポートしてくれたら安心だなっ」
――ぽんっ!
きょーすけの手があたしの背中を押した。
「行ってこい、鈴」
「よし、行ってくるっ」
みんなの「がんばってー」とか「俺と代わってく――ゲフンッ!?」「これは棗さんが勝ち取った権利」という声援と共に、あたしは理樹がいる場所に向かった。
足を進めて7歩。
あ、ゲーセンの出口にいる理樹があたしの方を向いたぞっ!
……。
しまった!
理樹はあたしのことを待っててくれたんだった!
「いきなり困った」
『早いなオイっ!』
「理樹を待たせてしまった」
「こーゆーとき、どうすればいいかわからない」
『……笑えばいいと思います』
無線機の後ろからは「西園、そういうシーンじゃないだろ」とか聞こえてくる。
『いや、西園女史が言うこともあながち間違いでもないだろうな』
「なにぃ、笑えばいいのかっ!? それで理樹は許してくれるのかっ!?」
『……通称“ごめんねスマイル”。涙に次ぐ程の威力を秘めた女性特有の必殺技です』
『……この必殺技は神北さんや能美さんでは効力は薄いですが、鈴さんならば効果は大きいかと思います』
『あ、それわかるわかる。きっとお姉ちゃんにそれをやられたら死人が出ますナ。ね、おね~ちゃん』
『……!』
『ひやぁあぁあ、ほっふぇひっはらないふぇーっ(ひやー、ほっぺ引っ張らないでーっ)』
「そうだったのか…」
それは知らなかった。かなり勉強になったな。
あ、理樹もあたしの方に近づいてきたっ。
これは使ってみない手はないな。
「鈴、これからどこに行こうか?」
理樹があたしに話しかけてきたっ!
今だっ!
――にこっ!
「あれ? 何かいいことでもあった?」
「あたしは笑ったぞ」
「そうだね」
「……あたしを許したか?」
「許すって何を?」
理樹がきょとんと首をかしげた。
「……」
「こちら鈴。作戦失敗」
『まあ、理樹はそんなことを気にするタイプでもないからな』
『鈴君、結果報告はいい。まずは理樹君と一緒に歩くんだ』
「らじゃー」
「えっと、鈴どうしたの?」
あたしが理樹の方を向くと、理樹は不思議そうな顔をしていた。
「な、なんでもないぞっ!」
「?」
「そ、それよりだなっ」
「うん」
う、理樹がっ、理樹が笑顔であたしを見つめてるっ。
しかもあたしの隣でだっ!!
どどどどうすればいいんだっ!?
『そうテンパるな』
耳に兄貴の声が聞こえてきた。
「テンパるわ、ぼけーっ!」
『事は簡単だ。歩こうかと誘え』
「むむ…簡単じゃないが、らじゃー」
「理樹っ」
「どうしたの?」
「あのだな…」
よ、よし、言うぞっ!
「歩こうかと誘えっ!」
『『『ダアッ!?』』』
あたしたちの後ろからはコケるような音。
「へっ!?」
「だから、あたしを歩こうかと誘えっ! 早くしろっ!」
…ん?
兄貴の言うとおりにしたのにどうして理樹はビックリしてるんだ?
耳元からも「り、りんちゃん、それ違うよ~」とか「……そうきましたか」とか聞こえてくるぞ。
「じゃあ鈴」
ちょっとビックリしてた理樹だけど、すぐに嬉しそうに笑った。
「一緒に歩こうか」
「そうだな、そこまで言うなら歩いてやらないこともない」
やったぞっ!
第一関門クリアだっ!
『さすが理樹っちだぜ…鈴の発言なんてものともしてやがらねぇ』
理樹とのんびりとデパートの中を歩き出した。
「鈴とこうしてデパートを歩くのも久しぶりだね」
「そーだな」
「こーして二人で並んで歩いてると…………」
まるで…。
デ、デ、デっ!
「ふ、ふみゃぁ~っ!」
「ど、どうしたの鈴っ、いきなり叫んで!?」
「なななななんでもないぞっ!!」
な、なんかくちゃくちゃ顔が熱いっ!
まっ、まさかあたし、顔赤くなっちゃったりしてないだろーなっ!?
「鈴?」
「う、うわっ、こ、こっち見るなっ!! あっち向けーっ!!」
「えええーっ!?」
「いいからあっち向けーっ」
ふぅ…あぶなかった。
ちょっと落ち着いて横を歩いている理樹を見る。
うみゅみゅ…。
「鈴、もう前向いてもいいかな…?」といっている理樹は、もうくっちゃくちゃ可愛い。
歩くだけで春色のオーラを放っている。
脚は白くて細いし、スラッとしてるし、笑顔も天使みたいだし、まつげも…ふみゃぁ…長い。
周りを歩いている人が振り返って首グキッってするくらいだ。
服もめちゃくちゃ似合って……。
服っ!?
「理樹、たっ、大変だっ!!」
「今度はどうしたの?」
「あ、あたしたち…」
「ぺ…ぺ…ペペペ…」
「ペアルックだっ!!」
「いやいやいやいやっ、これ制服だからねっ!」
ふみゃぁあぁあぁ~~~っ!!
ぺ、ペアルックなんて、くちゃくちゃ仲良しさんみたいになっちゃってるじゃないかっ!!
「お揃いを着てデパートを歩くなんて、あたしたちくちゃくちゃ恥ずかしいことしてるんだぞ!? 理樹は平気なのかっ!?」
「制服なんだし、僕は平……………………うあ」
「り、理樹!? なんでいきなりしゃがみ込むんだっ!? パンツ見えちゃうぞっ」
「わわっ!?」
『理樹ちゃん、一瞬認めましたネ』
『あのスカートを押さえる速度。理樹君も手馴れたものだな』
『……侵されつつある心ですか。純粋だった心が堕ちてゆき…こ、これは溜まりません…っ』
はるかもくるがやもみおものんびり話しているっ!
『あ…私たちも理樹くんたちとペアルックだね』
『杉並女史…嬉しそうにしているところ悪いが、当然だ』
「そんなゆーちょーなこと言ってないで、あたしたちはこれからどーしたらいいんだっ!?」
『鈴、深呼吸でもするんだ』
「おお、その手があったかっ」
「理樹っ、今日は一緒に深呼吸をするぞっ! さっさと立てっ」
「うわ、腕引っ張らないでよーっ」
「やるぞっ」
「え、えっ?」
「腕を大きく前に上げて深呼吸の運動だ」
「それデパートでやるようなことじゃないよね!?」
「ここでやらずにどこでやるんだ! いいからやれっ」
「「すぅぅぅ~~~~~~~~~……」」
「「はぁぁぁ~~~~~~~~~……」」
「「すぅぅぅ~~~~~~~~~……」」
「「はぁぁぁ~~~~~~~~~……」」
『わふー…鈴さんたち、本当にデパートの真ん中で深呼吸をしています…』
『あの強引さを見ると、やはり鈴君は恭介氏の妹なんだとわかるな』
『だろ?』
『……それにしても、どちらも美少女なだけあってシュールさの中にも可憐さがありますね』
『蜜に惹きつけられるハチみたいに人が集まってきているわ…』
『恭介よ…かなり不安な出足なんだが』
『安心しろ謙吾。まあ、俺たちでサポートしてやれば問題ないさ』
『すでに問題しかないんだが』
『大丈夫だ。それに鈴も何か用意してあるみたいだしな』
『ふえぇ? りんちゃんも準備してるの?』
『ああ。そこは見守るとしよう』
「理樹、深呼吸は気持ちいいな」
「そ、そうだね…鈴、そろそろ」
「あと一回やろう」
「ええええーーーっ!?」
『……本当に大丈夫なのか?』
『…………おそらく』