※バックアップページです。本体はこちらです。
花ざかりの理樹たちへ その100 ~買い物編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。




「……あはは」

 デパートを歩き回っている僕と鈴。

 僕は横を見てついつい苦笑いをこぼしていた。

 横ではというと、

「そ、そんなことできるかーっ! ……なにっ!? うん……ふみゃぁっ!? ……わ、わかった」

 さっきから鈴は僕から顔を逸らしながら、赤くなったりアタフタしたりと百面相を繰り広げていた。

 意識はどこか別のところにあるようだ。

 たぶん、恭介たちとまた何かしてるんじゃないかな。

 ……。

 後ろの方に顔を向けてみた。



「ほわっ!? 理樹ちゃんがこっち向いたっ!」

「か、隠れないと――わふんっ!?」

「クー公コケんなよっ。大丈夫か?」

「いたた…ギリギリ見つからずによかったです~」

「いたいのいたいの飛んでけ~っ。どう、クーちゃん?」

「はい、もうへっちゃらですーっ」



「……あ、あはは」

 ごめん、まる見えだよ……。

 どうやらみんなもこっそり(?)と僕たちに着いてきてるようだ。



 鈴は次はいったい何をするつもりなんだろう?

 耳を澄ましてみた。

「……ふみゅぅ、プレゼントを渡すならロマンティックな場所か……二木の言うことももっともだな……ふむ、ふむ」

「……湖のほとりの伝説の木の下だと!? そんなんデパートにあるのかっ!?」

 大変なことになっていた!

 くいっとスカートの裾を引かれた。

「り、理樹っ、こうしてはいられない!」

「え!? な、なに?」

「一階の広場にいくぞ! 噴水のとこだっ!」

「どうした、早く行くぞっ」

「え、わっ、行くからスカート引っ張らないでよっ、み、見えちゃうからーっ」





――デパートの一階。憩いの広場と呼ばれている広場に来た。

 広場の周りには31アイスやケーキ屋などのテナントが並んでおり、広場は共用のオープンカフェといった風に使われている。

 その広場の中央には、小さいながら綺麗な噴水があって、その周りは腰を下せるようになっていた。

 鈴がそこにちょこんと腰をかけて、自分の横のスペースをぺちぺちと叩いた。

「理樹、ここに座れ……で、ご、ござりますわよ」

「ござりますわよ!?」

 鈴の口調があからさまにおかしい!

「そ、その口調だけど……」

「ふみゃーっ! いいから座れっ……ご、ございますわよ」

 恥かしさを堪(こら)えるように鈴の目が泳いでいた。

 鈴の隣に恐る恐る腰を下す。

 それにしても……。

 今度は何をしようとしてるんだろう?

 横に座る鈴は、困ったような顔でギュッと自分のカバンを胸に抱きしめ「うーうー」と唸っている。

 顔はちょっと赤い。

「……」

「……」



 ちらっ…。

 ちららっ…。

 盗み見るような鈴の視線。



 ちらっ…ちらりっ…。

 どうにも僕と自分のカバンを見比べているように見える。



「……」

「……」

 周りの雑踏をよそに、僕たちの周りだけ妙に緊張した空気が流れている気がする!

 う、うーん。

 鈴は何か言おうとしては口を開くけど、すぐにつぐんでしまう。

 足もモジモジとして、まるで話を切り出そうか出さないか迷っているようだ。

 何かしようとしてるみたいだけど、僕から声をかけた方がいいのかなあ?

 ……よし。

「り、鈴?」

「ぬわっ!? なっ、なんだ理樹っ! ……でござるよ」

 ……。

 語尾が色々省略されて忍者用語みたいになってしまっていた!

「い…いや、なにか言いたいことがあるんじゃないかなって思って」

「う、うみゅ……」

 僕と顔を合わせないように目を泳がせる鈴。

 少し離れたところからは「りんちゃんがんばれー」「がんばるのですーっ」と声も聞こえてくる……気がする。

「………………ふみゅっ」

 ちょっとした沈黙の末、鈴がひとつ頷いた。

「り、理樹っ」

 意を決したような呼びかけ。

「わっ、わっ……渡したいものがあるっ!!」

 掴みかかりそうなほどの勢いだ。

「渡したいもの?」

「あっ、あたしがいいって言うまで後ろを向いててくれ」

 僕に真剣な眼差しが向けられていた。

「わ、わかったよ」

 僕はゆっくりと鈴と反対側を向いた。

「こ、こっち見たらメッだからなっ」

「大丈夫だよ」

「絶対絶対ダメなんだからなっ! 見たらあたし死ぬからなっ」

「あはは……それは困るから絶対に見ないよ」

「う……うみゅぅ……ちょっ、ちょっと待ってろ」



――ぱかっ、ごそごそ、ごそごそ

 僕の背後からカバンを開けて何かを漁っている音が聞こえる。

 さっきから変わったことばかりしてるけど、今度はなんだろう?



「すーーー……はーーーー……」

 さらに深呼吸の音。

 そして。

「い、いいぞっ!」

 ゆっくりと僕は鈴へ向きかえった。



「……はみゅぅ……」

 鈴は可愛らしくデコレートされた小さな袋を両手抱え、自分の胸元に寄せていた。

 緊張してるのか、肩なんてすっかりと張っている。

 顔は……きっと緊張してるんだ。すっかり桜色。

 まるで困った仔猫みたいな表情だ。



 ……あれ?

 あの鈴が持ってる袋。

 僕と佳奈多さんと謙吾で買物をしていたときに、鈴がショーケースの前で悩んでいたところのだ。

 たしか鈴が買って……。

 もしかして、自分のためじゃなくて…?



「り、りキッ!」

「は、ハイ!」

 鈴の裏返った声に、つい敬語で反応してしまった。

「こっ……こっ……こっ……」

 まるでスローモーションのように、

「こっ……ここっ……これをだな……」

 ゆっくり、ゆっくりと僕の方へデコレートされた小さな袋が差し出された。

 鈴の顔なんて、今にもポーッと汽笛をあげそうな感じだ。

「……これをだな……あの……その、な……だ、だから……うみゅみゅみゅっ!」

 僕の胸に可愛らしい袋がキュッと押し付けられる。

「これ……鈴からのプレゼント……ってこと?」



――コクコクコクコクっ!!



 鈴が顔を完熟トマトみたいに真っ赤にして首を何度も縦に振った。

「……」

 まじまじとその袋を見つめてしまう。

 こんなこと初めてだ。

 鈴だって人にプレゼントをあげるのは初めてだと思う。

 だからこんなに緊張して……。

 ついつい笑顔がこぼれる。

「ふみゃ~~~っ! に、にやにやするな~~~っ」」

「い、いいから早く受け取れぇ~っ! んみゃ~~~っ」

 真っ赤になった鈴が「このっ、この~っ」と僕の胸にプレゼントをギュ~ギュ~と押し付けてきた。

「ごめん、ごめん」

 その手からそっとプレゼントを受け取る。

「開けてみてもいい?」

「か、勝手にしろっ!」

「じゃあ遠慮なく」

 ゆっくりと丁寧にデコレートされた袋を開けてゆく。

 中から現れたのは小さな白い正方形の箱。

「なんだろ……?」

 そっぽを向いている鈴だけど、チラチラと僕の開ける様子を伺っている。

 箱を開けると……。

「これ……」



 中には――

 小さなシルバーのネックレスが入っていた。

 ちょこんと座った猫の形だ。



「……」

 鈴は恥かしそうに顔を背けたまま何も言わない。

 僕はこういったアクセサリーをつけることに抵抗があるけど、鈴からの初めてのプレゼントなんだ。

 その嬉しさに比べたら抵抗の気持ちなんてないようなものだ。

 ネックレスをそっと箱から出すと、首に手を回し身につけた。

 僕の胸元を小さなシルバーのネコが可愛らしく彩る。

「鈴」

「……」

「鈴」

「……」

「ほら、こっち向いてよ」

「……」

 ツンと無理におすまし顔を作っている鈴がチラリと僕を横目で見る。

「こういうのつけたことないんだけど……似合うかな?」

「……」

「……」

「……」

「……ん」

 余計に紅潮した顔をプンっとそらした。

 その口元は……嬉しそうに上がっている。

 そして一言だけつぶやいた。



「……………………似あってる」



「鈴」

「――ありがとね」

 僕がそう言うと、

「ッ!」

 鈴がビクッと音がしそうなほどに肩を振るわせ固まった。

「…………」

 毛羽立ってる、なんて言えそうなほど、鈴がビクリとした状態そのままで凍結していた。

「…………――――」

 その足元から頭の天辺に電気が駆け抜けるように震えたかと思ったら、

「…………――――――――~~~~~~~~~~~~~~っ!」

 突然僕に背を向け勢いよく音を立てて立ち上がった。

 ここからだと顔はよく見えない。

「さッ――」

 裏返った声の鈴。

「さっ、先に馬鹿兄貴たちのところに、も、も、ももっ、戻るっ!!」

「え、ちょっと、鈴っ」

 それだけ言い残すと、鈴は自分のカバンを両手でしっかりと抱きしめながら走っていってしまった。

 もう……。

 不器用なんだから。

 そんな鈴の様子に笑顔がこぼれてしまう。

「……あれ?」

 プレゼントの箱に目を落とすと、もう一つ何かが入ってる……?

「?」

 どうやらメッセージカードみたいだ。

 裏返すとメッセージが現れた。

 そこには……





 『いつもありがとう』

 真ん中にたった一言。

 それだけが書いてあった。





「ああ、もう…」

 ついクスッと笑ってしまった。

 …本当に不器用なんだから。



 僕は立ち上がり、鈴の背を追った。

「鈴、待ってよーっ」

 走る僕の胸元では、小さなネコが楽しそうに踊っていた。