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花ざかりの理樹たちへ その101 ~夜突入編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



――前略、みなさま。

デパートでの買い物が終わり、僕たちは日が沈む中河川敷を歩いているわけで。

僕はというと、髪のサイドで風に揺れるリボンを直すこともできるようになっており。

ソックスの位置が悪いと思わず直してしまうようになってしまい。

スカートのプリーツの乱れだって整えてしまうわけで。

そうしている間にみんなとちょっと距離が離れてしまったわけで。

僕こと直枝理樹は今。



「YO! YO!」



――男に。



「ボクはアイカワッ☆キミは激カワッ♪」



――ナンパ、されています。





「はぅっ!?」

い、いつの間に僕はこんなに女装に慣れちゃったのさ!?

しかもほんの少しだけみんなと離れただけで、いきなりナンパまでされちゃってるし!

ど、どうしよう!

「え、ええっと……ぼ、僕は……」

「グハッ!? ボボボボクっ娘!? 萌え萌えなその存在!うるんだ瞳はマジ犯罪! チェゲラッ!」

目の前で決め顔をしているのは2-Aの相川くんだ。

すごく面倒くさい方向に走っちゃってるよ!!



――ゴキゴキッ、バキバキッ

相川くんの背後で指を鳴らす音がした。



相川くんが驚いて後ろを振り向くと、

「――テメェはオレを怒らせた」

その背後には真人がゆらりと立っていた!

「ひっ!?」

目が光り、体からは闘気らしきものが立ち上っている!

まるでケンシ○ウだ!

さらにもう一つ影が揺らめく。

「――一つ一人で理樹を独占め、二つ二人で言葉を交わし、三つみんなを差し置きナンパをするとは――不届千万!」

謙吾がそれっぽいことを呟きながら竹刀を反時計回りに回している。

「真人、ゆくぞ!」

「おうっ」

「ひ、ひぃ!? つ……つつもたせだったのかーっ! うわーんっ」

すごいことを言い残し相川くんは走り去って行った!



「真人、謙吾、ありがとね…」

うう…僕は男なのに男の人からナンパされるなんて結構ヘコむ。

「ったくよ、オレたちから離れるなっての」

真人の手が優しく僕の頭をポンポンと叩く。

その度に髪をまとめたリボンが、ふわ、ふわ、と揺れる。

「こんなにも愛くるしい女性を放っておく方が人として罪だと私は思うがな」

「来ヶ谷さんも何を言ってるのさ!?」

さらっと女性と断言してるし!

「……井ノ原さんと宮沢さんは直枝さんを守る前鬼、後鬼といったところでしょうか」

すぐにみんなもこちらへ寄ってきた。

「……美少女と使役される男たち……女王様……ぽ」

「ぽ、じゃないからっ!」

「理樹君、『焼き払え!』と命じてみないか? 真人少年の口からビームが出るやもしれん」

「なにぃ、真人は口からビームが出せるのか!? 世界を焼き払えるのかっ!?」

「マジかよ!? いっちょ頑張ってみるぜ!」

「頑張って出るものでもないし、出たら怖いからっ!」

真人たちは「…やべぇ、熱い吐息しか出ねぇ」「きしょっ! コイツきしょっ!」「……冷えピタをどうぞ。スッキリしますよ」ってやってるし。



「つつもたせ、とはなんでしょうか?」

「それはクーちゃん、あれだよ。美人さんの後ろに悪い男の人がいることだよ」

「宮沢さんは悪漢だったですかーっ!?」

「モヒカンですかーっ!?」

「いや、違うが……」

……小毬さんとクドはいつも通り平和だ。



「――それにしても理樹はすごいな」

恭介の手がポンと僕の肩に乗せられた。

「一人になってからナンパされるまで1分切ってたぞ。男のハートを射止めることに関しては理樹の右に出るヤツはいないぜ!」

「それ全然うれしくないからね!?」

「いやぁー理樹ちゃんのその愛くるしい顔で怒られるとドキドキしちゃいますナ。パシャリと」

「わ!? 葉留佳さんはなんで写真を撮ってるのさ!?」

「可愛いからデス。理樹ちゃんが可愛いからデス」

真顔で2回言われても困るっ!

「三枝、あとで500円を渡す」

「ヘイ毎度っ!」

恭介と葉留佳さんの間で商談が成立していた!

「――直枝、あなたは自分の行動に注意すべきよ。リボン、曲がってる」

佳奈多さんの手が伸びてきて、僕の胸元のリボンを直す。

「あなたが無防備に笑顔を振りまくだけで男たちがホイホイついてくるんだから。――はい、これで良しと」

「ありがとう、佳奈多さん」

「…っ」

佳奈多さんは自分の髪を指に巻きつけながら「…わ、私の気苦労も考えなさいよ…」みたいなことを呟いている。

「直枝君の可愛らしさに私憧れちゃうな…。あとでオシャレとか教えてもらってもいい…かな?」

杉並さん、僕が男だって忘れてないよね。



***



「――今のでお前らもわかったと思うが」

恭介が僕らの前に立った。

「理樹を独りにしたら危ない。理樹にとっても周りにとってもだ。そうは思わないか?」

「そうね。生物兵器を道端に野放しにするようなものね」

佳奈多さんはひどい言い様だ。

みんなも「理樹っちってなんつーかいい匂いするよな」「きしょいわボケー!」「グハッ!?」「……くんくん。これはまた…」「に、西園さん?」と、まぁ、一様に頷いている。

「だから――」

恭介がグッと拳を作った。



「今から誰か一人が理樹をおんぶして運ぶ!」



…………。

……。



「えええええーっ!!」

それって恭介がやりたいだけだよね!?とツッコもうとみんなの方を見ると。



「よぅし、がんばるよーっ」

小毬さんは腕をブンブンと振り回している! やる気まんまんだ!

「(ちりん)」

鈴は屈伸運動を始めた! やる気まんまんだ!

「はるちんマックスパワーっ!」

葉留佳さんも力こぶを作っている! やる気まんまんだ!

「私もここぞとばかりに力を見せるのですっ」

クドも力こぶを作ってアピールしている! けどプニプニだ!

「よーし、私もがんばる…っ」

杉並さんも腕まくりをしてアピールしている! けどまくった袖がすぐ落ちてきてあわあわしている!

「おんぶなら髪はアップのほうがいいのかしら?」

佳奈多さんは髪をアップにまとめ始めた! 後ろで見ていた来ヶ谷さんがそのうなじに欲情しはじめている!

「……こんなこともあろうかと、おんぶ紐を持ってきていてよかったです」

西園さんは準備万端だ! いや違う、あれはおんぶ紐じゃない! 荒縄だ! 僕の身が危険だ!

「おんぶでは生ぬるい。抱っこだ! 抱っこで3歩ごとに理樹君の唇を奪いながら学校までの道程を練り歩く!」

来ヶ谷さんは思考がダダ漏れだ! 僕の身も社会的立場も危険だ!

「オレだっておんぶじゃ済まさねぇ! 肩車だ!」

真人も無駄に対抗しているっ! スカートで肩車は勘弁してほしい!

「真人が肩車なら俺はトーテムポールだ!」

謙吾に至ってはもはや何をしたいのかわからないっ!!



「みんな、やる気満々のようだなっ!」

「「「「「おおおおーーーーっっっ!!」」」」」

地を揺らすほどのみんなの声が響いた!

「いやいやいや、僕、一人で大丈夫だから――」

言おうとしたところで。



――ぴと。



小毬さんの人差し指が僕の唇に当てられた。

「理樹ちゃん」

ゆっくりと首を振る小毬さん。

「みんなを頼ることは恥ずかしいことじゃありません。一人はみんなのために、みんなは一人のために、だよ」

ね、と小毬さんがほほ笑みかけてくる!

し、しまった!!

退路を封じられたっ!

ううう……。

これはもう腹をくくるしかなさそうだ。

「理樹もいいか?」

「もう…どうだっていいです」

「よし、理樹が快く引き受けてくれたところで早速じゃんけんだ。もちろん一番勝ったヤツな」

「「「「「うおおおおーーーーっっっ!!」」」」」



僕の気分とは裏腹に、みんなのテンションはヒートアップしていた!