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花ざかりの理樹たちへ その103 ~夜突入編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



「さーちゃん、すんごい顔…」

「……ゴキブリの大移動を見たかのような顔でしょうか」

効果音を付けるとしたらガーン!がぴったりかもしれない。



「ミ、ミ、ミ、ミヤザワサマ……?」

「ささこのやつ、ロボットみたいだぞ」

「お口をパクパクとさせて金魚のようになっていますっ」

鈴が名前を間違ってもツッコんでこないあたり、笹瀬川さんは相当動揺しているようだ。

「んな、な、な、な、な……」

あ、動き出した。

ギギギと音がしそう。

「なっ、なんですの、ソレ……?」

「笹瀬川が言いたいことはわかる」

何度も頷く謙吾。

謙吾はまだ真人の手を僕の手だと勘違いしているようだ。

そして白目を剥いた真人の手を持って一言。



「――可愛いだろう?」

「可愛いんですのッ!?」

笹瀬川さんが顎をガクガクさせて戦慄していた!


「いいいいいいったい、ど、どこらへんが可愛いんですのッ!?」

「例えばそうだな…」

フム、と頷く。

「見ろ、つぶらな瞳だろう」

「死んだ魚みたいな目をしてますわよッ!?」

「あと細いな」

「デカイですわ!!」

「草食系で無防備なところも良い」

「ガッツリ肉食系に見えますわッ!!」

「今日は風でパンツが見えそうで焦ったがな」

「ズボンがハチ切れるんですの!?」

「その度に恥ずかしそうに頬を染めるのだ」

「戦慄を覚えますわッ!!」

「安心しろ、目はそらしている」

「その情報はいりませんでしたのッ!!」

「驚かずに聞いてほしいのだが、こいつは実は――」



「男だ」



「見ればわかりますわぁあぁーーーッ!!」



うんがーーーっと髪を掻きむしる笹瀬川さんっ!

「佐々美様、おハゲになってしまいますぅーっ!」

周りの後輩が止めに入る!

「ふむ、ネジが外れた謙吾少年にはさすがの笹瀬川女史もついていけないようだな」



「謙吾はホモだからな」

鈴が。

ボソリとつぶやいた。



――ぴきーーーんっ!

そんな音とともに笹瀬川さんが凍り付いた。



「はっはっは、ホモで結構! なぁ、理――」

謙吾が首をこちらに向けた。



「…………理樹すまねぇ…………」

「…………オレは…もう…ダメかもしれねぇ…………」

そこには白目になって幾分しぼんでしまった真人がいた!



「……」

「……」

「……」

「……」

「ぬおぉおぉおぉおっっっ!? なななんだコレハッ!?」

慌ててその手を放り出す謙吾!

「も、もしや、いっ、今まで俺が愛でていた手は……」

「ああ、真人少年のものだ」

「謙吾くん、真人くんの手に愛おしそうにスリスリ~ってしてましたヨ」

「なぬおぉおぉおぉおぉおおおおおおーーーっ!?」

謙吾が悶絶を始めたっ!

「おっと、理樹は避難させてもらうぜ」

「わ、恭介」

「そらよっと」

ひょいと謙吾の背中から僕をお姫様抱っこをして下ろす。



――ちょいちょい

悶絶している謙吾の袖を葉留佳さんが引いた。



「それに真人くんが耳に「フ~♪」ってしたとき大喜びしてましたネ」

「あっ…あれも真人だとうぅ!? ぐあッ!! 耳がァ!! 耳がァっ!!」

「……井ノ原さんは焼肉を食べていたそうです。――あっ…」

思いついたかのように西園さんが謙吾を見上げる。

「……芳醇な素晴らしい香り、でしたか」

「ぐっはぁぁぁぁぁーーーっ!!」

「あと謙吾君、耳が幸せって喜んでたよね」

小毬さんの言葉も今は追い討ちだ!

「ぐわああああああああぁっ!! あれは理樹の耳フーかと思ってだな! くそぅ、耳掃除をしなけれ――」

「あら」

佳奈多さんもわざとらしく声を遮った。

「もう耳掃除はしないって直枝に誓わなかった? あなたさっき。確かに」

ふぁさ、と髪をかきあげる。

「ねぇ……約束を破る人――直枝は、どう思うのかしらね?」

「四面楚歌ぁあぁーーーっ!?」

うわっ!? 謙吾が頭を抱えて弓の字にのけ反ったっ!

「あ、あ、あれはだな、理樹、ちが、ちが、ちがぁっ」

「うわわわっ、謙吾、わかってるからっ! そんな揺らさないでよーっ! ああもう、真人たちも何か言ってあげて――」

真人と笹瀬川さんがいる方を見ると。



「………………あばば………………」

「………………んばば………………」

どっちも奇怪な言葉を発して呆けていたっ!



「なんっつーかアレだな……」

恭介ですら冷や汗交じりだ。

「FXで有り金全部溶かした人みたいな顔だろ、これは」

「「ぬ」と「ね」の区別がつかなそうな顔ですー……」

「真人は前からぬとねの区別ついてないだろ」

「さすがにそれはないからさ、鈴…」

けど、笹瀬川さんにはフォローは必要かもしれない。

僕は笹瀬川さんに駆け寄った。



「笹瀬川さん」

「………………んばばばばば………………」

うーん、魂ここにあらずといった感じだ。

「「「さ、佐々美様ぁっ」」」

周りの後輩たちもオロオロとするばかりだ。

「大丈夫?」

僕がさらに近づいたとき、



――ふらっ

笹瀬川さんがふらついた。



「あっ…あぶないっ」

慌てて駆け寄り、



――ぽふっ



笹瀬川さんが僕の腕の中に力なく収まった。

倒れないでよかった…。

「笹瀬川さん、大丈夫?」

腕の中の笹瀬川さんからほのかにシャンプーの良い香りがする。

「…………――――」

どこか遠くを見ていた笹瀬川さんの目の焦点が戻ってきた。

「…………あ……あなた様は…………」

「えっと、謙吾のことだけどさ、あれは今日限りの冗談みたいなものだから――」

「………ぁ………」

笹瀬川さんが一瞬だけ身じろぎをした。

目を向けると……上目遣いで僕を見る瞳が熱く潤んでいるような気がする。

ほっぺもどこか上気しているような?

「あの、笹瀬川さん?」

「…………はい…………」

って、僕、笹瀬川さんのことを抱きとめたままだった!

「わわわっ、ご、ご、ごめんっ!」

慌てて腕を離したが――

「…………」

笹瀬川さんは僕の胸に身を預けたままだ。

「さ、笹瀬川さん……?」

「宮沢様が――」

その口を開いた。

「宮沢様が殿方を愛でることが好きと堂々とおっしゃるのでしたら――」

胸元にうずめられた笹瀬川さんの手にキュッと力が入る。

「わたくしも――」

僕を見つめる目は、潤んでいるが妙に情熱的だ。



「わたくしも堂々と――」

「女性を愛でることにいたしますわっ!」

「えぇえぇえぇえぇえええーーーっ!?」



「「「きゃ~~~んっ、佐・々・美・さ・ま~~~~んっ♪」」」

笹瀬川さんの後輩なんてみんな目をハートにして黄色い声を上げているっ!

「もう少し…もう少しだけこうしていて良いですの…?」

「いっ、いーやいやいやっ!? ぼっ、僕はその、女の子じゃなくてっ」

助けを求めて目を周りに向けると、佳奈多さんと目があった。

「か、佳奈多さん、たす――」

「ハァ?」

「ひぃやっ!? お姉ちゃん、すごい怖い顔になってるっ!?」

さらに、近くの鈴と目が合った。

「ふかぁーーーっ!」

威嚇していた!!

「よりによってそんなのと……理樹の、理樹のうらぎりものーーーっ!!」

「って、えええええええーーーっ!?」





ううう、また大変なことになってきちゃったよ……。