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花ざかりの理樹たちへ その107 ~夜突入編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。


お風呂タイムが終わり、僕たちは恭介からのメールでまた前庭まで出てきていた。



「――女子メンバーはもう集まっていたか。相変わらず騒々しいな」

「いい筋トレだったぜ」

少し遅れて謙吾と真人が男子寮側から歩いてきた。

「あ、謙吾に真人。そっちもお風呂?」

「おう、けどよ風呂にダンベルを持って入ると――……」

真人がビタリと止まった。

「り、理樹、おま……おま……」

指がブルブルと上げられ、僕に向けられ止まった。

「おまえ……腕からなんか生えてんぞ!?」

「あーこれは……」

僕の左腕を見るとそこには。



「直枝さ~ん♪ 直枝さん♪ 直枝さん? 直枝さん~♪」



とろけそうな顔をした笹瀬川さんがくっついていた……。

それはもう両腕で僕の左腕をガッシリと力いっぱい抱きしめている。

「さ、笹瀬川さん、そろそろ……離れない?」

「い・や・で・す・の♪ このっ♪」

なんて言いながら僕の二の腕を指でツン。

「ふにゃっ!?」

さっきから僕たちの周りを威嚇しながら回っていた鈴の髪が逆立った!

「ふかぁぁぁーーーっ!! ささらささささ! 理樹から離れろっ!! このっ、くっつきすぎだーっ! どんな力でくっついてるんだっ、ふにゅにゅにゅーっ」

「笹瀬川佐々美ですわっ! そんなに引っ張ったって離しませんわ~っ」

「は、な、れ、ろーっ!」

「い、や、ですわーっ!! この方はわたくしのだんな様…おくさま…旦那様ですの! 外野にとやかく言われる筋合いはありませんわっ!!」

「わわわ、そんなに引っ張らないでよーっ」

「おまえらいい加減にしろよっ!」

真人が入ってきた!

「真人、たすけ――」

「理樹の二の腕はオレの特等席なんだからなっ!!」

「真人まで何張り合ってきてるのさ!?」

「黙らっしゃい、この筋肉だるまっ! 直枝さんの細腕に筋肉が移ったらどうしてくださいますの!?」

「うつそうとしてたんだよっ!」

「え、してたの!?」

「うっさいっ!! どーでもいいから、ささっさは理樹から離れろーっ」

「きゃぅ!? 腰にくっつかないでくださる!?」

「ふにゅにゅー離れろーっ! お風呂一緒したくらいでいい気になるなっ!」

「あ~ら」

僕の腕にしがみついている笹瀬川さんが目を細め不敵に笑った。

「棗さんはあるんですの? 直枝さんとお風呂ご一緒したことが」

「ある」



――ぴきーん。

場が凍った。



「え、ちょっと、り、鈴?」

そんな記憶は僕には……。

「あれは去年、馬鹿兄貴たちと5人で田舎の家に遊びに行った時のことだ」

「お、それは最近ですナ」

「ふむ、去年となるともう言い逃れは通用しない歳だな」

興味津々で葉留佳さんと来ヶ谷さんがのってきた。

ちなみに来ヶ谷さんはここぞとばかりに、鈴を助ける振りをして鈴の腰に手を回しくっついている。



「あたしは理樹より先にお風呂に入っていたんだ」

「体を洗おうとして湯船から出たときだ」

「脱衣所のドアが開いた音がした」

「そこに理樹の声だ。さすがにびっくりしたのを覚えてる」



「ど、どきどき……」

「ミニ子は聞いちゃダメ」

「三枝さん、なんで耳をふさぐですかーっ」

「それからそれからっ」

小毬さんがちょっと頬を赤らめながら先を促す。



「お風呂のドア越しに理樹がこういったんだ」

「『バスタオル、ここに置いておくからね』と」

「だからあたしはこう言ってやったんだ」

「『わかった』と」



「……」

「……」

「へ? それだけ?」

葉留佳さんが目をぱちくりしていた。

「それだけってなんだっ! 2mも離れてなかったぞっ!」

「だが鈴君、ドア越しでは一緒にお風呂とは言えんだろうよ」

「おーっほっほっほ!! 棗鈴! あなたは所詮その程度!! わたくしなんてもう――」

あ。目が合った。



――ぽしゅっ



その顔がりんごのように色づいた!

「……ゎたくしなんて……」

いきなりそんなにモジモジされると僕まですごく恥ずかしくなってくるっ!

「ふにゃぁぁぁーーーっ!! 理樹っ!! だったら今度は理樹とあた――」

ビタリと止まる鈴。

今、すごいこと言おうとしなかった!?

「り、鈴?」

「あた……あた……」

「あたたたたたたー」

顔を真赤にした鈴が杉並さんにあたたたしていた。

「え? え? なんで私、鈴ちゃんにぽかぽかされてるの?」

「……たまには人に百烈拳をしたくなるときもあるでしょう」

我関せずの西園さんが水筒のお茶をズズズとすすっていた。



「――ほんと騒々しいわね、あなたたちは」

「あ、お姉ちゃん」

別行動をとっていた佳奈多さんが戻ってきた。

一瞬でみんなに目を走らせ、僕と目が合ったコンマ数秒だけ口元がほころんだ……が。

その目が僕の横、僕の腕を抱きしめている笹瀬川さんをとらえた瞬間……。

「…………――――」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!



「お、お姉ちゃん……?」

佳奈多さんはただ僕たちの前に佇んいでいるだけだ。

けど、けど……!

「なんだこのプレッシャーは!?」

あの謙吾が一歩後ずさった。

「……どの人をも超えている凄みを感じます……! エンジン音だけ聞いてブルドーザーだと認識できるようにわかります…!」

西園さんの例えはピンと来ないけど、確かに圧倒的な凄みが放たれている!



――…ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ

佳奈多さんが無言で一歩ずつこちらに歩いてくる……!



そのまま僕がいるところから一番離れていたクドの横に立った。

その間僕の方には一切顔を向けていない。

けど……。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!



圧倒的な『凄み』がこちらに放たれているっ!

鈴なんて「ふにゃっ!」と動物的に飛び退いたくらいだ。

「わわわわたくし……まっ……負けませんことよっ」

さすがの笹瀬川さんも感じ取っているのか、しがみつく腕に一層の力が込められる。

それと同時に佳奈多さんからのプレッシャーも強くなっている気がっ!

「今の佳奈多さんに触ると火傷をしてしまいそうなのです」

と言いながら佳奈多さんの手をツンツンしているクドは強者だ!



「みんな揃ってるな。早速だが――うわっ、なんだよこのプレッシャーは」

最後にきた恭介がいきなり引いていた。

「――なるほどな」

僕の方に目を向けた後、佳奈多さんを見て納得してた。

「まあいい、開始するか。よし理樹、ちょっとそっちを持ってくれ」

…また何か巻物のような布を取り出した。

「うん。笹瀬川さん、僕向こうに行くね。えっと…手、離して欲しいな。う…スカートも離してくれないかな…」

名残惜しそうにしている笹瀬川さんを離れ、布の端を持った。

それを恭介がだーっと広げる。

「第一回・リトルバスターズ大逃走スペシャル! ~愛の逃避行編~」

「はい、拍手~」

…すでに恭介にしかわからないような言葉遊びのネーミングに、拍手はまばらだった。

「はい、恭介さんっ」

「なんだ能美」

「まったくわけがわかりませんっ」

「それを今から説明する。今回のゲームの内容は至って簡単だ」



「まずはメンバーを鬼と逃走者に分ける」

「逃走者は制限時間30分間鬼から逃げ続けられたら勝ちだ」

「もちろん鬼側は逃走者を全員捕まえたら勝ちな」



「それって」

小毬さんが口に指を当て首を傾げた。

「鬼ごっこってこと?」

「ああ、簡単に言うとそのとおりだ。だがそれだけだと面白くない。だろ?」

恭介がみんなの顔を見渡した後言葉を続けた。



「そこでルールを3つ追加する」

「さっきの間に学校の数カ所に人数分のジュースとお菓子を隠しておいた」

「そこでルール1だ」

「ゲーム開始から10分以内にジュースを発見し1つゲットすること」



「はいはーい」

葉留佳さんが元気よく手をあげていた

「もし10分以内にジュースゲットできなかったらどうなるの?」

「もちろんその時点でアウトだ」

「ちぇー、ずっと隠れてようと思ったのにー。探さないとダメじゃん」

きっとそれも見越してのことだろう。

こういうことをやるときの恭介は、どこまでも用意周到だ。

「ついでに隠したジュースは学校の自販機に売ってないやつだからな」

「う、読まれてますナ……」



「ルール2は、ゲーム開始から20分以内にお菓子を見つけることだ」

「もちろん20分の時点でお菓子を発見できなかったらアウトな」

「最後のルール3だ」

「逃げ切ることができた時間で賞品…まあご褒美だな。それが変わる」

「まず10分以内に捕まった場合は……」

恭介の目がキラリと光った。

「今までで恥ずかしかったことを一つ、みんなの前で暴露してもらう。あとくじ引きで決まった相手とポッキーゲームをしてもらう」



「……はい」

「はい、西園」

「……それはちょっと遠慮したいのですが……」

「ま、罰ゲームのつもりで作ったからな。それが嫌だったら10分間は捕まらないようにがんばってくれ」

うーん、恥ずかしかったことも言いたくないし、ポッキーゲームは……大変なことになりそうだ。



「次に10分以上20分以内に捕まった場合だ」

「この場合は何もなしな。罰ゲームでもなければご褒美もないブランクゾーンだ」

「ここで捕まったら色々な意味で損だろうな」

せっかく10分以上逃げ切っているのに何もなしはキツいかもしれない。



「次は20分以上30分以内に捕まった場合」

「この場合は――ゲームが終わったらメシの予定だからな……」

恭介の目が少年のように輝いた。

「好きな人からあ~んしてもらえるってのはどうだ?」

「なっ、なんで僕の方を見て言うのさーっ」

そう言いながらみんなを見ると。



――そそくさっ



佳奈多さんがなぜか慌てたように顔を背けていた。

ちなみに。

「直枝さん、あ~ん♪ ふふふっ」

笹瀬川さんはすでにトリップ中だ……そっとしておこう。



「最後、無事30分逃走しきった場合だ」

「その場合は……」

「あ~ん、に加えて好きな人とポッキーゲームができるってどうだ? な、理樹」

「だからなんで僕に振るのさぁーーーっ!」

そう言いながらみんなを見ると。



――ギランっ!



なんだか子羊を狙う狼の瞳がみんなから向けられている……のは気のせいだよね。



「恭介、いいか?」

「なんだ謙吾」

「鬼になったヤツの賞品はどうするのだ?」

「鬼の場合は逃走者を全員捕まえたら、鬼全員に好きな人とあ~んの権利だな」

「それを聞いて安心した! 理樹、新妻っぽく頼む」

「謙吾はなんでもう細かいオーダーしてるのっ」

「俺は百戦無敗の男だぞ?」

「ここで言っても全然カッコよくないからね!?」



「んじゃ」

恭介が何本かの爪楊枝を握ってこちらに差し出した。

「先が赤くなってる爪楊枝を引いた奴が鬼な」



…………

……



全員が爪楊枝を引き終わり、逃走者と鬼が決定した。



・逃走者



謙吾



小毬さん

クド

西園さん

葉留佳さん

佳奈多さん

杉並さん



・鬼

真人

恭介

来ヶ谷さん

笹瀬川さん



「鬼が真人と恭介と来ヶ谷さんと笹瀬川さんっ!?」

「わふーっ!? 運動神経バツグンメンバーなのですっ」

「鬼の人数が4人だけなんだ。ちょうどいいんじゃないか」

恭介はそういうけど、恭介と来ヶ谷さんのコンビから逃げられるメンバーがいるのかどうか……。

「理樹、今回は敵同士だな……加減はしねぇぜ」

「う…うん」

真人も本気モードだ。これは分がかなり悪い。

「……わたくしは逃走者が良かったでしたわ……はぁ……」

そんな中、笹瀬川さんが盛大にため息を付いた。

「鬼でしたら直枝さんとご一緒できませんの……はぁ……もう元気でませんわ……」

それを見た恭介が、なぜか僕と鈴、佳奈多さんに目を向けた。

恭介の目は……絶対何か思いついた目だ。

「オーケー、なら笹瀬川には特別ルールを設けるとするか」

「なんですの?」

「笹瀬川は鬼は鬼でも『追跡者』になってもらう」

「追跡者……ですの?」

「ああ。もし笹瀬川が理樹をキャッチできたら……」

「キャッチできたら?」

「理樹さえ良ければなんだが――」

僕?と首を傾げる。



「ちょっと付き合ってみるってどうだ?」



「ぶふーーーーっ!?!?」

僕が盛大に吹き出した!!

「うううううおっしゃぁぁぁーーーっ!! やりますわやりますわやりますわぁぁぁーーーっ!!」

笹瀬川さんからはやる気が大爆発を起こしたような咆哮だっ!



「ちょっ、きょ――」

「何言ってんだ馬鹿兄貴っっっ!!」「何言っているんですかっっっ!!」

僕が言い終わる前に鈴と佳奈多さんが恭介に詰め寄っていた!

「理樹をあんなわけわからんさささに渡せるかッッッ!!」

「そうですっ!! そもそもそんな大切なことを決めるのにゲームなんて許されませんッ!!」

「なら――」

恭介が不敵な笑みをこぼした。

「そこの麗しのプリンセスを勇敢なナイトが守ってやるしかない。だよな?」

「……」

「……」

無言の鈴と佳奈多さんが目を合わせて、こくりと頷きあった。

どちらともなくフッと笑み。



「理樹は――」「直枝は――」

「あたしが」「私が」

「「守るっ!!」」

謎の鬼ごっこ連合が結ばれた瞬間だった!



「よし、みんな準備はいいな?」

「ラインに逃走者用グループと鬼用グループを作っておいた。やりとりにでも使ってくれ」

「逃走範囲は学校の1階から4階までとする」

「ゲームスタート5分後から鬼がサーチを開始するからな」

「では――」

恭介がバッと手を前にかざした。



「ゲーム・スタート!!」