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ロ理樹ちゃんプールへ行く ~2話~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 世の中には不思議が溢れている。この話もそんな不思議の一つだ。いやなに、別に信じる必要はない。ただ、朝起きたら理気が小さくなっていただけだ。女の子になって…な。



「――と、いうわけだ」

説明が終わって、一息つく恭介。

「……なるほど、携帯電話の指紋認証ですか」

「つまり、その子が科学的にも直枝理樹であるということが証明されてしまったわけね」

みおも二木も困惑顔だ。

「一応、な」

「なぜこうなった……なんて訊くだけ時間の無駄だろうな」

「ああ、そうだな。俺にだって全くもってワケがわからん」

うーみゅ…。

世の中不思議なこともあるものだ。

で、その理樹は。



「理樹ちゃ~ん、待て待て~っ!」

「掴まえちゃうぞ~っ」

「う、うわわーっ」

追い掛け回す小毬ちゃんと葉留佳から一生懸命逃げていた。

「きょ、きょうすけ~っ」

テーブルの周りを一回りしてから、恭介の腕にしがみついた。

「ん? どうしたんだ、理樹?」

「……う~」

ぷるぷるって顔を振ってる。

「あうぅ…理樹ちゃんに嫌われちゃってるのかな、私」

「恭介くんにはこんなにべったりなのにねぇ……」

小毬ちゃんと葉留佳がガックリしてしまった。

「理樹は小さい頃、いつもこんな感じだったな」

謙吾の言う通りだ。

「あの頃の理樹はくちゃくちゃ恥かしがり屋さんだったからな」

「こまりちゃんとはるかがキライじゃなくて、きっと恥かしいだけだと思う」

「あぅぅ、そうだといいんだけど…」

小毬ちゃん、すっかりうな垂れてしまった…。



「一つ確かめたいことがあるんだがいいか?」

来ヶ谷が口元に手を当てて何かを考えている。

「まあ、構わんと思うが」

「では……理樹君」

呼ばれた瞬間、びくっとして恭介の腕にしがみつく理樹。

「私の名前はわかるか?」

来ヶ谷の目は真剣だ。

うーみゅ、そう言えばそうだ…。

もしかしたら理樹はみんなのことを忘れてしまってるかもしれないんだ…。

みんな理樹に注目する。

「……」

「……」

「……………………………………くるがやさん」

恥かしいのか、恭介の腕にしがみ付いて顔を埋めたままだ。

「…どうやら知っているようだな」

来ヶ谷と他のみんなからも安堵の息がもれた。

ふぅ…よかった。

ちゃんと覚えてるみたいだな。

「じゃあね、私のことはわかるかな~?」

少しだけ顔を浮かせる理樹。

「……こまりちゃん」

「うわわ~いっ、ちゃんまで付いちゃったよーっ」

くちゃくちゃ嬉しそうな小毬ちゃん。

「俺の名を言ってみろーっ」

「うわっ……は、はるかさん」

びっくりしたのか、恭介の腕から顔を上げて目をパチクリしてる。

葉留佳はどこかの悪党か?

「リキ、私のことはいかがでしょうかっ」

「…う…………クド」

恭介にくっつく手の力を緩めて、クドの方をチラチラ見ながら答えた。

「……わたしのことは覚えていますか?」

「にしぞのさん」

あ、さっきまで困ったさんの顔だったのに、それがなくなったぞ!

もしかして、みんなと話すことでどんどん恥かしさがなくなってきてるのかもしれないっ。

「理樹、俺の名前はわかるか?」

「うん、謙吾」

わっ、ついに恭介の手を離したっ!

「ルームメイトのオレはもちろん問題ないよな?」

「うん、きんにく」

うわっ、口元に手を当てて、ちょっとくすって笑顔になったっ!

「あ、あたしの名前はわかるか?」

恐る恐る訊いてみた。

「りんっ」

うわわーっ、ヒマワリみたいな笑い方したぞ、コイツ!

か……かわいい……っ!

「じゃあ、私のことは大丈夫かしら…?」

「かなた…おねーちゃん」

両腕を胸元ですぼめて、嬉しそうな、けどちょっと照れた顔になったっ!

「ななっ!? …………ぁ、ぁう……」

二木はむちゃくちゃまっかっかだっ!

今のは…ヤバイな。

あんな風に言われたら誰だってこうなるな、うん。

「はっはっは、正直に、はぁはぁ理樹ちゃんめがっさ可愛い萌えーもっとおねえちゃんと呼んで、と言ってしまうがいい」

「そ、そ、そ、そんな来ヶ谷さんみたいなこと、お、思ったはずがないでしょうっ!?」

「あははは、おねえちゃん顔まっかまっかー」

「~~~~~~っ!!」

二木はまるでゆでダコみたいだ。



「ボクね――」

あ、理樹から口を開いた。

「ちゃんとみんなのこと、知ってるよっ」

「えへへっ」



にここ~~~~~っ



うわぁっ!?

お、おお、お日様みたいな飛び切りの笑顔になったーっ!



にこにこ~~~~~っ



うみゃ~~~~~~~~っ!!

うみゃうみゃうみゃーーーーっ!!

もうキュンだっ、キュンキュンしちゃったぞーっ!



「あれれ、みんなどうしたの?」

理樹の言葉に正気を取り戻して周りを見回した。



「…………」

小毬ちゃんは口を開けて固まってるけど、目はお星様いっぱいだっ!

「…………」

クドも大きな目を点にしてカチンカチンだっ!

「…………」

みおはほっぺを赤くして、目を細めてうるうるさせて固まっているっ!

「…………」

葉留佳は飛び上がる寸前のポーズで固まっているっ!

「…………」

馬鹿兄貴は、鼻血ブーも拭かないで固まっているっ!

「…………」

真人は意識がない。キュン死にしたようだっ!

「…………」

謙吾は意識がない。キュン死にしたようだっ!

「…………」

来ヶ谷は意識がない。キュン死にしたようだっ!

「…………」

二木は意識がない。キュン死にしたようだっ!



「すげぇよ……笑顔一つでリトルバスターズが半壊じゃねぇか……戦術核兵器並みの威力だぜ……」

「何はともあれ――みんなと名を呼び合うことで、理樹の心の壁が取り払われたのだろうな。友情……なんて素晴らしいんだ」

とりあえず、なんか上手くまとめようとしている馬鹿兄貴。

「――どーでもいいけど、おまえ、鼻血拭いてからカッコつけろ」

「これは鼻血じゃない、イチゴシロップだ」

「たまに出るんだ、イチゴシロップ」

「……」

「……」

「……」

「うちの兄貴は、子どもを見るとたまに鼻からイチゴシロップが出ます、なんて、恥ずかしくて人に言えない…」

「だろ? だからこのことはおまえの胸の内にだけ秘めておいてくれ。朝飯まだだろ? そろそろ飯にしようぜ」

うーみゅ……。

また上手く恭介に丸め込まれた気がする…。