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ビューティフル・ドリーマー(沙耶アナザーストーリー) 2話(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 ※沙耶を知らない方でも楽しめる構成とするため、沙耶の設定を拝借したオリジナルストーリーなっております。

8月14日
「夢は現」(前編)











 こんな夢を見た。











 映画のフィルムを見ているような光景だ。

 どこか異国の風景。荒れ果てた景色。餓える人。倒れている人。

 戦場と言うのだろう。

 誰かが怪我をした人たちを診て回っている。

「――あや、向こうの町に大勢の患者さんがいるんだ」

 メインキャストはあやちゃんという名前のようだ。

「――なら、おとうさんが早くいってあげないとっ」

「――ああ、そうだね。少し遠いけど大丈夫かい?」

「――うんっ」

 大きな手があやちゃんの手を包み込み、二人で安全地帯を歩く。

 まだ幼いあやちゃんはこう思っている。

 おとうさんの邪魔はしないようにしよう。



 場面が変わった。

 あやちゃんは患者さんとあれこれお話をするようになっていた。

 えらいね、と褒められるのが嬉しくてお父さんを手伝うようになっていた。

 正確にはそれしかすることがなかったのかもしれない。



 場面が変わった。

 夜、お父さんがあやちゃんに昔話をしている。

 お父さんの母国の話だ。

「――そこは誰もが内戦もせずに楽しく生活しているんだよ」

「――すごいねっ! みんな仲良しなんだっ」

「――じゃあね、じゃあね、お父さん、あやくらいの子たちも楽しくみんなで遊んでるの?」

 お父さんの心苦しそうな目を見て、咄嗟(とっさ)にあやちゃんが話を変えた。

「――けど、あたしだって患者さんのみんなとお話したりしてるもんっ」

 20歳も30歳も歳が離れた患者さんとお話をすることがあやちゃんの日課であり、唯一の楽しみ。

 けど……あやちゃんの胸を締め付けられる感触が、痛いほど伝わってくる。

 あやちゃんは生活から学んでいたのだ。

 遠くを見るのではなく今を生きることを。

 ないものをねだっても意味がないことを。

 そう。

 友達なんていないあやちゃんには――ただの夢物語に過ぎない。

















「あ……」

 目が覚めた。

 朝の日差しが障子から射し込んで、薄暗い部屋を照らし出している。

 ゴソリと上体を起こした。

 周りを見回す。



「すぅ……すぅ……」

 あたしの布団の隣の布団では、理樹くんが寝息を立てている。

「う……みゅ……」

 鈴ちゃんはさらにその隣の布団。脚は理樹くんのお腹の上に投げ出されている。

「バッファローはさすがに食えねぇ……ぐがー……」

 奥の方で大の字で引っくり返っている真人くん。

「……ぬ……ぬお……ぐぅ…ぐぅ…」

 謙吾くんは真人くんに追いやられて、壁と真人くんにサンドイッチ状態だ。

「……すぅ……すぅ……」

 恭介くんはその二人の間にいたはずなのに、なぜか鈴ちゃんの隣まで移動して寝息を立てていた。



 その様子を見たあたしの目からは……いつの間にか涙が零れていた。

「え……?」

 慌てて拭きとる。

 そういえば悲しい夢を見ていた気がする。

 たしか……なんだっけ……。

 おぼろげだった夢の形が失われていく。

 手ですくった水が指の隙間からこぼれ落ちてゆくように。

 悲しさという欠片だけを残して。

 思い返して、こう思った。

「…夢でよかった」



――あたしは布団から起き上がった。







「うぃす」

「おー」

「おはよう」

 次々とみんなが起きてきて、お座敷へと集合を始めた。

「沙耶さん、早いんだね」

「まぁね」

 ノソノソと座る彼らの前にできたてのトーストを置いた。

「サンキュー、沙耶が朝食を用意してくれたのか?」

 恭介くんが嬉しそうな声を出した。

「そ。お世話になってるんだからこれくらい当然よ」

「あ、けど一人でやろうと思ったんだけど、謙吾くんも手伝ってくれたわ」

「あいつもいつも朝早ぇからな」

 そんな話をしていると。

「うみゅ…おはよー、みんな早いな」

「鈴、顔は洗ってきたか?」

「あらった」

 鈴ちゃんが恭介くんの隣にちょこんと腰を下ろした。

 同じくして謙吾くんも座敷へと入ってきて、ようやく全員揃った。

「おかずと汁物が出来たぞ」

「さ、みんな揃ったことだし食べましょ」

 みんなの前に納豆と味噌汁と紅鮭を並べた。



「「「「「「 いっただきまーーーすっ 」」」」」」



「って、ちょっと待ったぁぁぁーーーっ!!」

「なによ真人くん、うっさいわね」

「うっさいじゃねぇよっ!? なんだよ、これはっ!?」

 パンを指差している。

「パンね」

「このラインナップで明らかにパンだけ異彩を放ってんだろ!」

「冒険心溢れる組み合わせだな…」

 恭介くんの口も多少引きつっている。

「ああ、それね」

「あたしと謙吾くんで朝ご飯を作ることになったんだけど……」

「俺は和食にしたかったんだが、沙耶が洋食だと言い張ってな」

「そ。謙吾くんも折れてくれなかったから、最終的にじゃんけんで勝負をつけたってわけ」

 フ、と笑みを溢す謙吾くん。

「主食こそ取られてしまったが、おかずと汁物の権限はなんとか守り抜かせてもらった」



「「「「決め方おかしいっ!!」」」」

 総ツッコミだった!



「どっちかにしようよ…」

 理樹くんの顔色はあまりよくない。

「バター塗りはあるが、バターはないのか?」

「納豆塗ればいいじゃない」

「マジか……」

 恭介くんが納豆をパンに塗って一口かじってから味噌汁を飲んだ。

「……」

「どう、恭介…?」

「意外といけるぞ、これ」

「え? うそ?」

「いやいやいや、どうして沙耶さんが意外そうな顔してるのさ」

 半分冗談のつもりだったのに気に入ってしまったようだ。

「和洋折衷の極みだな、納豆パンは。略してナッパというのはどうだ?」

「ドラゴンボールのキャラみてぇな名前になってんじゃねぇか」

 横の理樹くんも。

「じゃあ僕も…パク……もぐもぐ……もぐ……も」

「うっ」

「え、ちょっと理樹くん、大丈夫!?」

「……うう……ご……ごめんね沙耶さん…ぼ、僕…ちょとこれ、ダメかも…」

 いぢめられた子猫のような目だった!





「さて、今日のことなんだが」

 朝食の最中(みんな文句はつけたが黙々と食べていた)、恭介くんがみんなを見渡しながら口を開いた。

「ここいらの人が寄り付きそうなスポットに行ってみないか?」

「押すポット?」

 首を傾げる鈴ちゃん。

「スポットな」

「もしも沙耶がここいらの住人だったら、そこに行ったことがあるかもしれないだろ」

「何かを思い出す切っ掛けになれば、と思ってな」

 へぇ……あたしのことを考えていてくれたんだ。

「それに歩いていれば、誰か知り合いに会えるかもしれないしな」

 恭介くんがあたしに目線を投げかけた。

「どうだ?」

「あたしも何か思い出せる切っ掛けがあるなら欲しいし、異論はないわ」

「――ところで恭介」

「なんだ、謙吾?」

「こんな田舎町で人が寄り付きそうなスポットとやらに心当たりはあるのか?」

「ある」

 ごそごそと後ろで何かを漁り始めた。

「――これだ」

 恭介くんが白い歯を覗かせながら持ち上げたのは……海水浴の道具だった。

「海に行こう。ここから20分も歩けば海岸だ」

「ぜったいきょーすけが遊びたいだけだな」

 ……あたしも鈴ちゃんが言う通りだと思う。

「まぁ、それも一理ある」

「けどな、もしも沙耶が海に行ったことがあるとすれば、その理由はなんだ?」

 海かぁ。

 ピンとは来ないけど……。

「海に行くなら遊びで、じゃない?」

「だろ?」

「だから、遊んでいれば何かきっかけが掴めるはずだ」

 なんか騙されている気がするけど、それはそれでいいアイデアかもしれない。

 なにより楽しそうだ。

「あ、けど」

 理樹くんが箸を止めた。

「僕たちは水着を持ってきてるけど、沙耶さんの水着はどうするの?」

「そ、それもそうね」

「そこは抜かりは無い」



――ポンッ。



 恭介くんがあたしに紙袋を投げてよこした。

「なにこれ?」

「いいから中を見てみろって」

 中を覗くと…。

「え、うそ!?」

 水玉模様のビキニタイプの水着が入っていた。

「サイズも問題ないはずだ」

「へぇ……恭介くん、ありがと」

 案外気が利く奴ね…。

「よし、じゃあ食い終わったら早速準備な」

 ……ん?

「なっ、なんで!? なんであたしのサイズを知ってんの!?」

「反応おそっ」

 すかさず理樹くんにツッコまれた!

「ま、まさか、昨日夜這いなんてしてないでしょうね!? あたしの純情を奪ってないでしょうね!?」

「なにぃ…きょーすけがさやのじゅんじょーを奪ったのかっ!? あたしの兄貴はやっぱりただの変態だったのかっ!?」

「やっぱりってなんだよっ!? いかがわしい勘違いをするなっ」

「ほら、俺は前にアパレル関係のバイトをやっただろ?」

「そのときに自然と見るだけでサイズがわかるようになっただけだっ」

 言い訳をする恭介くんだけど。

「変態には変わりないじゃない」

「へんたいだな」

「俗に言う、変態だな」

「もう変態でいいだろうがよ」

「だぁあぁあぁーーーっ! 変態って言うんじゃねぇっ! 理樹もなんかこいつらに言ってやってくれっ!」

「ごめん恭介……アウト……かな」

「ひんぎゃあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁぁーっ!!」

 食卓で頭を抱えて悶絶しはじめた。



「さ、みんなも食べ終わったみたいだし、変態は置いて海に行ってみましょ」

「そーだな」

 悶絶する恭介くんを余所に、あたしたちは海へ行く準備を始めたのだった。









 どこまでも広がる青い海!

 抜けるような青空!

 遠くに見える入道雲!

 そして、白くはないし人も数人しかいないけどそれっぽい砂浜!



「海だぁ~~~っ!」

 目の前に広がる夏の海という光景に、胸が高鳴るっ!

「ね、ね! 理樹くん、海よ! 海っ!!」

「わっ、わっ、そんなに背中叩かないでよっ」

「すっごーーーいっ! ほらほら、見てっ、ずっと向こうまで海が続いてるっ! 泳いだら外国行けるんじゃない!?」

 うっわ、どうしよう!

 ワクワクが押し寄せてきてるわねっ!



「…沙耶さん、すごい目が輝いてるね」

「まんま初めて海に来た奴の反応じゃねぇかよ…」

「どうするんだ、恭介?」

「いいじゃないかっ! なんせ海に来たんだからなっ!」

「こいつら、当初の目的をかんぜんにわすれているな…」



「よし、それじゃぁ……」

 恭介くんが自分のTシャツに手を掛けた瞬間。

「海一番乗りだぁぁぁーーーっ!!」

 脱ぎながら走り出していたっ!!

 しまった、先を越されたぁーっ!

「ちょっ…待ちなさいよっ、あたしが先だぁーーーっ!!」

 あたしもすかさずダッシュをかける!

 ダッシュと同時にTシャツを脱ぎ捨てた!

 こんなこともあろうかと下に水着を着込んできたのよ!

「うおっ、おめぇら抜け駆けすんなっ!」

「くっ…隙を突かれたとはいえ無念! ゆくぞ、真人!」

「おうっ!」



「…みんな元気だね。あ、沙耶さんが下を脱いでる最中にズッコケたね、顔面から……」

「やばい…馬鹿だらけだ」







――海はとことん海だった。

「これが海ねっ!」



 腰の辺りまで海に浸かっている。

 上半身に当たる夏の日差しと対照的に、下半身は冷たくて気持ちいい。

 足に触る砂の感触がくすぐったい。

 波で体が揺れる感触は陸では味わえないだろう。

 魚が何匹もあたしの存在に気兼ねすることなく脚の周りを自由自在に泳ぎ回っている。

 それを見ることでさえワクワクした。



「そんな楽しそうな顔を見てると、連れてきた甲斐があったってものだな」

 横に白い歯を覗かせている恭介くんが立った。

「やっぱ海は初めてか?」

「はっきりしないけど……そうなんじゃない?」

 このなんて言うんだろう、ときめき…みたいな感情とか、いちいち一つ一つの感触に浸っているところなんて、どうにも初めてくさい。

「オーケー、ならまずは洗礼だなっ」

「洗礼?」



――ザバァッ!



 突然、恭介くんにお姫さま抱っこされた!

「えっ…ちょっ…なっ、なにっ!?」

「ん? ずいぶんと軽いな。ま、しっかり掴まってろよ」

 慌てて恭介くんに掴まるけど……。

 水着の面積がほとんどないから肌と肌が直に密着して異様に恥かしいっ!!

「はっ……は、はな、離しなさいよっ!」

「だーめ」

 お構いなしにあたしをお姫様抱っこしたまま、ずんずんと奥の方へ向かっていく!

 そんなに奥に行くと深いじゃないっ!

 怖くなって手に力を込める。

 同時に肌が余計に恭介くんにくっついて、慌てて体を離そうとした!

 けど恭介くんが離してくれないっ!

「~~~~~っ!!」

「そんなに暴れるなってっ、あと少しだけ辛抱してくれ」

「さっさと離せぇーーーっ!」

「いてっ、肘鉄は勘弁してくれ――この辺でいいな」

 恭介くんが止まった。

「?」

 と、疑問符を浮かべる間もなく。



――ジャボーーーーン!



 落とされた!

「うわっ!? しょっぱっ!! え、うそ…っ!?」

 足がギリギリ届かない!

「泳げないことには俺たちリトルバスターズの遊びに着いてくることは不可能だからな」

「まずは水に浮かぶことから練習だ」

「合格するまでは遊べないものと思え」

「練習からっ!?」

「ああ、そうだ」

 鬼教官がいた!

「なに安心しろ、俺が着いているから溺れることはない」



「……」

 あたしはその間も普通に水に浮かんでいた。



「……浮かんでるな」

「……浮かんでるわね」

「……ちょっと泳いでみてくれ。平泳ぎ」



――スイースイースイー。



 泳げた。

「次、クロール」

――ジャバジャバジャバ。

「背泳ぎ」

――バシュッ、バシュッ、バシュッ

「バタフライ」

――ザッバン、ザッバン、ザッバン!



「……」

「……」

「合格!」

 あっさりだった!

「これで俺たちと対等に海で遊べるなっ! あいつらんとこに戻ろうぜ」

「…………――~~~っ!」

 安心した途端、さっきの恥かしさが蘇り赤面する。

「どうした、沙耶?」

「さっきはよくもあたしに恥辱の思いをさせてくれたじゃないっ!!」

「は? なんの話だ?」

 本当にすっとぼけた顔だ!

「いきなり女の子をお姫様抱っこしたのよ!? あんな辱めを受けるなんて舌を噛み切る勢いよっ!」

「あ、そういやそうだったな。悪い、そこのところ気にしてなかった」

「少しは気にしなさいよっ!! 気にしてよっ!!」

 失礼極まりないわねっ!

 普通、こんなに可愛らしい水着の女の子をお姫様抱っこしたら顔を赤くするとか鼻血出すとか前屈みになるとかそれなりの反応するもんじゃない!?

 あたしはそんなに魅力ないか!?

 怒りの矛先が変わってきた気がするけどめちゃくちゃ腹立つわねっ!

「沙耶、どうしたんだ? 髪が逆立ってるぞ」

 そこでこのすっとぼけた顔ときたものだ。

「……~~~~っ!」

「ん?」

「オラオラーっ!! 死にさらせぇぇぇーーーっ!!」



――ズババババババババババババァーーーッ!



「うおっ!? うぷっ! バタ足で水かけてくんなっっ!!」

「んなの知るかっ、うおおおおおぉりゃぁぁぁーーーーっ!!」

――ズバババババババババァーーーッ!!

「うぎゃぁぁぁぁーーーっ!!」



「おっ! おもしれーことしてんじゃねぇかっ」

 恭介くんをいじめている間に、他のみんなも集まってきた。

「うおっっぷ! 理樹、鈴、うぷっ! おまえらもちょっと手伝えっ! 沙耶を止めるぞっ!」

「理樹っ、あたしたちもお手伝いするぞっ」

「うん、狙いは…」

「きょーすけでいいんじゃないか?」

「真人、俺たちも加勢するぞ」

「あいよっ」



――ズババババババババババババギャバババババババババババァーーーッ!

「ひぃんぎゃあああああああぁぁぁぁ~~~~~……――」



 海の一角は恭介くんを中心にまるで噴水のようになっていた。(この後恭介くんは「裏切り者っ」と泣いていた)









「――ふぅ、はしゃいだわね」

「恐らく沙耶さんが一番ね」



 水かけ遊び、競争、ビーチボール、誰が一番長く潜ってられるか大会。

 そんなことをしている間に、あっという間にお昼になっていた。

 あたしたち6人は海の家の軒下にあるベンチに腰を下ろした。



「あらあら、たくさん遊んでたねぇ~。ここからでもあんたたちの声が聞えてたわよ~」

 海の家のおばあちゃんがニッコリと笑いながら出てきた。

「おぅ、ばーちゃん! アイスキャンデー人数分頼むぜっ」

 元気に頼んでもいない注文を全員分頼む真人くん。

 ま、いっか。ちょうどアイスを食べたいと思ってたし。

「はいはい~」

 1分後。

「はいよ、アイスキャンデーだよ」

「お、ばーちゃん仕事早いぜっ」

 バケツリレー形式で真人くんが横一列に並んでいるみんなにアイスキャンデーを渡してった。

「ほらよ、沙耶」

「ありがと」

 サイダー味の美味しそうなアイスだ。

「って、オレの分が足りねぇーっ!」

 で、ものの見事に1本足りなかった。

「まぁ、真人だしな」

「おいしいぞ、真人」

「そういうの真人くんの立ち居地じゃない」

「ひでぇよ、ばーちゃんっ」

 いや、そこまで涙目になることもないと思うけど。

「あれ……おかしいね、たしかに全員分持ってきたと思ったんだけどねぇ……」

 首をかしげるおばあちゃん。

「頼むぜ。ばーちゃんっつてもまだまだ若いんだしよっ」

「んまっ! おにーちゃん、80のばーちゃん捕まえて若いだなんてっ、よしておくれよっ!」

 満面の笑みだっ!

「そんな上手いおにーちゃんには2本おまけだよっ!」

「お、サンキューっ!」

 子どものように両手にアイスキャンデーだ。

「いるわよね、お年寄りにだけは異様にもてる奴って」

「いいじゃねぇかよ、んじゃ、いっただきまーす!」

「どっちから食うか迷っちまうぜっ」

 こうも嬉しそうに両手でアイスキャンデー持ってる奴を見ると…。

 こっそりと顔を近づけて……と。

「――ぱくんっ」

「うおっ!? 噛じんじゃねぇよ、沙耶!! っつかもう半分ねぇじゃねぇかっ!!」

「いいじゃない、昨日のカツのお返しよ」

「しつけぇよっ!」





「それにしても――」

 謙吾くんが周りを見回しながら言葉を切った。

「どうかしたの、謙吾くん?」

「ほとんど人がいないと思ってな」

「そうだね、僕たち以外の人は5人くらいかな?」

 理樹くんも周りを見回して目をパチクリとしている。

「ま、それもそうだろうな」

「ん? きょーすけは理由を知ってるのか?」

「今はお盆期間だ。お盆期間に海で泳ぐと連れて行かれる、という逸話がまことしやかに語り継がれているからな」

「だからみんな避けているんだろ」

「そういえば小さかったときとかはお盆期間は海も川遊びも避けてたもんね」

 恭介くんの言葉に賛同する理樹くん。

「連れて行かれるって、誰によ?」

「幽霊」

 何を当たり前な、という顔で返された。

「お盆は『地獄の釜のふたが開く』とか『死者が戻ってくる』とか言われている」

「だから、そんな時に海に行くと幽霊に連れてかれちまうらしい」

 何を言うかと思えば、そんなことか。

「迷信よ、迷信」

「ま、十中八九そうだろうな。だが、俺は会えるのなら幽霊と会ってみたいと思っている」

「なんでだよ、また」

 真人くんが意外そうな顔をした。

「テレビや映画だと怖そうに描かれているだろ?」

「んーあれはくちゃくちゃこわいな」

「けどな、実際そんな悪い奴ばかりじゃなくて、いい奴もいると俺は思う」

「それに好きで死んだってわけでもないだろ。本当は寂しい思いをしているかもしれないじゃないか」

「だから俺は幽霊と会ったら友好関係を結びたい」

 大真面目でそんなことを言っていた。

「…なんかいかにも恭介らしいね」

「結構良いこというじゃない」

 昨日のあたしの件といい、きっと人を放っておけないタイプなのね、恭介くんは。

「ちなみに宇宙人、未来人、超能力者も募集中だ」

「……恭介、最近小説とかアニメとか見たりした……?」

「お、理樹、よくわかったな」

「こいつ馬鹿だっ」

「そろそろそのアニメにすぐに影響される脳味噌をどうにかしたほうがいいんじゃないか?」

「今回ばっかは謙吾に同意だぜ…」

 前言撤回!