前回<Shall we ダンス?リスト>次回
覚えている限りでは3度目の繰り返し。
家庭科部の部室での『幽霊話』が終わって、僕と恭介の二人で校舎裏に足を向けていた。
「そろそろか」
歩く先には崩れて潰れてしまった体育館倉庫があった。
焼却炉といった目立たない物もすでに崩れ去っている。
学校自体もどこか存在感が希薄だ。
「恭介、これって…」
「今回で繰り返しも最後になるんだろうな。これ以上は……維持できそうになさそうだ」
この夢の世界も最後なんだ。
まだやってないことがあるのに…。
二人で校舎の周りの様子を見ながら足を進める。
「なあ、理樹」
「うん?」
「この夢はいったい誰の夢だと思う?」
それは見当が付いていた。
たぶん恭介も気付いている。
「おまえの考えも聞かせてほしい」
「僕の考えは……簡単に消去法で考えてみたんだけど」
一番大切な部分がわからないけど、誰かだけはきっと当たっている。
「まず恭介、謙吾、真人は外れると思うんだ」
「このメンバーは一度は世界から出されちゃったしね」
「それと、来ヶ谷さんも外れるんじゃないかな」
「異変にうっすらだけど気付いてたからね。同じ理由で僕もなし」
「あと鈴と西園さんと小毬さんはなしかな」
「この3人の夢だったら肝試しみたいなシチュエーションには絶対ならないよ」
たぶんこの3人の夢だったら、ネコがいっぱいいたりお菓子がいっぱいあったり本がいっぱいあったりしそうだ。
「となると残りは能美、三枝、二木か」
「その3人の中に今までの出来事の中心にいつもいる人物が含まれているんだ」
そもそもの発端。
どうして僕たちは少女を探し始めたのか。
僕たちを引っ張っていたのは誰か。
中心にいたのは誰か。
そう考えると、思い浮かぶのは一人だけだ。
「――二木さんだよ」
「なるほどな」
うんうん、と頷いている恭介。どうやら僕と同じ考えだったようだ。
「わからないのは、どうして『あの二木』がこの自ら作った世界に俺たちと一緒にいるかということだ」
「そこなんだよね…」
その辺はさっぱりだ。
二木さんと僕たちか…。
リトルバスターズと二木さんの繋がりはそれほど強くない。
むしろ風紀委員という肩書き上、学校で遊びまわる僕たちとは追う追われるっていう関係だ。
どちらかというと相容れないといった感じかな。こんなに一緒にいるのは初めてってくらいだ。
うーん。
この世界には二木さんの想いが込められているって恭介は言ったけど。
どうしてもそれがわからない。
「二木に直接聞いてみるってのはどうだ?」
「絶対教えてくれないと思うよ」
「だよな…」
『二木さんの想いはなんですか?』と訊いて、そのまま答えが返ってくるなんて到底思えない。
「なら、もう一人の二木に訊くしかないか」
「もう一人の?」
「ああ。校舎にいる『謎の少女』のほうな」
「あれは恐らくこの夢の世界のために生み出された『もう一人の二木』だ」
「この夢の始まりの存在であり、終わりの存在、そしてキーである存在だ」
「まあ、二木の深いところにある意識が形になったような存在だろうな」
「接触さえできれば何かのアクションは期待できるんじゃないか」
けど、そのもう一人の二木さんに聞くって言ったって。
「前回は謙吾と挟み撃ちの作戦をやってみたけど、結局追いつけなかったよ?」
アゴに手をあて考え込む恭介だったが。
「恐らくそれは5階という本来はありえない不思議空間で追いかけっこしてるからだ」
「実際に俺たちや二木の記憶に確かにある、例えば4階とかな。そこでなら無限の廊下もないんじゃないか」
「うーん…もう最後なんだしやってみる価値はありそうだね」
少女(もう一人の二木さん)がどうすれば現れるのかは、大体わかっている。
ただ少女を呼び出すためには、前の恭介や真人たちと同じことをしないといけない。
「その役は俺がやる」
ぽんと手が僕の肩に置かれた。
「理樹は、二木の想いを聞いてやってくれ」
「って、結局僕たちのミッションって最初から最後まで『謎の少女を捕まえろ』だったんだね」
「言われてみるとそうか…」
何かを思案する恭介だったけど
「これで最後なんだ。気合いを入れないとな」
嬉しそうに携帯をいじりはじめた。
「――久しぶりに学食でメシにしようぜ」
「が、ががが、が、学食にフルーツパフェがあったよーっ! まさかの300円だよーっ!」
少女マンガもびっくりするようなキラキラした目で両手に持った30センチパフェをテーブルに置く小毬さん。
「ゼリーゼリー、ぷるんぷるん」
鈴もゼリー各種をお盆に乗せて上機嫌だ。
「ふむ…しかしながら学食のレパートリーはこれほど多かったか?」
腑に落ちないような顔をする来ヶ谷さんだけど、美味しそうなサバ味噌定食を前にご満悦だ。
「ねぇコレ、上海ガニですよネ?」
葉留佳さんなんて、やたらと高価そうな中華料理(けど300円)をお盆に入れていた。
さすが夢の世界。なんでもアリだ。
リトルバスターズの面々が揃い、最後にお盆を手にテーブルに来たのが二木さんだ。
「……」
お盆を持ったまま、テーブルの横に突っ立っている。
あ、そうか。
いつものことだから僕たちの座る場所は決まってるんだけど、二木さんは決まってないんだ。
女子のサイドは空いてないし、残るは僕と真人の横だ。
「…………」
スタスタスタ。って別のテーブルに座ろうとしてる!
「二木さんっ、僕の横が空いてるよ。一緒にご飯を食べようよ」
「……フン。周りのテーブルがガラガラなのにどうしてわざわざこんなにギューギューに集まって食事をしなきゃならないのかは全くわからないわ。ま、そこまで言うなら仕方なくそこに座ってもいいけど」
音を立てて座る二木さん。素直じゃないなあ。
そのお盆にはご飯ともずく2つ。
わざわざこのレパートリーの中でそれなんだ…。
僕の目線に気付いたのか、
「…………………………もずく、好きだし」
そんなに口を尖らせなくてもいいのに。
学食は二木さんが混じったからといって騒ぎが小さくなるわけもない。
鈴のほっぺについたクリームをハンカチで拭いてあげようとした恭介が『きしょいんじゃ、このシスコン兄貴ーっ!!』と言われて深海魚みたいな悲愴な顔になってたり。
葉留佳さんがカニの殻を二木さんのお盆に置くから二木さんが大激怒したり。
謙吾と真人がカツか紅鮭のどちらが美味いかでバトルになったり(箸で自分の好きな食べ物を相手の口に運べば勝ちらしかったけど、見ていてアブなかった。西園さんも大層ご立腹だ)
結局のところ、夢の世界でも現実世界でも僕たちのすることは変わらないんだよね。
食事のあとは恒例の謎の少女探しという名目の学校探索が始まった。
「佳奈多さんっ、こ、ここの壁にヒビがありますっ」
「危ないわね。きちんと補修はしているのかしら?」
学校も少しずつ崩壊が始まっている。
さっきの学食からみんなも世界の異変を薄々感じているようだ。
今回が最後というのは本当みたいだ。
何もわからなくても、僕たちはこの学校探索が終わったら現実世界に戻るんだ……。
けど、まだわからないことが残っている。
どうして二木さんが世界を創ったのか、僕たちを引き止めたのか…それだけは知っておきたかった。
その為に立てた僕たちの作戦はこうだ。
恭介が3階で『戻りたい』と口にする。
そうすれば一つ上の階、4階でもう一人の二木さんが現れるはず。
きっと4階という実際にある空間ならおかしな現象もなく捕まえられる…はずという考えだ。
そしてもう一人の二木さんを挟み撃ちにして、接触する。
そこでこの世界のことを聞くつもりだ。
もしかしたら、なにか僕たちにできることもあるかもしれない。
って、作戦と言えるほどのものじゃないかな…。
けど出来る限りのことはやっておきたい。
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