前回<花ざかりの理樹たちへリスト>次回
しばらくして――
「真人おおおぉぉぉぉぉーーーっ!!!」
謙吾がとんでもない勢いで玄関から飛び出してきた。
「貴様が抜け駆けしたら、俺が抜け駆けられないだろっ!!」
「いやいやいや、それ当たり前だからね…」
合流した謙吾にとりあえずツッコんでおく。
「…むぅ」
「こいつ…どうしたというのだ、一体?」
謙吾の足元には、ボロボロになって燃え尽きた真人が倒れこんでいた。
「あーうん。そっとしておいてやってよ…」
ごめん、謙吾と真人に同時に悶えられたら…僕はもうダメかもしれない。
「――そんなことより謙吾少年」
「どうした来ヶ谷?」
来ヶ谷さんが僕の肩に手を置く。
「どうだ、体操服に着替えた理樹君は?」
来ヶ谷さんの目がキラリと光る。
明らかに謙吾も真人の二の舞にしようという目だ!
「――ほう」
謙吾は僕をしばらく見つめた後。
――スタスタ
謙吾が僕に歩み寄ってくる!
「…う」
リアクションされる対象の僕としては堪ったものじゃないよっ!
――スタッ
謙吾が僕の目の前で歩みを止めた。
「「「「………………」」」」
みんなは固唾を呑んで見守っている!
どうやら謙吾がどんな反応をするのか興味があるようだ。
謙吾はゆっくりと手を伸ばし……。
――ぽむっ
僕の頭に手を添えた。
「――理樹」
「似合っているぞ」
「……え?」
そこには……。
いつもの――ネジが外れる前のクールな笑顔の謙吾が立っていた。
「似合っている、と言ったんだ。そんな言葉をあまり繰り返させるな」
少し照れながらも真っ直ぐに見つめてくる謙吾。
「…………」
「あ…ありがと」
あまりにクールで自然なセリフについついドキドキとしてしまう。
しかし周りのみんなは――
「「「「「えええええええええぇぇぇぇーーーっ!?」」」」」
謙吾のごくごく普通のリアクションに目を真ん丸にして驚いていた!!
「騒々しいぞ、一体どうしたというんだ?」
謙吾が訝(いぶか)しげな顔でみんなの顔を見渡す。
「こわっ! なんだ、こいつ、こわっ! うわっ、こわっ!」
鈴は混乱している!
「あああう…どどどどどうしたの謙吾君、ななななんかへんなもの食べちゃった?」
小毬さんはとても心配している!
「わ、わふーーーっ!? 宮沢さんがくれいじーになってしまったのですっ!!」
クドの中ではネジが外れた謙吾が普通だったようだ!
「くッ、なんなんだこの敗北感は…」
いや、なんの勝負してたのさ…。
「……クールで大人びてしまった宮沢さん、そして戸惑いつつも彼の変化を受け入れる直枝さん…初心に戻るのもアリです!」
西園さんはこれはこれで楽しんでいる!
「なんだ、おかしな奴らだな」
そんなみんなの反応でさえクールに受け流した!
…本当に前の謙吾に戻っているようだ。
「――ああ、そうだ理樹」
「どうしたの謙吾?」
「話は変わるんだが…少し教えてほしいことがある」
「うん、何?」
「これなんだが――」
――ごそごそごそ
謙吾は剣道着の胸元から携帯電話を取り出した。
「普段はメールと電話しか使わないものでな…他の機能の使い方を教えてくれないか?」
そういえば謙吾が携帯電話を活用しているところを見たときがない。
「うん、いいよ」
「そろそろ授業も始まっちゃうし、今は一つだけだけどね」
「ああ、頼む」
「それで、どの機能が聞きたいの?」
「そうだな…」
「写真機能がどの機種にも付いているようだが、それはどうやって使うんだ?」
たしかに、写真機能はどの機種にも付いている物だから覚えておきたい機能だ。
「えーっと、まずメニューを開いて」
「ふむ…項目が多いな」
「ちょっと見せて」
少し背伸びをして、横から謙吾の携帯をのぞく。
「その…生活ツールかな?」
「どれ――ほう、ここにカメラの項目が入っていたのか」
「今の携帯電話って機能がありすぎて、どこに何が入ってるかわかりづらいよね」
「たしかにな。……これは起動した後はボタンを押しただけで撮れるのか?」
「うん、普通に撮るだけならそれだけで十分だよ」
謙吾は携帯電話を色々なところに向け画面に見入っている。
「――どんな感じに撮れるか試したいんだが……いいか、理樹?」
「もちろんいいよ」
僕も初めてカメラ機能を使ったときは、無駄に撮ったものだ。
「では、ちょっとそこに立ってみてくれ」
「ここ?」
謙吾の指す場所に移動する。
「もう少し右…ああ、そこがいい」
謙吾って、こういうちょっとしたことにも拘(こだわ)るんだよね…。
「横を向いて、手をこう…軽く握って猫のポーズだ」
「えっと…こうかな?」
謙吾のしているポーズを真似る。
「いい感じだ、理樹!」
「そのまま右ひざを曲げて、右足を浮かしてくれ」
ケンケンをしているような足つきになる。
「いいぞ……最高だ理樹!!」
「よし撮るぞ! カメラを見つめてペロッと舌を出すんだ!」
「うん」
「かっ…完璧だっ理樹!!」
――ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪
「ぬおおおおおおぉぉぉおぉーーーっ!!」
――ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪
あちこちに移動して、シャッターを切りまくっている謙吾!
「よしきたぁぁー!」
――ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪
「はっはっはっ!! もえるな、これは!!」
――ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪
「はしゃぎすぎだからっ」
覚えたての機能を使いたいのはわかるけど、ちょっと興奮しすぎだ。
「はっはっは、すまんすまん理樹。ついつい興奮してしまった……無論、新しい機能にな」
「いやまあ、その気持ちはよくわかるよ」
カメラ機能を使うときは誰しもが通る道だ、きっと。
「――ゴホン」
咳払いをする謙吾。
「その…なんだ、理樹、もう一度だけ頼みたいんだが」
「使い方を忘れないように、最初から手順を踏んで復習したい……いいか?」
謙吾が真剣な眼差しを向けてくる。
「うん、仕方ないなあ」
「ありがとう!!」
謙吾は僕の手を握りブンブンとしている。
いや、そこまで真剣にお礼を言われても困るけど。
「では――悪いが地面に座ってみてくれ」
「あ、うん」
僕は地面に腰を下ろす。
「座ったよ、謙吾」
「おおぅっ! あぐらも悪くない……が、女の子座りがいい」
「こうかな? よっしょっと――」
あぐらで座っていた足を女の子座りに組み直す。
「そ、そんな感じだ! 少し脚を開いてそこに両手を着いてくれ」
言われたとおりに、ちょっと太ももを開いてそこに両手を着く。
「もう少し手を手前に……そうだ。体の力を抜いて背中を丸めるんだ」
「こんな感じでいい?」
「お…おお……ディ・モールト(とっても)いいぞ理樹!!」
謙吾の呼吸が荒い気がする。
「よ、よ、よし!! そのまま俺を見上げて……いや、携帯を見上げてくれっ!」
「うん」
立っている謙吾を見上げる。
「……ぐっ」
たじろぐ謙吾。
「どう…かな?」
「ぐはぁぁぁぁぁぁーーーっ!! た、た、た、堪らんっ!!」
「って、謙吾っ! 携帯を持つ手が震えてるよ!?」
謙吾の手はブルブルと震えていた!
「しっ、しまったぁ!!」
「も、問題はないぞ……これはアレだ、バイブレーション機能に決まっているだろう」
「撮影時に震えるようになっている」
…バイブレーション付きカメラなんて聞いたことがない。
「よし理樹、撮るぞ!」
息を荒くしながら、震える手をもう片方の手で押さえつける。
「うん」
「ふのおおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーっ!!」
――ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪
「うわぁあぁあぁあ、俺の熱いハートが止められないっ!!」
――ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪
「理樹は最高だっ!!」
謙吾は最高の笑顔でシャッターを切りまくっている!!
…………。
めちゃくちゃ嬉しそうだ!
え、えーっと……。
「理樹がブルマだなんてうわぁあぁあぁあぁあぁーーーっ!!」
あ……れ……れ?
「ははっ、このヴィーナスめっ!」
……クールな謙吾……だっけ?
――ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪ ちゃら~ん♪
「理樹最高!! 理樹最高っ!!」
「ヒィーーーヤッホーーーーーーーーッ!!!」
謙吾は飛び跳ねるように、僕の周りを一心不乱にシャッターを切りながら回っている!
やっぱり――
「宮沢フラーーーッシュ!!」
謙吾のネジは外れたままだよっ!
「ちょ、ちょっと謙吾ーっ!!」
「安心しろ、既にベストショットは待ち受け画面に設定済みだ!」
「そんなこと訊いてないし、設定なんかしないでよっ!!」
「これで寂しくなったらいつでも理樹の笑顔に会えるな」
「なんかすごく嫌だよっ!」
「み、みんなも謙吾になんか言ってやってっ!」
謙吾が止まりそうにないのでみんなに助けを求めると――
「はっはっは、どうやら謙吾少年のネジは外れたままだったようだな」
来ヶ谷さんは楽しそうだ!
「だが、なかなか良い提案だったぞ」
「って来ヶ谷さんも撮ってたの!?」
来ヶ谷さんの手にも携帯電話が握られてるし!
「当然だが?」
「ちなみにキミから連絡があるときはこの写真が表示されるようにしてある」
「しないでよっ!!」
「何ぃ!? そんなこともできるのかっ!?」
食い付く謙吾!
「教えてやってもいいが…先程私が撮り逃した理樹君の猫ちゃんポーズのショットと交換だ」
「ふっ、いいだろう」
「恥かしいからやめてよっ!」
「――……少しいいでしょうか?」
そこに西園さんが割って入ってきた。
「……謎は全て解けました」
西園さんがそんなことを言い出す。
「謎?」
「はい、宮沢さんがクールになった……いえ、クールな素振りをしていた理由です」
「クールに…振舞っていた?」
「――ほう、聞かせてもらおうか」
まるで探偵と犯人のような口ぶりな西園さんと謙吾。
「……宮沢さんの今回の目的はただ一つ――直枝さんのブルマ姿をカメラに収めること…違いますか?」
「ああ、その通りだ」
「けど、それと謙吾がクールなふりしてたことにカンケーがあるのかっ」
「鈴さん、今からそれを説明します」
ゆっくりと歩き出す西園さん。
「――まず宮沢さんはここに来るまでに考えたはずです」
「どうすれば直枝さんの写真を撮れるか、しかも自分好みのショットで撮るにはどうすればいいか、と」
「――直枝さん」
「な、何?」
突然話をふられてビックリする。
「……もし宮沢さんがいつも通りのハイテンションで撮影を申し込んできたら、どうしますか?」
「たぶん…逃げると思う」
「そうです。恐らく直枝さんは宮沢さんの申し出を断るでしょう。もちろん宮沢さんもその考えに至ったはずです」
「つまり謙吾君は、理樹ちゃんのおっけーをもらうためにクールなふりをしてたんだね」
納得といった顔の小毬さん。
「フッ」
だが、それを聞いた謙吾が鼻で笑う。
「クールに振舞っただけで、恥かしがり屋の理樹が素直に写真を撮らせると思っているのか?」
「そうなのですっ、リキだったらクールに迫られても『恥かしいよっ』と言いそうなのですっ」
「……確かにその通りです」
西園さんのその言葉を聞き、謙吾が勝った様な顔になる。
「ここからが宮沢さんの恐ろしいところです」
謙吾をキッと見据え、西園さんが言葉を続ける。
「宮沢さんがクールに振舞ったのは――直枝さんから撮影許可をもらうためではありません」
西園さんがはっきりとそう言い放った!
「そ、それってどういうこと!?」
謙吾がクールに振舞った理由が、僕のオッケーをもらうためじゃない…!?
みんなを見渡すと「ふぇっ!?」「わふっ!?」「む!?」「わけわからんっ!!」と一様に驚いている!!
「ぐっ!」
謙吾も苦虫を噛み潰した顔だ!
「ここで宮沢さんは、さらに二つのトリックを用意しました」
「それは――携帯電話の使い方がわからないこと、そして…直枝さんの優しさです」
「僕の優しさ?」
「はい、そうです」
「直枝さんは携帯電話の使い方を教えるのは恥かしいですか?」
「え…いや全然恥かしくないよ」
「では、直枝さんは人に何かを教えるときは最後まできちんとやりますか?」
「うん、出来る範囲でなら最後までやってあげるけど――……あっ!」
「そうです。その二つのことを利用して、直枝さんに心理トリックを仕掛けたのです」
西園さんが微笑む。
「直枝さんは頼まれたら、出来る範囲で手伝ってくれるでしょう」
「――例えばカメラ機能であれば、使い方から試し撮りまで……」
「……宮沢さんは長年の付き合いから、直枝さんがどのように動くか手に取るようにわかっていたのです」
「加えて宮沢さんは、直枝さんも宮沢さんの性格を把握していることを知っていました」
「どんな些細なことにも真剣に取り組む――そういった宮沢さんの性格です」
「もし試し撮りの許可を直枝さんからもらったとして、細かなポーズの指示をしても怪しまれることはない」
「そこまで計算に入っていたのではないでしょうか」
「宮沢さんは、ただ携帯電話の使い方を直枝さんに訊くだけ――後はそのまま撮影に至ることが可能なのです」
「どうですか?」
謙吾の方を向くと、謙吾は俯き顔をしかめていた。
「……ですが、一つ問題がありました」
「問題とな?」
来ヶ谷さんも聞き入っている。
「宮沢さんが前庭に出てくれば、必ず直枝さんと会うということです」
「何あたりまえのこと言ってるんだ?」
鈴も首を傾げている。
「宮沢さんがブルマに着替えた直枝さんに会えば、絶対にリアクションをとるはずですよね」
「……もし、直枝さんの撮影という目的を優先して、会ってすぐに携帯電話の話をふった場合どうなるでしょう?」
「めちゃくちゃ怪しいね…」
「……もし、直枝さんに会って思うがままにリアクションをとったらどうなるでしょう?」
「ふむ、理樹君に逃げられるか、鈴君に蹴られるか…どちらにしても携帯電話の話につなげるには無理があるな」
「――そうです」
西園さんがみんなを見渡す。
「宮沢さんは自然に、そして最小限にリアクションを止める必要があったのです」
「――そう……」
「そのために被ったのが……クールという仮面だったのです!」
西園さんはバッと開いた手を前に突き出し、言い放つ!
「「「「な、なんだってーーーっ!?」」」」
みんなも謙吾の巧妙な作戦に口が塞がらないようだ!
「クールに振舞えば、リアクションを最低限に抑えることが出来る上に自然に見えます」
「そうすることによって、円滑に携帯電話の使い方に話を移すことが出来ます」
「それに……」
「最終段階の試し撮りの際、直枝さんの余分な警戒心を排除することが出来ます」
「つまり」
「宮沢さんがクールに振舞うことが、直枝さんの写真を撮るという目的の二重の布石となっていたのです!!」
………………。
…………。
あまりの驚きにみんな静まり返ってしまった。
「ふっ、感服だ…西園」
その静寂を打ち破ったのは謙吾だった。
「見事な推理だな……全くその通りだ」
謙吾が力なく笑う。
「け、謙吾…そんなことのために……」
「そんなことではない!」
語調を強める謙吾。
「……許せなかったのだ」
謙吾がポツリポツリと話し出した。
「理樹が…理樹がせっかくのブルマを履いて輝いているというのに…それを残すことが出来ない自分が」
「謙吾くん……」
小毬さんも静かに謙吾を見つめている。
「最初はカメラ機能の使い方がわかるだけで良いと思った」
「だがな」
謙吾の目に灯がともる。
「隠し撮りのように撮って何が面白い? 理樹の最高に魅力的なポーズを撮りたいと思わないか?」
「俺は妥協などしたくはなかった」
「だから今回のこの計画を……実行に移した」
「俺は目的のためならば手段は選ばん…たとえ自分を偽り、クールな振りをしてもだ」
謙吾の真っ直ぐな瞳がみんなを捕らえていた。
「……しかし宮沢さん」
西園さんが一歩前へ出る。
「宮沢さんが、直枝さんの優しささえも利用したのは事実です」
「…………」
謙吾は何も言わない。
「あなたの目的は…直枝さんの気持ちを利用してまでも強行することだったのですか?」
「…………」
――ガクッ
「け、謙吾……」
謙吾がガクリと崩れ落ちた。
「すまない…すまない理樹」
「謙吾…」
「俺は…俺はどうしてもおまえとの思い出を残しておきたかったんだ」
「……記憶だけではなく、はっきりとした形として」
「謙吾…そんなにまで僕のこと……」
「どうしても…携帯の待ち受け画面におまえの可愛らしい姿を設定したかったんだ……」
「――理樹、こんな俺を軽蔑するか……?」
「ううん…軽蔑なんてしないよ、するわけないよ」
「だって僕のことを思ってのことだしさ」
「理樹……」
「謙吾……」
――ガシッ!
謙吾がしっかりと僕のことを抱きしめた!
「理樹っ、おまえは…おまえって奴はっ」
「く、苦しいよ謙吾」
「もう少しこうさせてくれ」
「謙吾……」
「――盛り上がっているところ悪いのだが」
来ヶ谷さんが口を挟む。
「……あたかも謙吾少年が殺人を犯してしまったかの如くになっているぞ」
「……あ」
しまった!!
西園さんと謙吾の迫真の演技についつい呑まれてしまっていた!!
「あうぅ……私もすっかり謙吾君が悪いことしちゃった気分になってたよ、ごめんね」
「私も宮沢さんに別れの言葉を言ってしまうところだったのです…」
「ん? 謙吾は刑務所に入らなくてもいいのか?」
みんなもすっかり謙吾たちのペースに巻き込まれていた!
「しまったぁぁ…俺も殺人を犯して警察に行かなければならない気がしてしまっていたぞ……」
謙吾までノリノリだったようだ!
「よし理樹、気を取り直して……もう一度撮影再開とするか」
謙吾はさっきまでのシリアスな面持ちから打って変って、嬉しそうな表情になってるし!
「いやいやいや、もう散々撮ったでしょっ!」
「恥かしがるなって」
「恥ずかしがってないよっ」
「そうだな…四つん這い、なんてどうだ?」
「ぜっっったいやらないからっ!!」
「……抱き合ったままの痴話ゲンカ…絵になります……ぽ」
そう言ってデジカメのシャッターを切る西園さん。
「ひゃっ!? 謙吾もう離れてよっ」
「このままでは俺が理樹の写真を撮れないからな。優しいな理樹は」
「そういう意味じゃないしっ」
謙吾が僕から離れた瞬間――
――タッタッタッタッタッ、バシュッ……
「悪はさっさと亡びろーーーっ!」
ドゲシイィィィィィィーーーッ!!!
助走をつけた華麗な鈴のジャンピング・キックが謙吾にクリーンヒットした!!
「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁーーー――……」
――ズシャァァァ、ゴロゴロゴロゴローッ!!
これまた華麗にキリモミ回転で吹っ飛び、地面を転がる謙吾。
「安心しろ……峰打ちだ」
「いやいやいや…ソバットの方が痛いと思うよ、鈴……」
やっぱり、最後はこうなっちゃうんだね……。
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