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花ざかりの理樹たちへ その50 ~学校・午後編~ (リトルバスターズ)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。

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■■■ エピソード・佳奈多 ■■■ (「その49」とBGM・リトルバスターズ!「遥か彼方」と併せてお楽しみください)


***


――この世界に生を受けたときから、祝福されてはいなかった。



小さな頃から、人として扱われなかった。

家名のための『道具』としてしか扱われていない私たち。

人の温かさとは無縁の生活。

色に例えるなら…底が見えない深い深い青。

言葉に例えるなら…広がる絶望。

それでも、小さな頃の私は何に対しても前向きに頑張っていた。

頑張れば、いつかきっと正義の味方が私たちを助けに来てくれると期待していたから。

だってそうでしょう?

どんな物語も、不幸のまま終わらない。

頑張った子は絶望に落ちる前に、必ずヒーローが救ってくれるもの。

私は、そんな小さな希望の光を目指して頑張った。



***



「――落し物入れを見せていただいても構いませんか?」

「どうぞ」

職員室に行き、落し物入れを見せてもらう。

「予鈴が鳴ったのはわかってるわよね? 早く教室に戻りなさい」

「あなたは生徒全員の規範で模範、生徒の鏡じゃなきゃいけないんだからね、二木さん」

「…………」

「…はい」



「――失礼しました」

誰かが拾って届けてくれているかもしれない。

…とも思ったけど、やはりそんな期待をするだけ無駄だったようだ。

高価なものならいざ知らず、あんな髪飾りなんて誰も見向きしないだろう。

他の人から見たら、ただの安っぽい髪飾り。

けど、私にとっては……。



***



小さな頃。

もう一つ、心の支えはあった。

葉留佳と一緒にいる時だけは、人との、人としての触れ合いを感じられた。

例えどんなことをさせられていても、二人の間には人の温かさがあった。

人とのつながりを感じることが出来た。

けれど、それも長くは続かない。


***




「――はあ……」

空き教室から校舎から出るまで、自分が走った廊下を辿(たど)ったが…それらしい物を見つけることが出来なかった。

「残るは外…ね」

予鈴が鳴り誰もいない校庭を、一人で探し回る。



***



ある日。

葉留佳との一切の接触を禁止された。

話すことも。

手をつなぐことも。

見ることさえも。



私は――絶望した。

自分に対する絶望。

大好きな葉留佳をこんな最低のカタチでしか守れなかった絶望。

心の支えを奪われた絶望。

私は一日中泣いた。

泣いて、泣いて、泣いて泣いて、泣いて泣いて泣いて、殴られて――

――正義の味方すらも幻想でしかなかったと知った。

――救いの手なんて夢だとわかった。



その日――

全ての光が消えてなくなった。



***



――キーンコーンカーンコーン……――

本鈴が鳴り響く。

「………………」

一瞬手が止まるが、すぐに校舎脇の茂みに目を戻し髪飾りを探し続ける。

見つけるまではクラスに戻る気なんてなかった。

私にとって…

大切なものだから。



***



光を失った日。



――私には……なにもない。

全部、なくなっちゃった……。

つながりも温かさも救いの手も、全部。



闇に閉ざされた私の世界。

なにもないことが、ただただ悲しかった。

――つながりだけでも欲しかった。

葉留佳との一切の関係を断ち切られても……つながりが欲しかった。

私は、あの子がつけている髪飾りと同じ髪飾りをつけることにした。

ささやかな抵抗。

葉留佳と手をつなぐことも、話すことも、見ることも許されない私の…ささやかなつながり。

指からこぼれ落ちた光の欠片。

ただの自己満足にすぎないことはわかっていた。

笑っちゃうでしょう?

けど……。

私には、こんなことしか許されなかった。



***



「どこに行っちゃったのよ…」

つぶやきが漏れる。

ここまで隈なく探したはずなのに。

誰かが拾ってしまった……?

誰かが…捨ててしまった…?

もう、何かを失う経験なんてしたくない。

もう、何かを失くすなんて嫌。

「痛い…」

小枝で切った指から血が流れていた。



***



奈落の底を這い回る日々。

――救いはない。

――優しさはない。

――希望はない。

何度も何度も絶望の日が繰り返される。



絶望を受け入れた日。

ボロボロに傷ついてしまって倒れそうになった「私」を守るために、私は役を演じることに徹した。

家では「道具」である私。

学校では「完璧」である私。

そして「強い」私……。

本当の私をただひたすらに隠すように、演技を続ける。

どんなに傷ついたって、それは「別の私」。「本当の私」じゃない。だから痛くない。

どんなに酷いことをしたって、それは「別の私」。「本当の私」じゃない。だから痛くない。

そのはずなのに……。

がんばれば、

がんばるほど、

心が削られていく。

別の私が本当の私を守れば守るほど、私はひとりぼっちになっていく。

後ろに隠れていた本当の私が、傷つき、疲れ果てて涙を流し始める。

もう倒れたいと訴えはじめる。

――その頃にはもう、他の人たちの思う「二木さん」は…「別の私」でしかなかった。

演技している私が本物の私と成り代わってしまった。

……誰も「私」を見ていなかった。

なら……。



本当の私はどこに立てばいいの……?

本当の私はどこで泣けばいいの……?



もう、本当の私は泣きながら彷徨(さまよ)う迷子でしかなかった。




***




――空き教室に戻った。

もう一度、ここから探し直そう。

空き教室には、葉留佳がこぼしたビー玉が床に散乱している。

「せっかくあの子たちが片付けたのに…これだと悲しむわね」

さっき風紀委員の子たちと掃除をして綺麗にしたばかりだ。

この様子を見たら、みんな悲しむだろう。

「…私がやらないと」

ビー玉をひとつづつ拾い集める。



「――佳奈多さん」

突然、声を掛けられてビクリとする。

「あ、あなたは……!?」

そこには…彼女が立っていた。

「一体こんなところで何をしているの!?」

何となく……彼女がしたいことはわかっていた。

「うん…ちょっと」

「ちょっと、じゃないわよ!! 今は授業中でしょう!?」

彼女が寄ってくる。

「はい…佳奈多さんの髪飾り」

「………………え?」

彼女の開いた手には、私が必死に探し回っていた髪飾りがあった。

「………………………………」

この子が……見つけてくれた?

――彼女が屈託のない笑顔で私を見つめている。

なんで……?

どうして……!?

どうして頼んでもいないのに手伝うの!?

どうして私なんかに構うの!?

――奥底から感情が湧き上がってくる。

苦しい?

胸が締め付けられるような感情。

嬉しい?

胸が締め付けられるような感情。

茨(いばら)をまとっている強い私を越えて、守られている弱い私が揺さぶられる。

よくわからない恐怖心が広がる。

茨をまとった私が、そんな私を守るために壁となる。



――バシィッ!



気付いたときには彼女を平手打ちしていた。

「手伝わなくていいって言ったでしょ!? 聞いていなかったの!」

「一体あなたは何を考えてるの!? 何なのよ!」

「まだ正義の味方気取りをしているつもり!?」

「さっきから何度も何度も何度も何度もっ!!」

「見ていてイライラするのよ!!」

「はっきり言って余計なお世話!!」

「人に優しくしたら何かもらえるとでも思ってるの!?」

「こんなことをして何のメリットがあると言うの!?」

「どうしてこんな一銭にもならないことをするの!?」

「お礼でもしてもらいたいわけ!?」

「はい、ありがと!」

「これで満足!?」

「私には全く理解できない!!」

「あなたは馬鹿よ!!」

「大が付くほどの馬鹿だわ!!」

心に広がる感情を否定するように、広がる恐怖心を打ち払うかのように、言葉を吐き出す。

広がる感情も恐怖心も、正体は…本当はわかっていた。

それは――

手が届くところにある優しさ。

その優しい手を取るのが怖かった。

優しさを得た後に来るであろう、優しさの喪失が怖かった。

失う経験なんて、もうしたくない。

失くすなんて、もう嫌。

失う絶望を味わうくらいなら……最初から手を取らないほうがいい。

だから、全部突き放す。



「ただ――」

彼女の優しげな瞳が怯えた私を包み込む。

平手打ちをされても。

言葉の刃で傷つけられても。

それでも彼女は怯まず、口を開く。



「佳奈多さんが……」

「とても悲しい顔をしてたから」



「…っ!?」

――その一言。

たった一言だけど……私を射抜くには十分すぎる言葉。

他の人たちには見えなかった本当の私。

みんなが見ているのは仮面の私。

けど…彼女だけは違った。

――本当の私に気付いてくれた。

本当の私を見てくれた。

泣いている私を見つけてくれた……。

心の中の私が手を伸ばす。

「佳奈多さんがそんな顔をするのを見たくなかったから」

彼女が言葉を紡ぐ。

「――困っている人に手を差し出すのに理由はいらない」

「――困っている人に手を差し出すのにお礼もいらない」

「それで……その人が笑顔になれたら……それだけでいいんだと思う」

助けようとする手が差し伸べられる。

「これで…佳奈多さんが笑顔に戻ってくれる――それだけでいいんだ」

長い長い間、本当に長い間待っていた優しさが向けられる。

その優しさが心に触れる。

――私を、胸の奥の暗闇から、そっと連れ出す。

けれど、ずっと暗い場所を彷徨っていた私には…彼女が差し出す光が眩しすぎる。

私の行く手を教えて…。

「……私は……」

どうすればいいのかわからない。

どんな言葉を言えばいいのかわからない。

「私はさっきから…あなたにひどいことしか言っていないのに!」

「私はひどい女なのに!」

――何度も何度も繰り返される凍りついた日々。

――弱い私を隠すために、強くあろうとする私の棘が鋭くなった。

――本当は、たまらなく嫌だった。

「なんで!? どうして!?」

「他の人はこんな私と距離を置くのにっ!」

「こんな私と係わり合いになるのを避けるのにっ!」

――助けは来なかった。助けてほしかった。

――優しくしてもらえなかった。優しくしてほしかった。

「それなのにっ!」

「どうしてあなたは……っ」

「さっきから…そんなにっ……そんなに……っ」

「……私なんかに優しくしてくれるのよっ」

蒼い心が溶け出す。

涸れ果てたと思っていた心の雫があふれ出す。

「今まで……」

「……あなたのように私に接してくれる人はいなかった……っ」

「……あなたのように私を助けてくれる人はいなかった……っ」

終焉を迎えようとしている凍りついた日々。

「今まで……」

「……あなたほどに…私に優しくしてくれる人はいなかったの…よ……っ」

止め処なく涙が溢れる。

――かつて。

流した涙で得たものは絶望。

つながりも温かさも救いもない絶望。

私を…助けて。

「……こんな時、どうすればいいのかわかんないのよ……っ」

「どうすればいいのよ……っ」

私を助けて。

たすけて。

ねえ…。

私、いっぱいがんばったよね?

私、いっぱい努力したよね?

もう…休んだっていいよね……?

もう…寄りかかってもいいよね……?



「……本当は、優しくしてほしかったかったんだね」

彼女の温かい手が、私の頭を優しく撫でる。

涙が……止まらない。

「こういうときは――自分に素直になればいいよ」

ふるえる心を、そっと解き放つ言葉。

彼女の腕に包まれる。

尖っていた心も

凍っていた心も

全てが溶け出した。

「……うぐっ…う…うあああああぁぁぁぁぁーっ」

今までが嘘のように、心が、感情が自然と溢れ出る。

彼女に心を、身体をあずける。

「みんなは…私のことを強いと思ってる…っ」

「私は…なんでもできて当然だと思ってる…っ」

「私だって……っ」

「がんばったときは、褒めてもらいたかった!」

「つらい時は励ましてもらいたかった!」

「がんばったねって言ってもらいたかった!」

全てをさらけ出す。

「誰かに優しくしてもらいたかった!」

――私に優しくして。

「私だって……誰かの優しさに甘えたかったのっ」

――私を甘えさせて。

「誰かに……受け止めてもらいたかったのっ」

――私を受け止めて。

私の全てを…彼女にぶつける。

全てをぶつけても、彼女は私を受け止めてくれた。



「――佳奈多さん」

「……よく、がんばったね」



「…!」

涙が頬を伝う。

初めて、

ほめてもらえた。



……うれしい……。



溶けていく悲しみ。

「たまには…力を抜いてもいいんじゃないかな」

全てを溶かす優しさで包み込まれた。

「………………」

「……その言葉が……欲しかった」

「…………ありがとう」

「……とっても、うれしい……」



――優しさをもらった日。

流した涙で得たものは希望。



迷子の私を見つけてくれて



ありがとう。
















■「エピソード佳奈多」あとがき

みなさん、こんにちは! mです!
前回の更新から長らくお待たせしました。
今回の「エピソード佳奈多」楽しんで頂けたら嬉しいです。

この「エピソード佳奈多」ですが…読んで頂ければわかるように、佳奈多を描く上でかなり追加設定をしております。
もはや妄想の域です(笑)
少々、追加設定も活かしきれていませんが…

エピソード佳奈多では
「自分に構ってほしい」
「優しくしてほしい」
という気持ちに加えて、
「絶望と希望」
を、意識して書いてみました。

いえ、結局は誰の前でも素直になれない不器用な佳奈多が、素直になる過程を描きたかっただけでしょうね(笑)

ちなみにこのSSを描いているときは「遥か彼方」をかけていたので、その影響が大きく出ています。
さらに…その時に聞いていた他の曲の影響も出ています(^-^;

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