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花ざかりの理樹たちへ その58 ~学校・午後編~ (リトルバスターズ)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。

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「フッフッフ…このミッションの恐ろしいところは、相手が勝負方法を決めれることにあるのデスヨ」

「つまり、私たちに有利になる試合を申し込むことが出来るのだーっ」

「た、たしかに」

恐らく僕たちに不利になることは必至だ。

「そ、それでも私…がんばるから」

杉並さんはオドオドしつつも、葉留佳さんに決意表明をする。

ちょっと前よりも前向きになった気がする。

「そんなことを言ってられるのも今のうちですヨ」

「ヘイ、ミニ子!」

「奴らに言ってやるのだっ! 地獄の勝負をっ」

「おぅけーなのですっ」

クドが一歩前に出る。

「私たちが挑む勝負は――」

「勝負は…?」

息を呑む。

「腕立て伏せで勝負なのですーーーっ!!」

クドが僕たちに向かってバビッと指を差した!

「「う、腕立て伏せーっ!?」」

ま、まさか真人以外からそんな勝負方法が提案されるとは思ってもいなかった!

「やべぇ、オレも参加してぇ」

もちろん参加出来ない真人(参加したら一人勝ちだ)。

「う、腕立て伏せぇーーーっ!?」

葉留佳さんまで眼を丸くしている。

「はい、腕立て伏せでいざ尋常に勝負なのですっ」

「ちょっとクド公」

「はい?」

クドの頭に手を乗せる葉留佳さん。

「確かにあんたに勝負方法決めていいって言ったけどさ…」

「ちっとも私たちに有利じゃないじゃんかーっ!」

いやまあ。

どちらかと言うと、僕の方が有利じゃないかなあ…。

「三枝さん、安心してください」

自信満々なクド。

「以前、胸の筋肉を鍛えればバストがあっぷすると小耳にはさみました」

「それ以来、私は日々のとれーにんぐに余念がありませんっ」

「今では腕立て伏せ自己最高記録16回をまーくするほどの実力ですっ」

えっへんと力こぶを作る。



「なにーっ!? 私だって8回くらいしか出来ないのにっ」

「すごい…私も最高8回くらい…」

「クーちゃんすごーい! 私なんて3回でぷるぷるだよ~」

「あ、あたしは12回くらいだ」

「オレ645回」

「……ポーズをとるのがやっとですが、何か?」

「はっはっは、おねーさんも美しいバスト維持のために日々鍛錬に励んでいるさ」

「う…僕も12回がやっとかな」



一番力がなさそうに見えるクドだけど、どうやら女子の中ではトップクラスのようだ。

「どうですか、三枝さんっ」

「おおーっ! すごいぞワンコっ」

「すげぇじゃねぇか、クー公」

筋肉には少々うるさい真人も寄ってきた。

「井ノ原さん、これで私もまっするめいととして認めてもらえるでしょうか?」

マッスルメイトって何!?

「もちろんだ。なんせクー公は女子の中でもトップの筋肉の持ち主みてぇだしな」

「わふーっ! やったのですーっ」

どうやらクドはマッスルメイトとして迎えられたらしい。

「そんなクー公には、マッスルメイトとして選りすぐりの称号をやるぜ。受け取ってくれ」

「…どきどき」

真人がニヒルな笑顔を浮かべてクドの肩に大きな手を乗せる。

「グッド筋肉!」

「わふっ…………――」



――ぽんっ



って、クドはなんでそこで顔が赤くなるのさっ!

「…………」

「あれ、クー公?」

「…………」

クドが固まっている。

「お顔真っ赤だよ、クーちゃん?」

「クド公どーしちゃったの?」

「おまえまた何か変なことしただろ?」

「いや、してねぇけど」

「井ノ原くん、セクハラ…?」

「してねぇよっ!」

「クドー?」

「――……え?」

あ、クドが気付いた。

「クー公、なんかおまえ顔赤くね?」

真人がクドの顔を覗きこむ。

「わふっ!?」

「ぬっ、ぬゎにを言っちゃったりなんたりしちゃったりしてるのですかーっ!?」

いささか錯乱気味のクド。

――ぽこぽこぽこぽこーっ

顔を真っ赤にしたまま真人のお腹を叩いている。

「なんだなんだクー公、オレの鋼のような腹直筋を叩いたところで筋肉は移らないんだぜ?」

真人は真人で満更でもない様子。



「なんか二人から幸せさんオーラが出てるよ~」

「クドはそんなにマッチョになりたいのか?」

「まさかクド公の奴…まさかデスヨネ」

「……能美さんの趣味がよくわかりません」

「なぜだクドリャフカ君!? 私というものがありながら!」

「いや、別に来ヶ谷さんの彼女でもないと思うけど」



「では~早速勝負ですっ!」

「三枝さん頑張りましょう! どぅーあうあ・べすと、なのですっ!」

「え、う、うん」

「水族館チケットはいただくのですーっ!」

クドは一人でテンションマックスだ!

「へっ…」

「真人、嬉しそうだね」

「そりゃな」

「これでマッスルメイトはオレとクド…そして理樹の3人になったわけだしな」

「って、僕もすでに登録済みっ!?」

「ちなみに理樹はマッスル専務な」

「え、会社だったの!?」





「みなさん、準備はいいですかっ?」

「「「OKっ」」」

制服が汚れてしまうので床に大きなシーツを敷く。

その上に僕、葉留佳さん、クド、杉並さんと横一列に並んで座っている。

「理樹ちゃん」

小毬さんが子どもを諭すような口調で声をかけてきた。

「どうしたの?」

「女の子があぐらで座っちゃいけません」

「え? うわわっ!?」

急いで女の子座りに変える。

そういえば僕は今スカートを履いてたんだっ!

「チッ」

来ヶ谷さんは舌打ちしてるし!



「――勝負方法は至ってしんぷるですっ。最後まで残った人のチームが勝ちですっ」

「来ヶ谷さん、アレをみなさんに渡してください」

「うむ」

みんなにふかふかのクッションが配られる。

「クド公、これ何?」

「はい、そのクッションを下に置いてください」

「腕立て伏せをするとき、それに頭が着くようにしなきゃいけません」

「ひえぇぇぇ…」

つまり、しっかりと頭がクッションに着くまで腕を曲げなきゃならないんだ!

これはかなり厳しい。

「コールは来ヶ谷さんにやってもらいます」

「任せろ」

「では――お願いしますっ」

「ふむ…構えっ」

来ヶ谷さんのコールで、僕たちは一斉に腕立て伏せの体勢を取る。

腕立て伏せは苦手だけど…ここはがんばらなくちゃ。

「皆の健闘を祈る」

「……みなさん、頑張ってください」



「行くぞ」

「1」

コールで腕を曲げ体を落とす。

――!?

いつもと違うことに気付く。

「うっ…わっ」

頭をクッションに着けて腕を戻した。

「どうした理樹君、たったの一回で限界か?」

「そうじゃないけど…」

「…む…」

「む?」

「む、胸が…重くて」

そう。

今僕の胸には豊胸パッドが入っている。

しかも来ヶ谷さんサイズ。本物志向のため重量もそれなり。

そんな重りを胸に付けて腕立て伏せをするんだから、非常にキツイっ!



「わ…直枝くん、それ羨ましい悩み」

まさかの杉並さんからのツッコミまで入れられた!

「はっはっは、ついに理樹君も胸の悩みを抱えるようになったか」

「理樹はおっぱいボインボインだからな」

「ヤーやっぱり一味違いますネ、おっぱい戦士のセリフは」

「これパッドだからーっ!」

もうっ、来ヶ谷さんも鈴も葉留佳さんも何考えてるのさーっ!

「リキっ! それは私に対しての挑戦とも受け取れる発言なのですっ」

「……売られたケンカは買いますよ?」

クドと、そしてなぜか西園さんが大そうご立腹の様子だし!

「いやいや、そういうつもりで言ったんじゃなくてっ」

「そーいやこの勝負、ひんぬーワンコとみおちんが一番有利だね」

「わふーっ!? それは私と西園さんが小さいってことですかっ!?」

「プンスカプンプンのプップクプーなのです~っ!!」

クドの怒りに火がついてしまったようだ!

「……将来」

西園さんが静かに呟く。

「……垂れますよ」

「「「「「…………………………」」」」」

地味に響き渡るセリフだった…。





「2」

ぐぐぐぐーっ!

「3」

ぐ、ぐぐぐーっ!

「4」

ぐ、ぐ、ぐぐぐーっ!

「ひゃぁ~」 「ん、んっ…」

「5」

ぐ…ぐぐぐ…ぐーっ

「うわっ、き、キツい…っ」 「はわぅ~」 「まだまだー、なのですっ」 「んっ…んんっ…」

「6」

ぐ……ぐ……ぐぐ~~っ

「き、キツい……っ」 「は…はるちん、ぴんち…っ」 「余裕綽々(しゃくしゃく)なのですっ」 「んんっ、んっ」

「7」

ぐぐぅ……ぐっ……ぐぐぐ~~っ

「お、おも……っ」 「ひゃっ…ふ」 「まだいけるのですーっ」 「んんーっ」



「………………」

「どうした、西園女史?」

「顔が上気しているように見えるが」

頭の上の方で声が聞える。

「……はい、こうして正面に立ってみなさんが頭を下げる様子を見下ろしていると…」

「……わたしに屈服しているかのように見えますね」

西園さんが嬉しそうに、だがとっても恐ろしい発言をしているっ。

「……このわたしに跪(ひざまず)きなさい…ぽ」

めちゃくちゃ危険思想だ!

けど、こっちも一生懸命でツッコむ余裕もなかった。

「……冗談です」

今のは絶対本気だったと思う。

「取り繕わずとも、おねーさんも無性に興奮してきたから安心してくれ」

「……ぽ」

…この人たちの頭の中はそういうことしか考えてないんじゃないかとさえ思えてくる。

「来ヶ谷っ」

今度は真人の声。

「もう我慢できねえっ! 蛇の生殺しだっ!」

「なんだ、真人少年もこの様子を見てムラムラしてしまった口か? やっちまいたくなったのか?」

「ムラムラどころじゃねぇ! やりたくてやりたくてオギオギが止まらねぇっ」

「ぶっ!?」

あまりの真人の発言に吹いてしまった。

「真人、何考えてるのさっ! まさかそんなこと言い出すなんて思ってもみなかったよっ」

顔を上げて、真人を睨む。

「この様子を見てたら誰だってやりたくなるって!」

「仕方あるまい、私が許可しよう」

「ちょ、ちょっと来ヶ谷さんっ!?」

「やりぃ!」

「ま、真人……っ」

あまりの友人のセリフに悲しくなってくる。

「な、なんだよ理樹、そんな悲しい顔するなよ。いつも一緒にやってるじゃねえか……筋トレ」

「………………」

「………………え?」

「いや、だからよ、筋トレ」

「カウントに入れなきゃやってもいいと思うよ~」

「真人は筋トレ馬鹿だからな」

「小毬、鈴、ありがとよ」

「一つ聞くが…理樹くん、キミはもしや何か良からぬ事と勘違いしていなかったか?」

自分の顔が赤くなっていくのがわかる。

「………………う……うっ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーっ」

恥かしすぎて顔を上げれないーーーっ!

「どうしたんだ、理樹?」

「ちなみにおねーさんは、腕立て姿勢で顔を真っ赤にしているキミに本気でムラムラしている」

「しないでよーーーっ」

もう恥かしすぎて、穴があったら入りたいくらいだっ!



「――じゃあ、オレも混ざらせてもらうぜ」

「おっと前ごめんよ、理樹の後ろでやらせてもらうな」

真人がノシノシと歩いてくる。

「ほわあぁあぁーーーっ、真人君後ろに行っちゃダメーっ」

小毬さんが大きな声を出して、真人を止めに入る。

どうしたんだろう?

「んだよ? さっき小毬もやっていいって言ったじゃねぇかよ」

「い、言ったけどダメーっ」

必死の小毬さん。

……?

自分達の様子をよく見てみる。

僕たちは横一列に並んで腕立て伏せをしている。

他のみんなは僕たちの頭が向いている方向にいる。

――あ。

そして小毬さんが「後ろはダメ」と言った理由に思い当たる。

そ、そうだ。

僕たちは全員制服……つまり……全員スカートだ!!

ま、マズイ!!

今、もし…もしも後ろに回られたら…色々全部見えちゃう!?

「ひゃぁぁぁーーーっ、ま、真人くん来ないでっ」

葉留佳さんも気付いたようだ!

「へ?」

「ま、真人あっち行ってよっ!」

「んだよ理樹っ、つれないこと言うなよ」

それでもノソノソと歩いてくる真人!

「ほわぁあぁあぁーーーっ! みんな真人君を止めてーっ」

「なんだかよくわからんが、あたしに任せろっ」

「ひゃぁぁぁぁんっ」

「真人来ちゃダメーっ」

――バッ!

葉留佳さんと僕はスカートを片手で押さえる!

だが。

「きゃんっ!?」

「わ!?」

疲れているところで片手を離してしまったため、バランスを崩してしまった。



――べちゃんっ



「理樹君、葉留佳君、失格!」

無常な宣告を告げられる。

「え!? まさかオレのせいかよっ!?」

全くわかっていない真人。

「その通りじゃ、このうすらとんかちーーーっ!!」

ボグゥッ!!

鈴の蹴りが真人に炸裂した!

「どはぁっ!?」

そして真人は鈴に引きづられて前へと戻っていった…。





「――このまま続けるが、いいか?」

僕と葉留佳さんは床にへたり込みながら頷く。

「やはは…私もあと1回出来るかどうかでしたからネ」

「僕もそろそろきつかったよ」

今の失格は無しにするかと提案があったけど、僕も葉留佳さんもあの時点ですでに限界だったのでこのまま継続となった。

ちなみに真人は。

「…ゴメンナサイ」

故意ではなかったため情状酌量の余地あり、とみんなに許してもらった。

が、鈴の靴跡はしっかりと刻まれている。

「では、ここからは杉並女史とクドリャフカ君の一騎打ちだ」

「ここまで来たら…負けないよ」

あの杉並さんの目に闘志が宿っている!

「私も絶対に負けないのですっ」

クドも気合いが入っている!



「両者気合い十分なところで…始めるぞ」

「「はいっ」」

「8」

「9」

「まっ…まだまだ……なのですーっ!」 「わ……わたしだって……まだまだっ!」

クドと杉並さんから出ている熱い想い、熱気。

「10」

「11」

筋肉の躍動する音。

「12」

「13」

「が、がんばるのです…っ」 「まっ、負けられ…ない~っ」

汗を滴らせながらも頑張る二人!

「フレーフレーっ! クド公ーっ!!」

「杉並さんっ、がんばって!」

自然と応援にも力が篭る!

「14」

「わ、わふー……っ!」 「んっ…んんん~っ!」

ぐぐぐぐぐ~っ!

プルプルと腕を震わせながらも起き上がる!

「二人とも~がぁんばってっー!」

共感しているのか、全身に力を入れながら応援している小毬さん。

「いけ、そこだっ!! マッスル筋肉だぁーっ!」

真人も興奮気味に腕を振り上げる! そしてマッスルと筋肉は一緒だ!

「15」

「ま……まけ……ませんっっ!」 「わ…たしだって…んくっ…んんん~~っ!!」

ぐ…ぐ…ぷるぷるっ……ぐぐぐーっ

「がんばれっ、二人ともっ! どっちもがんばれっ」

鈴も二人の近くに寄って、立ちヒザで熱く応援している!

「お二人とも…す、すごいです」

西園さんにも力が入っている!

「16――クドリャフカ君の最高記録とタイだ」

ぷるぷるぷる~…ぐぐぐぐぐーっ!!

「うくっ…く……も、目標到達…ですっ!」 「んぅ…や…った……な、並んだっ!」

二人の額から流れ落ちる汗。

「……ハァ……ハァ……ハァ」 「……はぁ……はぁ……はぁっ」

荒々しく漏れる息。

二人ともすでに己との限界バトルを叩きつけているっ!!

「すごいよ、ホントすごいよ二人ともっ!」

もはや感嘆の言葉しか出ないっ!

「次で新記録ですヨっ!! クド公も杉並さんもいけいけぇーっ!」

葉留佳さんなんて、空のペットボトルを二つ持ってポコポコとはしゃいでいるっ!

「17――これで起き上がれば二人とも新記録樹立だな」

ぐ…ぐぐっ…ぷるぷるぷる……!

「き…気合いと……こ…んじょ~うっ…なのですーっ!」 「んくっ…ん…わ……私だってっっ…頑張れっばっっ!!」

ぷるっぷるっぐぐぐぐぐぐーーーっ!!

二人とも…

ぐぐぐーーーっ!!

起き上がった!!

「ハァッ…ハァッ…や、やった…や、やりましたーっ!!」 「はぁっ……はぁっ……わっ、私もっ!!」

「「「「「おおおおおおおおおおおーーーっ!!」」」」」

みんなから驚きの声が漏れる!

「ほわぁっ!? クーちゃんも杉並さんも…す、すごいっ」

「二人ともくちゃくちゃ…いや、けちゃけちゃすごすぎるぞっ!」

「やべぇ…おまえら熱い、熱すぎるぜっ!!」

「……史上空前最強バトル……ですね」

みんながみんな、二人の勇姿に心奪われている!

「18――未知の領域だ、二人ともベストを尽くしてくれ」

ぐっ……ぐぐっ……ぷるぷるぷるっ!!

クドも杉並さんも両腕がガクガクと震えている!

「くっ……わっ……わふっ……!」 「ぐぐぐっ……ぅんっんんっ……っ!!」

みんなが固唾を飲んで見守る。

二人が下まで体を落としたその時。

「こっ……こんじょうっ…こんじょうっ……ど…こんじょう……なので……」

――ぷるぷるぷるーっ!

「わ…わふ……」

クドが…。

「……限…界……なので…す…」

――べちゃんっ!

胸を床に落とした!

「「「「クドっ!」」」」

みんながクドに手を掛けようとするが。

「待て! まだだ!!」

「まだ杉並女史が頑張っている!」

「んぁっ……! んんんっ! わ…たしだって……んくっ……わたし…っだって」

「ここで杉並女史が起き上がれなければ、勝負は決しない!」

ぷるぷるぷるっ…ぐ……ぐぐっ!

「杉並さんっ…!」

もう杉並さんの腕は痙攣し、腰はしなっている…!

「杉並さん、がんばってーっ!」

「あと少しだっ! がんばれっ!」

プルプルっ……ぐぐぐっ……!

「んくっ…うぐぐっ……!」

なかなか体が上がらないっ!

「杉並っ、筋肉を信じろっ! 筋肉の限界を超えろっ!」

「フレッ! フレッ! 杉並~っ!」

「がんばってください…っ!」

ぷるっ…ぷるっ……ぐぐっ……ぐぐぐっ!

頑張る杉並さんの目からは涙が溢れている…!

「ぅくっ……あ…がら……ないよっ……も、もう……」

少しずつ杉並さんの体が下がっていく!

「杉並さんっ、ハァッ…ハァッ…ここで諦めてしまうのですかっ!」

「!?」

それは横で息も絶え絶えに横たわっているクドの声だった。

「ここまで来たのですから……起き上がってくださいっっ!!」

クドからの必死の声援が教室に響く。

「……う…んっ!」

そのクドの声に、再度杉並さんの瞳に炎が宿った!

「んんんんーっ……がっ…がんば……る……っ!!」

ぷるぷるぷるーっ……ぐぐっ…ぐぐぐっ!

杉並さんの体が少しずつ上がっていく!

「んっ…あ…あと……す…こしっ!!」

みんなが息を呑んで見つめる。

ぶるぶるぶるっ! ぐぐぐぐぐぐぐーっ!!

そして。

「はぁっ……はぁっ……はぁ……っ!」

杉並さんが――

しっかりと起き上がった!!



「…………………………」



辺りが静まり返る。

「……やっ……た……」

安堵の表情と共に、そのまま横たわった。

同時に。

「勝者、杉並チーム!!」

「「「「「うわあああああぁぁぁぁーーーっ!」」」」」

――歓声が教室を揺らした!



みんなが横たわっている杉並さんとクドの周りに集まる。

「みなさんっ……」

「みんな……」

クドと杉並さんがみんなの顔を見ている。

「すごいよっ! すごいすごいっ! 杉並さんもクーちゃんもすんごい頑張ったよーっ」

二人の間に座って、二人の手を握る小毬さん。

「クドも杉並さんも、もうけちゃけちゃだっ! もうびっくりだっ」

鈴も新語を生み出しながら褒め称えている。

「久しぶりに見たぜ、こんな筋肉の筋肉による宴はな! マジで最高だったぜ」

表現はアレだけど、真人も二人の勇姿に感動しているようだ。

「このーっ、小動物同士のくせにすごい戦いだったぞーっ」

葉留佳さんは嬉しそうに二人のほっぺたをプニプニしてるし。

「……まさに限界バトルでした」

西園さんはクドの横にちょこんと座り、腕のマッサージを始めている。

「提案した私としても、非常に萌え――いや、燃えさせてもらった」

満足そうな顔で、二人の足の方へ座る来ヶ谷さん。

「杉並さんもクドもすごいよ! 僕も見習わなきゃね」

僕も杉並さんの横に腰を下ろす。

「腕、マッサージするよ」

「なっ、直枝くん……っ」

杉並さんの顔は真っ赤だった。



「――杉並さん」

クドが横たわりながら、嬉しそうに杉並さんに話しかける。

「能美さん……」

二人が体を寄せる。

「とても面白かったのですっ」

「私も」

どっちも満足そうな顔だ。

「また機会があったら勝負をしましょうっ!」

「うん」



さっきまで、リトルバスターズのみんなとあんなにも距離が開いていた杉並さんだが――

「ほいじゃ、私も杉並さんの腕をモミモミしたげるよ」

「あ、ありがと…」

「…あたしも揉む」

「ありゃ、鈴ちゃんはクー公でしょ?」

「…小毬ちゃんと西園さんと筋肉馬鹿に取られた…」

「うむ、おねーさんも杉並女史を揉みほぐしてやろう」

「ひゃんっ!? どっ、どこ揉んでるんですかーっ」

「無論おっぱいだが、何か不都合でも?」

「って来ヶ谷さんの頭が不都合だよっ!!」

「なんだ理樹君、交代でもしてもらいたいのか?」

「ぶっ!?」

――杉並さんとみんなとの距離は、もうなかった。



そして。

「杉並」

真人が杉並さんに手を差し出す。

「おまえも今日から……マッスルメイトだ!」

「え…それはちょっと嫌かも」

「………………」

やっぱり真人にはちょっぴり冷たかった…!







***






ボツ案「とても地味」






――サッ

「あ…」

「その反応…ズバリ杉並さん、今ババを引きましたネ?」

「う、ううん」

「……」

「一つ揃ったのですーっ、あと少しで勝利なのですっ」

「……」

「おりょ、理樹ちゃんどうしたの? テンション低いぞーっ」

「あ、いや…」

あんだけ前フリをしておいて…。

クド・葉留佳さんチームとの勝負方法はババ抜きだった…。



「……地味、ですね」

「……ああ、地味だな」

見ている西園さんも来ヶ谷さんもたらりと汗を垂らしている。

「私もトランプしたい~」

「小毬ちゃんの言う通り、見てるトランプは面白くないな」

手持ち無沙汰な小毬さんと鈴。

「ケンカは!? バトルは!? 熱い拳と拳のぶつかり合いはどうしたんだよっ!?」

真人なんかは拍子抜けで力を持て余してしまってる。



「フフフ、わかってないなぁ、わかってないですヨ!」

葉留佳さんが不敵な笑みを浮かべている。

「何がだよ?」

「真人くんには見えないかな、この机を囲む4人のオーラっ」

…ちなみに僕からも杉並さんからも、これっぽちもそんなものは出ていない。

「…そう、ここは戦場。私たちはそんな荒野に降り立った戦場の狼…」

語りだす葉留佳さん。

「一瞬の気の緩みが生死を左右する、まさにデッドオアアライブ」

「『これはババか!? ペアになるカードか!?』…己の中の葛藤」

「『昨日宿題写させてあげたのにババだなんて!』…昨日の友は今日の敵」

「騙し騙され、弱い者は淘汰(とうた)されていく……」

「世はまさに弱肉強食時代に突入だーーーっ!!」

「うぉ!? めちゃくちゃ熱いバトルに見えてきたぁーっ!!」

再度燃え上がる真人。

「……単純ですね」

西園さんは呆れている。

「とゆーワケで、トランプは狐のズル賢さとポーカーフェイスで有名なはるちんの得意分野なワケですヨ」

「さすが三枝さんなのですっ! 自分の得意分野に持ち込むなんて、お主もワルなのですーっ!」

「えへへ、そうでしょ? もっと褒めて褒めて」

「いやいや、それ褒められてないから」

「んじゃ、杉並さん引きますネ」

「うん」



――サッ



「って、アヒョーーーッ!?」

「わふーっ、ぽーかーふぇいすが真っ青なのです!?」

…ババ、引いたんだ…。





「はい、クド公…ぷぷーっ」

笑いを堪えるけど、吹いてしまっている。

「こ、これは…!」

クドが葉留佳さんからカードを引く番なんだけど。

一枚だけカードが飛び出している。

バ、バレバレだっ!

「ひっかかる奴なんているのか?」

鈴でさえ呆れている。

「これはさすがの私でも引っかかりません! ぷんぷんなのですっ」

クドも大そうご立腹だ!

「まあまあ、いいから引いて引いて」

「では…」

クドが飛び出したカードの横のカードを摘まむ。

「これなのですっ」

――サッ

「ぷふふ~~~~~~っ!!」

葉留佳さんが吹き出した!

「やーい、引っかかった引っかかったーっ!」

「わ、わふーっ!? これがババなのですーっ!?」

「甘いねぇ…まったくおたく甘いデスヨ」

「しょんぼりですー…」

してやったり顔の葉留佳さんとガッカリ顔のクド。

チョンチョン。

肩を杉並さんがつついて来た。

「どうしたの?」

「ババ抜きなのに二人ともバレバレ…だよね」

「いやまあ」

そもそもこの二人にポーカーフェイスは不可能だと思う…。




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