#シチュ:エンドレスエイト、もう一つの終わり方。最後のレストランのシーンより。
#※ネタバレはありませんのでご心配なくw
運命の8月30日。
レストランで夏休み最後のSOS団会議が開かれていた。
いや、最後じゃない。考えようによっては次のループの始まりだ。
それだけは是が非でも回避しなきゃならない。
…と、毎回考えてはチャレンジして、そして失敗に終わっているんだろうな。
「じゃ、今日はこれで終了。明日は予備日に空けておいたけどそのまま休みにしちゃっていいわ」
ダメだ。
おまえは満足してないんだよ、ハルヒ!
それじゃあダメなんだ!
「――また明後日。部室で会いましょ」
会計を俺に預け、ハルヒは颯爽と出口へと向かっていく。
「待て、ハルヒ!」
瞬間、今までにないほどのデジャヴ感が俺を襲った。
ここでハルヒを帰しちゃダメだ。
帰してしまったらこれまで1万何千回と繰り返した2週間をまた繰り返しちまう。
俺の手が遠いハルヒの背に伸ばされる。
――だが、何をするべきなんだ?
何を言うべきなんだ?
今までのことの中にヒントがあったはずだ。
だがそれはなんだ?
考えろ、考えろ俺!
思考が今までにない速度でフル回転を始める。
この2週間の、ハルヒの、他のメンバーの行動が走馬灯となって駆け抜けていく。
ヒントはどこなんだ!?
自動ドアが開いてしまった。
「……ッ」
横から古泉が息を呑む声。
その声のせいで、半分冗談半分本気として提示された解決方法が脳裏を過ぎった。
そんな方法は今までの俺は絶対に試しちゃいないだろう。今だって本当は試したくもないからな。
だがもう手段も方法も選んじゃいられねぇっ!
――ガタタンッ!
俺はイスを吹き飛ばすような勢いで立ち上がった!
「ハルヒっ!!」
声に驚いてハルヒが立ち止まった瞬間を突いて、俺は床を力いっぱいに蹴り、ハルヒの背に向けてダッシュしていた。
ええい、ままよっ!!
「キョ…」
ハルヒがこちらに振り返るよりも一足早く
――ガバァーッ!
俺はハルヒを後ろから力強く抱きしめた!
「……え?」
ハルヒの間の抜けた声。
俺は間髪入れずに言い放った!
「アイ、ラブ、ユーーーッッッ!!!」
…………。
……。
出口で完全硬直している俺とハルヒを中心に、喫茶店がまるごと地雷原になってしまったかのごとく恐ろしいほどの静寂に包まれていた。
後ろに入るはずの古泉や朝比奈さんの呆気にとられた顔が見ずとも克明に脳裏に浮かぶ。
「……………………………………んなっ…なっ…なななっ…」
ハルヒは正面を向いたまま、声が出せないようだ。
そりゃそうだろう。いきなり抱きつかれてそんなことを言われりゃ誰だってそうなる。
俺は俺でここからどうしていいかわからずに、ハルヒを後ろからしっかりと抱きしめたままだ。
その手にコイツのどんどん高くなっていく体温が伝わってくる。
5分はそうしている気さえする。
だが実際はせいぜい5秒程度だろう。
「なにしてくれんのよーーーーーーーっっっ!!!!!!」
ハルヒの今世紀最大になるんじゃないかと思える馬鹿デカい大声で静寂は破られた。
俺の腕を叩き払って、つまづきそうになりながらバックステップをかましたハルヒの顔はゆでダコもまだ安心するんじゃないかと思うほど真っ赤だ。
いーや。ハルヒだけじゃない。俺もどう考えたってハルヒなみだ。
「ああああああああっ、あんたねぇ!?」
俺にバシッと指を向けるが、その指の先はブレまくっている!
「なっななななななにワケわかんないことほざいてるのよっ!?」
「いやっ、そのっ、ス、スマン!!」
「スマン!? なにがスマンなのよ!?」
ツバを引っ掛けながら俺の胸倉に掴みかかってくるハルヒ!
向こうは突然のことで絶賛混乱中のようだが、俺だって言っちまってから脳みそが真っ白だ!
「だからっスマン!! 勢いで言っちまった!!」
「勢い!? 勢いであんたあたしに、ここここここここここ告は…告はく…」
酸欠の金魚のごとく口をパクパクとしている。言葉も出ないようだ。
「お、落ち着け、いいかハルヒ、これはな…」
「なななななな、なに、なによ…?」
すっかり桜色に染まった顔を俺に向け、そのクリクリとした瞳が何かを期待して俺を見つめていた。
「うぐっ…」
冗談だ、なんて絶対に言えないだろ、これは…。
「……」
「むぅ……」
俺が言いよどんでいると、ハルヒは胸倉を掴む手はそのままに、耳まで赤くした顔が俯いた。
「ハルヒ…?」
「……」
「おい、ハルヒ?」
「……~~~っ!!」
ハルヒがその顔を上げた瞬間だ。
「このバカキョンーーーっっっ!!!」
――バグンッ!!
アッパーカットが俺のあご先に炸裂し、俺の意識はハルヒが店から立ち去る背を見ながらブラックアウトしていった。
9月1日。
…どうやら当たりを引いちまったようだ。
俺は古泉に呼ばれるままに学校の屋上へと向かっていた。
「おや、ひどい怪我ですね。大丈夫ですか?」
「大丈夫なもんかよ…今日もハルヒの奴に『公共の場でよくも恥じ曝してくれたわね!』ってぶん殴られたぞ」
「彼女なりの照れ隠しですよ」
くそ忌々しいスマイルだ。
「そう言うおまえだって怪我してんじゃないかよ」
古泉も擦り傷と絆創膏姿だ。
「ええ、強力な神人が現れまして」
「悪かった。嘘告白なんかしちまって怒らせちまったからな」
「いいえ、それは違います」
「なにがだよ?」
「今までは苛立ちを発端とする精神不安定によって神人が生み出されていました」
「ですが今回は、押さえ切れない喜びを発端とする精神不安定のようです」
そのニヤけた顔を近づけるな。
肩をすくめながら古泉が説明を続けた。
「神人の振る舞いが全然違うんですよ」
「昨日出現した神人は、破壊活動よりもダンスに熱心でしたから」
「ダンスだぁ?」
「ええ、サルサからラインダンスのステップ、ついでに言うと洋服選びの真似事までと終始ごきげんな神人でした」
はぁ…。
どこまでも傍迷惑な奴だ。
「…で、俺のアレは当たりだったのか?」
「ループを抜けたからにはそうなのでしょう」
古泉がクスと笑う。
「彼女がきっと戻ることを望まなかったのでしょうね」
「理由は?」
「そんなの一つに決まっているじゃないですか」
まるで足し算がわからないのですかと言わんばかりの顔を俺に向ける古泉。
「あなたの告白をなかったことにしたくなかったのですよ」