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花ざかりの理樹たちへ その70 ~放課後編~ (リトルバスターズ)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。

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……ここは更衣室で、僕は今そこにある椅子に座って待っている。

右のドアはさっきまでいた会場、左のドアは店の展示スペースへと繋がっている。

「はぁぁ…」

自然と溜息も出ちゃうよね…。

展示スペース側のドアの向こうからは…



『ねぇねぇ、みおちん』

『…何でしょう』

『ジャジャーンっ!』

『この服なんてどう? 理樹ちゃんに似合いそうじゃない?』

『…そのほとんど紐としか言えないものを服と呼んでもいいものかが疑問です』

『…三枝さんが着てみてはどうですか?』

『えええーっ!? こんなのほとんどスッポンポンじゃん。恥かしすぎて着れる訳ないデスヨ』

いったい僕に着せようとしてるのっ!?

『…スタンダードですが、これなんていかがでしょうか?』

『おおおーっ、さすがみおちん! 姉御が見たら飛びつくこと間違いなしだね』



向こうからは西園さんと葉留佳さんの期待に満ちた声が聞えてくる。

「……はぁぁぁ……」

あの恭介のルール、ハメられた気がするよ…。





――話は少し前に戻る。

「…で、そのコスプレパーティーとやらは具体的にどのようにやるのだ?」

「そう焦るなよ、謙吾。今からそいつを説明しようとしていたことろだ」

恭介が僕たちに目線を配る。

「内容は簡単だ」

「まず、メンバーの中から一人モデルを選ぶ」

「選ばれたモデルは向こうの部屋から何か一着服を選び、更衣室で着替えた後、この会場で残りのメンバーにお披露目だ」

「無論モデルは一回ごとに選び直す」

「理想としては、メンバー全員に当たることだな」

つまり、モデルに選ばれた人は更衣室で着替えて、ここで待っているみんなにその姿をお披露目するということだ。

「ちょっと待って」

「ん、どうした二木?」

「……そのメンバーとやらに私も含まれているわけ?」

「もちろん」

すまし顔で答える恭介。

「い、嫌よ絶対に!! そ、そんな恥かしいことが出来るわけないでしょう!?」

「そんなことをさせられるくらいなら、私は帰ります!」

佳奈多さんが慌てて立ち上がる。

「ちょっと待ってよ、お姉ちゃんっ」

横に座っていた葉留佳さんが、その佳奈多さんの腕を掴む。

「まあ、二木、落ち着けって」

「コスプレさせられるなんて真っ平ごめんよ!」

「いいから落ち着いて話を最後まで聞けって」

「……」

冷静な恭介の口調に、佳奈多さんも落ち着いたようだ。

「……はぁ、わかったわ」

ムスッとしながらも、椅子に足を組んで座り直す。

「安心してくれ。きっとそう言うヤツもいるだろうと思って、ルールを考えてある」

「さすが恭介さんだねー」

感心している小毬さん。

「モデルを選ぶ際のルールは…ジャンケンで決める」

「このジャンケンで『一人抜け』したヤツをモデルとする」

「ん、それはどういう意味だ?」

鈴の頭にクエスチョンマークがいくつも浮かんでいる。

「そうだな…一人勝ちや一人負け――つまり『1対多数』の状況が生まれた時点で、その1人になったヤツがモデルだ」

「なるほど。ジャンケンを普通に進めていって一人だけ出す手が違ったらそいつがモデル、ということだな?」

「ああ」

「ちなみに最後まで決まらなかったら、一番負けたヤツがモデルな」

恭介が佳奈多さんに目を向ける。

「どうだ、二木? 確率的にもモデルにならないほうが高いと思うが」

「……」

「そうね、そのルールだと…まあ、他の方法も使えそうだし…やってもいいわ」

どうやら佳奈多さんには、何かアイディアもあるようだ。

「……恭介さんが言ったルールですと、逆もありえますね」

「おっ、さすが西園、鋭いな」

「このルールは、裏を返せば何度もコスプレをするヤツも出るということだ」

「なんで僕を見ながらそんなことを言うのさ」

「いや、他意はないが」

うわぁ…明らかに何か企んでいる気がするよ…。

「よし、じゃあ早速――」

「あ、はい、恭介さん」

クドがビシッと手を上げる。

「なんだ能美?」

「あのーそのー…」

なんだか歯切れが悪い。

「あの~…私…あんな服を一人で着れる自信がありません…」

「どの服も着るの難しそうだもんね…」

クドの言葉に杉並さんも納得している。

僕だって選ばれたとして、一人で着替えれそうにない。

「それもそうだな」

「じゃあ、手伝いも付いてもらうか」

恭介の目はなぜか来ヶ谷さんに向いている。

「む、私か?」

確かに来ヶ谷さんはそつなくこなしそうだけど!

着替え以前に身の危険を感じる…っ!

「その申し出は魅力的だが、出来れば私は見る側に回りたい。楽しみは取っておくタイプなものでな」

ニヤリとする来ヶ谷さん。

「……では」

静かに西園さんが前に移動してきた。

「……この手のことに関しては、わたしが一番手馴れていると思いますので」

西園さんの目がランランと輝いて見えるのは気のせい…かな。

「決まりだな」

「着替えは西園に任せるとして、人手が足りなかったらその時にもう一人行ってもらうとしよう」

「よし、さっそくジャンケンだ!!」





…………。

そして今に至る。

「はぁぁ……」

結果、僕の一人勝ちでモデルになっちゃったわけだけど…。

あのジャンケンの時、みんなが目配せをしてたような気がするよ…。

気のせいだといいんだけど。



――ガチャ



「……お待たせしました」

「理樹ちゃんのお着替えタイムーっ」

扉が開いて、西園さんと葉留佳さんが入ってきた。

「えーっと、それが着る服?」

「……はい」

「ありゃ、なんかホッとした顔してますネ」

「いやまあ」

てっきりとんでもない服を着せられると思って不安だったんだけど、西園さんが手にしている服は…まあ、まともの分類に入ると思う。

「……スタンダードかとも思ったのですが、それを着こなしてしまうのが直枝さんかと思いまして」

西園さんが手に持っているその服は……メイド服だった。

これぞメイド服、といった感じだ。

黒をベースとして、白のエプロン、白のフリル。

全体的にフリルが多くて、可愛らしい雰囲気を作り出している。

「スカート丈が長い清純派と、短い方で迷ったんですけどネ」

なぜか二人の視線が僕の脚へ。

「な、何?」

「……直枝さんのこの脚線美を活かしたいと思いましたので、ミニ丈にニーソックスを合わせることにしました」

「理樹ちゃんの脚ってば、すららーっとしてて羨ましいですな、まったくまったく」

「それ、喜んでいいのか悪いのかよくわかんないから…」

「……着るのはさほど難しくありませんので、あちらで着替えてください」

メイド服を手渡される。

「着替え終わったら、私たちがエプロンとか小物を着付けしてあげるね」



僕はメイド服を受け取ると、カーテンで仕切られた区画に入った。

渡された服を見る。

「あ、意外と普通なんだ」

ブラウスやスカートはフリルが多いだけで、普通に着れそうだ。

「……」

「…………」

「…………うぁ」

女性物の服を見て「普通に着れる」なんて、僕は一体何を考えているんだっ!?

あぁあぁ、どんどん感化されてしまってきているのが嫌なほど実感できるよ…。



――スルスル~、ごそごそ、すっ、すっ、ごそごそごそ (リボンを外して制服の上着とブラウスを脱いだ)

――ごそごそごそ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ (メイド服のブラウスを着た)

「えっと…」

――プチッ、キュッ、すとんっ、すっ、すっ (スカートを脱いだ)

「このスカートは……」

「理樹ちゃーん、大ジョブ?」

葉留佳さんがすぽっと顔を覗かせる。

「う、うわわっ! の、覗かないでよーっ!」

「やはは、ごめんごめん」

油断も隙もないしーっ!!

――ごそごそごそごそー! クイックイッ、ぷちっ (急いでメイド服のスカートを上げた)

――ごそごそごそ、きゅっきゅっ (ブラウスの上に黒のアウターを着た)

「後はエプロンとか、小物類かな」

僕は、出来たよ、と声を掛けカーテンで仕切られた区画から出た。



「ほう…」

「さすがは理樹ちゃんと言ったところデスネ…」

「うぅ…」

二人のキラキラとした目が上から下へと流れる。

「そ、そんなにまじまじと見ないでよ…は、恥かしい…」

絶対僕の顔は今、真っ赤だっ!

「…そうですね、みなさんも待っていることですし仕上げをしてしまいましょう」

「はいよっ」

西園さんがエプロンを、葉留佳さんがヘッドドレスを手際よく僕に着ける。



「……あとは…」

「ニーソックスですナ…」

西園さんと葉留佳さんが頷き合って、白のニーソックスを持ってきた。

「あ、じゃあ」

それを西園さんから受け取ろうと手を伸ばす。

「ダメです」

が、サッと僕の手から遠ざけられてしまった。

「?」

「……これもわたしたちが履かせてあげます」

しれっとそんなことを言う西園さん!

「え、ええっ!?」

「いやっ、それくらい自分で履けるからっ!」

第一、靴下を履かせてもらうなんて…そんなの、恥かしいっ!!

「エンリョなんて今さら今さらーっ」

「わっ」

椅子に無理矢理座らされた!

むちゃくちゃ強引だっ!

「んじゃ、みおちん左ね。私は右」

「はい」

二人のその嬉しそうな顔は、まるで小悪魔かのようだ!!

「え、ちょっ…」

何も言えないうちに、西園さんに左足、葉留佳さんに右足を持ち上げられた!

「……直枝さんのおみ足、拝借しますね」

「理樹ちゃんの脚ってバンビちゃんだね、バンビちゃん」

「うわわわわわわわぁぁぁーっ、ふ、二人して脚持ち上げないでよーーーっ!?」

「あーいやー、なんて言うか……」

「すごい恥かしいポーズですネ」

「そう思うなら、自分で履かせてよっっっ!!」

「それ、無理」

わぁわぁわぁぁーっ!!

葉留佳さんは、至高のイタズラ顔だっ!!

「……恥かしがる様子は眼福ですが、あまり脚をくねらせると」

「……見えますよ?」

「……」

「ひやぁっ!?」

大慌てで短めのスカートを両手で押さえた!

「……では」

「うわわわわわわぁあぁあぁあぁー…………」



僕は、スカートを両手で押さえ、両足を女の子に持たれ、ハイソックスを無理矢理履かされるという仕打ちを受けながらも、メイド服へと変身した……。





――ガチャ…

「「「「「「 おおおおおおおおーっ!! 」」」」」」

葉留佳さんが扉を開けた瞬間、場内が沸き立った!

嬉しそうに会場へ出て行く葉留佳さん。



『レディースア~~~ンドジェントルメ~~~~ン!!』

『ぁ長らくぅ~~~お待たせしました~っ!』

『うおおおおおおおおおーーーっ!! 早く理樹を出せぇぇぇーーーっ!!』

『うわわわっ、真人くん興奮しすぎーっ!』



会場は大変なことになっているようだ…。

「……直枝さん、これを」

西園さんからメモ用紙を受け取る。

「これは?」

「……セリフと指示です」

「あ、ありがとう…」



『――では、理樹ちゃん、どーーーぞーーーっ!!』

登場の声を掛けられたけど…どうしても尻込みしてしまう…。

「……どうしたのですか、直枝さん?」

「うううぅ、やっぱりこんなカッコなんて恥かしい……っ」

「……ここまで来て何を言っているのですか。それでも大和撫子ですか」

「いや、男なんだけど」

「言い訳は聞きたくありません……ていっ」



――ぽむっ!



「うわわっ……っとっと」

西園さんに背中を押され、会場に飛び出した!

その瞬間!



「「「「「「「 うおおおおおきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!! 」」」」」」」

もう黄色い声なんだか野太い声なんだかよくわからない歓声が場内を包み込んだ!!



「うわわわわ…」

も、もう後戻りなんて出来るわけないよね…。

みんなからの熱波に気圧されながらも、西園さんからもらったメモを見て口を開いた。

「え、えっと……」

急に静かになるみんな。

全員めちゃくちゃ期待が篭った目で僕を見つめている!



「あ…その……僕……直枝理樹です」

「しゅ…出身地は……その……」

「……お花畑……です」

「よ、よろしくねっ」

そして書かれている指示通りに



――くるりっ



軽く体を一回転。

ひらりと輪を描きながら舞うスカート。



…………。

……。

「「「「「「「 っっっだあああああああああああああああぁぁぁぁーーーーっ!!! 」」」」」」」

「うわわっ!?」

さっきの歓声以上の怒涛の歓声が場内を揺らした!!



「ハァハァ…ハァハァ……マ、マ、マズい……あと一歩でおねーさん、お花畑に逝ってしまうところだったよ……」

「はぁはぁ…はぁはぁ……奇遇だな来ヶ谷………………俺もだ」

椅子から落ち、床に両手を着いて息を荒げている来ヶ谷さんと恭介!

「理樹、もうくちゃくちゃ…いや、けちゃけちゃ…いやっ、もうめちゃくちゃだっ!!」

頬を赤く染めパニくっている鈴! 一周して元の言葉になっている!

「や、や、やっぱり理樹ちゃんは只者じゃないと思ってたけど、お花畑出身者だったんだ……」

「わふー…薄々ですが、前々からそのような気はしていたのですー…」

「直枝くんって海外の方だったんだ…ハーフとかかな?」

驚きと尊敬の眼差しを向けてくる小毬さんとクドと杉並さん!

セリフを信じちゃっている(しかも約一名は激しく勘違いしている)!

「……た、ただの記念撮影!」

佳奈多さんは携帯で僕の写真を一枚撮ると、そそくさとそれをそれをしまった。

それに便乗し、携帯を取り出す真人。

「だあああああああああああぁぁぁあぁーっ!? ケータイのカメラが壊れちまってるじゃねぇかっ!!」

「くそぅ、仕方ねぇ…こうなったらスケッチするしかねぇ!!」

ノートを取り出し、僕を見ながら必死にペンを走らせ始めた!

「あ、あ、あの絶対領域が……スカートとニーソが織り成す絶対領域が堪らんっ!!」

ええええーっ、謙吾なんて歓喜の涙さえ流しているっ!!

「って、謙吾おめぇ! この前『メイド? ふっ、興味ないな』とほざいたくせに、なんでそんな専門用語知ってんだよ!!」

「しまったぁぁ……」

あぁぁぁぁぁ……あのクールだった謙吾はどこに行ってしまったんだ…。



とりあえず僕は大混乱の場内を見なかったことにして、目の前で倒れてハァハァ言っている来ヶ谷さんを助け起こすことにした。

「来ヶ谷さん、大丈夫?」

来ヶ谷さんの手を取る。

「……」

「……来ヶ谷さん?」

紅色した顔で僕を見上げてくる。

「……」

「……大丈夫?」

「……」

「…………」

無言でスクッと立ち上がった。

「えーっと、来ヶ谷さ――」



――ガバァァァーーーッ!



「理樹君理樹君理樹君、どーして欲しいんだい!? このおねーさんにどうして欲しいんだい!? 言ってごらんほら言ってごらん!」

「ちょちょちょちょちょちょっとーーーっ!?!?」

「姉御ーっ!! メイドさんへのお触り禁止ーーーっ!!」

「ちょ…誰か来ヶ谷を理樹から離すの手伝ってくれっ!!」

「くっ! こいつ本気だぞ!? は、離れんっ!!」

「な、なんつー馬鹿力なんだよっ!?」

「うふふふふ…イケナイ子だな、キミは…おねーさんを本気にさせるとは」

「うわうわうわうわうわわわわわわわーっ!?」

「うああああああぁぁぁん、ゆいちゃんの目がコワイーーーっ!」

「わふーーーっ、オオカミさんになってしまわれたのですっ!?」

「ふふふふ…カプッ!」

「ひゃぁあぁ!? み、耳っ、もう耳は…耳、ひゃぁぁぁーっ」

「こいつはヤバイぞ!! お前ら!! 力を合わせて理樹から来ヶ谷を引き剥がすんだっっ!!」





こうして先陣を切った僕は……身を張って場内を大いに盛り上げるのに貢献したのだった…………。

(ちなみに来ヶ谷さんは、佳奈多さんに辞書でしたたかに殴打されることによって正気を取り戻した)




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