1分でわかる! 魔法使いの夜ってこんな話だ!
未プレイの方に簡単説明!(ネタばれなし)
・蒼崎青子と久遠寺有珠(くおんじ・ありす)は山の上の豪邸で2人で住んでいました。
・青子は魔法使い見習い、有珠は凄腕魔法使いです。
・そんな2人ですが、ある日魔法使い退治の様子を目撃されてしまいました。
・目撃したのは電気も通っていない山から越してきた少年・静希草十郎(しずきそうじゅうろう)。
・そんな目撃者の口止めをするため、なんやかんやで青子、有珠、草十郎の3人で一緒に住むことになったが――
***
――最近、有珠の様子がおかしい。
お人形のように表情も乏しければ口数も少ない有珠だから、傍目にはその変化はわからないかもしれない。
けど1年も一緒に生活をしていた青子は敏感に感じ取っていた。
「何かが違うのよね。何がおかしいかっていうのははっきりとは言えないけど……まさかとは思うけど」
学校帰りの山の豪邸へと続く坂道。
青子は一人つぶやいた。
いつも通り居間のソファで静かに本を目を落としているのだけど、やはり以前とは違うのだ。
落ち着かない……と言えばいいのか、心ここにあらずと言うのか。
悩んでいるうちに到着。
鉄ごしらえの門を開け、月明かりに照らされた豪邸へと足を進めた。
広いロビーを抜け居間の扉を開いた。
「――――」
ドアを開けた瞬間、ソファに座っている有珠と青子の目が合った。
「……――」
その目線が一瞬左右に泳いで、すぐさま読んでいた本に落とされた。
「……ただいま、有珠」
「…………おかえりなさい。遅かったじゃない」
なんだ、この間は。
青子の眉が軽く歪む。
有珠は青子がドアから入ってくる前から、わざわざ本から目を離してドアを見つめていた……ように感じられた。
以前はこんなことはなかった。
大体は青子が帰ってきても本に目線を落としたままの生返事だった。
首を傾(かし)げた時、ロビーの方でドアが開く音がした。
どうやら草十郎も帰ってきたようだ。
――ピクッ
ん?
有珠の本のページをめくる手が止まった……気がした。
ほどなくして居間のドアが開き、案の定、この家最後の住居人、人畜無害を絵に描いたような少年が顔を出した。
「ただいま。春とはいえまだまだ冷えるね」
「おかえり、草十郎」
「蒼崎も今か? 今日は遅いな」
「生徒会。この時期忙しいのよ」
そう言いながら青子が有珠に目を向けると、
「――――」
有珠は『私、全然気付いてませんけど?』と言わんばかりに本に目を落としていた。
「ただいま、有珠」
「――あら」
草十郎から声を掛けられて、初めて有珠が顔を上げた。
どこか白々しさが混じった声。
それも一瞬で、すぐに興味がないといった様子で本に目を落とした。
「――帰ってたの? 気付かなかったわ」
……は?
青子は口から飛び出しそうになった声を慌てて押しとどめた。
「まだまだ外は寒いね」
「――そう」
本に落とされた有珠の目線。
「……」
青子が見る限り……どう見ても全く文字を追っているように見えない。
明らかに意識は別のところに行っている。
「――」
ほんの一瞬だけ上がった目線が草十郎に向けられ、
「……」
すぐに本に落ちた。
そして少しだけ体を動かし、草十郎のいる方向から体の向きをそらした。
全くもって気になんてしてないわ、ということを表そうとしているかのように。
「…………」
だが。
「…………――」
――チラッ。
横目で
草十郎をチラ見していた。
……。
…………。
チラッ。
「…………――――」
ガァァ~~~ッ!!
なになに、このあふれ出そうで無理やり押さえ込まれている春色の感じわっ!!
まさかまさかと思ってたけど、まさか有珠の奴!
この……この田舎者を……!!
「蒼崎、どうしたんだ? 怖い顔になってないか?」
「元からよっ!!」
う……いかん、ついつい当たってしまった、と反省する青子。
引きつった笑みで草十郎に話しかけようとしたところで、草十郎の方にゴミくずが着いている事に気付いた。
大方今日の掃除のアルバイトのときにでもくっつけてきたのだろう。
「草十郎、ちょっといい? 動かないで」
「ん、どうした?」
青子は草十郎の方についているゴミを取ろうと手を伸ばした。
見る角度からは、青子がそっと草十郎の頬に触れようとしている――
ように見えなくもない。
「――っ!?!?」
声がしたのと同時にハードカバーの本がテーブルに落ちる音。
「「?」」
青子と草十郎、2人でそちらを見ると
「――、――っ」
有珠が目を丸くして硬直していた。
まるで一人だけ時間が止められているような感じだ。
「どうした、有珠?」
「――――」
「有珠?」
「――――……~っ!」
草十郎の声で有珠の硬直が解けた。
「……な、なんでもないわ」
テーブルから本を拾おうとして、
――ぼとっ。
今度は本を床に落とした。
「――っっ」
慌てて拾い、今まで通りに膝の上に本を乗せる有珠。
「――………………」
何もないわよ?と言いたげに、平静を装おうとしている有珠だが、
肩なんて恥ずかしげにキュッとすぼめられ、本なんて本文ではなく表紙部分を開いているあたり大絶賛混乱中だ。
一生懸命本を読もうとして視線を落としている有珠の顔。
けど……。
「…………」
耳まで真っ赤っ赤なのよね……。
肌の色が雪のように白いので、その辺目立ちまくりだ。
よっぽど恥ずかしかったんだと思うけど、むしろ見ているこっちが恥ずかしくなるような恥ずかしがりようだ。
「本当に大丈夫なのか?」
こんなときに有難いのかそうではないのか。
草十郎の鈍さと空気読めないっぷりもハンパなかった。
「――だ、大丈夫だから。き、気にしないで」
後半は最早蚊の鳴く声だ。
「顔が赤くないか? 熱でもあるのかもしれない。ちょっといいか」
「ちょっ、草十郎――」
青子の制止なんて聞きもせず、草十郎がズカズカと有珠へと寄って行く。
「――っ!?」
その接近にキュッと反応する有珠。
――ぺとっ
その草十郎の手が有珠のおでこにくっつけられた!
「――――~~~~っ!?!?」
有珠の顔から湯気が上がったのではないかというくらいの反応!
肩が一瞬ぴくりと跳ね上がった!
その細い体はカッチンコッチン。腕なんて中空でパントマイムのように静止中。
顔なんて(◎△◎)こんなんだ。
「熱いな。もしかしたら熱があるかもしれない」
「~~~~っ!」
次第に顔は(>△<)こんなんになっていた。
金魚よろしく口をパクパク。
青子は青子で「あの有珠が、あ、あんなふうに……なるなんて」と別の意味で口をパクパクだ。
――ガバッッ!!
有珠が勢い良く立ち上がった。
「へ、部屋に戻るわっ」
「あり――」
声を掛けようとした草十郎を完全に無視し、本を胸元にきゅっと抱きしめて、有珠は駆け足で居間から出て行った。
――バタムッ!……。
青子と草十郎で閉められた扉を見つめていた。
「……」
「……」
「本格的に具合が悪そうだ……。明日は力をつけてもらうために出前でもとろう」
「…………」
「蒼崎、すごい顔だぞ? まあ、奢りはしないけど半分くらいは俺が出すよ」
「あ、そ…はぁ~~~~……」
「ん? なんか変なこと言ったか?」
「言ってないわよ…はぁ~~~~……」
「?」
罪作りな歴史的鈍感男の顔を見ながら青子は盛大にため息をついた。
純真で天然記念物級にニブイ奴。
冷酷無比で感情を出さない…もとい、自分の気持ちが何かすらわかっていない魔女という名の――初恋少女。
水と油以前にもはやパラレルな2人。
青子は思った。
ここに住む限り、この問題を解決しておかないとやっかいなことになりそうね……。
脳裏に浮かぶ言葉は一つ。
――至難の業。
「はぁ~~~~……」
「出前はやめて手作りにするか? 頑張ってはみる」
「出前でいいわよ……アンタの奢りね」
青子はこれから立ち向かわなければならない困難に、盛大なため息をつかずにはいられなかった。