「今日、幼馴染メンバーに集まってもらったのは他でもない」
放課後の恭介の教室。
僕と真人、そして謙吾の4人が集まっていた。
「んな前置きいいからよ、一体なんだよ?」
「――最近、鈴の様子がおかしい」
恭介が真剣な顔でそう言った。
「そうかな? たしかに笹瀬川さんと仲良くなってから機嫌はいいみたいだけど」
「問題はそこだ。鈴の機嫌が妙に良すぎる」
「それはいいことではないのか?」
眉をしかめる謙吾。
僕もそう思う。
「ああ、確かにいいことだ。だが……気にならないか、理樹?」
「いや僕は別に……」
「気になるよな、理樹?」
どうやら恭介が気になって仕方ないようだ。
しょうがないなあ……。
「なんだかすごく気になってきたよ……」
「だろ! 気になるよな!」
「無理やりに納得させたな……」
「理樹っちは押しに弱ぇからなぁ」
「さて」
恭介がカカッ、カッと黒板に文字を走らせた。
「今回の作戦名・オペレーション・鈴を見守ろうの会について説明に移る」
「どうでもいいけどそれ、作戦名とオペレーションって意味かぶってるよね」
「まあ、気にするな。作戦だがいたってシンプルだ。今から鈴を後ろからそっと見守ろうというのが趣旨だ」
「恭介よ、それはストーキングというヤツではないのか?」
「妹だから問題ないだろ」
……恭介が言うと問題ありありに聞こえるのは僕だけだろうか。
「――お、鈴がいたぞ。やっぱ笹瀬川と一緒か」
恭介が廊下で鈴を見つけて、僕たちは廊下の角に身を隠した。
「んだよ、前はあんなにケンカしてたのに仲良さそうじゃねぇか」
「ホントだね。ほら見てよ、どっちも笑顔だよ」
「くそっ、お兄ちゃんにはあんな笑顔で接してくれないぞ! なぜだ!!」
「こういうことをしているからだろう」
謙吾の意見に激しく同意だ。
けどまぁ、見てると本当に仲がいい。
2人の並ぶ距離はかなり近い。
「たまに手がぶつかるくらいの距離で歩いてるね」
あ、笹瀬川さんの手が鈴の手に軽くぶつかった。
はっとしたように離れる。
しばらく歩くと……あ、また手が触れて離れた。
「言われてみっと仲良すぎに見えてくるな」
「女はこのようなものだろ」
「こんなこともあろうかと」
恭介がゴソゴソと何かを取り出した。
「なにそれ?」
「指向性集音機。これで会話を拾う」
「……」
こういうことするから鈴に蹴られるんじゃないかな……。
『――棗さんはシャンプーは何を使ってますの?』
『びだるさすーんだ。二木にすすめられた。長い髪もさらさらだぞ』
『――まとまってていいですわね』
『うみゅ、そんなになでなでするな。ささみの髪もサラサラだな』
「めちゃくちゃ女の子の会話だね」
「髪の毛の触りっこをしているな。お兄ちゃんにはしてくれないぞ、あんなこと」
「いや……普通妹が兄にそんなことしないからね」
「髪洗うのなんてなんでもいいじゃねぇかよ。女ってのはよくそんなことで盛り上がれるよな」
「真人は何使ってるのさ?」
「え、水」
「それ使ってるって言わないよね……」
「理樹よ、俺はサクセスを使っているぞ! 触ってみないか!?」
「抜け駆けはよくないぜ、謙吾。理樹、俺なんて鈴と同じシャンプーだぜ!」
「うわ、謙吾も恭介もそんなに頭近づけてこないでよっ!」
――場所は移り、中庭だ。
鈴と笹瀬川さんが一緒にベンチに腰を駆けている。
「おい、そろそろ帰ろうぜ。見てたってしょうがねぇだろ」
「真人と同意見だ。何を思ってたかは知らんが、これ以上見ていても仕方なかろう」
「そうだよ、2人が仲良くなって良かったじゃない」
「はあ……」
恭介がため息を吐き出した。
「だな、そろそろ――」
そこまで言いかけたときだ。
――きょろきょろ、きょろきょろ
「ん?」
笹瀬川さんの様子がおかしい。
辺りをキョロキョロと見回している。
「笹瀬川の奴、何あんなに周りを気にしてんだ?」
そろそろ夕方だ。
中庭には誰もいない。
僕たちも鈴たちからは見えない位置に隠れている。
「笹瀬川さんの顔がなんだか赤いような……?」
僕が見る限り、どこか顔が赤みがかって見える。
「何してるんだ、あいつら?」
そのときだった。
笹瀬川さんが、えいっとばかりに鈴の手を両手で押さまえた。
じりじりとお尻をずらし、鈴との距離が縮まる。
『なつめさん…?』
恭介がつけっぱなしにしている集音機から甘い声。
『なんだ、ささみ?』
鈴が横を向いたとき。
笹瀬川さんの顔がスッと近づき……
ちゅっ。
「「「!?!?」」」
その瞬間、見ていた僕たち3人が3人、同時にお互いの口を手で塞いだ!!
え……いや……ええええええええええええっ!?
これって!?
ここここれってぇぇぇっ!!
もちろん僕だけでなく、みんなの目も鈴たちに釘付けだ!
恭介なんて今にも「はぁ!? はぁ!? はぁぁぁぁ!?」と言い出しそうな顔だ!!
さらに2人とも誰と見てないと思ってるので、
『び、びっくりするだろっ! その、なんだ…ちゅー…するときはいえっ』
『もう一回いいかしら……?』
『…………(ちりん)』
――ちゅっ
『……なんだかくすぐったいな』
『そうですわね』
『ささみ』
『なんですの?』
『ちゅー』
『わかりましたわ♪』
ちゅっ♪
『うみゅ……ちゅーちゅー』
『もう、甘えんぼさんですわね』
ちゅっ♪ ちゅっ♪
「…………」
ありえないくらい恋人空間が広がっていた!!
「り、理樹っち、お、オレは夢を見ているのか……?」
「い、いや……げ、現実みたいだよ……? け、謙吾、こ、これ、どうしよう!?」
「安心しろ、理樹。笹瀬川を見ろ。男っぽい。だから問題はない」
ダメだ! 謙吾は絶賛錯乱中だ!
そして最後に……恭介を見た。
「……………………」
いやもう、持っている集音機がガッチガチと音を鳴らすくらいに震えているっ!!
「きょ、恭介……?」
「こ、これは……」
肩をつかまれた!
「そうか、わかったぞ!!」
「へ!? な、何がわかったのさ!?」
「俺は前まで鈴は理樹に惚れていると思った」
「だが違った!」
「男ばかりの中で育っちまった鈴だ。行動が男っぽくなったのは仕方ない」
「だが……その実、内面も影響されていた!」
「鈴は理樹が男だから気になっていたのではなく……理樹の女の部分に惹かれていたんだ!!」
「鈴は――」
「元から女の子が好きなんだ!!」
「「な、なんだってー!?」」
真人と謙吾のマンガっぽい反応!
「ここは兄として祝福してやるべきだな!」
「は!? いやいやいやいや!?」
「真人、謙吾、みんなにメールだ! 今からパーティを行う!!」
「「おうとも!」」
「いやいやいや、みんな納得しちゃダメだからーっ!!」