前回<ロ理樹ちゃんプールへ行くリスト>次回
――色々あったせいで、少し遅めの朝ご飯になった。
夏休み、ということで学食のおばちゃんもいないので、今日はみんなでパン食だ。
「パンをいっぱい持ってきたよ~。えーっとね、あんぱんでしょ、クリームパンでしょ、ワッフルでしょ、それとね……」
小毬ちゃんが嬉しそうにテーブルの上に次々とパンを置いていく。
「オレだってパンをいっぱい持ってきたぜ。えーっと、カツサンドだろ、ニューカツサンドだろ、それと新カツサンドに真カツサンド…最後に取り出したるは、帰ってきたカツサンドだ!」
あいつ馬鹿だからパン=カツサンドだと思ってるに違いない。
「おっと、俺のもってきたパンは一味違うぜ。その名もロシアンパン…パンのどこかに大量のマスタードが含まれているという、キケンなパンだぜ」
…それ、パン食べたら絶対当たっちゃうだろ。
他のみんなも色んなパンをテーブルの上に置く。
パンショップが開けそうなほどバリエーション豊かだ。
「よし、準備は出来たな。では、いただき――」
突然止まる恭介。
「――っと、そうだ。一つ言い忘れていたことがあった。そこにいる理樹、女だから宜しくな。では、いただきます」
何事もなかったかのように食事を始めようとする。
「「「「「「…………………………………………」」」」」」」
もちろんみんな「は?」だ。
「……恭介、おまえ今何て言った?」
「なんだ真人、聞いてなかったのか? いただきます」
「そんな寸前じゃねぇ! 理樹が何だって言ったか訊いてんだよっ」
「そこの理樹は女だ」
…………。
……。
「はああああああぁぁぁぁーーーっ!? いや…………はぁぁぁぁあぁーーーっ!?」
「もういいだろ、わけわからんポイントは」
「これが、はぁぁぁー!?と言わずにいられるかよっ!!」
「もう飛躍しすぎてて、会話の繋ぎ方すら覚束ない状況だぜ…」
「――恭介氏、それは本当なのか?」
来ヶ谷が複雑な顔をしている。
「ああ」
「最初理樹が来ていた服――つまり理樹が大きかった頃の服のサイズが、今の理樹には合わなくてな」
「たまたま取っておいた鈴の小さかった頃のワンピースがあったから着せたんだが」
「その時に確認した」
「「「「「「 …… 」」」」」」
「な、なんだよ、おまえら、その『うわー変態さんだー』という目はっ!? べ、別に俺は変なことなんかしてないからなっ!! な、理樹?」
「うん、きょうすけね、ボクを着替えさせようとして一瞬何かにびっくりした後は、ずーっと後ろ向いてたよ?」
「そうだ理樹、その通りだな。どうだっ?」
くちゃくちゃ勝ち誇ったような顔だな、コイツ。
「ありゃ、意外にも紳士ですね、恭介くん」
「……直枝さん、本当に何もされませんでしたか?」
「うんっ! ただちょっと後ろ向いてたきょうすけがね、はぁはぁうるさかっただけだよ」
「……うーみゅ……」
「……」
「……ど、どうした我が妹よ」
「うちの兄貴は、ロリコンの上にムッツリです、なんて、恥ずかしくて人に言えない…」
「ぎゃあああああああああああああーーーっ、違うんだ鈴ーーーっ!!」
「あちゃぁ、鈴ちゃん……私には掛ける言葉が見つけられませんヨ」
「兄がロリコンで、その上ムッツリだったなんて…ホント最低ね、最低」
「恭介、今日からおまえはこう呼ばれる……ロリータ・ムッツリーニと」
「それはなにやら外国風でカッコイイのですーっ!」
「りんちゃん、そんなことよりお腹すいたし、そろそろご飯にしよ~」
「そうだな、ご飯にするか」
「うああああああああああああああーーーっ!! だから言うの嫌だったんだあああぁぁぁーーーっ!!」
「――理樹は何を食べたい?」
横にちょこんと座ってる理樹に声をかける。
「じゃあね、じゃあね……なんにしようかな? んと……なんでもいい?」
「うん、そのためにみんなで持ってきたんだよ~」
小毬ちゃんがこれはどうかな~、と色んなパンを理樹に見せている。
「うわぁ~……」
目がくちゃくちゃキラキラしてるっ。
「んとね……じゃあ、まるごとバナナーっ」
「はい、理樹ちゃん」
「わぁ~っ! ありがとう」
ぱ~っ、と天使みたいな理樹の笑顔。
「ほわぁ…っ」
「うみゅみゅ…」
う……なんて言うか、母性本能をくすぐられる笑顔だっ。
「私は何を食べようかしら?」
二木もたくさんのパンの中で色々迷っているみたいだ。
――くいっ、くいっ。
「かなたおねーちゃん」
横にいる二木のシャツを引く理樹。
「ぁぅ……な、何?」
「ボクがかなたおねーちゃんの分もパン選んでもいーい?」
上目遣いで二木を見上げている。
「だめ?」
「はわわっ……コ、コホン。じゃ、じゃ、じゃあ、その…お、お願いしようかしら?」
「うんーっ! これっ」
――ぽんっ
二木が差し出した手にパンを乗せる。
「あら…?」
「まるごとバナナーっ! かなたおねーちゃんも、ボクと、おそろいっ」
理樹はうれしそうに「かなたおねーちゃんとおそろいー♪」なんて足をぷらぷらさせながら口ずさんでいる。
「いっしょに食べよ? えへへっ」
「…………」
「…………」
「佳奈多さん、どうなされたので――」
「きゅぅ~~~~~~~~……――」
――ばたーんっ!!
「ひゃあーーーっ!? おねえちゃんーっ!?」
「ほわっ!? かなちゃんがまた倒れたーっ!!」
「佳奈多さん、お気を確かに持ってくださいーっ!!」
………………。
…………。
……。
うっさい朝食が続き、そして。
「理樹、ほら、ほっぺたにクリーム付いちゃってるぞ」
「ええー?」
「仕方ないな、あたしが拭いてやる……ふきふき」
「うにゅにゅ……ありがとう、りんっ」
「リキ、大きくなりたいならちゃんと牛乳も残さず飲まなければダメなのですっ」
「……直枝さん、牛乳を飲むときは腰に手を当てて飲みましょう」
「こう? ごぎゅっ、ごきゅっごきゅっ……ぷぁ~っ」
「理樹ちゃん、今度は白いおヒゲが出来ちゃってますよ……こしこし~っと」
「うにゅにゅ……ありがと、こまりちゃんっ」
「あら、直枝、もうごちそうさま?」
つんつん、ぷにぷに。
「うんっ、もうお腹いっぱいだよ……んっ…んっ……」
「そう、ふーん」
つんつん、ぷにぷに。つんつくつくつん。
「――ねえ、おねえちゃん、そろそろ理樹ちゃんのほっぺつつくのやめたら?」
「……わかってるけど………や…められないの…これ」
「ふう、食ったな…おねーさんも食後の理樹君と洒落こむとしよう」
「うわぁわぁわぁ~」
「ほら、なでなで。今の理樹君の頭は本当に撫で心地が良いな。はっはっは、なでなで、なでなでと」
「くそぅ、理樹の奴、女性陣の母性本能くすぐりまくりじゃねぇかっ!!」
「なんだ真人、もしかして羨ましいのか?」
「ん…んなこと、ねぇよっ!!」
「おまえの右頬にソースが付いているぞ」
「くそぅ…こうなったら仕方ねぇ、謙吾、やってくれっ!!」
「おうとも!!」
「おまえら、気色悪いからやめてくれ……頼むから」
相変わらず、くちゃくちゃ騒々しい食卓となってしまった…。
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