花ざかりの理樹たちへ ~プロローグ~ その3(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
「みんな、輝いて見えるぜ」
恭介の言葉に、メンバー全員が「おーーーっ!」と気合の掛け声。
「よし、みんなの気持ちが一つになったところで……始めるぞ」
これは……負けられないな。
みんなも同じ気持ちのようで、気合いを入れたり策を練っているようだ。
「こまりちゃん、何やってるんだ」
――小毬さんと鈴がいる方向を見てみると……
小毬さんは両手を合わせ、ひねって、手と手の隙間を一生懸命のぞいている。
「こうするとね、何を出したらいいかわかるんだよ~」
「ほんとかっ! 何がみえるんだ?」
「んとねー、グー…かなあ」
それを聞いたみんなは一斉にピクッと反応した。
…………
小毬さんは嘘をつくような人じゃない。恐らくグーを出してくるだろう。
そうなるとパーを出せば勝てる。
けど、みんな同じ考えだとすると小毬さんのビリは確定だ……。
「うわあああ~ん、しゃべっちゃったらダメだよ~…」
あ。気づいた。
「みんな準備はいいな」
コクッ、とうなずく。
「「「「じゃ~~ん、け~~~ん」」」」
「「「「ポイーーーーッ!!!!」」」」
一斉に手が出される!
チョキ!
チョキ!
チョキ!
チョキ!
チョキ!
ものの見事にみんなチョキだ。
チョキ!
チョキ!
チョキ!
チョキ!
これはあいこ!?
…………
……グー!!
もう一人勝ち抜けが出た!!
一体誰だっ!!
恐る恐る顔を上げ、その手の主の顔を見る……。
「はっはっは。おねーさんが一番のようだな」
「なに、悪いようにはしないさ」
…………
勝ったのは来ヶ谷さんだった。
言葉とは裏腹に目がギラギラと怪しく輝いている!!
これは……ヤバイ!
周りを見渡すと……みんな青ざめていた。
真人は悶絶しながら髪をむしっている! トラウマを思い出してしまったようだ!
謙吾は顔が真っ青だ! トラウマを思い出してしまったようだ!
恭介は自分の手を握って、叫びながらのけ反っている。恐らく自分が一番になれると確信していたんだろう。
鈴は「ふかーっ」と警戒色あらわだ。
小毬さんは笑っているけど、口元が少し引きつっている。
クドは「わふー」と縮こまっている。
西園さんは「……ぽ」としている。Mッ気があるのかもしれない……。
葉留佳さんは逃げようとしている。……が、恭介に無言で掴まれた。
「どうした? さあ早く続きをやってくれ」
頬を上気させ、みんなを見回している。
……捕まったら、それは死を意味する……ような気がする。
すごい。
場の空気が最初のときより燃えている。
「うっおおおーーーっ!!」
自然とみんなから気合いの声が漏れる。
「「「「じゃーん、けーん」」」」
「「「「ポイッッーーー!!」」」」
こ、これは……
「うおおおーーー勝ったあぁぁーーーッ!! 筋肉を鍛えておいてホント良かったぜ……」
今度は真人の一人抜けだ。
みんな真人に「じゃんけんと筋肉は関係ない」というツッコミをする余裕もないようだ。
「フフフ。俺の筋肉相手をゆっくりと待つとするか」
「真人」
「なんだよ?」
「1位だけだからな。ビリを好きなように出来るのは」
「なにいいいいいいいーーー!?」
……そもそもルールをわかっていなかった!
「よ、よし、続けるぞ」
恭介の額にもうっすら汗が見える。恭介でさえ焦っているのだ。
まわりからもゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえてくる。
「「「「じゃーん、けーん」」」」
「「「「ポイーーーーーーーーーーッ!!」」」」
グー!
グー!
グー!
グー!
グー!
グー!
グー!
……………………
…………
……
――チョキ。
チョキは……僕だ。
僕に決定してしまった。
ホッとしたような空気と、哀れむような視線を肌に感じる。
肩をポンと叩かれた。
「……理樹、がんばってくれ」
応援の言葉とは裏腹に、恭介は僕と目を合わせようとしない。
謙吾のほうに目を向けると……
うわ、目を逸らされた。
真人はッ!
「……腹筋なら手伝ってやるよ」
いらない気遣いだった!
「そう怯えるな、理樹君」
「さて、どうしようか……」
来ヶ谷さんはいろいろ考え込んでいる。
顔だけは真剣だ。
うわ、この時間が一番心臓に悪いなあ。
「姉御、姉御! 文の最後に全部『それと便座カバー』って付けてもらうなんてどうッスか!?」
「ふむ、却下だ。使い古されてる」
「…………」
――ヂャラッ!
西園さんがファー付きの手錠を取り出した。顔が赤くなってるんですけど……。
「……女王様、どうぞ。――ぽっ……」
「西園女史、悪いがそれは私が逮捕されてしまう」
「……残念」
……西園さんが勝っていたら僕は非常に危なかったかもしれない。
「あ、ゆいちゃん。あのね……」
「却下だ」
「うわああああん。話すら聞いてもらってないよお~」
「肩モミなんていかがでしょうっ! れっつ・しょるだーぷれいっ」
「響きがえろい……。が、英語が全く違うな」
「わふー!?」
「一日猫たちの世話なんてどうだ?」
「それはいつものことだから面白くないな」
小毬さん・クド・鈴の提案は完全却下された。いぢめレベルが低いのだろう……。
「来ヶ谷、筋肉関係をあたってみたらどうだ?」
「…………」
「って、シカトかよおぉぉーーーーっ!」
真人はどうでもいい提案をした挙句、精神ダメージを受けた!
「どじょうすくい、なんてどうだ?」
「……中年の発想だな」
「うおぉぉぉぉーーーーーーーーっ!」
謙吾までも精神ダメージを受けた!
「こいつらアホだ」
悶絶する二人に、さらに鈴が追い討ちをかけた。
「理樹に今日一日教壇に立ってもらって、一日教師をしてもらう、なんて面白そうじゃないか?」
「ふむ、恭介氏のその案は捨てがたいが……」
「だろ?」
「実現が困難だ」
「む……」
恭介なら実現させてしまいそうでコワイ。
「ふむ、どうしてくれよう……」
来ヶ谷さんは僕をまじまじと見つめている。
今までの提案が全部生ぬるいと思っているなら……どんな恐ろしい課題がだされるんだろう。
「…………」
――どきどき……
「そうだ」
…………何か閃いたようだ。
緊張は最高潮に達している。
どうか、無理難題じゃありませんように。
「…………」
みんなも息を呑んで、来ヶ谷さんのセリフを待っている。
「理樹君」
「は、はイっ!」
緊張のあまり、声がうわずってしまった。
「キミには今日一日女の子として生活してもらう」
「…………はい?」
「正確には、理樹君は今日一日中女装して生活してもらう」
「ええぇぇぇぇーーーっ!?」
「「「キャーーーーッ!!!」」」
女子みんなは、大興奮だ!
「だいじょうぶ~。理樹君、あの時すごくかわいかったよー」
……全然大丈夫じゃない。
「リキにリボンをつけてあげましたっ」
「あの時の理樹は、リボンが似合っていた」
なんともうれしくない感想だ。
「お、オイ理樹。あの時って……お前もしかして女装趣味があるのか?」
こんなときに限って、真人が細かいところに食いついてきた!
「違うよ! あれは無理やり……」
「…………萌え」
「あの時の気持ちをようやく言えました」
ああぁ、西園さん。
「あの時の理樹君は獣だったな。同じ女の子同士揉みしだき合おうぜウエッヘッヘとな」
「理樹くんエロかったよねー鼻血ブーでしたよ」
「理樹。お前の趣味をとやかく言うつもりはないが…自粛はしろよ?」
「わわッ!? 謙吾違うんだ!」
「青春だなっ!」
恭介が親指をビッと立てている。白い歯がまぶしい。
「も、もうそれは置いておいて」
「第一、そんな格好で学校に行ったらマズいでしょ!?」
「安心しろ、理樹」
きょ、恭介!
「校則に『女装して登校してはいけません』なんて項目はないぜ」
あぁ、恭介。そんな助け舟はいらないよ……。
「往生際が悪いぞ。これは決定だ」
ぐいっ、と来ヶ谷さんにつかまれる。
「さあ、おねーさんの部屋でメイクアップだ」
ズリズリとひきずられていく……。
「らるらら~♪」
「わふー! れ~っつ・えんじょい!」
「ほらほらほらほらっ! 理樹くん連行ー!」
「……写真に残しますね」
「わたしも理樹の変身がみたいから行って来る」
――女子に囲まれ、連行されていく……。
「――きょ、恭介! 謙吾! 真人ー!」
最後の抵抗で、必死に親友達に手を伸ばす。
「死地へ赴く理樹へ、敬礼ッ!」
――ビシッ!
恭介の合図で、謙吾と真人、恭介は惚れ惚れするほど綺麗な敬礼をした。
僕が見えなくなるまで彼らは、微動だにすることは無かった……。