花ざかりの理樹たちへ その23 ~学校・午前中編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
「――さっきから真人を見かけないが…どうしたんだ?」
昼休み前の最後の休み時間――。
恭介が思い出したように、僕たちに聞いてきた。
「……あ」
みんな、顔を見合わせている。
「そういえば真人君、おトイレに行ったまま戻ってこないねー」
「も、もしかしたら…おトイレに閉じ込められてしまったのでしょうかっ!?」
「あいつはアホだからな。鍵の開け方がわかんなくなったんだ」
真人の恋の相談役を引き受けた小毬さんとクドと鈴は、よくわかっていなかった!
「ありゃりゃ、あんなにデカイのに気付きませんでしたヨ」
「ふむ、道理でむさ苦しさが半減していた訳だ」
「――なんだ来ヶ谷。残り半分は、俺が真人のようにむさ苦しいとでも言いたいのか?」
「うむ、ムサい上に暑苦しく…そしてウザイ」
謙吾、一瞬で撃沈。
「……井ノ原さんと直枝さんのカップリングは、ちょっと……」
西園さんは「……願い下げです」的な顔をしている。
「恭介、実はね――」
――かくかく、しかじか――
朝のこと、1時間目に真人が教室から飛び出していった事を恭介に説明した。
「――なるほどな」
「つまり真人は理樹にすっかりホの字……恋に落ちちまった、というワケか」
「う、うん……そうみたい」
さすがの僕でも、真人のあの行動を見ていれば察しが付く。
「真人君、理樹ちゃんのこと好きだったですかっ!?」
「わふーっ!? そ、そんな素振は微塵も感じさせなかったのですっ!?」
「なに!? それはほんとにほんとかっ!?」
……本当に今さらな3人組。
「しかも、これが真人の初恋だな」
「えええぇぇぇーーーっ!?」
ぼ、僕が真人の……初恋の相手!?
「なるほど、長い間一緒にいるが…真人には一切浮いた話はなかったな」
謙吾がうんうんと頷いている。
「一人の男の初恋を奪うなんて……理樹ちゃんやりますナー!」
「真人少年の初めては、理樹君か」
「やらせたのは来ヶ谷さんでしょっ!」
「ふむ、たしかに指示をしたのは私だが……理樹君が魅力的すぎたせいではあるな」
……喜べばいいのやら、悲しめばいいのやら……。
「幼なじみの初恋だ。ここはなんとかしてやりたいところだが……」
そう言いながら、恭介は僕のほうを見る。
「ふむ、真人少年が伝説の木の下で理樹君に告白…なんてどうだ?」
「いやいやいや……! 確かに真人のことは大好きだけど、そういうのじゃないし……」
「そうだな。告白されても理樹が困るし、なにより真人の淡い初恋の思い出が…ただの笑い話になっちまう」
周りから「おぉー」と声が漏れる。
恭介の思いやりにみんな感動したようだ。
「……それにマジで結ばれたら、どう接していいかわからん」
タラリと冷や汗を流す恭介。
「それは絶対ないからっ!」
「いえ、意外とお二人はステキなかっぷるになるかもしれませんっ」
「え、遠慮しとくよ……」
「俺は理樹に男らしく理樹に告白して振られたぞ!」
うわっ! どうでもいいところで謙吾が張り合ってきた!
「笑い話になっちまったな」
「どー接していいかわからん」
「ふのおぉぉーっ!?」
恭介と鈴の兄妹コンビの精神ダメージで、謙吾が轟沈した。
「そうだな……真人には恋のはじめの一歩、デートのお誘いに挑戦してもらおう」
「告白は無理だからな。ここら辺がいいところだろ?」
「うん、そうだね」
……確かに告白されても絶対に断るしかないけど、デートの誘いなら…いつもみたいに遊ぶだけならOKしてもいいと思う。
「方法はこうだ」
「まず、真人のところに恋のアドバイザーを送り込む」
「そして恋のアドバイザーは真人にデートの誘い方を教え…理樹にアタックしてもらおう」
「理樹は、真人の誘い方でどうするか決めてくれ」
「つまり真人くんにパフォーマンスを仕込んで、理樹ちゃんに評価してもらうちゅーワケですネ」
「ああ、そういうことだ」
うわっ、アドバイザー次第で真人が良くも悪くもなりそうだ。
「じゃあ、恋のアドバイザーだが――」
「はいはいはいはーい! 私やるーっ!!」
「……はい、私が現実を教えたいと思います」
ハイテンション&ローテンションで挙手をする葉留佳さんと西園さん。
どちらに任せても、惨事は免れそうにない……。
「悪いが、恋のアドバイザーは既に決定済みだ」
「……小毬と能美と鈴に行ってもらおうと思う」
かなり奇抜な人選だ!
「ほわっ!? わ、わ、私ーっ!?」
「こ、恋の相談なんて滅相もないのですーっ!」
「あの馬鹿の世話なんて、やじゃ!」
「ふむ、確か…一時間目が始まる前に『アタイらに任せな』と言っていたな」
――言い方は全然違った気がするけど、確かに言っていた。
「わふー……確かに相談なら任せてくださいと豪語してしまいました~…」
「私もだよー……」
「あ、あたしは言ってないぞ!?」
どうも3人とも、あまり乗り気じゃないみたいだ。
「ん? どうしたんだ、おまえら?」
「これは…おまえらにしか出来ないミッションだぞ」
「ふえぇ…ミッション……」
「よおーし、私がんばるよー」
「わくわくなのですーっ」
「ミッションならやらないこともない」
3人ともとっても単純だった!
「リーダーは小毬に任せる。いいな?」
「任せてよーっ!」
ポンッと胸を叩く小毬さん。
「小毬にはこれを渡しておく」
恭介がいつもの無線機を小毬さんに手渡した。
「わあ、これ一回つけてみたかったんだ~」
小毬さんはうれしそうに無線機を装着している。
「まずは真人を探し出してくれ。まだ学校のどこかにいるはずだ」
「りょーかいっ」
「ラジャー」
「まかせろ」
う、うーん…返事は最高だけど、どこか不安だ。
「……ああ、そうだ」
――来ヶ谷さんが何か思い出したようにゴソゴソしている。
「こんなこともあろうかとコレを入手しておいた」
来ヶ谷さんは2枚の紙を取り出した。
「来ヶ谷さん、これは何でしょうか?」
「筋肉ミュージカルS席チケット、2枚だ」
「わふーっ! 何やら井ノ原さん好みな雰囲気がプンプンと漂っていますっ!」
「うむ、何かに役立ててくれ」
――今さらツッコむのは、もうよそう……。