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花ざかりの理樹たちへ その26 ~学校・午前中編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



『――えー、こほん』

『まずは…私たちをあの子だと思ってデートに誘ってみましょー』

『お、おうよ』

――なんとかさっきまでの騒動は納まり(誤解が解けて)、真人のデートのお誘い練習となった。

『まずは……どうしよね?』

『じゃんけんで負けた人から順番、というのはいかがでしょう?』

『そうだな、負けた奴からだな』

『罰ゲーム扱いじゃねえかよぉぉぉーーーっ!?』

……もちろん3人とも天然なだけで、悪気はないと思う。

「まあ、真人くんだし」

「……私はじゃんけんで負けても嫌です」

「不憫だな…真人」

同情しているのは謙吾だけだ……。



『じゃあ、クーちゃん、私、りんちゃんの順だね』

じゃんけんが終わり、順番が決定した。

『クー公、よろしく頼むぜ』

『はいっ、井ノ原さんのためにも胸をかしましょう』

『え? いやおまえ、胸って言ってもよ……』

真人、大きく勘違い。

『はわわっ!? 井ノ原さん、何を考えているのですかっ!?』

『今のはただの言葉のアヤなのですっ!! 全くぷんぷんですっ!』

『そもそも、世の中ぺったんこが好きな人だっているのですっ!!』

クド、怒る方向間違ってるから……。

「趣味嗜好は人それぞれだからな」

「…………」

「…………」

「…………」

「なっ、なんだよ? た、ただの一般論だからな、今のは」

みんなの冷ややかな視線が恭介に集中していた!





『クー公…いくぜ!』

『ドンと来いですーっ』

『…………』

『……あーえーっとだな……』

『どきどき…』

『ク、クー公…好きだぜ』

うわっ、いきなりデートを飛び越した!

『私も前々から、井ノ原さんのことが好きでしたっ』

『…………』

『…………』

『…………』

『…………』

『え? いっ、いや、これからよっよろしくな』

『ふつつかものですがよろしくお願いします』

『デ、デ、デ、デ、デートしっ、しないか?』

『はいっ、井ノ原さんのお誘いとあればっ』



「え、ええぇぇーっ!?」

いやいや…なんだか成立しちゃってるよ!?

「はっはっは、真人もスミに置けないな」

謙吾はどこかうれしそうだ。

「これで理樹とのデートはなし、ということでいいな」

って、実は真人に妬いてたのっ!?

「そういや、クド公と真人くんってミョーに仲良かったよね」

言われてみると、クドと真人はよく一緒にいるし気があっていた……。

「ロリぷにのクドリャフカ君が筋肉馬鹿のものだと? おねーさんは許さんぞ」

「……能美さんには、まだ恭介さんのほうがいいと思います」

「待て、西園女史。クドリャフカ君の場合、恭介氏のほうがより危険だ」

「……はっ」

「……迂闊でした」

「なんだおまえら、俺がまるでロリコンなんじゃないかな?とでも言いたげだな」

「いや、結構ハッキリ言ってるんだけど……」



――まさか、とみんなが思ったそのとき。

『井ノ原さん、私の演技はいかがでしたかっ?』

『マジでときめいちまったじゃねえかあああぁぁぁーーーっ!!』

クドは知らず知らずのうちに、真人の純情な心を弄んでいた!

「真人くんはやっぱりウブですネ」

「うむ、ウブで単細胞だな」

「……ここまでからかい甲斐がある人も珍しいですね」





『よおーし、次は私だねー』

『おう、小毬。お手柔らかに頼むぜ』

『任せてよ~』

『まずデートにお誘いするときは、自分をあぴーるっ』

『ほうほう…自分をアピールすればいいんだな?』

『うんっ』

『誰でも、とってもステキなところを、たくさん持ってるよね』

『真人君のステキなところをわかってもらえれば……きっとその子ともっと仲良くなれるんじゃないかな』

『仲良くなれば、もーっともーっとお互いのステキなところがわかってくるよね』

『ずーっとずーっと繰り返して、ほら、幸せスパイラル』

『…………』

『やべぇ、筋肉が躍動するほど感動した……』

「俺もすげぇ感動した」

……真人もだけど、恭介も大概単純だなぁ。

「お互いを理解することから愛が始まる――」

「――ということだ、理樹。愛を語り合おうじゃないか」

「……」

「目を逸らさないでくれぇぇぇっ! 理樹ーーーっ!」

うわっ! 謙吾が半ベソになっちゃったっ!?

「……宮沢さん、私は応援してますからね」

ぐっ、と親指を立てる西園さん。

「……うぐっ……ありがとう、西園」

「馬鹿ですネ」

「ああ、馬鹿だな」



『――じゃあ、小毬…行くぜ』

『はいっ』

『…………』

真人が大きく息を吸う。

『小毬、ちょっといいか?』

『なにかなー』

ちなみに小毬さんは棒読みだ。

『まず見てもらいたいものがある』

『うん、なぁに?』

『――ゴソゴソ、ばさぁーーーーーーーーッ!!』

『ひ、ひゃあああああぁぁぁーーーっ!? なっ、なななななんで脱ぐのーーーっ!?』

『オレの筋肉を見てくれえええぇぇぇーーーーっ!!』

『ええええええーーーっ!?』

バ、バカだぁっ!!

『オレと一緒にデートをしませんかああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?』

『ぜぜぜぜっったいやだあぁぁぁーーーっ!!』

『とりあえずこの筋肉のうなりを聞いてくれぇぇぇぇーーーーっ!!』

『う、うわあああああああああんっ!! き、きしょいぃーーーーーーーっ!!』

『わ、わ、わふーーーっ!? へっ、へるぷ! へるぷあすなのですーーーーっ!!』

――無線機から大絶叫と、ドタバタと走り回る音がこだましている!!

『筋肉っ!! 筋肉ぅっ!! 筋肉ぅぅっ!!』

『ひゃあああああああああああっ!?』

『きっ、ききき筋肉が暴徒と化してしまいましたぁーーーっ!?』

『こいつは――…………』

『ふええええぇぇぇぇー……?』

『筋肉革命だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!』

「はんぎゃあああああああああああああああああっ!!?」

『――ばたーんっ!!』

小毬さん全力大絶叫と共に完全に沈黙!



「…………………………」

恭介も謙吾も「やっぱり」と言いたげな顔をしている!

「あははははははあははははははあははははははっ!!」

葉留佳さんは所構わず、転げまわってしまった!

「……あの場にいなくて本当に良かったです」

もしその場にいたら、西園さんも失神していただろう……。

「私は真人少年のこういう単純さが好きだよ」

……来ヶ谷さんには取り分け好評だ。



『こっ、こまりちゃんっ!?』

『このっ――』

『――バシュッ』

土を蹴る音。続いて――

『しねぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!!』

『――バキィィィィィィッ! グシャァァァァァァッ! ドバガァァァァァァッ!!』

『ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー…………』

『………………………………』

これまでで最大であろう真人の断末魔の叫びの後、静寂が訪れた……。





『――こまりちゃん、だいじょうぶか?』

『う、ううう……』

さすがの小毬さんにも相当ショッキングだったようだ……。

『――ふぅっ……だ、だいじょーぶっ』

小毬さんが強がっているのが伝わってくる…。

『真人、こまりちゃんにあやまれっ!』

『……ゴ、ゴメンナサイ、許シテクダサイ』

真人が可哀想なことになっていそうだ……。

『あ、えーっと……』

『うんっ』

『…見なかったことにしよう』

いつかのやり取りだ。

『見せなかったことにしよう』

きっと真人を指差している。

『うん、おっけー』



「…………」

「真人の唯一のアピールポイントが、見事になかったことにされちまったな」

恭介は悲しげな瞳をしている……。

「――ああ、存在そのものが否定されたようだ」

謙吾も「馬鹿ながらに可哀想だ」といった顔だ……。

「真人、お気の毒に」

幼なじみ3人で、真人の冥福を祈ったのだった……。