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『――えー、こほん』
『まずは…私たちをあの子だと思ってデートに誘ってみましょー』
『お、おうよ』
――なんとかさっきまでの騒動は納まり(誤解が解けて)、真人のデートのお誘い練習となった。
『まずは……どうしよね?』
『じゃんけんで負けた人から順番、というのはいかがでしょう?』
『そうだな、負けた奴からだな』
『罰ゲーム扱いじゃねえかよぉぉぉーーーっ!?』
……もちろん3人とも天然なだけで、悪気はないと思う。
「まあ、真人くんだし」
「……私はじゃんけんで負けても嫌です」
「不憫だな…真人」
同情しているのは謙吾だけだ……。
『じゃあ、クーちゃん、私、りんちゃんの順だね』
じゃんけんが終わり、順番が決定した。
『クー公、よろしく頼むぜ』
『はいっ、井ノ原さんのためにも胸をかしましょう』
『え? いやおまえ、胸って言ってもよ……』
真人、大きく勘違い。
『はわわっ!? 井ノ原さん、何を考えているのですかっ!?』
『今のはただの言葉のアヤなのですっ!! 全くぷんぷんですっ!』
『そもそも、世の中ぺったんこが好きな人だっているのですっ!!』
クド、怒る方向間違ってるから……。
「趣味嗜好は人それぞれだからな」
「…………」
「…………」
「…………」
「なっ、なんだよ? た、ただの一般論だからな、今のは」
みんなの冷ややかな視線が恭介に集中していた!
『クー公…いくぜ!』
『ドンと来いですーっ』
『…………』
『……あーえーっとだな……』
『どきどき…』
『ク、クー公…好きだぜ』
うわっ、いきなりデートを飛び越した!
『私も前々から、井ノ原さんのことが好きでしたっ』
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
『え? いっ、いや、これからよっよろしくな』
『ふつつかものですがよろしくお願いします』
『デ、デ、デ、デ、デートしっ、しないか?』
『はいっ、井ノ原さんのお誘いとあればっ』
「え、ええぇぇーっ!?」
いやいや…なんだか成立しちゃってるよ!?
「はっはっは、真人もスミに置けないな」
謙吾はどこかうれしそうだ。
「これで理樹とのデートはなし、ということでいいな」
って、実は真人に妬いてたのっ!?
「そういや、クド公と真人くんってミョーに仲良かったよね」
言われてみると、クドと真人はよく一緒にいるし気があっていた……。
「ロリぷにのクドリャフカ君が筋肉馬鹿のものだと? おねーさんは許さんぞ」
「……能美さんには、まだ恭介さんのほうがいいと思います」
「待て、西園女史。クドリャフカ君の場合、恭介氏のほうがより危険だ」
「……はっ」
「……迂闊でした」
「なんだおまえら、俺がまるでロリコンなんじゃないかな?とでも言いたげだな」
「いや、結構ハッキリ言ってるんだけど……」
――まさか、とみんなが思ったそのとき。
『井ノ原さん、私の演技はいかがでしたかっ?』
『マジでときめいちまったじゃねえかあああぁぁぁーーーっ!!』
クドは知らず知らずのうちに、真人の純情な心を弄んでいた!
「真人くんはやっぱりウブですネ」
「うむ、ウブで単細胞だな」
「……ここまでからかい甲斐がある人も珍しいですね」
『よおーし、次は私だねー』
『おう、小毬。お手柔らかに頼むぜ』
『任せてよ~』
『まずデートにお誘いするときは、自分をあぴーるっ』
『ほうほう…自分をアピールすればいいんだな?』
『うんっ』
『誰でも、とってもステキなところを、たくさん持ってるよね』
『真人君のステキなところをわかってもらえれば……きっとその子ともっと仲良くなれるんじゃないかな』
『仲良くなれば、もーっともーっとお互いのステキなところがわかってくるよね』
『ずーっとずーっと繰り返して、ほら、幸せスパイラル』
『…………』
『やべぇ、筋肉が躍動するほど感動した……』
「俺もすげぇ感動した」
……真人もだけど、恭介も大概単純だなぁ。
「お互いを理解することから愛が始まる――」
「――ということだ、理樹。愛を語り合おうじゃないか」
「……」
「目を逸らさないでくれぇぇぇっ! 理樹ーーーっ!」
うわっ! 謙吾が半ベソになっちゃったっ!?
「……宮沢さん、私は応援してますからね」
ぐっ、と親指を立てる西園さん。
「……うぐっ……ありがとう、西園」
「馬鹿ですネ」
「ああ、馬鹿だな」
『――じゃあ、小毬…行くぜ』
『はいっ』
『…………』
真人が大きく息を吸う。
『小毬、ちょっといいか?』
『なにかなー』
ちなみに小毬さんは棒読みだ。
『まず見てもらいたいものがある』
『うん、なぁに?』
『――ゴソゴソ、ばさぁーーーーーーーーッ!!』
『ひ、ひゃあああああぁぁぁーーーっ!? なっ、なななななんで脱ぐのーーーっ!?』
『オレの筋肉を見てくれえええぇぇぇーーーーっ!!』
『ええええええーーーっ!?』
バ、バカだぁっ!!
『オレと一緒にデートをしませんかああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?』
『ぜぜぜぜっったいやだあぁぁぁーーーっ!!』
『とりあえずこの筋肉のうなりを聞いてくれぇぇぇぇーーーーっ!!』
『う、うわあああああああああんっ!! き、きしょいぃーーーーーーーっ!!』
『わ、わ、わふーーーっ!? へっ、へるぷ! へるぷあすなのですーーーーっ!!』
――無線機から大絶叫と、ドタバタと走り回る音がこだましている!!
『筋肉っ!! 筋肉ぅっ!! 筋肉ぅぅっ!!』
『ひゃあああああああああああっ!?』
『きっ、ききき筋肉が暴徒と化してしまいましたぁーーーっ!?』
『こいつは――…………』
『ふええええぇぇぇぇー……?』
『筋肉革命だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!』
「はんぎゃあああああああああああああああああっ!!?」
『――ばたーんっ!!』
小毬さん全力大絶叫と共に完全に沈黙!
「…………………………」
恭介も謙吾も「やっぱり」と言いたげな顔をしている!
「あははははははあははははははあははははははっ!!」
葉留佳さんは所構わず、転げまわってしまった!
「……あの場にいなくて本当に良かったです」
もしその場にいたら、西園さんも失神していただろう……。
「私は真人少年のこういう単純さが好きだよ」
……来ヶ谷さんには取り分け好評だ。
『こっ、こまりちゃんっ!?』
『このっ――』
『――バシュッ』
土を蹴る音。続いて――
『しねぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!!』
『――バキィィィィィィッ! グシャァァァァァァッ! ドバガァァァァァァッ!!』
『ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー…………』
『………………………………』
これまでで最大であろう真人の断末魔の叫びの後、静寂が訪れた……。
『――こまりちゃん、だいじょうぶか?』
『う、ううう……』
さすがの小毬さんにも相当ショッキングだったようだ……。
『――ふぅっ……だ、だいじょーぶっ』
小毬さんが強がっているのが伝わってくる…。
『真人、こまりちゃんにあやまれっ!』
『……ゴ、ゴメンナサイ、許シテクダサイ』
真人が可哀想なことになっていそうだ……。
『あ、えーっと……』
『うんっ』
『…見なかったことにしよう』
いつかのやり取りだ。
『見せなかったことにしよう』
きっと真人を指差している。
『うん、おっけー』
「…………」
「真人の唯一のアピールポイントが、見事になかったことにされちまったな」
恭介は悲しげな瞳をしている……。
「――ああ、存在そのものが否定されたようだ」
謙吾も「馬鹿ながらに可哀想だ」といった顔だ……。
「真人、お気の毒に」
幼なじみ3人で、真人の冥福を祈ったのだった……。
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