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花ざかりの理樹たちへ その54 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



「――女装?」

「うん」

僕は、今朝恭介が王様ゲームを始めたこと、僕が敗者となって女装させられたことを簡単に説明した。

「そうだったんだ…」

「さっきから女装していることを忘れて大変な目にあってるけどね……」

「……直枝くん」

「なに?」

「あ、あの、そ、その……」

また目をそらしてモジモジとしている。

「か……か、か……」

「か?」

「可愛い…よ」

そこでカーッと赤くなる杉並さん。

「……あはは……ありがと」

なんとも嬉しくない褒め言葉だった!

「…………」

「…おっきい…」

「だから、胸もパッドだからっ!」

本当にわかってるのか心配になってきた…。





「ところで――僕に用って?」

「え……?」

「あ、そ、それは……」

またオドオドとしたけど――

「……私だって頑張れば……」

うつむき加減の杉並さんから、そんなつぶやきが聞えた気がする。

ゴクリと生唾を飲み込んだ後。

杉並さんが意を決したように顔を上げた。

真剣な眼差しが僕に向けられる。



「私……」

「いつも直枝くんたちを遠くから見てました…」

「みんな、とても楽しそうで…」

「直枝くんはそんなみんなの中心で、いつもとっても輝いてて…」

「それで…わ、私…」

「そ、それで……」

口元に軽く握った手を当てて、オドオドとし始めた。

「だ、だから…………」

「………………」

朱に染まった顔を下に向ける。

「………………」

「や……っ」

「やっぱり…無理っ」

「……え?」

「やっぱり無理……っ」

どうしたんだろう?

「ご、ごめんなさいっ! 今日のことは……今日のことは…忘れてくださいっ!」



――ダッ!



突然、そんなことをまくし立てて言うと、杉並さんは一目散にドアに向かって駆け出した!

「あ、ちょっと、杉並さんっ」

僕の制止も聞かず、そのままドアを開けて飛び出そうとしたが…。



――ドッスン!



「キャッ!?」

「おっと」

杉並さんが誰かとぶつかって、抱きかかえられていた。

「いくら人気のない場所でも、突然飛び出すのは怪我の元となるぞ」

「く……来ヶ谷さん!?」

来ヶ谷さんが杉並さんをしっかりとキャッチしていた。

「は、放してくださいっ!!」

来ヶ谷さんを振り切ろうともがく杉並さん。

「放してもいいが……」

「いいのか? このまま行ってしまっても」

「――!?」

動きが止まった。

「――悪いが、先ほどから話が聞こえてしまってな」

「!!」

杉並さんの顔が一気に赤くなる。

「ちょっといいか」

来ヶ谷さんが杉並さんの耳元に口を近づける。

「え、い、嫌っ! や、やめてください来ヶ谷さん!!」

「おかしなことはしない」

問答無用の来ヶ谷さん。

「け、けどっ」

「……ボソボソ……ボソボソ……」

来ヶ谷さんが何かをつぶやいている。

「あの! ちょっと――……え?」

あ、杉並さんが急に大人しくなった。

「……ボソボソ……理樹君に……ボソボソ……上手く……手を貸す……」

いったい何を話してるんだろう?

来ヶ谷さんが顔を上げる。

「――どうだ? キミには悪くない話だと思うが」

「は、はい…けど、本当にいいんですか…?」

「ああ、もちろんだ」

「え、じゃあ――」

表情がパッと明るくなる杉並さん。

「だが」

そこで言葉を切った。

「もちろんそれ相応のリスクを負ってもらうが」

「リ、リスク……?」

すぐに困惑の表情になった。

「虎穴にいらずんば虎児を得ず、と言うだろう?」

「なあ、理樹君」

「え?」



――まるで獲物を見つけたオオカミのような来ヶ谷さんの目が、杉並さんと、そして僕を捕らえていた。