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「れっつ・着替えたーいむっ、なのですっ」
元気いっぱいに飛び上がるクド。
――男子の着替え教室を飛び出して、女子の着替え教室に来たのはいいけど…みんなもまだ制服姿だった。
どうやら僕のことを待っていたようだ。
「理樹ちゃんも一緒にお着替えしましょー」
「理樹、はやくしないと体育に間に合わなくなるぞ」
「そ…そうだけどっ」
小毬さんも鈴も、僕が男だということを忘れているんじゃないかな…。
今はこんな格好をしているけど、僕だって男だ。
目のやり場に困るじゃないかっ!
「……どうしたのですか、直枝さん? 顔が真っ赤ですよ」
「……同じ女性同士なのですから恥かしがることなんてありません」
心配そうな口調の割には、いたずらな笑みを浮かべている西園さん。
もしかしたらSッ気スイッチが入ったのかもしれない。
「もっと、うぇっへっへっこいつぁいい目の保養になるぜイヤッホイ最高だぜとはしゃがないのか」
「そんなはしゃぎ方しないからっ」
「何ならおねーさんのこの大きな胸を揉みしだくか?」
来ヶ谷さんはちょっと胸を寄せ気味にして強調している。
「え、遠慮しとくよっっ!」
「ふむ、ならば私が鈴君の胸を揉みしだくとしよう」
「なんでそうなるんじゃーっ」
「ふかーーーーっ!!」
来ヶ谷さんは間違いなく僕と鈴があたふたする姿を楽しみたいだけだ!
「リキ、顔がまっかっかなのです」
クドに顔をぺちぺちとされる。
「~~~っ」
ここは、みんなに背を向けていた方が良さそうだ…。
着替えようとすると。
「よぅし、体育がんばるよー」
その言葉に何気なく小毬さんのほうを向いてしまう。
「うんしょ、うんしょっ」
――スス~っ
小毬さんは無防備にもスカートから脱いだ!
「わっ、うわわわっ!?」
急いで目を逸らそうとしたが…ついつい目が言ってしまう!!
「こ、こっ小毬さんっ、ちょっと――」
あたふたする僕。
「ふぇ…理樹ちゃんどうしたの?」
「…………」
小毬さんは下にハーフパンツを履いていた。
「あ、いや…」
肩にポンと手を置かれる。
「理樹君どうしたのだ、先にハーフパンツを履いてからスカートを脱ぐのは常識だぞ」
「もしや…何かを期待でもしていたのか?」
来ヶ谷さんがニヤニヤとしている。
「そ、そ、そそそんなことないよ」
「ほほう、純情ぶってやはり中身はエロエロのようだな」
「エ、エロくないよっ!」
「はっはっは、エロいことは何も悪いことではないぞ」
「おねーさんはエロ過ぎて自制が利かないくらいだからな」
お願いですから自制してください。
「なんだ、理樹はえろいのか?」
鈴まで興味津々で首を突っ込んでくる。
「ち、違うよっ!」
鈴の方を向くと…既に体操服に着替え終わっていた。
鈴はもう着替え終わっちゃったんだ…。
…………。
……。
うわっ、ガッカリしてしまった!!
肩にポンと手を置かれる。
「……直枝さん、体育の日は制服の下に体操着を着込んでくるのが常です」
「もしかして…何かを期待していたのですか?」
「あまつさえ幼なじみの鈴さんの下着姿を期待していたとか」
とってもドSな笑みの西園さんがそこにいた!
「うにゃっ!?」
鈴がビクリと反応し、チリンと音を鳴らす。
「りっ、りっ理樹はあたしの…その…パンツとかが、み、見たかったのか?」
「……わ、悪いがさすがにそれは恥かしすぎてできない」
僕から視線をはずし、赤い顔でそっぽを向く鈴。
「ち、ち、違うよ! 全然見たくないよっ!!」
「なにっ、見たくないのかっ!?」
「えぇーっ!? あ、いや…それはその…」
なんでそんなこと聞いてくるのさっ!
僕の気持ちを余所に、鈴は食いついてくる。
「見たいのか見たくないのかはっきりしろっ」
「……それはつまり、直枝さんに下着を見てもらいたいのですね?」
その時、西園さんからクールなツッコミが。
「うにゃ!?」
「ちっ違うっ! そーいう意味じゃないっ見せたいわけあるかっ!!」
鈴が大慌てで全力否定する。
「ふ、ふえぇぇ…りんちゃんだいたん…」
「はっはっは、女心とは解し難いものだ。理樹君も覚えておくといい」
「私も鈴さんのように積極的なあぷろーちをしてみたいのですっ」
「みんな違うっ! 今のは理樹が見たくないって言ったから何で見たくないのかって聞いて見たいのか見たくないのか気になって……」
「うみゅみゅ~…」
うわっ、鈴の頭がプスプスと言い出した!
「う~~~」
「う…うっさいうっさいうっさーーーいっ!! ふにゃーーーっ!!」
「理樹はえろえろだっ!! 理樹のえろえろ星人ーーーっ!! 理樹のえろりんこ大魔王ーーーっ!!」
「ええええええーーーっ!! 悪いの全部僕ーーーっ!?」
すっかり逆ギレされてしまった!
――鈴も落ち着き、再びみんな着替えに戻った。
「……困りました」
西園さんは、上は体操服だが下はまだスカート姿だ。
「……スカートのファスナーが布を噛んでしまい、開きません」
西園さんがいくら引いてもファスナーは動かない。
「みお、あたしにかしてみろ」
「……お願いします、鈴さん」
――グイグイ、ぎゅっぎゅっ!
「うーみゅ…ぜんぜん動かない」
鈴もファスナーをいじるが、一向に開きそうにない。
「どれ、僕がやってみるよ」
「……助かります」
――ぐいっぐいっ!
「あ、あれ?」
「……どうでしょうか?」
「しっかりと噛んじゃってるみたいだ」
意外と固い。
これは本腰を入れなければ、開きそうにない。
僕は西園さんの前にしゃがみこみ、真剣に取り組む。
「もうちょっと待っててね」
西園さんを見上げて、声をかける。
「……はい」
そうは言ったものの、ファスナーはなかなか動かない。
僕がファスナーと格闘していると、西園さんの手が僕の髪を結っているリボンに掛かる。
――きゅっ、きゅっ
西園さんがリボンを整えてくれている。
「はは、ありがとう」
「……いえ、手持ち無沙汰だったもので」
丁寧にリボンを直している振動が頭に伝わってくる。
その優しげな振動が心地良い。
まるでお姉さん…そう言った感じがする。
「……こうしていると、まるで……」
西園さんが目を細める。
「うん?」
西園さんも似たような思いを持ったのだろう。
「……女王様と犬、のようです」
「ぶっ!?」
彼女とは大きく価値観が違うようだった!
「もちろん直枝さんが…はぁ…」
まるでおいしそうなものを見るような…妖しげな瞳が僕の方に向けられている!
「女王様とお呼び……ぽ」
「いやいやいや!」
「……冗談です」
「全く冗談に聞えないよっ!」
――がしょっ、シューッ!
ツッコんだ拍子にファスナーが開いた!
ファスナーを下ろした勢いで、スカートを押さえていたもう片方の手からスカートがすり抜ける。
西園さんの両手はまだ僕の頭の上だ。
――ストンっ
西園さんのスカートがそのまま真っ直ぐに下に落ちる。
「あ」
「はっ…」
そこにはハーフパンツ……はなかった!
…………。
――視界全体に、西園さんのスラリと伸びる白く細い脚と薄水色の下着が映る。
「…………」
「…………」
西園さんは僕のリボンに両手を掛けた状態で固まっている!!
僕も驚きのあまり、しゃがんだまま注視している様な格好だ!
「……きゃゃ……」
西園さんの顔を見上げると、大きな瞳をさらに大きく見開いて驚いている!
「……あ、いやっ」
「…………っっ」
まさに全身の血が昇っている、という勢いで西園さんの顔が赤くなっていく!
「……ご、ごっ」
謝ろうとしても声にならなかった!
「ゃ、ゃ……」
じりじりと西園さんが後ろに移動する。
「ゃぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
西園さんの全身が上気している!!
体操服の裾を両手で目いっぱい伸ばし下着を隠す!
「ご、ごめんっ!!」
「っっっ~~~~~!」
「そ、そのホントにゴメンっ!」
「あ、謝っていないで早く向こうを向いてくださいっっ!」
「ハ、ハイッ」
僕はそそくさと西園さんの反対側に顔を向ける。
顔を向けた先には――
「今日という日は、何と言う素晴らしき日なのだ……」
恍惚とした表情で別世界にトリップしてしまっているおねーさんが突っ立っていた…。
「くるがやのやつ、みおのパンツ見てから動かなくなったぞ」
「わふー…何をしても反応がないのです」
「よし、鼻からジュースを飲ませてみよう」
「ほわっ!? ダメだよりんちゃん~っ」
鈴とクドはここぞとばかりに、来ヶ谷さんをつつき回していた。
「――もう大丈夫です」
その声に振り返る。
西園さんの着替えが終了していた。
顔は…まだトマトのようだ。
…僕と目を合わせようとしない。
「ごめん…てっきりハーフパンツを履いてるものだと思って…」
「……とても、とてもはずかしかったです……」
まだ体操服の裾をきゅっと掴んでいる。
「……今のは私に落ち度がありました」
「……先程から直枝さんをからかう事にばかり気を取られてしまい、すっかりと忘れていました……」
どうやら怒っては…いないようだ。
西園さんは頬を朱に染め、横目で僕をチラリと見る。
「責任…取ってくださいね」
「……プロポーズお待ちしていますから」
「え、えぇぇぇーっ!?」
代償はものすごく大きかった!!
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