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花ざかりの理樹たちへ その41(前編) ~学校・午後編~ (リトルバスターズ)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。

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――たったったったっ

規則正しい足音と、呼吸の音だけが聞える。



ここは校外に設置されたマラソンコースだ。

緑に囲まれた幅の広い並木道となっている。道路とは接していない。

僕は今、そこを一人で走っている。

昼下がりの時間帯は出歩く人もいないのか、辺りは静けさに包まれている。

「…………」

一人で淡々と足を進める。

いつもだったら隣で真人と謙吾がケンカを始めるところだ。

…ゴールが果てしなく遠くにある気がする。

――たったったったっ

相変わらず規則正しい足音と、呼吸の音だけが耳を刺激している。





「――理樹ちゃ~んっ」

さっきまでの静けさを打ち破る声が響く。

「あ、小毬さん」

ついつい嬉しくて立ち止まってしまう。

「ふぅ~、ようやく追いついたよー」

僕の隣に並ぶ小毬さん。

「理樹ちゃん、おつかれ?」

「え? いや、疲れてないよ」

…実は寂しかったなんて、恥かしくて言えない。

「私も野球のおかげで体力ついたみたいだよー」

握りこぶしを作って、軽くガッツポーズをする小毬さん。

体育が始まる前は憂鬱な顔をしてたけど…結構走れて嬉しいみたいだ。

「ほわっ、そうだっ」

「ど、どうしたの?」

「はいっ」

突然挙手する小毬さん。

「はい、小毬さん」

取り合えず指名する。

「今から、理樹ちゃんを笑わせたいと思いますっ」

わざわざ手を挙げて宣言するなんて、小毬さんらしい。

「ようしっ、がんばるよー」

「じゃあ、今からおもしろいことをするので見てください」

「うん」

僕は立ち止まり、小毬さんは僕の前に移動する。

小毬さんは一体何をするんだろう?

「いくよー」

「……すぅっ」

小毬さんが大きく息を吸った。

「うぃ~~~っ」

――ぷるぷるぷる~っ

いきなり変な声を出しながら両腕をすぼめ、肩を揺らす。

「うぃ~~~っ」

――ぷるぷるぷる~っ

もしかしてこれは…。

「理樹ちゃんとー、一緒に手をつなぎたい――」

「だけど理樹ちゃんも私も女の子っ」

「でもっ、そんなのかんけーねーっ」

――ぽむっぽむっぽむっ!

「でも、そんなのかんけーねーっ」

――ぽむっぽむっぽむっ!

小毬さんは手をくいっくいっと振って、可愛らしく地団太を踏む。

「はいっ、おっぱっぴ~」

そして変な決めポーズ!

「……」

ツッコミどころ満載の上に面白くないよっ!

「どうかな~?」

そんな僕の気持ちとは裏腹に、小毬さんはやりきった~という満足気な顔をしている。

う…小毬さんの顔を見るとはっきりと「面白くない」なんて言えないっ。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

場になんとも言えない空気が流れる。

「……ごめん、小毬さんっ」

耐え切れなくなって目を逸らした。

「が、がーん…」

「ぜったいおもしろいと思ったのに…」

「私なんて思いついたとき、ついつい笑っちゃったよー」

「――はっ」

急に鋭く息を飲む。

「?」

「やっぱり……脱がなきゃダメ?」

「ぶっ!!」

つい吹き出してしまった!

「いやいやいや!! そんなことしちゃダメだからねっ!」

学習能力が高いのも考え物だっ!

「あぅ…理樹ちゃんを笑わせれなくてざんねん」

ルールだと、小毬さんはここで立ち止まって30秒数えなきゃいけない。

「じゃあ…僕は先に行くね」

「うん、次はがんばるよー」

ゆっくりと数を数える小毬さんを置いて、僕はまた走り始めた。



――たったったっ

後ろから誰かが迫ってきている。

「……はっ…はっ…はっ……ま、待ってください」

西園さんだ。

息も絶え絶えに女の子走りでこちらに向かってくる。

僕は立ち止まり、西園さんが追いつくのを待った。

「――はぁ…はぁ…はぁ……」

僕に追いついた西園さんは、膝に手を当て肩で息をしている。

「わ、わたしより早く走られたら追いつけないじゃないですか」

いやまあ、鬼ごっこだし……。

「疲れたので少し歩きましょう」

「う、うん」

二人並んで歩き出す。

「――直枝さんは、恭介さんといるときは…やはり受けですか?」

西園さんが変なことを聞いてくる。

恭介といるとき…遊ぶときのことかな?

恭介と缶ケリとかをやるときは、なぜか恭介は僕をオフェンスに回すんだよね…。

「うーん、どちらかと言えば…攻め、かなぁ」

「……直枝さんが攻め、ですか!?」

よくわからないけど、頬を染めて嬉しそうに驚いている西園さん。

「弟のように可愛がってきた直枝さんに突然恭介さんは……それはそれでアリです!」

妙に興奮している気がする。

「あ、謙吾と組む場合は逆かな」

謙吾の場合は、謙吾が打って出て僕が後方に回る。

「……スタンダードですが、それもまた良いかと思います」

「真人は……」

「いりません」

なぜか真人の時は怒ってるし。

「――西園さんは、僕を笑わせようとしないの?」

「…………」

「…………」

「……はっ」

「……もしかして」

「……はい、すっかり忘れてました……」

モジモジとする西園さん。

「困りました」

少し照れている西園さんの様子が可愛らしい。

「……では、すみませんが先に行ってください」

「私は面白いことが思いついてから追いかけますので」

顔を手で隠しながら、ゆっくりと数を数える西園さんを置いて、僕はまたマラソンコースを走り始めた。

……西園さんは一体何を知りたかったんだろ?





しばらく走ると。

――……ズダダダダダダダーーーッ

「――フハハハハ!!」

後方から猛烈なスピードで高笑いが近づいてくる!

これは明らかに来ヶ谷さんの声だっ!

まずい!

来ヶ谷さんに捕まれば…手を握られるだけでは済みそうもないっ!

「フハハハハハハハハハハハ!!」

高笑いの恐怖に駆られ、つい後ろを振り向いてしまう。

そこには……。

来ヶ谷さんだと思って見たその姿は……。

ゴルバチョフだ!!

ゴルバチョフのマスクを被った女子高生が高笑いを上げながら追いかけてくる!!

こ、こ、怖いっ!!

「フハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

――ズダダダダダダダダダダダダダダダーーーッ!!

「ひ、ひ、ひやぁぁぁーーーっ!?」

今まさに、無駄にナイスバディなゴルバチョフが、高笑いを辺りに響かせながら、猛烈スピードで僕に迫らんとしているっ!!

「うわわわわわわわわーーーっ!!」

わけがわからない恐怖になりふり構わず全力で逃げる!

だが、ゴルバチョフとの差は縮まる一方だ!

再度僕は後ろを見る。

…あれ、誰かをおぶっている?

よくよく見ると、ダイナマイトボディのゴルバチョフが誰かをおぶって走っている。

――ひょこっ

おぶられている人がゴルバチョフの横からひょっこりと顔を覗かせる。

って…!?

フルシチョフだ!!

フルシチョフがゴルバチョフにしがみついて、ちょっと恥かしそうにこちらを見ている!!

「フハーーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドーーーッ!!

何が何だかわからないけど、スタイル抜群のゴルバチョフがフルシチョフをおぶって高笑いを上げながら僕を捕まえようとしているっ!!

「やぁぁぁーーーっ!!」

――ぺたんっ

あまりの恐怖に、座り込んでしまった!

目の前でフルシチョフを背負ったゴルバチョフが停止する。

「うむ、タッチだ」

「……タッチです」

座り込んだところをゴルバチョフとフルシチョフにタッチされた。

「今の理樹君の悲鳴、興奮モノだったぞ」

「……反応もまさに女性のそれでした…ぽ」

口に手を当て興奮しているゴルバチョフと、両頬に手を当ていやいやとしているフルシチョフ。

「って、来ヶ谷さんと西園さんっ!」

今ゴルバチョフのマスクを被っているのが来ヶ谷さんで、フルシチョフのマスクを被っているのが西園さんのようだ。

「なんで来ヶ谷さんが西園さんを背負ってたの?」

「ふむ、道端で拾った」

「……拾われました」

「いや、猫じゃないんだから…」

恐らく西園さんは疲れて座り込んでいたのだろう。

「ああ、そうだ」

「恭介氏からのお達しだ」

「え、何?」

「理樹の手は二つある。二人で組んでも手はつなげるだろ、だそうだ」

…どうやらチームプレイのルールが追加されていたらしい。

「早速だが私が右手、西園女史が左手をつなぐとしよう」

僕の手を取って立ち上がらせてくれる来ヶ谷さん。

「ありがとう…って、ちょっと待って」

「…僕、まだ笑ってないからね」

さっきのはどんなに大目に見ても悲鳴だ。

「言われてみればそうだな」

「……そういうルールでしたね」

来ヶ谷さんが、ふむと考え込む。

「よし、理樹君――」

「さっさと笑え」

命令だった!

「いやいやいや、それダメだからっ!」

「なにぃ、絶妙なツボを突いたマスクをチョイスしたはずなのだが」

「……やはり、ソ連という選択が今ひとつだったのではないでしょうか?」

そこは問題じゃないと思う。

「ならば、西園女史はこちらの麻生を被ってくれ。私は中曽根を装着するとしよう」

「……これはイケます」

「いや…それもどうかと思うよ…」

セレクトが微妙な上に、なんでそんなにオッサンの顔を持ってるか気になるところだ。

「なら金か? 金がいいのか?」

「それはいろいろとマズいと思うよ…」

「なんだ、理樹君は少々ワガママすぎるぞ」

マスクネタから離れようよ…。

「……来ヶ谷さん、どうしましょう?」

「こうなってしまった以上、仕方あるまい」

来ヶ谷さんの雰囲気が変わった。

「……まさか」

西園さんが息を呑む。

「――西園女史、第2案に移行するぞ」

来ヶ谷さんが意を決したように言い放つ。

「しかし第2案はリスクが……」

「…………」

「……わかりました」

西園さんは背中に手を回し、何かを取り出した。

「!!」

西園さんの手には鈍く黒光りする――銀玉鉄砲が握られていた!

「い、一体何をする気なの!?」

「……最初のプランが失敗したときのための、第2案です」

「フリーズ、動くな。両手は頭に置くんだ」

「う、うん」

来ヶ谷さんに言われたとおり両手を頭の上に置く。

「……助けを呼ぼうとしたら、鉛玉が心の臓を貫きますよ」

この二人は一体何をしようというんだろう…?

「いい子だ。理樹君が素直になったところで――」

来ヶ谷さんが僕にスポーツバッグを差し出す。

「これは?」

何かすごく嫌な予感がする……。

「今すぐこのスポーツバッグにキミの汗が染み込んだ体操服を入れるのだ!」

「……ブルマも忘れずに入れてくださいね」

「ええええええーーーっ!?」

まさか今のご時勢に追いはぎに合うとは思わなかった!!

「どうした? 早く脱いでくれ」

「……観念した方がいいと思います、直枝さん」

「いやいやいや!! そもそも今脱いだら何着て走ればいいのさっ」

「誰かに見られていないか追いついてこないか、下着姿でモジモジと恥じらいながらマラソンコースを走るといい」

言ってることがむちゃくちゃだ!

「……だいじょうぶです。わたしたちは少し離れたところから直枝さんの恥じらう様を見守ってます」

目を爛々と輝かす来ヶ谷さんと西園さん。

超ドSコンビが手を結ぶとここまで手がつけられないのかっ!!

「理樹君、そう心配するな。スポーツバッグに代えのジャージを入れてある」

「……わたしたちの目的は直枝さんの脱ぎたての体操服を手に入れることですから」

「あ、ホントだ」

スポーツバッグを開けるとジャージが入っていた。

「うん、これなら…って、そういう問題じゃないでしょっ」

「安心してここで着替えしてくれ。今なら私達だけだ、誰も見ていない」

「……わたしたちなら先程も見たので恥かしがることはありません…ぽ」

言ってるそばから鼻息が荒い二人。

「あと、そうだな……3分もしたら誰か来てしまうぞ?」

「け、けどっ」

「……はっ、もしや恭介さんや他の方にも、自分が脱いでいる様子をじっくりと舐める様に見てもらいたいとか……」

「そ、そんなことないよっ!」

「ならば、早くおねーさんに脱ぎたてホヤホヤの体操服を渡してくれ」

「……後生大事にします」

「「さあ、さあ、さあ!」」

二人がグイグイと寄ってくる!

「うわわわわ……」

ぼ、僕は一体どうすればっ!

そのとき――

「――ふのおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!」

後ろから誰かが迫ってくる声が聞えた。

今の僕にはまるで天使の歌声にさえ聞える!

「チッ、予想以上に早く人が来てしまったようだ」

「西園女史、撤退だ」

「……はい」

「直枝さん、わたしたちは直枝さんの体操服を諦めたわけではありませんので」

「せいぜい夜道には気をつけることだ」

「――フハハハハハハハハハーーー――……」

――ズダダダダダダダダダダ――……

来ヶ谷さんは西園さんを再び背負って、悪役のような捨て台詞を残し走り去っていった…。

今さらだけど……。

「あの二人、このゲームの趣旨をわかってるのかなぁ……」





「ふのおおおおぉぉぉーーーっ、理樹ぃーーーっ!!」

謙吾が僕に追いついた。

「謙吾ーっ」

謙吾のおかげで、さっきの追いはぎから難を逃れられて顔もほころぶ。

「むぅ…!?」

僕の顔を見て、謙吾がたじろいだ。

少し顔が赤くなっている。

「と、とても嬉しそうな顔をしているが…どうしたんだ?」

何かを期待しているような謙吾の目。

「謙吾が来てくれたからだよ」

「なにっ!!」

謙吾を見上げながらそう言う。たぶん僕の今の顔はホクホクの笑顔だ。

耳まで真っ赤になる謙吾。

「そ、そ、それはつまり…お、俺に会えてうれしい……ということか?」

「うんっ、めちゃくちゃうれしいっ」

謙吾が来てくれなかったら、今頃身包みを剥がされていたところだ。

そんなこともあり僕の全身から嬉しさがにじみ出ている。

「んぬっ、ぬっ、ぬっ……」

謙吾の体から蒸気が上がりそうなほど真っ赤になっていく!

「け、謙吾…?」

挙動がおかしい謙吾の顔を覗き込む。

「り、理樹、おまえも俺のことを愛――……」

「ブふッ!!」

「うわわわわわっ!? 謙吾また鼻血ーっ!!」

「ああ、もうっ! ほら謙吾、ちょっと顔寄せて」

「むぅ…すまない」

謙吾の鼻にティッシュを詰め込む。

「おまえの気持ち、確かに受け取った」

「き、気持ち?」

別にティッシュに気持ちなんて込めてないけど。

「おまえの気持ちに応えるためにも、この勝負は負けられんな」

えーっと、何のことを言っているのかよくわからないけど…燃えているようだ。

「存分に俺のネタで笑ってくれ、理樹!」

「う、うん」

謙吾が僕の前でポーズを取る。

雑誌で男性モデルが取るようなポーズを、剣道着の謙吾が決めている。

鼻からティッシュがはみ出ている点を除けばカッコイイと思う。

「何か気付かないか?」

「……?」

これと言って変わったところはない。

「これだ、これ」

しきりに剣道着をアピールしている。

「…何か違うの?」

「気付かないのか。ならば仕方ない、教えてやろう」

「こいつは――」

「体育用の剣道着だぁぁーっ!!」

バーーーンッと剣道着をアピールしたポーズを決める謙吾!

「えええぇぇぇーっ!?」

「いつもの剣道着、アレは実は授業用の剣道着だ」

謙吾の剣道着にそんな秘密があったなんて知らなかった!!

「おまえと一緒に買い物しに行くときがあるだろ?」

「うん」

「いつも見惚れていると思うが…アレはジョルジオ・アルマーニの剣道着だ」

「ブランド物だったのっ!?」

「ちなみに……」

「夜寝るときは、パジャマ用のストライプの剣道着を愛用している。手作りリトルバスターズ・ナイトキャップを被ってな」

「ええええぇぇぇーーーっ!! そんなの着て寝てるのっ!?」

「無論だ」

「…………」

もう唖然として声が出ないよ、僕…。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「理樹」

「な、なに?」

謙吾がたらりと汗を流す。

「…笑わないのか?」

「……あ」

そういえば、謙吾は俺のネタで笑ってくれって言ってたんだ!

今の謙吾ならありえそうで、ついつい信じてしまった!!

「そ、そうだよね! うんうん、いくら謙吾でもストライプの剣道着なんて着て寝ないよねっ」

急いで取り繕う。

「……? 理樹、何をおかしなことを言ってるんだ?」

「ストライプの剣道着じゃなきゃ、俺は眠れない」

「それはホントなんだ!!?」

「ツッコむなら「あははははは、元々剣道着は運動するための服でしょ、体育用の剣道着ってなんだよそれっ!? あはは」だろ」

って、そっちーーーっ!!?

「くっ、渾身のネタだったんだが……無念だっ」

謙吾の場合、普通に会話をしているほうが笑えそうだ…。


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