ミディの放浪日記 Prologue 分かれた道-the first step-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
<ミディの放浪日記リスト>次回
第0枠 分かれた道
テインツからラクソールへ続く道を歩く。
週末になると、私は、先生の身の回りのお世話のため、ラクソールまで行く事にしている。
数年前、先生は身体を壊した。
若い頃は兵士として数々の戦果をあげ、
戦線を退いてからは実体験に基づいた歴史の講義を行っていた先生。
講義は、聞いていて面白いものだった。
時折、身振り手振りを加えたりしたし、
時には、その当時を思い返したのか暗い表情になったりした。
でも、ひと個人の歴史は短いもので。
今まで健康体で通してきた先生も、老いには勝てない。
初めはただの風邪だと思っていたが、そうではなかったらしい。
病気に詳しい訳じゃないから良くは分からないけど、
年齢と体力を考えると、安静にしているのがいいらしい。
先生は今日もまた愚痴るのかな。
お手伝いさん達は耳にタコみたいだけど、
私は、できるだけ話は聞くように心掛けている。
…つもり。
話す事で、少しでも発散になればいいと思う。
前は戦争の時の話を延々とされたな…。
すいっ。
「…え?」
すれ違うはずの無い人影。
考えながら歩いてたから顔は見えていなかった。
でも…すれ違って、振り返って人影を見てみると…。
…小さい。子供?女の子?
あんな子が一人でこんな、人気の無い道で、どうして。
どうして、一人で歩いてるの?
「ちょっと…待って!」
思わず呼び止める私。
聞こえていないのか、聞いていないのか、女の子は変わらずに歩いていく。
「ねえ、待って、ってば…」
距離を詰めて呼びかけると、女の子はやっと振り向いてくれた。
木漏れ日を受けて光る奇麗な金色の髪と、透き通るような蒼い瞳。
「…わたし…?」
その声は震えていた。
それもそうよね。
人気の無い所で、見知らぬ人に声をかけられれば私だって警戒する。
…でもこの子の声、警戒と言うより、怯えてるように聞こえる。
「そう、あなたよ」
私は少しずつ、女の子に近寄っていく。
女の子の方は、その場から動かない。
…私を怖がって、動けないのかも知れない。
蛇に睨まれた蛙のような状態なんだろうか。
「ねえ?」
目の前に屈んで声を掛ける。
「…?」
「どうして、こんな所を一人で歩いてるの? 危ないわよ?」
「…。」
黙りこくる。
「どこかに行くの?」
「わかんない」
分からない?
「分からない…って?」
「わたし、さがしものしてるの」
「探し物?」
「うん」
「何を探してるの…かな?」
「…。」
黙る。
「教えてくれない…か」
こくり、頷く。
「じゃあ、内緒の事だから、大切なものなのかな?」
「うん」
少しずつ、女の子は顔を上げてきてくれる。
ちょっとずつだけど、警戒心が薄らいでる…といいな。
「…!」
私は気づいた。
女の子の頬に、涙の乾いた跡がある事に。
そうよ…こんな子、一人で何かをするなんて淋しいに決まってる。
「…ねえ?」
「?」
意を決する。
「…お姉ちゃんも、探し物するの手伝ってあげようか」
「…?」
分かっていないご様子。
「あなたが探してるもの、私も探してあげる」
「!」
「だいじょうぶ。」
そう言いながら私はその子の手を軽く握った。
「一人より二人の方が楽しいと思うし、それに、見つかるのも早くなるし…」
「…。」
女の子は既に放心状態。
どう反応していいか分からないのだろうか。
でも私も放心状態。
次にでてくる言葉をどう言えばいいか分からない。
「えーっと…うん、そう。一緒に行こうよ、ね?」
「いっしょ…………うん」
握った手を、握り返してくれる。
「ふふ」
「…えへへ」
…初めて、笑った顔を見た。
うん、やっぱり女の子は笑顔でいなくちゃね。
「あ…そうだった。」
「?」
「私の名前は、イリス。あなたのお名前は何ていうの?」
「ミディ」
「よろしくね、ミディ」
「うん、イリス」
並んで、手を繋いで歩き出す私たち。
この子が何を探しているのかは分からない…教えてくれない。
でも、きっと見つけだしてあげるからね。
その時には、最高の笑顔を見せてほしいな。
…あ。
先生、ごめんなさい。
-第0枠 了-
<ミディの放浪日記リスト>次回