ミディの放浪日記~第1枠-walking together-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
前回<ミディの放浪日記リスト>次回
第1枠 さいしょのページに書かれること。
「…。」
寝台から身体を起こす。
疲れが溜まっているのか、身体が重い。
…いや、そんなはずは無いだろう。俺はここの所何もしてはいないのだから。
少しして意識がはっきりしてくるのと同時に、夢の内容が頭をよぎる。
昔のこと。と言っても別に、歴史的な感覚で言う昔ではない。
正確には、昔のこととして片付けてしまいたいこと…そんなところだろう。
―助けてくれ。
よく見る夢。
ちょうど一年が過ぎようとしている最近は特によく見る。
助けなかった。
助けようとは思った。精神が許さなかった。
見殺しにすることを望んでいた訳ではない…そう、望んではいなかったはずだ。
では何故助けない?
分からない。
答えは、まだ出ない。
一年前に俺達がしたこと、国の連中がしたこと。
それは誰にとっても許されるべきことではない。
罰を受けるべきは誰なのか…。
…真に罰を受けるべきは誰なのか。
答えが出ないうちは、この夢を見続けるんだろう。
それは受け入れよう。
あの時、消えずに未だ残っている者、物、モノの報いとして。
「…あー、気分晴れねえ…。」
頭髪も整えず、顔も洗わず、髭も剃らず。
毎日のように通っているあそこへと、俺は足を向けた。
***
「ふう…。」
街道を歩き続けて数日、私達二人は、ようやく町に着くことができた。
が。
「…。」
「ぼろぼろだね」
寂れている。
町、と言うよりは村、集落。
おまけに地名の書かれた立て札まで見つからない。
もしかしてここは、地図に載ってないような所なんじゃないだろうか。
―ひょっとして、道、間違えちゃったのかしら。
本当は、私の家のあるテインツに一度寄るつもりだった。
それであの街道を来た方に戻ったのだ。
…困った。
ずっと歩いてた所為か、ミディはかなり疲れてるみたいだし。
早くどこか休めるようなとこ見つけないと…。
「ミディ、疲れてると思うけど、もうちょっとガマンしてね」
「!」
え?
「くんくんくん」
な、何?
急に匂いなんか嗅いだりして。
「ど、どうしたの、ミディ?」
「おいしいにおいがする」
私には何もにおいません。
「こっち!」
一目散に駆け出すミディ。
「あ、ちょっとミディっ!」
***
家を出て、二つ先の角を左に行って、と。
次の角を右に…
『…ディっ、待ってってばー!』
「んあ?」
どん。
「ふぇっ!?」
ごろごろごろごろごろ。
「ふえぇ~……」
フェードアウト。
「…何だ。今の。」
曲がった所で何かがぶつかってきて何かが転がって吹っ飛んでった。
「え!? どうしてそっちに転がって、って、わ、うそ、ぶつか…」
ごぃん。
顎に走る鋭い衝撃。
その場に蹲る俺…と、ぶつかった衝撃からか尻餅をついている奴。
しかし、痛い。
顎が砕けてるんじゃないかってくらいの痛さだ。
「いたた…あ。ごめんなさい! 大丈夫!?」
「これくらいなら平気だ」
蹲りながらも強がってみせる俺。
「そう…。じゃあ大丈夫ね。 ミディー!」
くるりと背中を向けて、先ほど吹っ飛んだ「何か」の方へ急ぐ、奴。
…ってオイ、ちょっと待て。
普通、こういう時は相手が強がってるの見抜いてちょっとした手当てくらいするもんじゃないのか?
「いや、待て…やっぱ顎の辺りがちょっと結構もの凄く痛いんだが」
「さっき大丈夫って言ったのに。」
う。負けるな俺。
「痛みが麻痺してたみたいなんだ」
「気絶した方が楽かもしれないわね。」
頼む。真顔で言うのやめてくれ。
「…頑張ります。」
…俺の負けだった。
いいさ、いいさ…俺は強い子男の子。
こんな痛みなんてへっちゃらぷーなのさ。
「そ、こっちは女手しかないんだから。ミディー」
女手しかないって…さっきぶつかって来たのって女の子だったのか。
…見に行ってみるか。
***
「…でー? 訳が分からないんですがね。」
怒り気味な口調の店主。
寝てたトコを起こされて、何人前になるか分からん量の食事をいきなり作らされたんじゃー、
こんな口調にもなるだろう。
「きちんと説明してもらえませんか、カイ君。」
向こうのテーブル席で食事をしているさっきの二人には聞こえないような、
だが俺にはしっかり聞き取れるような低い声で威圧する店主。
「だーから、さっきも言っただろーさ。
あの二人はさっき外でぶつかった連中で、
あの銀髪の女の方が妙に強引な奴で、
2~3日前からマトモに食ってないからって、
ぶつかったのも縁だとか何だとか言いだして、
それでここに来てアンタを叩き起こして…」
「それにしても君が強引に押されるなんて珍しいこともあったものですねえ。」
「ほら、僕、シャイだから」
「そーですか。」
「…。」
「さて…本題に入りましょうかね。」
「んあ? 何だよ、本題って」
「代金。」
「ぐ…」
店主の広いデコに青筋がひとーつ。
「…そこをなんとか」
「言っておきますけど今回は手間賃も含めますよ。」
「あーのーなー。こればっかりは仕方ないだろ? ハッキリ言って不測の事態ってやつなんだよ。
向こうの二人が飢えないことを考えればそれくらいタダで…」
くいくいっ、っと服を引っ張られる感覚。
「今ちょっと、」
言いながら振り向く。
と同時に口の中にもごっ。
「はいへふなはなひをひへうんあへおな」
…何語だ。
大切な話をしてるんだけどな、だ。
「??」
首を傾げる女の子。
…ええい、何を言う気も失せた。
俺は口に突っ込まれた肉を取り、聞いてみた。
「一体なんだよ?」
くいくいっ、引っ張りながら自分がついていたテーブルを指差した。
「一緒に食べようって?」
「うんっうんっ」
輝くような笑顔で頷く女の子。
ああ、もう代金のことなど忘れてしまいそ…
「現実は直視するように、カイ君。」
…チ。
***
「あら」
「よう。呼ばれたから来たぜ」
円卓に、丁度3人が三角形になるように席を取った。
で、俺を引っ張ってきた本人。女の子は俺の顔を見たり、隣の女の顔を見たり、
にこにこしながら食事をしている。
「ありがとねー。奢って貰っちゃって」
奢ってねぇー。
「気にすんな。どうせツケだし」
「そう? じゃあもう少し頼もうかしら」
「それはやめろ。」
「やぁね、冗談に決まってるじゃない」
…冗談に聞こえなかったぞ。
「…なあ、ところでよ。」
「何?」
「?」
俺はさっき聞いた話を確かめるように聞き返した。
「お前ら旅してるって言ったけど…目的は何なんだよ?
旅、なんて簡単に言うけど女子供2人でどうにもなるもんじゃないだろ」
「目的…目的、ね。」
ふっ、と遠くを見つめるような視線。
「なんてコトない、ちょっと…探し物よ。ね、ミディ」
「うん」
「ふーん…」
探し物ね。
まぁ具体的に言わなかったのは正解だよな。
こんなの赤の他人に喋ることじゃないし。
「ねぇねぇ。」
くいくいっ、とまた服が引っ張られる。
ええい、伸びるだろうがっ。
「んー?」
「いっしょにいこうよ?」
「…は? あんだって?」
「ねぇ、イリスも~。いっしょでいいよね?」
「え!? えー…ミディがいいならいいけど…」
このミディとかいう女の子に任せて…一体何だってんだ。
って待てパート2。
これって俺の意思完全無視かい。
「あのなぁ。いいか、ミディちゃんとやら。
俺は行ってもいいんだけどな。でも、誰が、何を探してるか分からない旅にだぞ。
ほんっ、とーーに俺が一緒でいいのか?」
「ふぇ…うーん、うーんと…。いっしょのほうがいい」
あ、っそ…。
まぁこの子には聞くだけ効果ナシだったのかもな。
「そっか。んじゃー、よろしく頼む」
「ふぇ?」
分かんないんですか。
「一緒に行くって言ってんの。分かったか?ミディちゃん」
「わーい♪」
「まぁ、仲良くやろうぜイリス」
「…なーんで私は呼び捨てなのよ」
「悪かったよ、イリスちゃん」
「……………やっぱ呼び捨てでお願いするわ。」
「……。」
「ふぇ?」
***
「本当についていくんですねえ…。
…行かないと言っていても無理にでも行かせましたけども、ね。
自分のことよりもあの子のことを…天秤にかけるまでもない、自明のことですが…。
それを考えれば彼のツケなんて安いもので…
…
…
やっぱり彼はここに残して働いてもらった方がよかったですかねえ。」
-第1枠 了-
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