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■ 閑話休題
――コスプレ大会も終わり、僕たちは服飾店を後にした。
くぅ~。
「うみゃっ!?」
鈴のお腹が可愛く鳴いた。
「い、今のはあたしじゃないぞっ! お腹の虫さんの仕業だっ」
「それ、鈴のお腹のことだからね」
さっきあんなに大騒ぎしたからかな?
僕もお腹がすいてきた。
「私もちょっとお腹すいたかも~」
えへへ、とお腹を擦る小毬さん。
「せっかく街に出てきたんだ。どこかで間食タイムとしないか?」
「はるちんもなんか甘いもの食べに行くことを要求するっ!」
どうやらみんなも小腹が空いていたようだ。
「俺は甘いものが苦手だから、菓子以外も置いている店がいいんだが」
「私も宮沢と同じく」
「カツカツ!」
「井ノ原さん、そんなにカツばかり食べていたら栄養のバランスが偏ってしまいます。たまにはお菓子も食べねばならないのですっ」
うーん、クドが言ってることは正しいようなそうでもないような気がする。
「恭介、どうするの?」
「そうだな」
「他に行きたいところもあることだし、その前に腹に何か詰めておいたほうがいいかもな」
「みんなでどこかに食べに行くか」
と、いうことで僕たちは小毬さん推薦の喫茶店に足を運ぶこととなった。
――カランカラン。
「こんにちは~」
「いらっしゃい――あら、小毬ちゃんじゃないの」
「また来ちゃいました~」
どうやら小毬さんはこの喫茶店の常連のようで、お店の人とも仲が良さそうだ。
お店の人がこちらに目を向け、微笑む。
「今日はいっぱいお友達をつれてきてくれたのね。何名様?」
「んと…私に鈴ちゃん、理樹ちゃんに…」
「みんなで12人なんだけど……大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん大丈夫よ。ふふっ、こっちも商売繁盛で助かるわ」
ふぅ、よかった。
この人数だと、普通の店なら予約なしでは入れないんじゃないかと思う。
他のみんなも「人がよくて助かりましたヨ」とか「それを言うならいい人。失礼なこと言わない」とか「ここのスィーツ評判だよね」とか「杉並さんの目、きらきらしてないか?」とかやっている。
「ふふっ、みんな元気いっぱいね」
「12人なら…そうね、店の一番奥になるけど。こちらへどうぞ」
お店の一番奥に通された。
「テーブルが二つあるけど、くっつけて使ってね」
通された場所は、壁側が長いソファになっている作りだ。
そちら側だけでも6~7人は座れる。
テーブルを挟んで向かい側にイスが並ぶ。
「ほぉ~」
僕の目の前でキョロキョロしている真人。
「こんな小洒落た店に来んのなんて初めてだぜ…」
小毬さんの次が真人なので、立ち止まられると進めない。
「真人、後ろ支(つか)えてるからね」
「わりぃわりぃ。おい理樹、そんなに押すなって」
「後ろから来ヶ谷さんが押してきてるのっ」
「何をしているんだ、さっさと座れ」
「私もソファの方に座りたいのですーっ」
「なにぃ!? 私もソファ狙ってるのにっ! ミニ子のくせに生意気だぞーっ」
「……そちらにも6人は座れるのですからケンカしないでください」
さすがに12人もいると座るだけでてんやわんやだ。
「はい、これで全部よ。ゆっくりしていってね」
――テーブルを見渡す。
さすがにこの人数分のスィーツが並ぶと圧巻だ。
みんなの前にはパフェにケーキ、パイにアイスにホットケーキ、そして真ん中には全員で摘まめるように頼んだポテトや野菜スティックなどがズラリと並んでいる。
たしか店のスィーツの半分以上はオーダーしたんだっけ。
「「「「「「うわぁぁ~~~~」」」」」」
本当に女の子ってこういうの好きだよね…。
「――よし、みんなに渡ったな」
真ん中に座っている恭介が立ち上がった。
「まずはコスプレ大会、お疲れ様だ」
「たっぷりと堪能してくれたか?」
恭介の言葉に、みんなは携帯を開き「見て、この理樹ちゃんの写真」「かわいいのです~」「佳奈多君、こちらのはにかんだ笑顔の理樹君はどうだ?」「…ノ、ノーコメント」とワイワイしている。
みんな嬉しそうに僕の写真を見せ合ってる。
……。
「って、どうして僕の写真ばっかりなのっ!?」
「さすがにこんな理樹を…」
恭介が携帯を開いてこちらに向ける。
「撮らずにはいられないだろ?」
そこにはみんなに囲まれて、嬉しそうに微笑む花嫁姿の僕が。
本当のお嫁さんみたいだ……って!!
「う、うわぁぁーっ」
しょ、正直、消してほしいっ!
「さ、殺人的にかわいいな」
「さすが恭介さん、幸せオーラの理樹ちゃんを逃してませんね~」
「……オークションでかなりの高値がつくかと思います」
「だろ?」
「写真の自慢はいいとして、食うとするか」
ただ自慢したかっただけらしいっ!
「おまえら、注目!」
「あーでは…」
コホンと恭介がせき払いひとつ。
「いただきます」
「「「「「「「「「「「いただきまーすっ」」」」」」」」」」」」
食事の挨拶で一瞬にして、僕らのテーブルが喧騒に包まれた。
「かーーーっ、うめぇーーーっ!!」
すごい勢いでミートパイに喰らいつく真人。
「井ノ原さん、そんなに急いで食べると咽(むせ)てしまいますよ」
「ほは? ひま、なんふぁいっふぁ――フグッ!?」
早速咽てるし!!
「ああ!? 井ノ原さん大丈夫ですかっ!?」
「あんまり急いで食べるからだよ…背中叩くよ?」
ドンドン。
「グハッブフッゲッホゲッホ!!」
「ひやっ!? ひき肉が飛んできましたーっ!!」
「うああああぁ…俺のリトルバスターズ・ジャンパーにもだ…」
「うわっ!? こっちにもなんか飛んできたっ」
向かい側の謙吾とクド、そして鈴にいきなりの大被害。
「ゲハッゴホッ…ひゅー、危うく死ぬとこだったぜ」
真人がニカッと笑う。
「そいつはつまらねーものだが取っといてくれ」
「ふかーーーっ!! おまえサイテー中の最悪じゃ、ボケーーーッ!!」
――ゴガンッ!
「ゲフンッ!?」
鈴の投げたスプーンが真人の頭に直撃。
「えーっと、今のはちょっと真人君のお行儀が悪いかな~…」
小毬さんもたじたじだったけど。
「ほわぁ~~」
「やっぱりいつ食べてもほっぺ落ちそうだよ~」
フルーツパフェを一口食べるなり、ぱぁぁーと周囲に幸せオーラを振り撒くような笑顔に早変わりした。
「こっちのホットケーキもほっぺが落ちそうだぞ」
さっきまで怒り心頭だった鈴も、ハチミツをたっぷりとつけて口に運んだ途端、幸せオーラに包まれる。
「…わ、落ちたっ」
「なにっ、杉並さんはほっぺ落としちゃったのかっ!?」
「そうじゃなくて食べようとしたアイスが手に……」
「あっ、そうじゃないっていうのは、ほっぺも落ちそうになったけど落ちてなくて手についたクリームがねっ」
杉並さんはなんであんなに一生懸命取り繕っているんだろう。
「――ホントね、ここ美味しいわ」
甘いものが苦手だと言っていた佳奈多さんも、アップルパイを丁寧にフォークで切り分け口に運んでいる。
「かなちゃんも気に入ってくれた?」
「ええ」
「ねーねーお姉ちゃん」
佳奈多さんの横で制服を引っぱっている葉留佳さん。
「私のと一口分交換しよーしよーっ」
そそくさとフォークで小口サイズにパイを切り始める葉留佳さんだけど…。
「葉留佳君。キミも佳奈多君と同じアップルパイだろ。全く無意味だと思うんだが」
来ヶ谷さんからの的確なツッコミ。
「えーーーっ!! いいじゃん別にーっ!」
「はぁ…なら最初から私と違うのを頼めば良かったじゃない」
「だってお姉ちゃんのと同じの食べたかったんだもんーっ!」
「わふーっ、三枝さんの言ってることがハチャメチャですーっ」
きっと佳奈多さんと同じものを食べたかったし、交換もしたかったんだと思う。
「うぅぅ」
「このやり場のない怒りをどうすればいいんだーっ」
「いや…なんで怒ってるのかわからないし、どうもしなくていいと思うよ」
「そういうわけで理樹ちゃんのイチゴいただきっ!」
「え?」
――ひょい、パクッ!
……。
僕のショートケーキに目を戻すと、見事に白いクリームだけになっていた。
「わあぁーっ!? 僕のいちごーっ!」
ショートケーキからいちごだけ取っちゃうなんてっ!
「代わりにこちらを進呈贈呈ザクリっと」
――ずぼっ。
「……」
生クリームの上に小口に切られたアップルパイが刺さっていた。
……。
全然嬉しくなかった!
「ははは、イチゴくらいでそんなしょげた顔するなって」
恭介におでこを小突かれる。
「う、だって…」
「仕方ない奴だな」
自分の食べているパフェからイチゴを取り、僕のケーキへ乗せた。
「え、いいの?」
「ああ、もちろんだ」
ショートケーキの上にアップルパイとイチゴが彩る。
「ちょっと待て…」
その様子を鋭い眼光の謙吾が見つめていた。
…すごく嫌な予感がするんだけど。
「恭介がイチゴなら――」
「俺はキウイだ」
案の定、対抗心が燃え上がっている!
「キウイか…やるな。だが」
さらに僕のケーキの上にさくらんぼが。
「こっちはさくらんぼだぜ?」
「なにぃ、さくらんぼだとぅ!?」
頭を抱えて仰け反る謙吾!
「いやいや…そこ、そんなリアクション取るところじゃないでしょ」
「ふぁっふぁら、おれふぁこれふぉやふ」
ちょこん。
頬張りすぎて何を言ってるか分からない真人からは、パイ生地の角の味がない場所を乗せられる。
「あーいや、真人は無理に対抗しようとしなくていいからね…」
「……ならわたしも」
西園さんがこちらに体を伸ばしてきた。
「…直枝さん、バナナをどうぞ」
「へ?」
さらに次々と手が伸びてくる!
「果物ばかりでバランスが悪いな。ほら理樹君、レアチーズケーキをやろう」
「あ…」
「理樹、あたしのホットケーキも仲間に入れてやってくれ」
「ええっ」
「クリームが足りませんので、チョコパフェの生クリームを追加なのですーっ」
「うわっ」
「ではその上に、はい、メロンさんだよ~」
「ちょ、ちょっとっ」
シンプルなショートケーキのはずが、今やデコレートしすぎたケーキみたいになってしまった!
「チッ、もう手持ちの材料がないじゃないか!」
「仕方ない…」
キラリと光る恭介の目!
「すみませ~ん」
「スイカの追加注文、おねがいしまーす」
「なにぃ!? 恭介がスイカで来るならば俺はマンゴーだっ!!」
「ふごふぐっゴクン、カツカツ!!」
「いやいやいやいやっ!! も、もう、いらないからーーーっ!!」
いつも思うけど…。
リトルバスターズのみんな、加減をしなさすぎだっ!
「――はい、食後の注文の品よ」
みんなが食べ終わった後。
店の人が、背の高いグラスに入ったメロンソーダを1つ持ってきた。
「ふえ? こんなの頼んだっけ?」
「ああ、こいつは俺が頼んだんだ」
恭介がそれを受け取り、テーブルの真ん中に置いた。
「ほう…」
「恭介氏、よくわかってるじゃないか」
「だろ?」
妙にニヤついている来ヶ谷さん。
みんなの頭に「?」が浮かんでいるが、どうやら来ヶ谷さんだけは恭介の意図がわかっているようだ。
「やっぱ食後にはゲームが必要だと思ってな」
恭介がいつもの無邪気な笑顔を浮かべている。
「こちらをどうぞ。そのジュースとセットのストローよ、ふふっ」
「ありがとうございます」
ストローをメロンソーダに挿す。
って、この形は!?
「ほわっ、それって!?」
「おい、恭介…!?」
「わふーっ、それでジュースを飲んだら…!?」
「ご明察」
ジュースから伸びる可愛らしいストローはハートを描き、そこから続く飲み口は――
二股に分かれていた!
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