前回<花ざかりの理樹たちへリスト>次回
ドキドキ、ドキドキ…。
「さあ理樹君、引くんだ」
目に妖艶な輝きが射す来ヶ谷さん。
「う、うん」
頷いたのと同時に、僕の髪を結っているリボンがフワリと揺れる。
生唾を飲み込みクジに恐る恐る手を伸ばした。
「「「「「「………………………………」」」」」」」
みんながみんなして固唾を呑んで見守っている様子が、肌にひしひしとわってくる。
来ヶ谷さんが握っている爪楊枝(つまようじ)クジには、先の赤い爪楊枝が2本入っているのだ。
赤いクジを引いた二人が、あのカップル用メロンソーダを飲むことになっている。
恭介曰く、
『この「第一回・カップルストローでゲッチュウ!らぶらぶぅ?!大作戦」が幸福の架け橋となるか、はたまた罰ゲームと化すかはおまえらの運次第だ』
『運も実力のうちって言うだろ? 引き終わった後のブーイングは聞かないからな』
だそうだ。
その言葉を聞いたとき、みんなのギラギラした目線が僕をチラリと見ていたことは……勘違いだと思いたい。
ちなみにクドと小毬さん、謙吾は既にクジを終えて「ふぅ、緊張しました…」「良かったような、良くなかったような感じだね」「真人とやることになったら舌を噛み切る覚悟だった」と、くつろぎモードだ。
「じゃあ…」
意を決して一本の爪楊枝を摘まむ。
外れますように、外れますように、外れますようにっ。
「これでっ」
――スサッ!
目を強くつぶり、一本を勢いよく引き抜いた!
「…………!」
みんなが一斉に息を呑む…!
「ん…」
ゆっくりと目を開け、爪楊枝を確認した。
――ぽと、ころころころ……。
爪楊枝を持っている手から力が抜け、テーブルの上に先が赤い爪楊枝が転がる。
「…フフフ…」
ニヤつく来ヶ谷さん。
「……一人目は」
「理樹君に決定のようだな」
「うあぁーっ!?」
ううう、いつもながらどうして僕ってこうも不運なんだろっ!?
「そんなに可愛らしくい瞳をクリクリさせて嫌がっても、これは決定だからな。よしよし」
「うわ、く、来ヶ谷さん撫でないでよ~っ! 可愛らしくなんてしてないからーっ!」
頭を撫でながらそんなこと言わないでほしいっ!
今日は特についてない気がするよ…。
「はぁぁ、じゃあ次の人……――っ!?」
振り向くと。
――ブツブツ、理樹にお兄ちゃんと呼ばれながら一緒の…ブツブツ、これはゲームなんだから当たっても仕方なく…ブツブツ、直枝さんハァハァ…。
――なにぃ!?クジ、クジのやり直しを…謙吾君ダメだよ~…わふーっ、白い髪がさらに白くなった気がしますっ!?
そこには禍々しい空気が充満していた!
な、なんかめちゃくちゃ不安だ!
「――さっさと次行くぞ」
そのオドロオドロしい雰囲気を楽しむかのように、来ヶ谷さんは再度クジをよく混ぜ合わせている。
「あ、つ、次は私ね」
次は佳奈多さんの番のようだ。
……目線が妙に落ち着いていない。
「別に直枝なんかと、そんな、こ、こ…恋人…みたいなことしたくないけど、クジくらいは仕方なく付き合ってあげる」
「第一、確率は8分の1でしょう?」
「ふん」
「8分の1なんて到底当たるはずないじゃない。そんなの当たらない」
横の方では葉留佳さんが「うわぁ…やたら喋ってますネ」と呟いている。
「確率論はいいから早く引いてくれないか?」
「わ、わかってます」
佳奈多さんがスッと来ヶ谷さんが握っているクジへと手を伸ばす。
「これ。――じゃなくて、こっち…かしら」
すぐさま別の爪楊枝を摘まむ。
「それでいいんだな?」
「あ、待って」
口元に手を当てて、真剣に考え込んでいる佳奈多さん。
「…………」
「こ、こっち?」
「いや私に訊かれても困るが」
「どうしよう…こっち…あ、けど」
その様子は。
「……完全に当たりを引きにいってますね」
西園さんの言う通りだった…。
「どうでもいいが早くしてくれないか? 手を上げているのも疲れるんだが」
「わ、わかってます!」
「では…これにします」
ようやく一本を摘まみ、それを引き抜いた!
「……っ!」
「ふむ――」
「ハズレだな」
「…………………………」
佳奈多さんの手には無印の爪楊枝が摘ままれていた。
「……」
「……」
「そんなに膨れてもクジはやり直さないぞ」
「膨れてなんかいません!」
そう言う佳奈多さんだけど、ちょっと膨れていた。
「――なあ、理樹」
「どうしたの、真人?」
「二木ってよ…」
「うん」
「鉄みたいな女で近づきたくなかったけどよ」
「……意外と親しみ持てる奴だな」
僕は佳奈多さんの方に目を向ける。
「かなちゃん、残念だったね~」
「別に。意識なんてこれっぽちもしてなかったし」
「意外とわかりやすい性格だな、二木…」
「なっ、なにが言いたいわけ、宮沢?」
「お姉ちゃんアレだね。まさにツンデレの鏡! このツンデレラっ!」
「ツン…デレ? 何それ?」
「……ツンデレとは――いえ、内緒にしておきましょう」
「――ふふっ」
「なに笑ってんだよ、理樹? 怖ぇぞ」
「嬉しくてさ」
「はあ?」
学校では見せたことがない、肩の力を抜いた佳奈多さんがみんなと談笑していた。
それがただただ嬉しかった。
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