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「こんなのなんてどうかしら?」
「お姉ちゃんそれ地味すぎー!」
「そ、そう?」
「そんな地味なヤツよりこっちのフリフリなんてどうだーっ」
「……それはいささかデコレートしすぎではないでしょうか?」
「では三枝さんのよりフリフリを控えめにした…これこれ、これなんてリキに似合うのではないでしょうかっ」
「ほわー、クーちゃんそれ可愛い~っ」
「小毬さんもそう思いますかっ」
「リキ、早速これを買いましょうっ」
「え、ええーっ!?」
「むーっ、クド公のくせに生意気だぞー! だがそれで負けを認めるはるちんではないのだーっ」
「ちょっと葉留佳! テナント内は走らない」
「うう…校外でまで扱い同じなんて酷いですヨ…」
――先ほどの混乱は落ち着き、僕に似合いそうな下着選びが始まっていた。
みんな楽しそうだ。
僕もそんなみんなの雰囲気に押され、開き直ることにした(開き直らさせられた)。
「な、直枝」
声をかけられた方に振り返ると佳奈多さんが立っていた。
佳奈多さんは後ろに何かを隠し、僕から目線を外しそわそわと落ち着かない。
「どうしたの?」
「……」
…足で「の」の字を描いている。
「……その」
「?」
「………………んっ!」
意を決したように片手を僕に向けて突き出す佳奈多さん。
その手には…ブ、ブラジャー!?
「んっ!」
まるで一本釣りしたサケを見せるかのように、ぶっきらぼうに片手でブラジャーのホック部分を握って僕に突きつけてきている。
「んっ!」
「こ、このブラジャーはどう、ってこと?」
「はっ…早く受け取りなさいっ」
「ご、ごめんっ」
慌てて佳奈多さんからブラジャーを受け取った。
白をベースに水玉が散らしてあり、真ん中に小さなリボンがアクセントとしてついている。
「ど、どうかしら?」
「選ばなきゃいけないことになったから仕方なく一つ、適当に、選んだだけだけど」
腕を組み直し、プンとそっぽを向く。
佳奈多さん、素直じゃないなぁ。
色々と手に取り悩んでいたところを見たことは内緒にしておこう。
「……」
佳奈多さんが心配そうに僕を見つめている。
あ、答えを待ってるんだ。
「えーっと、なかなか可愛いらしいと思うよ」
「そう」
すごく嬉しそうだ…。
「って、それーっ」
「なによ、葉留佳」
「お姉ちゃんが今してるブラとおそろいじゃんっ」
……へっ!?
佳奈多さんと…おそろい?
ついつい持っているブラジャーと佳奈多さんを見比べてしまう。
「………………――――――~~~~~~~~~~~っ!!」
一瞬ポカンとしていた佳奈多さんだが、その顔が見る間に真紅に染まる!
「よかったじゃん、理樹ちゃんも可愛いって――うににーーーっ!?」
湯気が上がりそうな顔をした佳奈多さんが、葉留佳さんの口を思いっきり引っぱっている!
「ふにーっ、お姉ひゃんっ、ひっふぁらないふぇーっ!(お姉ちゃん、ひっぱらないでー)」
「却・下!!」
「ひぃゃぁーーーーっ!」
と……とりあえずコレは戻しておこう…。
「あのお二人は、いつもすごい仲良しなのです~っ」
と、ホワホワしたクド。
「あはは…いやまあ…」
僕には佳奈多さんから殺気が発せられてるように見えるけど。
「ではリキ、私が選んだ下着も見てくださいっ」
「きっとリキにピッタリなのですーっ」
「うわぁ、クーちゃんがどんなのを選んだか楽しみだよ~」
「はいっ、小毬さんもきっと気に入りますっ」
「早くみせて~」
嫌な予感がするのは僕だけだろうか…。
クドが持っているキーホルダーといい、人とセンスがちょっとずれてるからなあ。
「じゃーん! これなのですーっ」
クドが自慢げに高らかとパンツを掲げた。
「このバックプリントの緑と黄色のキツネさんマークがとってもぷりてぃーなのですーっ」
そこには。
デカデカと『若葉マーク』がプリントされていた!
「どうですか、リキっ?」
悪意皆無の輝く笑顔が僕に向けられる!
「い……いやいやいやいやっ!!」
「いやなのですか…?」
そんな捨てられた子犬みたいな目で見られてもっ!
「クーちゃん、それはちょっと……」
「小毬さんまで若干引き気味なのです!?」
クドには悪いけど、可愛い可愛くない以前にキケンだっ!
「……はじめての直枝さん……ぽっ」
「って、西園さんは赤くなりながら変なこと言わないでよーっ!」
「ああ、もうっ!」
まったく、西園さんは何を考えてるんだかっ。
「そんなに頑(かたく)なに否定するとは、よもや理樹君、キミは……」
「ふえぇ!? もう大人の階段上っちゃったのっ!?」
来ヶ谷さんと小毬さんが頬を赤らめ僕を覗きこんできたっ!
「いやいや、だから――」
「……ちなみに」
ボソッと西園さん。
「……はじめての人は恭介さん………………きゃっ」
…………………………………………。
瞬間、僕らの周りの空間が凍結した。
「ふええええぇぇぇぇぇ~~~っ!? りりりり理樹ちゃんが、きょ、きょ、恭介さんとーっ!?」
「いーやいやいやいやいやっ、そんなことどうやったってありえないからぁーーーっ!!」
「前々から仲が良いとは思っていましたが、まさかそこまでの関係だったとは気付きませんでしたっ!」
クドは大きな目をより一層大きく見開いている!
「……そういえば、よく二人っきりで居るところ……私、見た!」
杉並さんに至っては、すでに脳内妄想が繰り広げられているっ!
「わーーーっ!わーーっ!わーーーっ!! な、な、なにみんな変なこと言ってるのさぁーっ!!」
「事実無根だよっ!」
「……そう言う割には、顔が真っ赤ですよ?」
「ぶはっ!?」
「こっ、これはいきなり変なことを言われたからでっ!!」
突然僕の目の前でニヤニヤした来ヶ谷さんと西園さんが向き合う。
「理樹、俺にはもうこの禁断の愛を止められそうもない……いいか?」
「……はい、恭介さんなら……ぽ」
「「好きだっ」」
――がしーっ!
熱く抱擁を交わす二人!
「わふーーーっ! もうっ、もうっ、もーうっ!!」
興奮気味のクドが僕の背中をペチペチペチペチ叩いてくるっ!
「しっししししししししししてないっ! そっそそそそんなっ、しししてないからぁぁぁーっ!」
「なら理樹ちゃん、どうしてそんなにドモってるのかな? かなぁ?」
頬を桜色に染めた小毬さんが詰め寄ってくるーっ!
「こっ、これは、だから、ただ――」
「ただ…なぁに?」
うぁあぁあぁあぁあぁーっ!
やましいことなんてないのに、一生懸命否定すればするほど顔が熱くなるよーっ!
お、お、落ち着け僕ーっ。
実際何もないんだから冷静に、冷静に……。
「理樹君、何でもないのにアタフタしすぎではないか?」
「アタフタしてないって!」
――ズベシ!
「……なんだ、この手は」
うわぁぁぁぁーーーっ!!
極めて自然にツッコミを入れたはずが関西風漫才のツッコミになってしまったーーーっ!!
これじゃぁ余計に怪しまれちゃうよっ!
「わふーっ! リキが頭を抱えて焦りまくっているのですっ!」
クドのこの目は、間違いなく事実と受け止めてしまっている目だっ!
「だだだだだからーっ」
何もやましいことがないのに、頭が真っ白で何がなにやらっ!
「……ちなみに」
ボソッと西園さん。
「……冗談です」
「……」
「……」
「……」
「……」
「って、って!! それ言うの遅すぎでしょーーーっ!!」
「……うっかり言うのを忘れていました」
絶対確信犯だっ!
「じょ、冗談だったのですかっ!?」
「……はい」
「はっはっは、やはり理樹君をからかうのはこの上ない極上の楽しみだよ」
「あーもうーーーっ! 僕で遊ばないでよっっ!!」
ホントこの人たちはっ!!
ふぅ…。
まあ、どうやら妙な誤解は解けたみたいだ。
「クーちゃん、アレですよ」
「あれ…とはなんですか、小毬さん?」
「俗に言う『プラトニックな関係』というヤツだよ~」
「なるほどっ! そっちですかっ」
「違うからーーーっ!!」
誤解はちっとも解けていなかった!
***
ボツシーン1.「結成」
「西園さん、西園さんっ」
「……はい、どうなさいましたか、能美さん」
「われわれAカッパーズのコーナーはあちらのようですよっ!」
「……」
西園さんがゆっくり目を閉じる。
「あの、どうなされたのですか?」
「……能美さん」
「はい」
「……残念ながらわたしはBカップです」
「ががががーーーんっ!?」
「西園さんとならAカッパーズとしてやっていけるかと思ったのですが……残念なのです……のです……です」
「クドリャフカ」
ポンと佳奈多さんの手がクドの頭に乗せられた。
「サバ読まない。あなた、AAカップでしょう?」
「さらにががががががーーーーんっ!!」
***
ボツシーン2.「杉並さん」
「――杉並女史、こんなブラはいかがか?」
「え…けど、そんな大人っぽいの、私には……」
「なに、試してみなければわからんものだよ」
「けど私、黒とか似合わないし……」
杉並さんの両手をクロスさせ、両手首をまとめて来ヶ谷さんが片手で鷲掴みにした。
「え、え?」
「ほら、ばんざーい」
「え、え、えぇーっ!?」
問答無用で掴んだ両手を上に掲げさせる。
「ひゃぁ……っ」
「どれ…」
思わずキュッと目をつぶる杉並さんの胸に、制服の上からブラジャーを宛がう来ヶ谷さん。
「ダ、ダメだよ~っ」
うあ…杉並さん、恥かしかったのか耳まで真っ赤だ。
「――うむ?」
恥かしさに必死に耐えている杉並さんの顔とブラジャーを交互に見つめ、首をかしげる。
「なかなか似合うんじゃないか?」
「そっ、そんな、私には大人っぽすぎるよ~…」
「そんなことはないと思うが。みんなはどう思う?」
みんなが杉並さんの正面に回りこんで見つめる。
「おりょ、ギャップがあって面白いかも」
「そうね、案外黒系も似合うんじゃないかしら?」
「アクセントが利いててとってもかわいいよ~」
「そう……かな?」
自分でも「結構いいかも…」と思ったのか、恥かしさと嬉しさが入り混じった顔になっている。
「うむ、セクシー系のブラをキミにつけて反応を楽しみたかっただけだが…おねーさんも予想外のことにビックリだ」
「え、えぇーっ!?」
やっぱり来ヶ谷さんは杉並さんで遊びたかっただけみたいだ…。
「それにしても杉並女史」
「?」
「結構胸があるんじゃないか?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…………ちょっと」
はにかんだ笑みを溢す。
……来ヶ谷さんが「お持ち帰りだ!」と暴走したのは言う間でもない。
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