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――デパートのテナントの並ぶ通路を歩く僕たち。
「やっぱりみんなでデパート見て歩くのは楽しいね~」
「はい、普段は入らないお店も見れてとても楽しいですっ。ついついこんなに買ってしまいましたーっ」
クドが嬉しそうに持ち上げた手には一風変わったデザインのストラップの束が。
「……ほう、まりもっこりですか」
クドと肩を並べて歩いている西園さんはその中の一つが気に入ったようで、手にとってしげしげと見つめている。
そんな三人の後ろを歩いているのが来ヶ谷さんと杉並さん。
「杉並女史は駄菓子屋で何を買ったんだ?」
「えっと…酢ダコさん…」
恥かしそうに顔を赤くしている。
「……ああ、萌える……」
「え?」
「…気にするな」
「?」
珍しい組み合わせの二人だと思ったけど、意外と話は合っているようだ。
ちょっと来ヶ谷さんからは邪(よこしま)な発言が出ている気はするけど…。
その後ろにいるのが僕たちだ。
僕の右隣に佳奈多さんと葉留佳さんが歩いている。
「お姉ちゃんってさ、近頃丸くなったよね」
「……葉留佳、それはどういう意味?」
佳奈多さんの鋭い目が葉留佳さんを射抜いた。
「へ? ひゃっ! そ、そんな怖い目で睨まないでーっ」
「性格が丸くなったってことでしょ、葉留佳さん?」
「そうそう、それそれ」
「……フン」
佳奈多さんは少し照れくさそうにそっぽを向いた。
僕と佳奈多さん、葉留佳さんはこんな風に話しながら歩いているんだけど……。
「む~っ」
僕の左隣を歩いている鈴の様子がおかしい。
さっきから話題にも入ってこない。
「鈴ちゃん、どったの?」
「なんでもない」
こんな感じで、葉留佳さんや僕が話しかけてもツンケンした返事が返ってくるだけだ。
ついさっきまで元気だったのに、僕と佳奈多さん、葉留佳さんで話し始めた途端に不機嫌になった。
「どうした、鈴?」
後ろを歩いていた恭介も鈴に話しかけるけど、
「む~~~っ、うっさいっ!」
「うはっ…」
恭介にさえもツンケンした返事……は、いつも通りだ。
「直枝」
僕が鈴の方を見ていると、佳奈多さんから話しかけられた。
「襟。曲がってる」
「さっきの着替えの時かな? えっと――…あれ?」
手を襟に通して整えようとしたけど、慣れない制服のせいか上手くいかない。
「はぁ……貸しなさい」
「あ、うん」
呆れたような顔をした佳奈多さんだったけど、手馴れた手つきで0.5秒くらいで直してしまった。
……佳奈多さんが僕の襟に手を掛けたときに、鈴の方から威圧感を感じたような気がする。
「身だしなみはきちんとしなさい」
「ありがとう、佳奈多さん」
――くい、くい。
そうしていると左の袖が引かれた。
「?」
「理樹」
不機嫌そうに頬を膨らませている鈴が話しかけてきた。
「髪を結んでるリボンがほどけそうだぞ」
「え、うそ?」
さっきしっかり結んだと思ったんだけど、結び方が悪かったのかもしれない。
「仕方ない。あたしがなおしてやるから止まれ」
「あ、うん」
「みゅぅ……ん? こうだから…ん? ふみゅ……こんな感じだな、よし」
「できた?」
チリン。
頷くのと同時にスズのアクセサリーが鳴る。
「ありがとう」
僕は髪にフワフワと手を当てたけど、いい感じだ。
…鈴がこんなことをしてくれるのは正直珍しい。
さっきまであんなに不機嫌だったのに、どういう風の吹き回しだろう?
そんな事を考えたときだ。
「直枝」
また佳奈多さんに呼ばれた。
「こっちを向きなさい」
「どうしたの?」
佳奈多さんの方に体を向ける。
鈴の方からは「むぅ~っ」という声。
「やっぱり」
「胸のリボンが曲がってる」
僕が直そうとする前に、佳奈多さんの手が僕の胸のリボンに掛けられた。
「……」
あんまり直しているようには見えないけど、僕の胸のリボンの位置を微調整している。ゆっくりと。
「できたわ」
「あ、ありがとう…」
さっきと位置が変わってない気がするのは気のせいかな…。
その時。
「理樹っ」
また鈴に呼ばれた!
佳奈多さんから「っ!」と声がもれた気がする。
「どうしたの、鈴?」
「どうしたもこうしたもあるかっ! ブレザーの裾(すそ)がダメだっ」
「ええっ?」
「安心しろ、今あたしが直してやるっ」
「いや…」
有無を言わさず、鈴が僕のブレザーの裾を整え始めた。
「直枝」
直してもらっているとまた佳奈多さんに呼ばれた!
「何、そのスカートの折り目は。なってないわ。今、直してあげる」
「ええっ!? い、いいよそこはっ」
「よくない」
佳奈多さんが僕のスカートをいじり始めた!
「ふみゃーっ! 理樹っ!」
「な、なにっ?」
「ブレザーがなんか変だぞっ! くちゃくちゃおかしかったりそーでもない気がするから、あたしが直してやるっ」
「えええええーっ!?」
「……っ!!」
佳奈多さんがキッと眉を上げた!
「直枝っ!!」
「は、はいっ!」
勢いについつい敬語になってしまったっ!
「この靴下の位置は何? 風水的にまずいとは思わないの?」
「風水!? うわわわわーっ、か、佳奈多さんっ、靴下ひっぱらないでよーっ」
「ふみゃみゃーっ!」
なぜか鈴も声を上げている!
「理樹ーっ!!」
「な、なにさーっ!」
「とりあえずどこかおかしいからあたしに直させろっ」
「どこをっ!? って、スカート引っぱらないでよーっ!!」
僕は引っぱられる靴下を戻したり、まくられそうなスカートを押さえたりでてんやわんやだっ!
周りはというと。
「なんかエロいな……」
「エロいっすネ……」
ニヤニヤ顔の来ヶ谷さんと葉留佳さん!
「……これはむしろ追いはぎの方が近いのではないでしょうか?」
「追いはぎ…とはなんでしょうか?」
「クーちゃん、あれですよ。甘くておいしいお菓子だよ~」
「お菓子ですかっ!?」
「……それはおはぎです」
「ふえ、まちがえた」
ボケ2とツッコミ1の三人!
って、そんなこと言ってないで助けてよっ!
「――この理樹を巡る勝負、ストップだ」
ようやく恭介が割って入ってくれた!
「「そんな勝負なんかしてないっ!」」
僕のスカートを掴んでいる鈴と、僕の靴下を脱がせている佳奈多さんが同時にハモった。
「なんだ、かなたは理樹に興味があるのか?」
「全然」
「そういうあなたこそ興味があるんじゃないの?」
「あるわけあるかっ!」
「「………………………………」」
「ひゃぁ、お姉ちゃんと鈴ちゃんの間に火花が散ってるように見えるっ」
「……ここまでしておいて、興味がないと言い張れる二人がすごいと思うのですが」
「けど、あのはずかしがり屋さんのりんちゃんが、かなちゃんとこんなにお話できるようになったなんてすごいね」
「はい、飛躍的進歩なのです~っ」
「いやいやいや…感心するところが違うでしょ…はぁ…」
「まあ、今の理樹は殺戮兵器も真っ青な可愛さだからな…いじるときは周りを考えて行動してくれ」
周りを見ると…。
「い、今一瞬だけどオレ、あ、あの子のパンツが見えた気が…ブハァーッ!!」
「俺的ランクAAランクプラスの女子が…女子に襲われてくんずほぐれつで…たまんねーッ!」
「自分、あんなに可愛い子初めて見たッス! 感激ッス! もう死んでもいいッス!」
「隊長! 準備完了しました! いつでもいけます!」
「そうか、よし! 警備班、ケータイ構え! カメラモードオン! 一斉撮影!!」
――パシャッ♪ ピロリロリン♪ パシャリン♪ ピロローン♪
『現場に向かった警備班、至急応答されたし、至急応答されたし。繰り返す。現場に……』
『警備班より入電。ワレ、行動不能。ワレ、行動不能』
「さっきからどんどん集まってきてた…よ?」
杉並さんが言うとおり、いつの間にか野次馬が溢れかえっていたっ!
「そういうわけだ。公共の場でそんなことをしていたらいずれ死人が出る」
「よって――」
恭介がテナントの一角に歩み寄った。
「二人の勝負はここで白黒つけてもらうとしようじゃないか」
恭介が入ったその先は――ゲームコーナーだった。
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