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残り、6分。
「1は絶対に入るっ! 2もだっ! あと3つの数字を当てればクリアだっ!」
「ふみゃぁーーーっ!!」
――ガリガリガリガリィッ!!
鈴がエンピツを走らせる音が辺りに響く!
「りんちゃん、がんばって!!」
「鈴さんなら絶対に絶対にできますっ!」
横に立つ小毬さんとクドも必死に応援を飛ばしている!
「すげぇ…威圧されるほどのオーラが出てやがるぜ…」
真人の言う通りだ。
鈴の背中からまるで炎が上がっているようにさえ見える!
「こまりちゃん、ノートがいっぱいだっ! 次っ!」
「はいっ!」
わんこそば大会のように小毬さんが瞬時に新しい紙を鈴の前に置いた。
「3,4,5の組み合わせじゃダメだっ! 3,5,6の組み合わせならどーだっ!」
古い紙を放り投げ、新しい紙も瞬く間に数字で埋め尽くされていく!
「まさか鈴、おまえ……っ!?」
投げ捨てられた紙を手に取った恭介が目を丸くしていた。
「おまえ……全ての組み合わせを試すつもりか!?」
「え、うそっ!?」
紙を見ると、今やっていた組み合わせの全ての並び替えが書いてあった!
「あたしはおまえらみたいに頭は良くないんだっ」
――ガリガリガリガリィッ!
全く手を休めない鈴。
「どーやったら計算して解けるかなんてチンプンカンプンだっ!」
また古い紙を放り投げ、新しい紙へとペンを移した!
「けど、この中に答えがあるなら話は簡単だろっ!」
「全部やればいいだけだっ!」
『残り、4分』
機械音声がタイムリミットを告げる。
全ての組み合わせを試すには、あまりに絶望的なタイムリミットだ……。
けど……。
「あたしだって、できるっ!!」
「鈴…っ」
本気だ…!
鈴は本当に完全クリアする気だっ!!
「――鈴君には感服だよ」
来ヶ谷さんが鈴の横へ近づいた。
手を伸ばし、鈴の邪魔になっていたサイドの髪の毛を手早く後ろでまとめる。
そして。
「キミならできる!」
あの来ヶ谷さんが力を込め声を張った!
それを皮切りに一気に会場がヒートアップした!!
「フレーフレー、りんちゃーんっ!」
パフパフーとサッカー用の笛を鳴らし始める葉留佳さん!
「りんちゃんならいけるよーっ!」
真っ赤になって応援している小毬さん!
「……見守ることしか出来ませんが、頑張ってくださいっ」
西園さんの真剣な眼差しも鈴へと向けられている!
『残り2分』
「これじゃないっ! 次っ! 3,5,8の組み合わせだっ!!」
宙に舞う書き散らかされた紙!
「がんばれ…っ、がんばれ…っ、がんばれ…っ!」
杉並さんが目をギュッとつぶりながら必死に声援を飛ばす!
「炎となった鈴は…無敵だ!」
息を呑み見守っている謙吾!
「ふぁいとなのですーっ!!」
腕を高らかに突き上げるクド!
『残り1分!』
「もう時間ねぇーぞっ!?」
「わかってるっ!!」
真人の声を聞いて激しい音を立ててペンが紙を駆け回る!
「3,5,10、これでどーだっ!?」
鈴の持つペンがさらに加速する!
『残り45秒!』
「1,2,5,10,3! ダメだっ!!」
「1,5,3,2,10! この並べ方もダメだっ!!」
『残り30秒!』
「1,5,2,3,10!! これも無理だっ!!」
鈴の振り絞るような声と紙が擦れる音の速度が最高潮へと上りつめる!
「残るのは1,5…っ!!!」
「こいつは……奇跡が起きるぞ!!」
恭介が息を呑んだ!
――ガリガリガリガリガリッ!
「りんちゃん、いっけぇーーーっ!」
「ごーごーなのですっ!!」
みんなが身を乗り出す!
――ガガガガガッ!!
「2…っ!!」
「いける、いけるよ鈴っ!!」
思わず僕も叫ぶ!
『残り20秒!』
「10……っ!!」
「鈴、いっちまえぇぇぇっ!!」
恭介の声と共に!
「3ッ!! 1,5,2,10,3だッ!!」
鈴がガバッと顔を上げた!
「と……っ!!」
「とっ…解けたぞっ!! あ、あたし解けたぞっ!!」
『残り10秒、9秒…』
「りんちゃんっ、は、早くっ! 答え書かないと時間なくなっちゃうよーっ!」
「うわっ!?」
慌ててエンピツからタッチ用ペンへと持ち替えた!
「答えは1に5に…」
鈴が震える手で画面に数字を当てはめていく!
『6秒、5秒…』
「ヤバイですヨちょーぴんちですヨっ!?」
「いそがせるなぁーっ! 2に10に…」
『残り3秒、2秒…』
「3っ!!」
残り1秒でストップするカウントダウン。
…………………………。
………………。
クイズ特有の待ち時間。
周りもすっかり静まり返ってしまっている。
――ごくりっ
鈴の生唾を飲み込む音がはっきりと聞こえてきた。
『正解っ!!』
『全問正解です!! おめでとうございます!!』
「や……」
目を真ん丸にしていた鈴。
「やった…」
その顔が一気に緩んだ。
「あたしはやったぞっ! クリアできたぞっ!!」
鈴がイスから飛び上がった!
パチパチパチパチ~~~~ッ!
みんなから拍手が巻き起こる!!
「鈴、本当にすごいよっ!」
「理樹、見たかっ! 今のっ!」
鈴が僕のスカートをグイグイとひっぱる。
「み、見たからそんなにスカートひっぱらないでよっ、み、見えちゃうからっ!」
「あたしもなっ、あたしもなっ、やれば1人ででもできるんだっ!」
全く聞いてないっ!
けど……。
心から嬉しそうな顔だ。
見ているだけで僕まで幸せになってくる。
「りんちゃんすごいよーっ!」
小毬さんが鈴に横から抱きついたっ!
「こまりちゃんっ」
「あんな難しい問題を解けるなんてすごいのですーっ!」
「ふみゃっ!?」
さらに逆の隣からはクドがっ!
「私も便乗して背中から抱きつきーっ」
「うわっ、はるかまでくるなーっ」
「ひゃー鈴ちゃん柔ーいっ。ほらほら、杉並っちは鈴ちゃんを正面からハグしちゃえーっ」
「え…わ、わたし? …そんなこと恥かしいから無理…っ」
「いいからいいからーっ」
「よ、よくないぞっ!? み、みんな離せーっ」
「わ、わたしも正面なんてそんな……ひゃぅんっ…むぎゅう~っ」
一瞬のうちに鈴は女の子に揉みくちゃにされていた!
「――キミは今『女の子がきゃっきゃうふふしててめがっさ大興奮だハァハァ堪らん』と思っただろ?」
「そんなこと思ってないし、いきなり横から覗き込まないでよっ!」
「ちなみにお姉さんは大興奮だよ…ハアハア…堪らん」
「……パシャリ。戯れる少女とは、またいい絵が撮れました」
鼻血を出して荒い呼吸をしている来ヶ谷さんと、恍惚とした表情で写真を撮りまくっている西園さんは放っておこう…。
「あいつもやっぱり俺に似て無茶をするな」
女性陣が抱き合うところから一歩下がったところにいる恭介が笑いをこぼす。
「これで自分に少しは自信がついたんじゃね?」
「ああ…そうだな」
幼なじみ達は鈴がやりとげた様子を見て笑っていた。
僕は、その喧騒を遠巻きに見ていた佳奈多さんの横へ立った。
「――完敗ね」
ハァと大きく溜息をつく佳奈多さん。
けど、その顔はすがすがしいものだった。
「まさか最後の問題がクリアできるなんて思わなかったわ」
「佳奈多さん」
「なに?」
僕はみんなに囲まれ嬉しそうに話をしている鈴の方を見つめた。
「鈴がさ、一人でこんなにやりきれたのは初めてなんだ」
「ふぅん」
「これも佳奈多さんのおかげだよ」
「何を言ってるのかわからないわ」
腕組みをしているツンとしている佳奈多さんについ笑みがこぼれてしまう。
「佳奈多さんってさ」
「な、なによ?」
「優しいね」
「なっ!?」
突然佳奈多さんが真っ赤に色づいた!
「わっ、わわ、私はあの子を単純に利用しようとしただけで…」
「佳奈多さんみたいにさ、誰かをを後ろから支えてあげられる人ってさ」
「僕は素敵だと思うよ」
「!?!?……………………」
佳奈多さんが一瞬ビクリと飛びはね、止まった。
「佳奈多さん?」
「…………――――」
夢でも見てるの、といった真っ赤な顔で完全硬直している!
「どうしたの?」
「――――」
「あの、佳奈多さん…?」
チョンと肩に触れた瞬間!
「きゅぅ~~~~~~~~」
――バターーーン!
「か、佳奈多さんっ!?」
ええええーっ!?
佳奈多さんが倒れたっ!!
「うおっ、二木がぶっ倒れたぞっ!?」
「ま、まさか鈴さんに負けたショックでしょうかっ!?」
「ひやぁぁぁぁーーーっ、お姉ちゃんしっかりしてーっ!」
「その割には随分と幸せそうな顔ではないか…?」
――こうしてゲーム大会は鈴の勝利で幕を下ろしたのだった。
***
では、鈴が解いた問題の考え方を書きたいと思います。
この問題はn個でも成り立つ問題です。
n個の玉で作れる一番大きな数字の一般式は
n(n-1)+1
で与えられます。
ただし、n=7あたりで破綻したはずです。
まあ「全部の数を足すと21」ということになります。
次に1~21までの数を作りますので①と②は必ず入ります。
さらに、4を作るためには④ボールか③+①が必要になります。
③を入れた場合。
①+②+③+X+Y=21
ですからXとYの組み合わせは(4,11)(5,10)(6、9)(7,8)に搾られます。
③を入れた場合は4は入りません(4を作るために③を入れた)ので3通りの組み合わせまで搾られます。
また③を入れた場合は、①と②は離れ離れになります。(3があるから)
そうなると自然に
①
○ ○
② ○
の1パターンのみになります。(円順列ですので、左右は関係ありません)
4を作るためには①の隣に③が来る必要があります。
ですので、考えられるパターンは
①
③ ○
② ○
①
○ ③
② ○
の2パターンのみになります。
これに(5,10)(6,9)(7,8)のどれかの組み合わせを試せばクリアですw
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