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花ざかりの理樹たちへ その98 ~買い物編~ (リトルバスターズ)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。

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 ■■■ エピソード・鈴 ~中編~ ■■■





――理樹とデパートを歩き始めてほんの少し。

 テクテクと歩き回っているが、あ、あたしは何をすればいいんだっ!?

 困った! くちゃくちゃ困った!



「ねぇ、鈴」

「ふみゃっ!? な、なな、なんだ理樹っ!? ご趣味は猫を少々だっ!」

「えーと……」

 あはは…と理樹の困ったような顔。

「歩きづらくない? 手と足を一緒に出して歩いてるけど」

「な、なにぃ!? う、うみゅ? みゅみゅ…?」

 横に並んでいる理樹のまつ毛の長いかわいい笑顔があたしにニコって向けられてるっ!

 ふみゃ~ぁっ!

 余計に何がなんだかわからなくなってきたっ!

「どうしたの?」

「……歩き方を忘れた」

「ええええー!?」

「あたしは一体どうやって歩いてたんだ?」

「いや……えと……」

「ほら、手を振って、足を出して、こんな風に普通にでいいと思うよ」

 理樹がリボンをふわふわと揺らしながらお手本を見せてくれている。

 うみゅ? うみゃみゃ……?

「理樹、フツーってなんなんだ!?」

「そこから!?」

 ふみゃーーーっ!!

 もう頭が真っ白けだっ!!





 そんなことをしていたら耳元の小型無線機からざわざわした声が入ってきた。



 『――恭介氏、このままだとさすがにマズくはないか……?』

 『ああ、俺も焦(あせ)ってきたぜ…こんなんじゃ理樹フラグが立ちようがない』

 『ふらぐですか? ふらぐ、とは何でしょうか?』

 『……能美さんに簡単に説明しますと、“フラグを立てる”とは小さなアピールをして相手の気を引くことです』

 『……小さなアピールの積み重ねによって、大きなイベントを導くのです』

 『わふーっ! つまり、チリも積もれば山となるですか!」

 『まぁ、ニュアンスは多少違うがそんなところだ』



 耳元に『けどどうしようね?』とか『基本戦略を立てずに本番に向かうからこうなるの』とか『おねえちゃんが話すと恋愛も軍事作戦みたいに聞こえますナ』と相談している声だ。

 小さなアピールをすればいいんだな?

 小さなアピール……アピール……?

 それ、何の解決にもなってないぞっ!



 『仕方ない……鈴、聞こえてるか?』

 きょうーすけの力強い声が響いた。

「感度りょーこー、おーばー」

 『おまえに俺の技を伝授する』

 『この一級フラグ建築士と呼ばれた俺の技だぜ?』

「ホントかっ!?」

 『ふぇぇーっ!? 恭介さん、よくわからないけどそんなにすごい人だったですかっ』

 『よくわからないですが、何やら途方もなくすごいのですーっ』

 耳元からこまりちゃんとクドの声も聞こえてきた。

 兄貴はよくわからんがそんなすごい称号を持っていたなんて初耳だっ!

 『いいかおまえら』

 『これよりミッション名“フラグも積もれば理樹となる作戦”を開始する!』

 『『『『『おーーーーーーっ!!』』』』』

 みんなくちゃくちゃ頼もしいなっ!



 そんな風に無線機に集中していたら理樹があたしを覗き込んできた。

「鈴、どうしたの?」

「にゃうっ!? なっ、なななななななんでもないぞっ!? 本当だからなっ!?」

「?」

 あぶなかった…。

 危うく理樹に作戦がバレるところだった。

 あたしは理樹にバレないようにこっそり無線に話しかけた。

「…それで最初は何をすればいいんだ? 」

 『そう焦るな。こういうのは簡単なことから順を追ってやらなければならない』

 『まず第一段階はそうだな……鈴の女の魅力を理樹にアピールしよう』

 『おおーっ、女の魅力! 甘美で妖艶な響きですナ』

 『普段はボーイッシュな鈴君だ。そこに突然女っぽさを垣間見てしまえば誰だって胸を高鳴らせる――という寸法か』

 『ああ、来ヶ谷の言う通りだ』

 『けどよ、鈴のどこに女っぽさがあんだよ?』

 真人にくちゃくちゃ失礼なこと言われたぞ!

 『そこは安心してくれ』

 『これから教える方法は誰でも簡単に女の魅力を引き出せるという、伊藤家の食卓なみの裏技だからな』

 おおーっ! そんな技をきょーすけは知ってるのかっ!

 無線機からも『わふーっ! 女力をあげるためにも是非知りたいですっ!』とか『魅力…女のっ! め、メモしないとっ!』とか『杉並女史が一番輝いてるな…』とかちょっとした騒ぎになっていた。



 『その方法だが――』

 『結果からいうと、男は非力な女の子に弱い。男の俺が言うんだから間違いないだろ』

 『非力な女の子を見るとついつい守ってあげたくなるのが男のサガというものさ』

 『うむ、それは一理あるな』

 謙吾からも納得の声だ。

 兄貴だけなら不安だが、とりあえずモテる謙吾が言うんだから本当っぽいな。

 『そこでだ』

 『いつもは男顔負けの鈴が、非力で女の子らしいところを垣間見せてみろ。どうだ?』

 『……ギャップ萌えも相まって、もしかしたら直枝さんも心ときめかすかもしれません』

 『だろ?』

 おおーっ!

 あたしにはそんな力が秘められていたのかっ!

 『して恭介氏、鈴君は具体的に何をすれば良いのだ?』

 『プルタブを使う』

「耳たぶ?」

 『プルタブな、ジュースの』

 ジュースの口を開けるところにあるアレか。

「あれをどーするんだ?」

 『ジュースのプルタブを開けられないことで理樹に非力さをアピールする』

 『ええーっ、そんなんで女の子っぽさなんてアピールできるの?』

 さっそく葉留佳から文句だ。

 『想像してみろ』

 『鈴がジュースを持ってう~んう~んと困った後に「あけてくれ……」と恥かしそうにジュースを差し出してくるんだぞ』

 『しかも上目づかいでだ! どうだ!?』

 『た、堪らんだろ、それは……っ』

 『ほわっ!? ゆいちゃん鼻血拭いてーっ』

 『これをやられたら理樹だって一溜まりもないさ』

 『棗先輩も鼻血が出ています。シスコンも程ほどにしてください』

 なるほどな。

 ジュースを開けれないだけでおんなのみりょくをアピールできるのか。思ったより簡単だな。



「理樹っ!!」

「え!? いきなりどうしたの!?」

「そこの自販機でジュースを買うぞ!」

「あ、うん」



――ガラランッ。



 さっそくオレンジジュースを買って、それを持って近くのベンチに腰をかけた。

 これを開けれないフリをすればいいんだな。

 耳元の無線機から『りんちゃん、がんばって~』と声援が聞こえてくる。

 よし、全然開かないフリだっ!

 プルタブに指を当て、カリカリと開けないように気をつけながら引いたりしてみた。

「ウーン、ウーン」

「鈴?」

「ウーン、ウーン」

「どうしたのさ、鈴?」

 理樹が心配そうにあたしを見てきた。

 『鈴、今だ!』

 『理樹、開かない……開けてくれ……と缶を差し出してお願いするんだ。可愛く』

 うみゅ!

 あたしは理樹に缶をバッと差し出した!



「リキアカナイアケテクレ」

「なんでカタコト!?」



 ん? 少し演技っぽかったか?

 無線機からは『復活の呪文みたいになってんぞ!?』とか大慌ての声だ。



「もしかしてプルタブが開けれないの?」

「ごめーさつだ」

 さすが理樹だな。気が利く。

「貸してみて。けど鈴がプルタブ開けれないなんて珍しいね」

「いつも野球の練習の後に僕たちとジュース飲んでるけど、開けてなんて頼むの初めてじゃない?」

 ……。

 し……。

 しまったっ!

 そーいえばそーだ! 毎日理樹と一緒にジュースを飲むのが習慣だったっ!

 このままだと開けれないのが嘘だったってバレちゃうぞっ!

 『鈴、オレにいい考えがあるぜ』

 そこに真人の声。

 『実はプルタブを開けられないから、石で叩き割って飲んでいたと言え』

「りょーかい」



「実はプルタブを開けれないから石で叩き割って飲んでいた」

「またずいぶんとアグレッシブな飲み方だったんだね……」

 ふゅぅ……。

 真人のおかげでプルタブの秘密はなんとか守りきれたな。

 汗を拭って、理樹の方を見ると。



「あれれ……?」

――カリカリッ、ピンッ!

「んっ」

「あれれ……? おかしいな……あぅ……」

 カリカリッ、ピンッ!



 理樹が缶と悪戦苦闘していた。



「えと……おかしいな……んっ……鈴、ちょっと待っててね。すぐに開けてあげるからね」

 一生懸命にプルタブを起そうとしている理樹。

 そのほっぺ。

「あれれ……? んっんっ」

 あたしが見ていると、少しずつ、少しずつ恥かしそうにピンク色に染まってゆく。

「ぁぅっ……んんっ……ぁぅ……」

 顔をしかめる理樹の口から苦しそうな吐息が漏れた。

 無線機からは『なんかエロイな…』『エロイっすネ…』『お胸がどきどきします…』とか聞こえてくる。

「…………」

 理樹が止まった。

「……」

「鈴、その……さ」

 その脚は困ったようにモジモジとしている。

「えっと……これなんだけど……」

 理樹がおずおずとあたしに缶を差し出してきた。

 すっかり桜色に染まった顔。

「なかなか開かなくって……」

 カーッとさらに耳まで赤くなった!

 そしてあたしに向かって……。



「――ごめん…ね」

 熱い吐息と上目づかいで、瞬いた。



 ふ…。

 ふ……。

 ふみゃぁぁぁぁーっ!!



「大丈夫だ、理樹っ! こんなのあたしが開けてやるからそんな顔するなっ!」

「えっ!? えっ、なに!? プシュッて!? いとも簡単に開けたよね、今!」

「理樹はあたしが守るっ!! ゴキュッ、ゴキュ、ゴキュ、ぷはーっ!」

 ついつい守ってあげたくなっちゃうだろ、これはっ!

 もう、もえもえキュンっだっ!!





 無線からは。

 『……見事に直枝さんの“女の魅力”がアピールされてしまいましたね』

 『鈴ちゃん、お姫様を守るナイトみたい……』

 『わふー……杉並さんのおっしゃるように、逆に鈴さんの男らしさがあふれ出てしまいました……』

 『これ反則だろ……っ! どこまで可愛いヤツなんだよ、理樹はっ!』

 『きょ、恭介さん、気を確かにして~っ! ほわぁっ、謙吾君も真っ白に燃え尽きてるよ~っ!?』

 『わふーっ!! 井ノ原さんがしぼんでます!? 来ヶ谷さんが缶ジュースを大人買いしてきてますっ!?』

 『――どうやら』

 二木の溜息が聞こえた。

 『フラグ…とやらの一級建築士は直枝のほうだったようね』




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