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花ざかりの理樹たちへ その105 ~夜突入編~ (リトルバスターズ)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。

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「いい湯だったよ~。ね、みおちゃん」

「……~~~~~っ」

お風呂から上がってくるなり、西園さんがふらふらとベッドに倒れこんだ。

顔が真っ赤なのはのぼせたからだけではないだろう。

「西園さん、お疲れ様なのです~」

「みお、がんばったな」

クドと鈴がウチワでパタパタと煽いでいる。



「では、次は私たちが入るとするか。――よっと」

来ヶ谷さんが立ち上がった。

「え……?」

その胸には、いつの間にか杉並さんが抱っこされていた。

「ゆくぞ、杉並女史」

「え? え?」

抱っこされながらも頭にいっぱいハテナを浮かべた杉並さん。

その杉並さんを抱っこしながらすたすたと脱衣所に向かう。

脱衣所のドアが閉まる瞬間。



「お姉さんと一緒に楽しい楽しいお風呂タ~イムだ」

「え、えええええええ~~~――」



――バタム。

無情にも脱衣所のドアが閉められた。

…………。

「す、杉並さん、大丈夫かな?」

「だいじょーぶっ! ゆいちゃんは普段変なこと言ってるけど、とっても紳士さんなのです」

小毬さんの言葉は少し違う気もするけど、来ヶ谷さんなら紳士という言葉もあり……なのかもしれない。



お風呂からは――

『むぅ……』

『どうしたの、来ヶ谷さん?』

『君のことだから、裸での付き合いで恥じらいに震え、体を桜色に染めることを期待していたのだが…』

『えっとね、昔私の家の近くに銭湯があったんだ。いつも銭湯に遊びに行ってたからこういうのは気にならないかな』

『ほう』

『それにね私、お風呂大好きなんだ』

『なるほどな…』

『はぁ~それにしても気持ちいいね~』

『ふぅ、そうだな』

『タオルを頭の上に乗せてと、ふぁぁ~ごくらく、ごくらく~……』

『ああ…』

『生き返るね~…』

『ああ……』

『いい湯だな♪ いい湯だな♪ はぁ~びばのんのん♪』

『――時に杉並女史。キミはおばあちゃんっ子だろ?』

『ど、どうしてわかったの!?』

『小さいときは人がいないと銭湯でバタ足などしてしまった口だろ?』

『ええっ!? そ、それ、どど、どうしてっ!?』

意外と杉並さんはおちゃめみたいだ。



しばらくして二人が上がってきた。

「ふぅ、気持ちよかった」

「なかなか良いひと時だった。では、お次は……」



――ギンッ!



みんなの獲物を狙うような眼が僕に集まった!

逃げ場なしだ!

「キミの替えの下着なら既に脱衣所に準備しておいた」

「あ、ありがと」

相変わらず準備がいいよね……。

「私も理樹ちゃんとお風呂したいな~」

「いやいやいや、僕男だからっ」

「ふえ?」

どうしてそこで不思議な顔をするのかわからないっ!

「……ぱしゃり……ぽ」

「西園さんは何してるの!? ホントに撮ってるしっ」

「なに大丈夫だ、理樹君。覗いたりはせんさ。あまつさえ盗撮したりなんて考え付きもしないさ」

「わざわざ口に出すあたりで不安だよっ!」

「リキ」



――ぽん。



クドの小さな手が僕の肩に置かれた。

「もしリキのお風呂を覗こうとする方がいましたら私が全力で食い止めますので、安心してお風呂してきてください」

ね、とクドがほほ笑む

「クド……」

「どれクドリャフカ君。この飴玉をやろう」

「ホントですかっ!? さんきゅーなのです~! 小毬さん、なぜだか飴玉をもらってしまいました~っ」

「わぁ、よかったねクーちゃん」

あっという間に買収されたーっ!!

ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!

「直枝君、早くお風呂に入らないと冷めちゃうよ?」

杉並さんーっ!

ううう……。

僕は意を決して立ち上がった。

「じゃあ、入るけど……けど……」

顔がポッと熱くなる。

「覗いちゃ……」

自然と腕が自分の胸を覆い隠し、キュッとスカートの裾を押えた。

「ダメ……だからね……?」



「……これは辛抱たまりませんっ! モンモンとしますっ」

ああっ! なぜか西園さんが鼻息を荒げはじめたっ!

「誘っているのか!? 誘っているのかーッ!?」

来ヶ谷さんに至っては本当に目の色が変わっているーっ!!

その西園さんと来ヶ谷さんの前に鈴がヒラリと躍り出た!

「理樹っ! ここはあたしが食い止めるっ!! 今のうちにいけぇーっ!」

「鈴、ごめんっ!」

「あとでモンペチツナマグロ味だからなっ」

「うんっ!」

僕は鈴を背に脱衣所に駆け込んだ!



…………。

……。



「ふぅ~……」

湯船に浸かり、一息ついた。

念のためにと言ってはおかしいけど、腰にはタオルを巻いた状態だったりする。

「今日も色々あったなぁ……」

「わ、ブラジャーの跡が残っているし」

「……」

「……僕……男に戻れるよね……」

無性に悲しくなってきたよ…。



外からは――

『そんなディフェンスでこの私を押さえられると思っているのか?』

『やってみなければわからない』

『面白い』

『ゆいちゃんが右に回り込んだっ!』

『なにぃ!? むむ、あれを出すしかないなっ!』

『フハハハハ、何を出そうがおねーさんの欲望は止められ――』

『ふんふんふんふんふんふんふんふんっ!!!!』

『出ましたーっ!! 鈴さんのふんふんディフェンスーっ!!』

『な、何だと!? 超スピードによる分身で壁を作っただと!?』

『これは鈴さんが努力と根性で身に着けた最終奥義っ! いくら来ヶ谷さんでも易々(やすやす)と突破はできませんっ!』

『ふんふんふんふんふんふんふんふんっ!!!!』



「……あはは……」

外ではとんでもない攻防が繰り広げられているようだ。

さらに外からは。



『ただいま戻りましたの』

『あ、さーちゃんおかえり~』

どうやら笹瀬川さんが帰ってきたようだ。



『なんですの? ふんふんふんふん聞こえますけれど…?』

『うん、今鈴ちゃんが戦ってるから~』

『またわけがわからないことをしてますわね…。あら、お一人足りないようですが…?』

『あ、うん。今お風呂だよ』

『…………そうですの。あ、わたくしはトイレに行ってきますわ』

『は~い』



「ふぅ」

僕も早めに上がらないと。

だが、その時は突然やってきた。



――ガチャ。

不意にお風呂場のドアが開いた。

「え……」

いきなりのことが起きると人間は何も反応ができないものだ。

そこには――……。



「わたくしめがお背中をお流しいたしますわ」

そこには……。

バスタオル一枚の笹瀬川さんが立っていたっ!!



「え――――…………」

あまりのことに体が固まってしまって動けないっ!

その間にも紅潮した笹瀬川さんがペタペタとお風呂場に入ってくる!

「……い……いーーーやいやいやいや」

そうしている間に、笹瀬川さんが片足を湯船にっ!

僕は慌てて湯船の中で体を縮めるのがやっとだ!

「さ、さすがにダメだよーーーっ!」

「わたくしもとても恥ずかしいですわ……おあいこということで」

おあいこ、じゃないからーーーっ!!

僕の言葉むなしく、笹瀬川さんがお風呂に入ってしまった!

バスタオルをしたままなのが救いだ……じゃなくてっっっ!!

「なんですの?」

ふふ、と上気した顔をかしげる。

「女同士よろしいじゃないですの」

「だからっ! 僕は――」

そこまで言ってハッと気づいた。



あ……。



僕、笹瀬川さんに……。



男だって伝えるの忘れてたぁぁぁーーーっ!!



サーッと血の気が引いたっ!

「ぼ、ぼ、僕……」

「?」

「お、おと……」

「どうしましたの?」

「お……おとこ……なんだけど……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「ハ…………?」

笹瀬川さんの目が点になった。

「なにをおっしゃって…………」

その目がグググと下に動いて、僕の何もない胸を注視した。

「……」

さらにグググと下に動き、タオルの腰巻を見る。

「…………」

その目線が僕の顔に移った。

「……………………………………――!?!?」

じっくり数秒は見て、次第にその目が見開かれていく!

「な、な……!」

口がパクパクしている!

「あ、あ、あなた、ま、まままさか…………」



「直枝、理樹ぃいぃいぃいぃーーーーっっっ!?」

大絶叫が狭いお風呂場に木霊した!



「あああああ、あなた、あなたっ!?」

「ごっ、ごめんっ! ホントにごめんっ! 言おうと思ってたんだけどっ」

「うな~~~~っ!! ふにゃ~~~~~っ!?」

笹瀬川さんは体を縮こまらせ絶賛錯乱中だ!



「どうしたのだ理樹く――――」

「理樹、大丈夫か………んな………っ!?!?」

「なにごとですかーっ!」

音を聞きつけて部屋にいたみんなも駆けつけてきて、僕らを見るなり絶句した!

「あれ、さ、さーちゃん……トイレじゃなかったっけ……?」

「うなぁぁぁぁぁぁーーーーっっっっっっ!?」

みんなを見た笹瀬川さんがさらに絶叫した!

「いやこっここここれはっ! 笹瀬川さんが知らずにお風呂に入ってきちゃっただけでっ」

「……その割にはお楽しみのように見えますが」



……。

僕たちの姿を客観的に見ると。

僕と笹瀬川さんが一緒に仲良くお風呂に入っているようにしか見えない。

目と目が合った。



――ポフンッ!



一気に僕と佐々美さんの顔が赤く色づいた!

笹瀬川さんなんて恥ずかしさからか体まで赤く火照らせてプルプルと震えている!



「み、みんな聞いてよっ! こっ、こっ、こっ、これはねっ! これはっ」

「うにゃぁぁぁーーーーッ!! 理樹はあたしがあんなに頑張ってるあいだに、ささささささ子とお風、お風呂かっ!?」

「なっなっ何をいってやがりますのっ!? わっ、わっ、わたくしはコレがまさか男とは思わずにっっ――」



笹瀬川さんが鈴の言葉に反応して勢いよく湯船から立ち上がった!



――バチャン。



水を吸ったバスタオルが落ちた。



「……」

「……」

「……」

「……」



――すっぽんぽんになっていた。



「ささこ、おまえいい体してるな」

「……ぎ」



「ぎゃぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」

寮全体を揺るがすほどの絶叫が響き渡ったのだった……。





***





「…………」

クッションを抱きかかえてベッドの上に座っている笹瀬川さん。

よほど恥ずかしかったのか未だに顔が真っ赤だ。

時折思い出したように「うなーーーっ」と叫びながらクッションでバフバフッとベッドをたたいている。



葉留佳さんによる化粧直しもろもろのトータルコーディネートが終わったところで、ぽん、と来ヶ谷さんに肩を叩かれた。

「事故だったとはいえ笹瀬川女史としても災難だろう。声をかけてやってはくれないか」

「う…うん」



「あ、あの、笹瀬川さん……? ――横、いい?」

僕はクッションを抱きかかえて小さく体を丸めている笹瀬川さんの横に座った。

「……ごめん。騙すつもりはなかったんだけど……」

「…………見ましたの?」

「え?」

「だからっ! その……わたくしの……見ましたの?」

「……す、すぐに目をそらしたよ」

「ぐ……」

プシューと音がするほどさらに赤くなった。

「……殿方に裸を見られるのなんて……そんなのもちろん初めてでしたの」

「あまつさえ一緒に、おふ、お風呂にまで入ってしまうなんてっ!」

自分の体をさする笹瀬川さん。

「ご、ごめん」

「それにあなたは――わたくしの心の中まで散々弄びましたわ。わかっていらっしゃる?」

「……ごめん……」

帰ってきた時やお昼休みのことだ…。

「さーちゃん、あれはね――」

「外野はお黙りなさい!」

一喝。

「何とか言ったらどうですの?」

「その……ごめん」

「…ッ!」



――ガッ!

いきなり胸倉を掴まれた!



「わたくしは一糸まとわぬ姿をあなたに見られましたのっ!」

「あなたのせいで心の中まで散々かき乱されましたのっ!」

「わたくしはあなたに身も心も弄ばれましたのっ!」

「もう裸のお付き合いまでしてしまったなんて……わたくしは……わたくしは……っ」

キッとした瞳が僕をとらえた。

「あなたのお嫁さんになるしかないじゃないんですのっ!!」

「……へ……?」

「だからっ!!」

胸倉をさらに強く締め付けられた!



「わたくしを!」

僕の胸倉を掴みながらスゥゥと息を吸い、勝気な表情で言い放った。





「お嫁にしなさいっっっ!!」



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