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ドリームメイカー5話 『泣き虫レオパード・3篇』 (オリジナル)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 「え……?」 あたしの口から漏れた第一声。 「え……?」 さっき、確かに、自分の布団に入ったはず。 遊び疲れて寝てしまった獏を…

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「え……?」
あたしの口から漏れた第一声。

「え……?」
さっき、確かに、自分の布団に入ったはず。
遊び疲れて寝てしまった獏をベッドに寝かし、あたしもその横で寝たはずだ。
それなのに。

「ここって……」
制服を着て見知らぬ薄暗い空間に突っ立っていた。
ここってまさか……。
それを意識した瞬間――嫌な予感が嫌な現実へと変貌を遂げた。

「クッ……やはりか……ッ」
声がした方を見ると、そこには夏用制服姿の洋介。
苦虫を噛み潰した顔で突っ立っている。あたしも恐らく似たようなもんだろう。
「洋介も……って、ここって!?」
「想像通りだろうな……この雰囲気とプレッシャーならば間違いない」
吐き捨てるように言い放った。

「悪夢の中だ」

嫌な予感はしていたんだ。
けど、また悪夢に来るなんて……。

「なんでまたなのよっ! もう終わったって言ったじゃないっ」
「俺に聞くな。まずは落ちつけ、そこからだろ」
「けどっ!」
「落ち着かなければ、出られるものも出られん」
「どうしてそんなに落ち着いていられるのさっ!」
「フン」
余裕の表情を見せている洋介だが、目線を足元に移すと。
足が震度3くらいで揺れていた。
「秘技・直立両足貧乏ゆすりだ」
……。
ま、まあ、怖いのはどっちも一緒か。
けど…………。
洋介の言うとおりだ。
もう悪夢の中なら、この悪夢を解決するしか脱出する方法はない。
慌てれば、それだけ脱出の可能性が減るだけ。
「わ、わかった……落ち着いた。たぶん」

数回大きく深呼吸をした後、あたりを見回した。
電気が消えたロビーとでも呼べそうな、薄暗く広い玄関であろう空間の真ん中にあたしたちは立っていた。
いわゆる洋風の豪邸だ。
見渡すだけでドアが右側に3つ、左側に2つ、正面に両開きのドアが構えていた。
さらに左側には赤絨毯が似合いそうな西洋風の階段。上は吹き抜けで2階にも部屋がいくつも並んでいるのが見渡せる。
天井吹き抜けの中央は丸いガラスになっており、そこから月明かりだけが差し込んでくる。

「どこ、ここ……?」
「学校ではないことは確かだな」

さらに見渡していると、あたしから少し離れたところで床にへたりこんでいる影があった。
18歳ほどの角を持つ少女の影。ブツブツと何かをつぶやいているようだ。
ふうん、どうやら獏は夢の中では今までの姿なのね。
そうじゃなくて!!
「獏! ここ何っ!? これ、また悪夢じゃない!?」
「……ブツブツ……」
反応なし。
獏は床に座りままブツブツと何かを言っている。
「もう終わったって言ったじゃないっ」
獏まで近寄ると、獏がガバッと顔をあげた。

「げっ、現世のアレはやりたくてやってるわけではないからなっ!!」

第一声がそれだった。
「へ?」
「が……ぐ……っ! だからじゃっ! だからのっ、べ、別に向こうでのアレは妾がやりたいわけではなくてだな……っ! ち、違うのじゃっ!!」
うわ、この暗さでもわかるくらい顔真っ赤だ。
「む、向こうのアレって?」
「お、お主らにも幼少期ぐらいあったであろうがっ! それじゃっ、腑抜けがっ!! 誰とて子どもの時なれば、あんなもんじゃっ、ド阿呆がっ!!」
床に腰を下ろしたまま、顔をたこみたいに赤らめ腕だけで「わかったか!? わかれっ!!」と暴れている。
……あぁ。
どうやらあちら側での『子どもだった』記憶もあるようね。
よっぽど恥ずかしいに違いない。これは触れないであげたほうが――
メガネを輝かせた洋介が、ポツリと一言つぶやいた。
「――……ママ~」
「ぬぅあああああああああああああぁぁぁぁーーーっ!!」
獏、床にて大悶絶!
「泣くのはいいけど、あたしの服で涙拭かないでね」
「うみゃああああああああああああああああーーーっ!!」
「チョコを出すと本当に美味そうに食うよな」
「んみゃああああああああああああああああーーーっ!! 言うな言うな言うなぁあぁあぁあぁーっ!」

――ジッタンバタンジタンバタンっ!!

転げまわる獏だけど、もはや半分涙声だ。
「ハァハァハァ……ッ!」
キッとあたしたちを睨みつけた。
「良いか!? わっ、わっ、忘れろッ!! 記憶を消せっ!! 消し去れっ!! むしろお主らが消えろッ!!」
床でグッタリしながらあたしたちを睨み付ける琥珀色の瞳だが。
もうすっかり恥辱に濡れている。
うーん。
イケナイ方向に目覚めちゃいそうな気までしてくるわね。
「――んッ」
赤く染まった顔を逸らし、獏が右手をあたしに突き出してきた。
「?」
「んッ!」
「なに?」
「まッ、まだ一人で動けんのじゃっ!! 妾を起こすのじゃっ!!」

……ああ、やっぱりあの獏が成長した姿なんだなぁ。
手を貸しながらすごくそう思った。


***


地形を把握しておいた方がいいという獏の意見で、あたしたちは1階のフロアから散策を開始した。
獏はというとあたしがおんぶしている。
現実の方と違って女性的な腕が首に回され、ゆるやかな呼吸があたしの背に伝わる。
ゴスロリ服を着込んでいるから重いかと思いきや、意外と軽い。
最初は洋介が「俺が背をおう。そら、乗れ。下心はない。そもそも魅力を感じないから安心しろ」と背中を向けたんだけど「死ね」で一蹴されていた。

「もう悪夢は見ないって言ってたでしょ。なんであたし達また悪夢の中にいるのよ?」
背に向けて話しかけた。
「何を言うか。妾は『昨日の悪夢は見ない』と言ったんじゃ。同じ悪夢は見ないだけで、新しい悪夢を見ないなどとは言っておらん」
「はぁっ!? それ詐欺じゃないっ」
「人聞きが悪いことを抜かすな! お主らが勝手に勘違いしただけであろうがっ」
獏の太ももがこれでもかとわき腹を締め付けてくる。
「あ、こらっ、締め付けてくるなっ! 歩きにくいでしょっ」
「転んでしまえばよいのじゃ」
なんてささやかな反撃なんだ!
それに転んだらおんぶしているあんたも道連れなのに。
けど、そっちがその気ならこっちだってこうするまでよ。
「ジャンプっ」
獏を背負ったまま飛び跳ねた。
「お、落ちるではないかっ! 落ちる落ちるっ」
「ちょっと腕までそんなにきつく絞めないで、くっ、苦しいっ」

そんな様子を見ていた洋介が呆れたように溜息交じりで、
「じゃれ合ってないで行くぞ」
「「じゃれ合ってないッ!!」」


二階へ続く階段を上っていたときだった。
「何か聞こえないか?」
先行する洋介が階段を昇る足を止め、手で制した。
「何かって……」
耳をすます。

静寂が支配している暗闇の空間の奥の奥。
2階の奥の部屋から泣き声のようなものがうっすらと聞こえてきていた。

「うぐ……」
暗闇の泣き声って……。
夜の闇も相まって雰囲気は満点だ。しかも心霊スポットなどと違って、何かがそこにいることは間違いないわけだ。
思わず足がすくむ。
正直、行きたくない。
「何をしておるのだ。声のする方へ行くぞ」
「い、行くの?」
「当たり前じゃ。まずは今回の悪夢の正体を見極めるのが先決じゃ」
あたしの背で「ほれ、行くぞ」と足をぶらぶらさせながらのん気に言う獏。
人の気も知らないでっ。

2階へ上がると、その泣き声は確かなものとなった。
左奥のドアの向こうから悲しげな泣き声が絶え間なく響いている。
「……ちょ、ちょっと洋介、先に見に行く気ない?」
「俺たちはバディだ。何をするときも一緒だ」
格好良く言ってるつもりだろうけど、嫌だってはっきり言えばいいのに。
ついでに言うと別にバディ(2人ペア)になった覚えもないんだけど。獏もいるし。


――うぁぁぁん、ぐすっ、ぐすっ――


あたしたちは、悲しげな泣き声がするドアの前に立った。
「……準備はいいか? 開けるぞ」
「うん」
じゃんけんで負けた洋介がドアノブに恐る恐る手をかけた。
ゴクリ、と喉が鳴る。
「いくぞ」
声と共に洋介の手がドアを引いた。

――がちゃり

ドアを開け放った途端、悲しみを伴った重い空気がこぼれだした。
「こいつは……」
洋介の口から声が漏れた。

まず一番最初に目に飛び込んできたのが暗い部屋の一面に置かれたぬいぐるみの山だ。
大きなものから小さなものまで様々なものが置かれている。軽く100体は超えていそうだ。

その部屋の中心。
絨毯にぺたりと腰を落としている背中。
こちらも一見すれば人形のようだ。
だが人だ。
そこからとめどなく泣き声が発せられている。
涙を拭う手も止まることはない。
そのたびにブロンドの髪が揺れる。
わんわんと悲しげな泣き声が部屋中に木霊している。

「あそこにいるのって……」
「……山田アリアだな。間違いない」
「なんでアリアが……?」
「この悪夢はそやつが見ている悪夢だから当然じゃ。そして――」
背中の獏から邪悪なオーラが放たれた。

「そやつ自身が悪夢の本体じゃ」

「え……?」
呆けた声が出た。
いまひとつ意味がわからない。
泣いているアリアを見ると、体からゆらりと黒い霧が浮かんでいた。
「なにも悪夢は前のような化物ばかりが出てくるものとは限らん。自身が内包している場合もある」
ふむ、と獏が興味深げにつぶやく。
「それにしてもこやつは珍しい。今起こっていることと逆をいっておる」
「逆とはどういうことだ?」
「今は悪夢が現実になる。これはわかっておろう。こやつの場合はそれが逆じゃ」
「悪夢が現実になるの逆だから……」
「腑抜け共が。とどのつまり、現実が悪夢となっておるということじゃ」
現実が……悪夢に?
「ここにいる娘は現実が夢に反映された結果じゃ。向こうで泣きわめきたいことでもあったのであろう。夢にまで見るという言葉か」
「現実で泣きたくなるほど嫌なことがあったってこと? アリアに?」
何不自由ないアリアだ。
そんなアリアが泣くほどの嫌なことがあったって言うの……?
考え付きもしない。

「どれ、お主らが悪夢から目覚めたいのなら」
負ぶっている獏が事務的に、いかにもつまらなそうな声を出した。


「そこにいる悪夢を倒せば終いじゃ」


「――………………え?」
大きな部屋の中心で小さくまとまりとめどなく涙を流し泣き続けるアリアを、獏はまるでコンビニ弁当を見定めるような目で見つめていた。

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