ミディの放浪日記~最終回 日記 -7月22日-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
前回<ミディの放浪日記リスト>
ミディの日記
ある日、お母さんがお仕事に行く時のこと。
こんこんこん。
「あーごめん、お母さんちょっと着替えてるからミディお願い!」
「はいはいはーい。どちらさまで…」
玄関のドアを開けて、近くを見てみても誰の姿もない。
「って、誰もいないじゃない…お母さーん、いたずらだったみたいー」
「ちゃんといるのー」
いきなり、足元から声が聞こえた。
「ミディおねーちゃんひどいのー」
「えっ? わぁっ!?」
下を向いてみると、小さな女の子が2人。
同じ顔をして、身長も体格も同じくらい…双子なのかな?
「あ、え、あの…? な、なに?」
「おとどけものにきたのー」
「きたのー」
…お届け物?
お届け物はいいけど…何でこんな子がお届けるの?
「あら、ミディ…その子達は?」
お母さんが着替えを終えて、玄関にきた。
「んー…私にもよく分かんないよぉ。お届け物があるって言ってるんだけど…」
「ひとまず家に入れましょ、それから…あー!」
「え、え? 何、どうしたのお母さん?」
***
…なんだかなあ。
お母さんは時間だとか言ってお仕事行っちゃうし。
結局、残ったのは私とこの子達だけ。
「まぁ、ぶつぶつ言っててもしょうがないっか。うん!」
カップを3つ持ってリビングに入ると、さっきの双子がちょこんと行儀よく座っていた。
「はい、どうぞ」
「?」
「あったかいミルク。ミルクは嫌いだったかな?」
「だいすきなの」
にぱっ、と笑う2人。
「そっか、よかった」
両手でカップを持って、くいくいとミルクを飲む双子を見ながら、私は話し掛けてみた。
「ねぇ、ちょっと教えて欲しい事があるんだけど、いいかな?」
「うんっうんっ」
こくこく頷く。
「えーっと…お名前は?」
「リアっていうのー」
「シアっていうのー」
リアちゃんとシアちゃんね。
「そうだ、お届け物ってなにかな?」
「あ」
(たぶん)リアちゃんが背負っていたリュックサックを下ろした。
「このなかにいるの」
…中に、「いる」?
「あけるのー」
「え、ちょっと待って心の準備がまだできてな」
ぶわっ!
リュックサックから何か大きくて白い物が私に飛びついてきた。
「あれ…もしかして」
頭に小さな角がある、毛だらけの生き物。
「ゆぅに!」
「キューーー♪」
よかった、私のこと忘れてなかったんだぁ…。
「あはっ…ほら、くすぐったいってば」
「キュー」
「おねーちゃん」
リアちゃんがリュックからまだ何かを出した。
「おてまみもあるの」
「お手紙?」
こくこく頷く。
「お手紙…」
私は、ゆぅににへばり付かれたまま手紙を読み始めた。
***
『こんにちはミディちゃん、ひさしぶり!
ボクのこと覚えてるかなぁ? フィオだよ~。
まず、会いに行くって言ったのに行けなくなってごめんなさい!
西側で色々あって、離れられなくなっちゃいそうなの。
だからこんな風に手紙になっちゃいました。ホントにごめんね。
あ、ゆぅにのこと話しておかなくちゃね。
約束通り、ゆぅには大きくなったよ。ボク達じゃなくって頑張ったのはゆぅになんだけどね。
そうそう。
ミディちゃんが心配してた、「ゆぅにが何も食べれなくなっちゃった」ってこと、
ちょっと気になったからエリアスに調べてもらったんだ。
ボクは「大きくなれば何でも食べる」って言ったけど、ホントはそうじゃなくって
幼態でも何でも食べれるらしいの。
ゆぅには好き嫌いしてただけだったんだね。
それで、色々食べさせてたら…あはは、なんか丸くなっちゃった。やりすぎちゃったかな。
でも、少しくらい丸っこい方が可愛くていいよね?
それじゃ、短いけど書きたいこと全部書いたら読みきれないから、おしまい!
最初はあんなこと書いてるけど、いつか絶対遊びに行くから待っててね!
小さな親友へ。フィオ』
***
「フィオ…ありがと」
「キュ」
「丸っこくても細くても、ゆぅにはゆぅにだもんね」
「キュ♪」
「ミディおねーちゃん、うれしそうなのー」
ミルクを飲んでいたリアちゃんがこっちを見て言った。
「うん、嬉しいもん」
「リアもうれしいのー」
「シアもなのー」
…あれ?
「ねぇ、リアちゃん、シアちゃん?」
「??」
2人揃って首をかしげた。
「…どうして私の名前、ミディって知ってるの?」
ちょっと考えてみれば変。
どうして初対面の、しかもこんな小さな子が私の名前を知ってるんだろう。
「おとーさんおかーさんが言ってるのー」
「言ってるのー」
「…お父さんお母さんのお名前、言えるかな?」
「…。」
「…。」
2人揃って、黙ってしまう。
「だめなの、しゃべったらだめなのー」
「だめなのー」
ぶんぶんぶんぶん頭を横に振りながら言う。
「どうしてダメなの?」
「おとーさんにおこられるのー」
「おこられるのー」
「お父さん、怒ったら恐いんだ?」
こくこく頷きながら喋る、2人。
「おとーさんおこるとこわいのー」
「こわいのー」
喋ったら怒られるって思ってるんだね。
「でも、おかーさんはもっとこわいのー」
「こわいのー」
「…ふぇ?」
「だから、あんまりこわくないの」
にぱっと笑う2人。
「じゃあ、お名前教えてくれるかな?」
「おとーさんは、おとーさんっていうの」
…え?
「おかーさんはおかーさんなのー」
「あ、あはは…ありがと…」
そうだよ、お父さんお母さんを名前で呼ぶ子なんていないって。
んーでも…困っちゃったな。
「ねぇ、リアちゃんシアちゃん?」
「?」
「2人だけでここに来たんじゃないよね。お父さんとお母さんは?」
「んーとんーと」
「おとーさんがくたびれてうごけないから、さきにいってろっていわれたの」
…なんだかなぁ。
***
-夜-
「ふう」
私は机について、後ろを見てみた。
「すー…」
「ぴー…」
…ベッドでは、リアちゃんとシアちゃんがよく眠っている。
結局、夜になっても2人のお父さんとお母さんは来なかった。
「お父さんがくたびれて動けないから、ねぇ…リアちゃんとシアちゃんに振り回されてたのかな?」
ま、いっか。
大丈夫、ちゃんと明日には来てくれるよ。
お父さんとお母さんだもんね。
「ふぁ…日記書いて寝よう…」
私は机の中から日記帳を取り出した。
そして中をぱらぱらとめくる。
あ、これ最初のやつだ…。
ちょっと懐かしくなって、私は、書き始めの1ページを読んでみた。
***
『きょう、イリスといっしょに、カイっていうおっきぃ人にあいました。
おもしろかった。
ごはんもおいしかった。
それに、カイがいっしょにいってくれるって言ってくれた。
わたしと、カイと、イリスがいっしょにいるの。
とってもうれしかった。』
***
最初の日記は、これだけしか書いていなかった。
「…そっか。私、3人一緒になった日のこと書いたんだっけ」
その日にあった事とか、楽しかった事とか、それを書いていく日記。
でも私は、それより前の日のことを書いてた。
「…。」
机の中から、7冊目の日記帳を取り出して、私は日記を書き始めた。
***
『7月22日。
今日はかわいい郵便やさんが家にきた。
リアちゃんとシアちゃんっていう双子の女の子が、ずっと会っていなかったお友達を届けてくれたの。
ゆぅにと、フィオと、エリアス。
ゆぅにはちょっと…かなり丸っこく、大きくなっててびっくり。
フィオとエリアスはきっと変わってないんだろうな。早く会ってお話したいな。』
『7月23日。
リアちゃんとシアちゃんのお父さん、お母さんが家にきた。
私を見て、大きくなったねと言ってくれる。
泣きそうだけど、がまんして泣かないようにしなくちゃ。
また、一番いい顔を覚えていてほしいから。
あの時みたいにちゃんと笑ってるんだ。
ね。
それで、いいんだよね。』
-ミディの放浪日記 了-
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