ミディの放浪日記~日記 -9月2日-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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ミディの日記
きょうは、げつようび。
わたしは、げつようびがキライです。
「行ってきます。お留守番、お願いね」
「うんっ! おかあさん、いってらっしゃい!」
…行っちゃうよ。
「それじゃね」
「あ、おかあさん…」
「ん? なあに、ミディ?」
「えっと…んと…お仕事、がんばってねっ」
…ちがうよ、わたしはこんなこと言いたいんじゃないの。こんなこと言いたくない。
「うん。頑張ってくるわ」
「えへへ。いってらっしゃいっ」
ぱたん。
わたしは、ゆっくり玄関のドアをしめました。
少ししてから、もういっかい開けます。
…お外を見ても、おかあさんは見えません。
あるいて、もうとおくに行っちゃったんです。
…でもでも、ちゃんとかえってくるのは分かっています。
夕方になれば、またおかあさんといっしょにいれる。
それでも、なんだか淋しくってしかたがありません。
わたしは、ドアをまたゆっくりしめました。
…ぱたん…。
なんだか、わたしとおんなじ音がする…。
どようび、にちようびはずっと、ずぅーといっしょなのに。
げつようびになると、おかあさんはお仕事に引っぱられて行っちゃう。
だから、げつようびはキライです。
***
ついこのまえ。
わたしはここに来ました。
カイと、イリスと、さんにんで、みんな、みんないっしょに。
でもわたしは、ここにはひとりで来ました。
カイは、「おわかれ」はあるって言ってました。
だれにでも、いつかはかならずあるものだって。
でもわたしは、「おわかれ」って、なんだか淋しい感じがして、
なんだかあってほしくない感じがして、いやでした。
『甘えるな!!』
…カイにこう言われたとき、「おわかれ」ってホントにつらいことなんだな、って考えました。
イリスも、「おわかれ」のお話をしてたとき、ずっとつらそうな顔をしてたから。
でも、わたしにはもう「おわかれ」ってないみたい。
カイがそう言っていました。
それに、カイと、イリスとまた会うから。やくそくしたもん。
だからわたしは「おわかれ」するときは泣きませんでした。
でも、イリスはいっぱい泣いていました。
なみだが、ほっぺたをながれてぽろぽろおちていました。
だから、わたしは、イリスにあったかくなってほしくって、あたまをなでなで、ってしました。
わたしがいつもイリスにしてもらってること。
あったかいのをイリスに分けてあげたかったから。
『う…んっ。とっても…』
イリスは、泣きながらこう言いました。
なでなで、ってされたあとは、どうしてか分からないけど、泣きたくなっちゃうから。
だから、わたしはイリスがあったかくなってくれたんだなぁって、とってもうれしかった。
それからわたしは、ひとりでここに来ました。
いっしょにいたかった。
けど。
そうすると、また泣きたくなっちゃうと思うから。
そうすると、またいっしょにいなくちゃいけないから。
「おわかれ」はつらいことだけど、おかあさんに会えたから、うれしいことなのかも知れません。
***
「…。」
ひとり。
お花、テーブル、しょっきだな、せんたくもの、カレンダー、カーテン、ほんだな、ぬいぐるみ。
いっぱい、いっぱいのものがあるけど、わたしはひとり。
おかあさんがいない、このじかん。
本をよんでも、ぬいぐるみであそんでも、おへやのおかたづけをしても。
ずっと、ずぅっとひとりのじかん。
わたしはこのじかんがキライです。
『それじゃね』
あさ。
おかあさんはこう言ってお仕事に行きます。
…なんだか、さみしいです。
「おわかれ」をするときみたいで、イヤです。
でも、おかあさんはちゃんと、かえってきます。
ちゃんと分かってるの。
でも。
もう、「おわかれ」は、ないって言ったのに。
それなのに、こんなにさみしいのは、イヤです。
カイのうそつき。
わたしはひとり。
イリスと会うまえ、ひとりでいたときみたいな感じです。
『えーっと…うん、そう。一緒に行こうよ、ね?』
イリスの言ったこと。
うれしかった。
そのとき、「いっしょ」がだいすきになりました。
あったかくなることば。
イリスは、ずっとわたしのそばにいてくれました。
『もう大丈夫だ…傍にいるからな』
会ってからずぅっといっしょだったカイ。
あったかくって、おおきくって、やさしくって。
カイの「いっしょ」もだいすきになりました。
カイも、ずっとわたしのそばにいてくれました。
でも。
でも、いまはひとり。
ひとりは、イヤです。
***
玄関のドアにかぎをかけて、わたしはお外に出かけました。
おうちにいると、さみしいキモチがわたしといっしょにいるから。
わたしは、そんな「いっしょ」はイヤでした。
でも、お外に出てもだれもいません。
わたしは、ひろいところに行ってみんなをさがそうと思って、
ここらへんでいちばんひろいはらっぱに来ました。
でも、やっぱりだれもいません。
…どうしてかな。
わたし、ひとりじゃなきゃいけないのかな…。
「…。」
やだ。
そんなのはイヤ。
ぜったい、おかあさんもかえってくるもん。
ぜったい、ずぅっとひとりじゃないもん…。
「ぅ…」
すこし、なみだがながれました。
「ねぇ」
だれ。
「どうして泣いてるの?」
おとこのこ。
見たことのないおとこのこが、わたしに話していました。
「さみしぃの…」
わたしは、こたえました。
「どうして?」
おとこのこは、また話してきます。
「だれもいないの…」
「どこに?」
「どこでも、だれもいないんだもん…」
わたしがこたえると、おとこのこは少し話すのをやめて、それから、
「ちがうよ?」
そう、言いました。
「だって、おかあさんも、おとなりのおばさんも、フィオも、エリアスも、ゆぅにも、
さきも、あややんも、ヴァイドも、カイも、イリスも、だれも、だぁれもいないのに…」
「変なの。」
へんなの?
「…どぉして?」
「ぼくがここにいるのに」
そっか。このおとこのこがいる。
「ぼくたち、いっしょにいるのにな」
いっしょ。
「…いっしょ」
「でしょ?」
「…うん」
***
おはなし。
わたしたちは、ふたりでいっしょにお話をしました。
「ふぇ?」
おとこのこも、わたしとおんなじ。
おかあさんが出かけて、かえってこないって言ってました。
「わたしもだよ」
こう言ったら、
「またいっしょなんだね」
おとこのこは、こう言いました。
***
ゆうがた。
「そろそろ、おかあさんかえってくるかなぁ…」
「きっとかえってくるよ」
うん。
いっぱい、いっぱいお話をしたおとこのこ。
わたしは、なんだか、イリスとカイといっしょにいるみたいに
たのしくって、うきうきして、どきどきしてました。
「ぼく、おかあさんにきみのこと話すよ」
おとこのこが言いました。
「わたしのこと?」
「うん。お友だちだよ、って」
おとこのこは、こっちをむいて言いました。
「わたしも!」
わたしも、おとこのこをむいてこたえました。
「ねぇねぇ」
「?」
「またあしたもお話できるかな?」
「うん、きっとできるよ」
ゆうがた、おかあさんがかえってくるじかん。
わたしとおとこのこはこう言って、「おわかれ」しました。
***
「ミディ、ただいま」
わたしのほうに、おかあさんがあるいてきます。
「おかえりっ、おかあさんっ!」
わたしはおかあさんにとびつきました。
「あのねあのねっ、きいて、おかあさんっ」
「なあに?」
「わたしねっ、お友だちできたんだよっ」
「お友だち?」
「うんっ!」
「良かった…」
おかあさんは、なんだかとてもうれしそうな、ほっとしたような顔になりました。
「どんな子? 男の子? 女の子?」
「おとこのこだよ」
「お名前は?」
「ふぇ? えとえと、うんっと…わかんない」
「あらー…じゃあ、明日ちゃんと聞いておかなくっちゃね」
「うんっ、わすれないよっ」
***
よる。
わたしとおとこのこは、「おわかれ」しました。
でもそれは、あしたまでの「おわかれ」です。
「…あ」
『なーに…別れてもまた会えばいいんだ。な、ミディ』
カイのことば。
わたしは、ちょこっとだけ分かった気がしました。
カイ、うそつきなんて言ってごめんね。
「くがつ、ふつか、げつようび…」
わたしはにっきちょうをとじました。
カイと、イリスがかってくれたにっきちょう。
ちょっとのあいだだけ、つかってなかったけれど…。
またこれから、よろしくね。
「おやすみなさい…」
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