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りんぐっ☆ 2話 「これが呪いじゃっ!」 (オリジナル)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 さだこの呪いがついに浅川に襲い掛かる……!?

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#全然出てこないけど、主人公の名前は浅川だ!(爆
#主人公・浅川和行はちょっと良さげな1ルームのアパートにて一人暮らし中ですw




ピンポ~ン。
朝のまどろみに響くいつものドアベルの音。
俺にとっては平日の始まりの合図。

……んん……。
もう朝かぁ。
と、思いつつもう一度眼を閉じた。
朝のこの気だるいまどろみの時間が好きなんだ、俺は。

ドアが開く音。律儀に靴を揃える音。
「あーくん、朝ー、朝だよ。朝ごはん食べて学校行くよ」
幼馴染の舞の声。

いつも来てるんだから俺のこの惰眠を貪りたい気持ちにそろそろ気付いてくれてもいいんじゃないか?
そんな気持ちもお構いなしにトントンとフローリングの床を靴下で歩く音が入ってきた。
「今日の朝はサンドイッチね」
12畳の部屋の真ん中に鎮座しているテーブルに何か置いたのだろう。
これまたいつも通り。
一人暮らしをして学校を遅刻しがちになってから始まった奇妙な慣習だ。
気だるく眼を開けると「はぁ…土日をはさんだだけでこんなに散らかっちゃうの」と溜息交じりにベッドに近寄る舞の姿が映った。
肩までのセミロングの髪にアクセントのヘアピン、制服姿。
まあ…なんだ…可愛いと言えば可愛い…らしい。人から言わせりゃ、だけど。
学校だとちょっとした人気者らしいが、俺から言わせればただの世話焼きの幼馴染だ。
まったく…。
自分の通学路の途中にあるからってわざわざ寄るか、普通。どんだけ世話焼きなんだっての。
近頃では、玄関でピンポン連打されるのも嫌なので鍵まで開けているくらいだ。それくらい毎日来る。

「あーくん、起きよう。おはようだよ」
これまたいつも通り。台本でも用意してるんじゃないか?
それで俺の肩が揺すられて…。
……。
揺すられて…。
……。
揺すられ……ない。

不思議に思って再度目を開けるとだ。
目線は床スレスレ。テーブルの足の下からベッド脇に立つ舞の紺の靴下だけが見えた。
なんでこんなにローアングルなんだっけか…?
俺の視界にはベッド。舞はというと、そのベッドに向けて話しかけている。
なんで俺…ベッドに寝てないんだっけ?
……。
…………。
「起きようよ、ほら」
「…んんっ…」
ベッドの中から声だ。
――女の。
………………。
ッッッッ!!
昨日起こった“あの”馬鹿げたことが一瞬にして脳内で再構築された!
夢じゃなかったのかよ!?
って待て!? アイツがいるとすると……色々ヤバイだろ、絶対!!

「早く起きなさいっ」
「やめ――」

俺が寝てた床から飛び上がるのと舞がベッドの布団を引っぺがすのが同時だった。

「……まだ眠いのじゃ……」
色んな期待虚しく、ベッドの上には眠気まなこをこすっている…さだこ。
マ…マジでいやがった。
そのベッドの横。

「――――――――――」

舞は。
舞は布団を持ったまま完全凍結してしまっていた。
その顔は、無垢な少女が面白そうなマンガ本だと思って開いたら18禁の同人誌だったような驚きっぷりだ。
そりゃそうだろうな…じゃないだろ、俺!! 勘違い思考が走ってるぞ、あの舞の顔は!!
どうするのよ、俺!?
当のさだこは、
「……?」
眠気まなこで不思議そうに舞を見上げ。

――コテン。

「って、寝るのかよっ!?」
思わずツッコんじまったぁーっ!
「あ、あーくん…?」
壊れたロボットのごとくギギギとこっちを向く舞。
「こ、この子は…?」
舞の目。さだこと俺と、そしてベッドを見て、あらぬ幻想を構築しようとしている!
「あ、いや、そのな、聞いてくれ」
「…くぅ、くぅ…むにゅぅ…」
絶妙なタイミングでさだこが寝返りを打って、それはそれは気持ち良さそうに枕に顔を押し付けてやがった。
「……」
それを見た舞は急に俯いてしまった。
「あ、あはは…そっか、そうだよね、うんうん」
「な、何を納得したんだよ!?」
俺の方を見ようともしないで、床に置いた通学カバンを手に取った。
「あ、えと、私、もう学校に行くね。遅れちゃダメだよ?」
や、やばい!!
1000%勘違いしているぞ!
下手したらこの後のセリフは「お幸せに」だぞ!?
「頼む、聞いてくれ!」
俺は玄関に向かおうとするその手をとった!
「これには深い訳があるんだ! 舞、聞いてくれっ! オイ、さだこも起きろっ!! ぐはっ!? だから蹴んなよっ!」


――かくかくしかじか。
俺は呪いのブルーレイのこと、そしてコイツが出てきたこと、呪いのことを包み隠さず話した。

「……そっか」
テーブルに座り、静かに耳を傾けていた舞が声を漏らした。
「あーくんの目、嘘ついてる目じゃなかった。本当なんだね」
「ああ、冗談にしか思えないんだけどな…」
信じてもらえて…良かった…。俺ですら信じられないくらいのことだしな。
……付き合いが長いってのも悪くない。
「じゃあ、さだこ…さん? さだこさんはあーくんを……呪い殺そうとしている、ということ?」
「ククク…愚問だ。そう言っておろう」
どうでもいいが、こいつは舞が持ってきたサンドイッチを頬張ってやがる。
俺の朝飯だぞコノヤロウ。
「呪いか…どうやれば守れるのかな…」
誰かが困っていれば助ける。そういう奴だ、舞は。
ったく…おまえをこんな訳のわからんことに巻き込むわけにいくか。
「結構だ。俺が蒔いた種だからな。自分のことは自分でどうにかする」
「けど…」
「それにコイツを見ろ」
サンドイッチを美味しそうに頬張るさだこをアゴで差した。
「大したことなんて出来そうにないだろ?」
目を向けると、そいつはクククと肩を揺らしながら、皿の上にちょこんとサンドイッチを置いた。
「たわけが……ククク、まだ気付いてないようじゃな」
「何にだよ?」
「貴様を呪い殺す準備なら夜半すぎのうちに済ませたわ」

邪悪な、邪悪な笑み。

「な…?」
スッ、と立ち上がるさだこ。身構える俺たち。
それに構わず、ぺたぺたと俺のタンスへと歩み寄った。
「これじゃ…ククク」
「それ、あーくんの制服のズボンだよね…?」
「まだ見えぬのか、気付かぬのか? それも束の間か。じきに悶え苦しむことになろう」
……。
「……あッ!?」
さだこが自慢げに広げている制服の下!
そこの股の部分、つまりチャックとかある場所な。
そこが……

「なんでそこだけないんだよ!?」
そこが円形に切り取られているのだ!!

「昨晩のウチに股間に当たる部分を切り抜いておいたのじゃっ!」
「おいたのじゃ、じゃねぇよっ!?」
「呪いじゃ」
「うるせぇよっ! 呪いじゃねぇだろ! 性質(たち)の悪いイタズラだろ!!」
ぐぐぐ…っ!!
セコイが大ダメージだ! 下を用意するまで学校に行けない!
「あ、あーくん…」
タンスを覗いていた舞が、青ざめた顔で何着か俺のズボンを持ち上げた。
「全部……やられてる……」
「な、なぁぁぁっっ!?」
慌ててタンスをひっくり返すと、これも、これも、お気に入りのそれもっ!!
全部股間が円形に切り抜かれてやがるっ!!
「腑抜けが、この私に抜かりなんぞあるか」
こ、コイツ…!
くそっ!
昨日の夜中にこっそり起きて、ズボンに穴を開けて、律儀に畳んでタンスに戻しておいたってことか!
「ククク……貴様はこれで外出できまい」
ニタァと悪意の篭った笑みが浮かぶ。
「外出も出来ず、家に篭ることしか出来ない貴様は……一人孤独に打ちひしがれ精神的に徐々に、徐々に病み、そして死に至るのじゃ」
「気長だなあ、オイ!」
思わずツッコんじまった!
「その間、俺を殺そうとしてるお前と二人で部屋にいるのかよ!? 最悪だぞ!?」
「へ? 二人?」
俺が言うと、さだこから間の抜けた声が漏れた。
……キョトンとしてやがる。
「出掛かれないってことはそうなっちまうだろ?」
驚き顔のさだこが一瞬にして引きつった!
「いっ、嫌じゃ!! 私は絶対勘弁じゃっ!! 貴様なんかと二人っきりなんて死んだほうがマシじゃっ!! 見よ、鳥肌だっ!! 貴様なんとかせいっ!」
「こんな社会の窓が臨界点突破した格好で外出できるかよ!」
「……ぐっ」
「……」
「……」
しょぼんと俯くさだこ。下唇を噛み締めワナワナしている。
そして言った。
「ご、誤算じゃ……」

ヤバイ…アホの子だ…。
さっき少しでもビビった自分が死ぬほど恥かしい。

「あーくん」
ちょいちょい、と舞に袖を引かれた。
「アップリケつけてあげるけど、あーくんのAでいい?」
「……勘弁してくれ」
そうしたら間違いなくあだ名は“股間のエース”だ。
「あ。あるじゃない、アップリケを用意しなくても」
「ハァ……何がだよ?」
「あーくんが履けるズボン」
溜息混じりに舞の目線の先を辿ると。
「ん?」
さだこだ。
そういやコイツ。
昨日から俺の服を着ているじゃないか。
「なんじゃ? どうかしたのか?」
もちろん自分が履いているズボンを切るわけがない。
なら俺がすることは一つだ。
「お前に貸したズボンを返せ」
「…………へ?」
「それ、脱げ」
「なななっ!? 何を言っておるっ!?」
恐怖を感じたのか、一瞬で体育座りの防御体制になりやがった!
「バ、バ、バカを言うでないっ! これを脱いだらえらい大変なことになるのだぞ!?」
「うるせぇっ! 元はと言えば自分のせいだろっ!! 早く脱げ! 脱がないなら脱がすからな!」
「わわわわわっ!? やめっ、やめるのじゃぁっ!?」
「ス、ストップ、ストップーっ! さだこさんには私の体操着貸してあげるからーっ!」



「これでよし、と」
「…マジですまん」
「いいよ、いいよ」
「一時はどうなることかと思ったわい」
「俺もだよっ!!」
さだこは体操着に、俺はさっきまでさだこが着ていた服にチェンジだ。
さだこの奴は「似合うかの?」とか微妙に嬉しそうにしてやがるしよ…。
なんで朝からこんな目に遭わなきゃならないんだよ…。
呪いだ…。
間違いなく呪いだ…。
「じゃあ、あーくん。私服だからって学校サボっちゃダメだよ?」
「わかったよ、行くから安心してくれ」
「よし」
舞が嬉しそうに頷いた。
「じゃあ先に行ってるね」
「ああ」
言っておくが、俺と舞は一緒には登校していない。
…………色々勘違いされるだろ。
幼馴染ってだけで勘違いされるのに登校まで一緒にしたら一発アウトだ。あらぬ噂の風林火山になることは必至だ。
ただでさえ舞には迷惑をかけているのに、そんな迷惑までかけられる訳ないだろ。

こっちも身支度すること数分。
「俺も学校に行くけど、大人しくしてろよ」
「たわけが」
テーブルでサンドイッチに手をつけているさだこを横目に、俺は玄関から出た。
……いや、出ようとした。
「な…なんだ?」
まるで体に見えないゴムでも巻きつけられてるんじゃないかという感覚。
前に進もうとしても、足に力を入れないと進まない。
「ぐっ……ぐぐぐっ……」
何か見えない力に引っ張られる……っ!?
くそっ!! これしき……っ!!
無理矢理進もうとした時だ。
『ぐぐっ…ググッ……ひゃぁっ!?』
ガタガンッとテーブルがひっくり返る音、続けざまに。
「ひぃぃーゃぁあぁーーーっ!?」
サンドイッチを手にしたさだこが、後ろ向きのままで俺に向かって吹っ飛んできた!!
「はァ!?」

ドリフのコントかよ、とツッコむ暇もなく激突!!

「いてて……な……なにしやがんだよっ、てめぇっ!!」
「ううっ……私としたことが忘れておった…」
「今度はなんだよ!?」
「くっ……忌々しいが私と貴様は呪いの関係で繋がれておる」
「……」
嫌な予感しかしないのは俺だけじゃないよな…?
「ゆえにじゃ」
いたたた、と頭を抱えたさだこが俺を見上げた。めっちゃ涙目。
「あまり遠い距離までは離れられぬようじゃ…」
「それって…」

つまり俺は…。
何をする時も、こいつを連れて行かなきゃいけないってことか!?

「最悪じゃねぇかっ!!」
「それはこっちのセリフじゃっ!! 元々呪いを回避した貴様のせいじゃっ!! 責任とって死ねっ! 今死ねっ!!」
「うるせぇよっ!! お前の呪いだろ、何とかしろよっ!」
「なんともならぬっ!!」
呪いだ!!
断言しよう!
こいつは呪いだ!!

「あぁ…貴様、私の食物になんたることを…」
……目を下すと俺のズボンにビッチャリとトマト。

替え、ねぇよ。

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