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スプリングハズカム最終章 (涼宮ハルヒの憂鬱)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 突然、長門から告白された!しかもハルヒの目の前で!オイ長門、お前何考えてんだよっ!俺はいったいどうすりゃいいんだ!

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前回スプリングハズカムリスト

そして次の日。
そろそろ胃に穴が開いて病院にお世話になるんじゃないかと思う。
ちなみに昨日は俺から長門にメールをした。
内容はこうだ。
『長門。お前はいったい何を考えているんだ? 何がしたいんだ? 教えてくれ』
『それは禁則事項』
って、洒落っ気たっぷりの返信が返ってきちゃったよ!!
メールにネタを織り交ぜることを覚える前に何がしたいのか教えてくれ、長門様!

教室に着くと、今日もまたポニーテールのハルヒが座っていた。
ちなみにハルヒの半径2メートルには誰もいない。恐らく虫一匹いないだろうな。
それぐらい苛立っているのがビンビンと伝わってくる。
こりゃあ……もう古泉あたりはこの世にいないかもしれん。成仏してくれ。化けて出るなよ。
俺の席はハルヒの真ん前であり、仕方なく腰を下ろす。
腰を下ろすとすぐに椅子の底がハルヒのつま先で蹴り上げられた。
「何するんだよ」
「何でもないわよ!」

後ろからのプレッシャーに耐え続けること4時間。長かった…。ようやく昼休みだ。
ちなみに俺の隣の奴もハルヒの隣の奴も2時間目と3時間目と、相次いで保健室行きだ。
俺の鍛え上げられた精神力が逆に疎ましく思えたね。
授業という拘束から開放され、地獄の門番の前から移動が可能となり俺が立ち上がろうとすると、
「………………」
仏頂面したハルヒの視線が突き刺さる。
「はあ…」
なんだよ、これも呪いか?
溜息と共に毒づきながらも、俺は再び自分の席に腰を下ろし、ハルヒの方を向き「飯でも食うか」と話しかけていた。
ハルヒの弁当はというと、またも重箱。三段。
こいつは学習能力がないのか? 昨日も一段は俺が食っただろうが。
「ん」
上の一段を俺の方によこす。
「食べきれないから、あんたが食べなさい」
「だったら親御さんに言って量を減らしてもらえよ」
「言うのを忘れたの!! 食べないならいいわ!」
自分で言うのも何だが育ち盛りだ。もうハラペコだ。しかもこんなに美味そうなおかずを見せられて断れるはずがあろうか、いやない。
重箱のおかずに箸を伸ばす。相変わらず美味い。スイスイと口の中に吸い込んでいく。
だし巻き玉子に箸を伸ばしたときだ。
「……」
ハルヒの食べる手が止まり、俺の箸の行方を目で追っていた。
くれると言ったのに今になって惜しくなったのか? 悪いが返さないぞ。というか返せん。
ハルヒのそんな視線を気にせずに、だし巻き玉子をパクリと口に入れた。
「お、こいつは…」
ふわりとした柔らかい玉子、ジワリと玉子から染み出るダシがまさに絶品だ。
「こいつは料亭でもやっていけそうな味だな」
「…ふんっ」
で、なんでこいつはそっぽ向くんだよ。
「ちょっと。あたしもあげたんだから、あんたのお弁当も少しつつかせなさいよ」
「ほらよ」
俺が半分食べたハンバーグを掻っさらうハルヒ。
「まあ、普通ね」
「普通で悪かったな」
「これ食べてみて」
「…美味いな」
「でしょー!」
よくわからんが、ハルヒは正の二次関数のごとく機嫌が良くなっていった。


さて、時間は誰にも止めることは出来ない。
恐らくできる奴がいたとしても5秒くらいが限界であろう。
どうしてもこの時間は避けて通れないのだ。
――そう。放課後がやってきた。

そもそも部室に行かなきゃいい話なんだろうが、そういう訳にもいかないだろう。
俺が行かなかったら、あの核兵器女と今や暴徒と化した文学宇宙人が宇宙戦争でも勃発させてしまいそうだ。
「…………ゴクリ」
長門がいないことを祈りながらドアをノックすると、
「どーぞ」
ハルヒの声が響いた。なんで安心してるんだ、俺。
中に入ると、いつもの団長席にハルヒが座っており、朝から見慣れたポニーテールを解いていた。なんでガッカリしてるんだ、俺。
「ちょっとキョン。こっちに来て」
「なんだよ?」
「あたしの後ろに立って」
「はあ?」
「いいから!」
仕方なくハルヒの後ろに立つと、自分の髪をまたポニーテール風にまとめ始めた。
「ちょっと髪を持っててくれない? ポニーテールって一人だと作りづらいの」
ハルヒの髪を手に取る。サラサラしていて、いい匂いがする…って、俺は何を考えてるんだっ!
「位置は?」
「大丈夫だ」
器用にリボンを通し、キュッと結んでいくハルヒ。
まったくお前のポニーテールは犯罪的に似合ってるよ。
「どうっ?」
そんな満面の笑みで振り返るな。
「なんとか言いなさいよっ」
「ええい、うるさい!」
「ほら~、どうしたのよ~?」
そのニヤリと勝ち誇ったような顔を俺に近づけないでくれ。
ガチャリ。
「あっ…お、お、お邪魔でしたか~っ!?」
入ってくるなり朝比奈さんが顔を真っ赤にしてこちらを見つめていた。
朝比奈さんがお邪魔になることなんて地球がツイスト回転を始めても絶対にありませんよ。
「おっと、お邪魔なら僕達は退散しますよ」
お前は邪魔だ古泉。なんで朝比奈さんと一緒に入って来るんだよ。
「いやあ、朝比奈さんが部室の近くでウロウロとしていたもので」
ちなみに今日の古泉はオプションとして松葉杖と哀愁が付属している。
やつれた顔、ヤケクソな笑顔、死んだ魚のような目、傾いだ首、落ちた肩、丸い背中。どこを取っても不幸いっぱいだ。
俺もきっと、ブランド物の財布を買ったその日に落とし、探している最中に車に轢かれ、運びこまれた救急車が事故り、病院をたらい回しにされた挙句医療ミスされたらこんな感じになるに違いない。
「あは…あはは…ははは……はあ」
その引きつった無理矢理すぎる笑い方、逆に気持ち悪いぞ。無理はするな。お前のライフはもうゼロだ。
悪いが、俺にはお前に掛けてやれる言葉を見つけることが出来ん。

…………。
……。
そろそろ下校の時刻。今日は長門が姿を現していない。
そのせいだろうか。
朝比奈さんはビクビクと身動きひとつしなかったが、今はいつものエンジェリックスマイルを振りまいている。
古泉はと言うと、最初こそ窓際サラリーマンか試合に全く満足できないのに真っ白に燃え尽きてしまった明日のジョーのようにパイプ椅子と一体化していたが、今は俺とのオセロ対決に負けて本当に嬉しそうな顔をしてやがる。薄気味悪いぞ。
最後、ハルヒ。
ずっと部室の中をウロウロと歩き回ったり貧乏揺すりしたりと落ち着きが全くない。なんて言えばいいんだろうな。臨戦体勢か。
しかも歩き回って俺の後ろに来るたびに俺の頭を叩くから始末が悪い。言い分(ぶん)はこうだそうだ。
「あんたの後頭部を見ると無性に叩きたくなんのよ」
なら俺を視界に入れないようにしてくれ。
なぜ全員が律儀にも部室に揃っているのかは定かではないが、ともかく後5分でいつもの解散の時刻だ。
朝比奈さんと古泉から発せられる明らかな安堵感と共に時計が時を刻んでいる。
「では、そろそろ――」
古泉がフライングをしようとしたその時だ。
ガチャリ…。
無常にも外から中へ向けて部室のドアが開け放たれた。
きっと俺はこのときの古泉の顔を忘れられないだろうな。
「手間取った」
長門が部室へと入ってきたが、ドアから少し入ってきたところで立ち止まる。そして、くるりと一回転。綺麗にスカートが輪を描いた。
「どう?」
そうなのだ。今日の長門はいつもと一味も二味も違った。
なんと…ポニーテールだ!
だが、髪が短いために上手く纏まってはいない。後ろ髪のすそは纏まりきらず下ろしていて、ポニーテールはポニーと言うよりはダックスフンドと言ったほうがいいであろう。申し訳程度に纏まっているといった感じだ。
けどな、そんな「頑張ったけど、上手く纏まらない」というような様子に……俺は不覚にも萌えてしまっていた。
「…………………………」
ハルヒからは、怒りとも憂鬱とも取れない今までに無い不思議な雰囲気が放出されている。
「時間」
長門が時計を指差す。時計の針は下校時刻を差していた。校内放送も物寂しげな曲と共に下校を促すアナウンスを流している。
「今日はあなたと一緒に下校したい」
「いや、ちょっと待てって、長門」
今日は今日で何を言い出すんだ!
「おい、長――」
ぴとっ、と俺の手に白く小さな手が乗せられた。
「……っ!」
俺の後方から鋭く息を呑む音。
「手を繋いで帰るのが、セオリー」
そのまま俺の手を引っぱって部室を出て行こうとする長門。
「お、おい、待てって、長門!」
その時だった。


「だぁぁぁぁぁっっっめぇぇぇぇぇーーーーっっっ!!!」


教室をびりびりと揺らすほどの大声。
その大声を発した主の方へと振り返ると、そいつは顔を真っ赤にして肩をプルプルと震わせていた。
――――――――――。
教室が静寂に包まれる。
そんなことお構いなしに、ハルヒはすぐに駆け出し、
がばーっ!!
俺の腕にしがみついた! 両腕で、力いっぱい、しっかりとだ。
ハルヒは目をギュッと瞑り、大きな声を張り上げた。
「ぜったいぜったいダメなんだからっ!! キョンはぜったいに渡さないんだからっ!! キョンはあたしのなんだからっ!! キョンもあたししか見ちゃだめなんだからっ!!」
「キョンはあたしと一緒じゃなきゃイヤなんだからぁーっ!!」
「お、おい…?」
「他の女の子と仲良く歩くなんてぜったいぜったいイヤなんだから……っ」
もう後半は搾り出すような声だ。
「ハルヒ…」
俺の腕にしがみついて、小さく肩を震わせている。
………………。
……。
どれくらい時間が経ったのだろう。
体感的には1分はたったように思えるが、実際は10秒程度だろう。
「そう」
長門はそれだけ言うと、俺達から離れた。
「聞いて」
ドアの近くに立ち、全員に呼びかけた。
「――まずは謝らなければならない」
「ごめんなさい」
長門がペコリと頭を下げた。
「「「「………………?」」」」
俺達全員の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「3日前からの私の行動は全て――」

「――狂言」

………………は?
今、何て言った? 狂言? よく意味が飲み込めない。
俺にしがみつくハルヒも、椅子から立ち上がっている古泉も、シリモチを着いている朝比奈さんも目が点になっている。
「狂…言?」
俺が何とか言葉を出す。
「そう、狂言」
時間と共にその言葉が染み込んできた。
狂言……つまり冗談、ということだ。この3日の長門の奇怪な行動は全て冗談だったと言っているのだ。
「ちょっと待て長門、お前の冗談で俺達は――」
古泉がゆっくりと首を横に振る。
「長門さんにも考えがあったのでしょう。彼女が何の考えなしにこんなことをするはずがありません。まずは彼女の話を聞くとしましょう」
古泉が長門に視線を送ると、長門が小さく頷いた。
「――涼宮ハルヒは変化が欲しいと言った」
「…………」
まだハルヒの頭の中は混乱しているらしい。目をパチクリしているだけだ。
だから代わりに俺が言おう。確かにこいつは3日前にそんなことを言っていた。こいつ本人は普通状態でも覚えちゃいないだろう。
「けど、本当にあなたが望む変化は実現する可能性は限りなくゼロに近かった」
「だから私がトリガーとなり強制的に変化を起こした」
長門の説明からは大事なポイントが除かれている。つまり『何の』変化か、ということだ。
「変化…?」と、ハルヒがようやく口を開いた。
「そう」
そう言いながら、長門が俺達を指差す。
「「……?」」
俺とハルヒはお互い顔を見合す。二人の顔の距離は近い。
そりゃそうだ。まだハルヒが俺の腕にしがみついてるんだからな。
「……」
「…………」
「……」
「…………――~~~~~~~っ!!」
どんっ、と俺はハルヒに突き飛ばされた。
「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょっとっ!! あんた誰の許可を得てあっ、あっ、あたしに触ってんのよっっ!!」
「そりゃ――」
ここで俺は言葉を切った。真っ赤になってあたふたとしている奴にそんなことを言うのは…野暮ってもんだろ?
「私はトリガーの役目を果たした。俗っぽく言うならば、噛ませ犬」
俗っぽ過ぎだろ、そりゃ。一体どこでそんな言葉を覚えてきたんだよ。
「これ」
長門が鞄から一冊のパステル調の彩をしたハードカバーの本を取り出した。ここ最近長門がずっと読んでいた本だ。
「あ、その本わたしも読んだことがあります~」
復活した朝比奈さんがこちらへ身を寄せていた。
「えーっと、内容はたしか…素直になれないヒロインが、突然のライバル出現でだんだん自分の乙女心を――ふぐぐぐ~っ!?」
「みーくーるーちゃんーっ」
「ふえぇえぇ~っ!? なにするんですかぁ~っ」
ハルヒが朝比奈さんを羽交い絞めにしていた。
「それに」
長門が俺を指差す。
「日常に刺激が欲しいと思っていた」
はあ…確かに俺もあの時、そんなことを考えちまったよ。日常にちょっとしたスパイスが欲しいってな
ああ、とんでもないスパイスだった。そりゃもう胃がキリキリと痛むほどにな。
もう二度とそんなことは考えないだろうよ。かけ過ぎだ。
長門が満身創痍の古泉へと指を移す。
「運動不足解消」
こいつは古泉のことまで気にかけていたのか。優しいな、長門は。優しさというものは人それぞれの捉え方もあるが。
「ははっ、長門さんには一杯食わされましたね。口は災いの元とよく言ったものです」
株で全財産をすった奴のような乾いた笑いが口から漏れる古泉。本気で後悔しているのであろう。

――どうやら長門はいつも古泉がやっている夏合宿殺人事件のようなことを肩代わりしたのだろう。
しかも日常に文句を垂らした全員分まとめてだ。そりゃ大騒動にも発展もする。
こうして、長門の巻き起こした騒動は終焉を迎えた。



この後のことはあえて語るまでもない。
いつも通りの日常だとしか言いようがないからな。
長門は普段の大人しい文学少女に戻り、隅のパイプ椅子でいつものようにハードカバーの本を開いている。突然クッキーを持ってくることもない。
朝比奈さんはお茶収集にご熱心である。たまに長門からカラフルな本を借りているのを目にすることが多くなった気がする。
古泉は相も変わらずボードゲームが弱い。あの日から何日かは長門の精神やらハルヒの精神やらのことを喜々として話していたが、内容は全く記憶に残っちゃいない。
ハルヒはというと、いつも通りとしか言いようがないな。俺のことは小間使いくらいにしか思ってないだろうし、訳のわからんことをして尻拭いさせられるのはやっぱり俺だ。
なんら変わっちゃいない。







ああ、そうだ。
あの日から少し変わったことがあったけな。
書き留めるまでもないと思ったが書いておくか。

ハルヒと一緒に昼飯を食うようになった。
あと、俺の体重が1.4キロ増えた。
それだけさ。




■あとがき

こんにちは、または初めまして。作者のmです。
涼宮ハルヒの憂鬱SS『スプリングハズカム』を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
楽しんでいただけたのなら光栄です。

まずは謝らなければなりません。
長門×キョンと思って読んだ方、本当に申し訳ありません。
ラストで明かされますが……ハルヒ×キョンです。
見ようによってはドM古泉SSとも取れますが(笑)

このSSでは、長門が直接的なアピール、ハルヒが間接的なアピールと対比させています。
ハルヒはいつもは自分で全てを実行するのに、こと恋愛に関しては奥手中の奥手でしょうね(笑)
きっと自分から動くことはないでしょうし、誰かに指摘されたり後押しされたら余計に意固地になってしまうでしょう。

素直になれないけど、好きな人の気を惹きたい。
遠回しにしか表現できないけど、それでも一生懸命がんばっているハルヒを表現したつもりです(笑)


前回スプリングハズカムリスト

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