前回<ロ理樹ちゃんプールへ行くリスト>
――夕焼けの帰り道。
「今日はたくさん遊んだねーっ」
「やはは、プールの後はやっぱりアイスだね」
「このミントのソフト、おいしいじゃない」
小毬ちゃんと葉留佳と二木は、三人並んでアイスを味わっている。
「私もねむねむなのです~」
「うむ、このプールから上がった後の倦怠感が堪らんな」
「……この心地よい疲れが良いのかもしれません」
眠そうな目をこするクドと、体を伸ばす来ヶ谷に、あくびをして「…すみません」と言うみお。
みんなでゆっくりと河原を歩いている。
夕焼けに照らされたみんなの影が、長く長く伸びている。
「理樹、すやすやねてるな」
「ああ」
理樹はというと、恭介の背中で気持ち良さそうに眠っている。
「…こうしていると、昔を思い出す」
目を細めて言う謙吾。
「夕焼けは帰りの合図だったっけな」
夕焼け。
小さかった頃は、夕焼けが帰りの合図だった。
日が傾き始めると、その日の楽しい思い出を胸に残して家路に着く。
帰り道はいつも夕焼け。
恭介の背中にはいつも、遊び疲れて眠ってしまったあたしか理樹のどっちかが背負われていた。
みんなの声で目を覚ますと、決まって恭介の肩越しに見える遠い夕焼け空。
…さっきまで青空の下を走り回ってたのに、今日はもう、お終いなんだ。
眠い目をこすりながら、いつも思った。
夕焼けは寂しさの合図。
……小さい頃のそんな感覚は、今はもうない。
あの頃の気持ち。
どこに忘れてきちゃったのだろう。
「――俺たちも、大きくなっちまったんだな」
夕焼け空を見ている恭介のつぶやきは、あたしが思ったことと同じだった。
「…ああ」
「…そうだな」
謙吾も真人もきっと同じだ。
小さな理樹の、無邪気な寝顔に目を向ける。
夢の中では青空の下を自由に遊び回っているのかもしれない。
「――なあ」
「……あたしたちは、どうして大人になるんだろうな」
なんとなくそんな言葉が口を突いて出る。
――誰からもその答えはなかった。
***
――こんな夢を見た。
街や野原や河原を走り回っている。
みんなとても小さい。
懐かしい光景。
けど、きっとこれは僕の夢じゃない。
誰かの夢だ。
それはきっと夏休みの光景。
朝は期待に胸を膨らませて目を覚ます。
今日は何をして遊ぼう?
彼の夏休みの一日は、まるで宝石が散りばめられたかのように光り輝いていた。
見るもの全てが楽しく。
触るもの全てが新鮮で。
感じるもの全てに心躍らせる。
好奇心がとまる時間は1秒だってありはしない。
朝のラジオ体操で金シールを張ってもらったときは、嬉しくてみんなに見せて走り回る。
虫取り網を持って駆け回り、虫たちとの遭遇に胸を高鳴らせる。
小さな発見は、大冒険の鍵。
彼にとってその日あったことは全部、キラキラした宝石だ。
一日という時間は、そんな宝石がぎっしり詰まったジュエリーボックス。
そのジュエリーボックスの蓋は夕焼けとともに閉じられ、
次の日、新しいジュエリーボックスが生まれる。
――また彼は期待に胸を膨らませて目を覚ますんだ。
『――どうしてあの頃は、なんでもないことでここまで喜べたんだろうな?』
大きくなった彼もまた、同じ夢を見ている。
『あの頃は…ただ純粋に一日を楽しんでた』
『今と違って、一日が永遠とも感じるほど長かった』
『何もかもが輝いて見えた』
『――いつ頃、俺たちは大人になったんだろうな』
しばらくして彼が再度口を開いた。
『あの頃に戻ってみたい……そう思ったことはないか?』
僕はなんて答えたんだろう?
『リフレイン』へ続く。
■あとがき
こちらも一つの終わり方です。同時に一つの始まり方でもあります。
今回はリフレインするSS、ということです(笑)
こちらの終わり方は、いつの間にか大人になっていた私の気持ちを中心に構成しています。
この話を書いていた時、窓の外では子どもが帽子と虫取り網という格好で走り回っていました。
私の家は山ですので、近くに小学生が集まってくるのですよ。
外からは「バッタだっ」「セミっ!!」など活き活きとした声が聞えてきます。
みんな、その一瞬一瞬を全力で楽しんでいます。
そこで私は思います。
――あの頃のような純粋なきらめきを感じることは、もうない、と。
昔は海で拾ったガラスを綺麗な石だと思って宝物にしたこともありました(笑)
昼寝をしてしまって夕方に目を覚まし、寂しくなったこともありました。
そのような子どもながらの感覚…思い返すとなんだか妙に寂しい気持ちになります。
後半は…私の回想と問いかけです。
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