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ビューティフル・ドリーマー(沙耶アナザーストーリー) 3話 (リトルバスターズ)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 ※沙耶を知らない方でも楽しめる構成とするため、沙耶の設定を拝借したオリジナルストーリーなっております。

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前回ビューティフル・ドリーマーリスト次回

8月14日
「夢は現」(中編)





 午後。

「真人、がんばれーっ!」

「まかへほ、りひっ(任せろ、理樹っ)」

「フーーーッ、スゴゴゴ、ブフゥーーーーーーッ、スゴゴゴ、ブフゥーーーーーッ!!」



 あたしたちは砂浜の上で、3人掛けバナナボートと格闘していた。



「なんでよりにもよって空気入れを忘れるのよっ!?」

「入れたと思ったんだけどな…うっかりしてたぜ」

「恭介は完璧に見えて意外なところが抜けているからな…」

「ん、そういや鈴はどこだ?」

 辺りを見回す恭介くん。

「鈴ちゃんなら付き合ってられないって、ほら、そこで泳いでるわ」

 なんでも『あたしはこれからは孤独ないっぴきおおかみだ。あばよ』だそうだ。

 今はあたしたちの目が届く範囲で、可愛いネコの浮き輪をビート板代わりにしてちゃぷちゃぷと泳いでいる。



「ぐはっ、ハァッハァッハァッハァッハァっ!! け…謙吾…交代っ!!」

「おうともっ!!」

 真人くんから謙吾くんへとバトンタッチがされた。

「真人、すごいよっ!」

「ホントね……半分は膨らんでるわ」

「ハァッ……ハァッ……だろっ! まっ、任せろってのっ」

 数分後。

「ぐっはぁっ!! ハァッハァッハァッハァッハァっ!! 沙耶、こ、交代だっ」

 もう一歩のところで謙吾くんがギブアップ。

「わかったわ、あなたたちの犠牲は無駄にはしない」

 あたしも空気のキャップをくわえ、思いっきり息を吹き込む!

「フーーーーッ!! フゥーーーーーッ!! ブフゥーーーーッ!!」

 うっわ、思ったよりきっつっ!

 あの二人は化物!?

 全然膨らまないじゃないの、これっ!!

「ふぉのっ、ふふふぁふぇぇぇーーーっ!(このっ、膨らめぇぇぇーーーっ!)」

 あたしが必死に空気を入れていると、あたしの前でバテてた真人くんが顔をあげた。

「沙耶、無理すんな……うおっ!? おめぇ、女にあるまじきツラになってっぞ!?」

「ふっころふわひょっ!!!!(ぶっ殺すわよっっ!!!!)」



 そんなこんなであたしもゴール目前でギブアップ。

「ハァッ…ハァッ……理樹くん、後は頼んだわよっ」

「え、えええーーーっ!? い、いやっ、けっ、けっ、けどっ」

 あたしがバトンを託した理樹くんはなぜか顔を真っ赤にしてキョドっている。

「なにをしてるのよっ、早くやりなさいよっ」

「で、でも……それって……それって沙耶さんと……そのあのその……間……間接……」

 女の子座りで砂浜に座りバナナボートの先を抱えている理樹くんは、空気を入れるキャップと、あたしの顔を交互に見つめては湯気を噴きそうなほど顔を上気させている。

「でももストもないわよっ! 早くやりなさいよっ!! やっちゃいなさいよっ!! 男の子でしょ! ぶちゅーってやっちゃいなさいよ!!」

「いや…う…わ、わかったよっ……み、見ないでよ」

 頬を桜色に染めた理樹くんが、ためらいがちにチュッと空気のキャップをくわえた。

「ん…あむっ……ふ~~~っ、すぅーー、ふぅぅぅ~~~~っ、すぅーー、ふぅぅぅぅ~~~、うぅ~~~っ」

「……」

「……」

「……」

「……」

「ヤベ…理樹の懸命な姿はある種犯罪的に可愛いな」

「……無性に抱きしめてあげたくなるわね……」

 理樹くんの可愛さには激しく同意だった…。





「「「「「じゃんけん、ぽんっ!!」」」」」

 3人乗りバナナボートも完成し早速海へと浮かべた。

 今やっているのはバナナボートに乗る人と後ろからバタ足で押す人を選ぶじゃんけんだ。

「ぬおぉぉぉぉーーーっ!?」

「負けたぁぁぁーーーっ!!」

 結果、謙吾くんとあたしが押す係だ…。

「……こういう場合だけど」

「なんだ、沙耶?」

「普通『女の子は真ん中な~』とかそういうノリにならない?」

「いや、ならんが」

 即答だった。

「ちなみに真ん中は理樹な」

「ええー、僕っ?」

 ……。

 フン、彼に魅力的に負けてるのは認めてやるわよ。

「理樹っち、早く真ん中に乗れって」

「真人、押さないでよーっ」

「こらこら理樹、俺に抱きつくなよ」

「ち、違うよ恭介っ! だ、抱きついたんじゃなくてっ、ただ真人が押したからぶつかっちゃっただけだよっ!」

 ボートの上ではイチャイチャ(少なくともあたしにはそう見える)が繰り広げられていた。

 …あたしたちは水の中。

「……謙吾くん、こうなったらありえない速度で押してやりましょ」

「……ああ、俺もちょうどそう思っていたところだ」

「準備はいい?」

「いつでも来い」

「――レディ、ゴ!!」



「うおおおぉぉぉりゃぁぁぁーーーっ!!」

「ふぬぅあああぁぁぁーーーっ!!」

――ドババババババババババババババババババババババァァァーーーッ!!



「はははははははっ面白れぇぇぇーーっ! ありえねぇーくらい速ぇぇぇーーーっ」

「下手したらモーター付のボート並みだろ、これっ!」

「うわわわわっ、速すぎるからーっ!」

「ちょ…理樹っ! 前の恭介にばっか抱きついてないでオレにも寄りかかってくれよっ」

「理樹、真人は放っておいて俺とタイタニックごっこしようぜっ!」

「どっちも嫌だよっ!」

 人が必死にモーター代わりしてるってのに上の奴らときたら……

「うんがぁぁぁーーーっ!! 上でイチャつくなぁぁぁーーーっ!!」

「そうだそうだ、俺たちと交代しろ! 理樹は置いて!!」

「僕、また上!?」



 そうやって大騒ぎしながら遊んでいたときだ。

 あたしはバナナボートをバタ足で押しながらなんとなく鈴ちゃんの方を見た。

 20mくらい離れたところで、鈴ちゃんが可愛らしいネコの浮き輪をビート板代わりにして遊んでいた。

 こっちをチラチラ見ている辺り、こっちに戻ろうか悩んでいるんだと思う。



 そんなことを考えながら見ていると――鈴ちゃんが突然前触れもなく潜った。

 すぐに激しい水しぶき。

 何をして遊んでいるのかしら?

 手で水面を叩いている…………って、うそっ!?



「うわっ……うぷっ!」



 鈴ちゃんが溺れているっ!

 いきなり沈むなんて…まさか足でもつった!?

「鈴ちゃんっ!!」

 気付いた次の瞬間には、あたしは全速力で鈴ちゃんに向かって泳いでいた!

「鈴ッ!?」

 恭介くんも気付いたのか、後ろから切羽詰った声が響く!

 あたしが鈴ちゃんに向かって泳いでいる間にも、鈴ちゃんが水に沈んでいく!



 間に合え、間に合え、間に合えぇぇぇーーーっ!!



「うわっっぷ!! うあっっ」

「鈴ちゃんっ!」

 もがく鈴ちゃんを後ろから抱きかかえた!

 ……間に合った!

「うあ…っ! うわぁっ!?」

 あたしが抱きかかえてもなお暴れている!

「鈴ちゃん、落ち着いて! もう大丈夫、大丈夫、もう大丈夫だから」

「わぁっ! うぁ…………」

 徐々に落ち着きを取り戻し始めた。

「さ、さや…?」

 恐怖心から安堵へと移り変わる瞳があたしに向けられた。

「…もう大丈夫よ」

 頭を優しく撫でる。

「ううぅ……くっ……く……」

「くっちゃくちゃこわかったっ」



――ぎゅぎゅ~~~~っ



 鈴ちゃんがあたしにしっかりと抱きついてきた。

 よかった……。

 本当によかった……。

「鈴ッ!」

 すぐさまみんなも集まってくる。

「大丈夫……っ!?」

「なんとかね……間に合ってよかった……」

「沙耶、スマン…本当に助かった…」

 恭介くんなんて半分涙目だ。

 謙吾くんも真人くんも理樹くんも顔色が悪かったけど、あたしたちの様子を見て次第に笑顔が戻ってきた。







「でなっ、いきなり足がピキーーーンってしたんだっ」



――海からの帰り道。

 鈴ちゃんのことがあってから、あたしたちはすぐに帰ることにした。

 みんな最初はテンションが低かったけど、鈴ちゃんの元気な様子を見て胸を撫で下ろしている。



「びっくりしたら、水まで飲んでわけわからんくなってしまった」

「けどな、けどなっ」



 鈴ちゃんの手が大きく振られる。

 同時に、鈴ちゃんと手とつないでいるあたしの手も大きく振られる。



「さやのおかげできゅーしに一生だっ」

 隣の鈴ちゃんがあたしの顔を覗き込んできた。

「あのときのさやはくちゃくちゃカッコよかったぞ」

「いや、もっちゃもちゃだっ!」

「あ、当たり前のことをしたまでよ…そ、そこまで言われると照れるじゃない」

「けんそんするな」

 あたしの手をギュッと握る鈴ちゃん。

「沙耶さん、すっかり鈴に懐かれたね」

「こんだけ鈴がすぐに馴染んだのは始めてみたぞ…」

 意外そうな顔をしている真人くん。

「つり橋効果、みたいなものかもしれんな。よほど沙耶がヒーローに見えたのだろう」

 謙吾くんはクールな笑顔を浮かべている。

「せめてヒロインって言って欲しいわ」

「さやはあたしにとってヒーローだったぞ。それに比べて……」

 鈴ちゃんの目がパラソルやら大荷物を持ってうなだれている恭介くんに向けられている。

「ついに兄妹の縁を切るときがきてしまったようだ……」

「ぎゃぁあぁあぁあぁーーーっ!!」

 ……見ていて哀れだった。



「――沙耶さん」

 あたしに微笑を向ける理樹くん。

「なに、理樹くん?」

「海はどうだった?」

「そりゃもう、これ以上ないってくらい楽しかったわ」

「行けるのならまた行きたいわね」

 大変なこともあったけど楽しかったの一言に尽きる。

「いや、そうじゃなくて…」

 なぜか溜息をつかれた。

「え? なにが?」

「何か思い出したり、切っ掛けを見つけたりした?」

「……」

「……」

「……」

「……」



「あ」



「目的をすっかり忘れてたぁぁぁーーーっ!!」

 それどころか、何もかも忘れて楽しんでしまったぁぁぁーーーっ!!

「こいつ馬鹿だろ」

「真人にまで馬鹿といわれるとはな……マズいぞ、沙耶」

 真人くんと謙吾くんの哀れみの目線が痛いっ!

「いや……沙耶さん…えっと……あ、焦る必要はないよ! これから頑張ろうっ!」

「そ、そ、そ、そうね……これから頑張るわ…」

 理樹くんの励ましの方が心苦しかった…。

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