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ビューティフル・ドリーマー(沙耶アナザーストーリー) 4話 (リトルバスターズ)
作者:m (http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana)

紹介メッセージ:
 ※沙耶を知らない方でも楽しめる構成とするため、沙耶の設定を拝借したオリジナルストーリーなっております。

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※オリジナル要素がございます。

8月14日
「夢は現」(後編その1)



 海から家までの帰り道の途中、恭介くんが突然立ち止まってある一角に目を向けた。

「どうしたの、恭介くん?」

「そういや、そこ」

 そこには墓が立ち並んでいた。

 あたしが昨日立っていたところであり、野球ボールの直撃を受けたところでもある。

「んだよ、沙耶を拾った場所じゃねぇかよ」

「人を物扱いしないでくれない?」

 昨日アレだけヘコんでたのに、真人くんはもう野球ボールをぶつけたことを忘れているらしい。

「そこがどーかしたのか、きょーすけ?」

「いやな」

 恭介くんがあたしに目を戻す。

「沙耶が昨日あそこにいたってことは、そもそも墓に用があって来てたんじゃないか?」

「なるほど…用もなしに墓には来るとは到底思えないからな」

 謙吾くんがフムフムと納得する。

「そっか、ならお盆だしお墓参りかな?」

「どうなのかしら…そう言われてもピンと来ないけど」

「ま、何か思い出す切っ掛けにもなるかもしれん。見てみるだけ損はないんじゃないか」







「――ここだ」

 昨日と同じ夕暮れ時。

 昨日と同じ場所。

 周りの木々からはひぐらしの声が響いている。

 あたしたちは、昨日あたしが倒れていたのと同じ場所に立っていた。



「時間的には昨日と同じなんだが…何か気づいたことや思い出したことはないか?」

「うーん…」

 頭を捻るがこれと言って何も出てこない。

「はぁ…ダメね、やっぱり何も思い出せない」

「なんでもいいんだが」

「なんでも……なんでも……」

 さらに頭を捻る。

 何か、なにか…ねえ。

 あ。

「そういえば昨日…」

 思いつくままに口に出してみた。

「何か思い出したの、沙耶さん?」

「思い出したわけじゃないけど…気付く前に何かを燃やしたような臭いがした気がする」

 それが今のところあたしの一番古い記憶だ。

「燃やしたような臭い…?」

 首を傾げる理樹くん。

「恭介、わかる?」

「燃やしたような臭いか…」

 恭介くんも理樹くんと同様、頭を捻っている。

「…昨日は13日だったな」

「謙吾は何か思い辺りがあるのか?」

「ああ」

 謙吾くんが静かに頷いた。

「それは恐らく『迎え火』だろう」

「むかエビってなんだ?」

 それはあたしも初めて聞く言葉だ。

「迎え火だ。この辺りの地域では盆入りの13日の夕方に、墓や家の前で火を焚く習慣がある」

「あの世に行っている霊をこの世に迎えるため、そして帰って来た霊が道に迷わないように焚く、と聞いたことがある」

「へぇ…そんな風習があるのね。勉強になるわ…」

「んでよ」

 脇で面倒くさそうに話を聞いていた真人くんが口を開いた。

「そのなんとかっつーのは、何か思い出すのに関係あることなのか?」

 ……。

 あまり関係なかった!

「さやがお墓まいりに来てたなら、その辺にさやの親戚のお墓があるんじゃないか?」

 腕を組んだ鈴ちゃんがそんなことを口にした。

「鈴の言う通りだ。その可能性が高い」

「よし、おまえら」

 手をバッと前にかざす恭介くん。

「ミッションだ。沙耶に関係がありそうな墓を探すぞ――さしずめ『朱鷺戸家』の墓だ」



 ……10分後。

「謙吾、そっちはどうだ?」

「見当たらないな」

「沙耶は?」

「こっちも収穫ゼロ」



 手分けをして『朱鷺戸家』の墓を探したが、それらしいものは見つけることが出来なかった。



「それじゃあよ、沙耶はいったい墓に何しに来てたんだ?」

「それを知ってたら今さらこんな墓を回るなんていう地味な苦労をしてないわよ…」

「朱鷺戸家、っていうお墓はなかったけどさ」

 理樹くんが、あたしが倒れていた場所の正面の墓を指差した。

「一番気になるお墓って言ったら、これかな?」

「沙耶さんはこのお墓の前で倒れていたんだし、何か意味があるかもしれない」

 そこにあった墓にはこう書いてあった。



 『時任(ときとう)家』



「朱鷺戸と時任…ニュアンスは近いな」

「たとえ親戚だったとしても、そんな語感が近い苗字にはならんだろ…」

 納得している恭介くんと、対照的に顔をしかめる謙吾くん。

「時任……?」

「沙耶さん、どう?」

 何か引っかかる気はした。

「ヒントはなかったんだし、とりあえず調べてみよっか」

「調べる前に手を合わせてからな」

「わかってるよ、恭介」

 みんなでお墓に手を合わせた後、理樹くんが墓に屈みこんで墓石に刻まれた名前を辿り始めた。

「えっと、一番最後に亡くなった人の名前は…」





「没 平成二十年六月 時任『あや』――」





「――ッ!?」

 名前を聞いた瞬間だ。



 ぐらり。



 あたしの世界が揺れた。

  「沙耶さんっ!?」

 みんなの呼ぶ声が遠い。



 ぐらり。



 な…なに、この感覚……!?

 最近聞いたような名前?

 いや違う。

 ずっと親しんでいたような名前?

 いや違う。

 ……違うの?

 わかりそうでわからない。

 手が届きそうで、届かない。

 あや…?

 あや……?

 胸が締め付けられる。



「……っ」

「――ょうぶっ!? 大丈夫、沙耶さんっ」

「……」

「……あ……」

 ブラックアウトしそうになった意識が戻る。

――あたしは理樹くんに支えられて立っていた。

 みんなも心配そうな顔であたしを覗き込んでいる。



「ご、ごめんなさい…たぶん貧血か何か」

 理樹くんから離れた。

「――いや」

 考え込む恭介くん。

「今の沙耶の反応……」

 フッと不敵な笑みを溢した。

「どうやら俺たちは当たりを引いたみたいだな」



 名前を聞いたときのあの感覚。

 間違いなくあたしと何か関係があるに違いない。



「ここの墓の持ち主のところを尋ねりゃ沙耶のことが何かわかるってわけか。良かったじゃねぇか」

 真人くんがニカッと笑った。

「案外早い解決だったじゃないか」

 笑みを漏らす謙吾くん。

 ようやくあたしの閉ざされた記憶の糸口を掴めた。掴めたんだ。

 けど……。

「解決…ね」

 あたしの返事は煮え切らないものだった。

「どうした沙耶、嬉しくないのか?」

 恭介くんが不思議そうな顔で覗き込んできた。

「う…嬉しいわよ、そりゃもう、とっても」

 ……。

 気持ちは揺らいでいた。

 何かわかったら…記憶が戻ったら…。

 昨日の大騒ぎの食事風景や、今日海でみんなと一緒にはしゃいだ光景が脳裏をよぎる。

 ……記憶が戻ったら……みんなと一緒に居る理由、なくなるわね……。



――ポンポン。



 あたしが俯いていると、恭介くんの手が頭に乗せられた。

「……な、なによ?」

「いやなに」

 無邪気な笑顔が向けられている。

「俺たちのところに泊まっていけよ」

「――記憶が戻ってもな」

「っ!」



「そうだね、僕たちはもう友達なんだから。沙耶さんが居たいと思うならいくらでも居てよ」

 人懐っこい笑顔の理樹くんがあたしの左に寄り添う。

「そーだな、せっかく友達になれたのに帰っちゃうのはさみしいな」

 鈴ちゃんも頷きながらあたしの右側を確保している。

「はっはっは、遊んでいる最中に帰られたらこちらとしても困るからな」

「どうせなんだからもっと遊んでから帰りゃいいじゃねぇーか」

 謙吾くんも真人くんも、あたしと遊びたいと言ってくれている…。



「あなたたち……」

 あたしを包み込むような笑顔が向けられていた。

 たった一日のことなのに。

 みんなはもう、あたしのことを大切な友達だと思ってくれている…。

 ……あたしもそう感じてしまっている。

「わ……っ」

「わかったわよっ! そ、そこまで言うんだったらいてやらなくもないわっ! たのむ~帰ってくれって言われるまでぜ~~~ったい居ついてやるからぁーっ!」

 あたしは胸に込み上げる熱いものを悟られないように、そんな憎まれ口を叩いていた。

 溜息混じりにあたしのことを見ているみんなは、温かかった。





「オーケー、そうと決まれば……」

 恭介くんが言葉を言い出したときだ。



――ブーゥ…ブーゥ…ブーゥ…――



 恭介くんの携帯が振動していた。

「ん――はい、もしもし」

「…………はい……わかりました。いえ、ちょうどこちらもお聞きしたいことがありましたから。では今からお伺いします」

 ナイスタイミング、と言わんばかりの顔で携帯を閉じた。

「恭介、誰から?」

「昨日沙耶のことを調べてくれと頼んだ駐在所の人」

「んだよ、今さらかよ。一足遅ぇっての」

「まぁまぁ真人、いいじゃない。駐在所の人からも色々沙耶さんのことを聞けるだろうし」

「そうだな、こちらも丁度訊きたいことが出来たところだ。まずは駐在所に行こう」

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