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――授業(ほとんど自由時間だったけど)が終わり、休み時間になった。
「――で、恭介氏はどうした?」
「あ、僕もそれが気になってた」
「なんでも、今まで読みたかったマンガ本がようやく借りられたらしい」
「今頃は教室で読みふけってると思うぞ」
うわっ、自分から王様ゲームを振っておいてそれなんて…恭介らしい。
「あの馬鹿兄貴、かわいくなった理樹が見たくないのか?」
鈴は僕のことを早く恭介に見せてあげたいらしい。
「恐らく期待していないのであろう」
謙吾はどうやらあまり、恭介と僕を合わせたくないようだ……。
期待されてないと言われると……なんか悔しいな。
「いや、恭介氏が自ら会いに来ないのは…こちらとしては好都合だ」
「あ、姉御まさかっ!?」
「うむ、こちらから恭介氏を攻め――落とす」
来ヶ谷さんはビッと立てた親指を下に向ける。
「わふーっ! みっしょん・いんぽっしぶるなのですっ」
「……恭介さんとなると、井ノ原さんや宮沢さんのように簡単にはいきそうにないですね」
――確かに、策を練れば練るほど恭介は裏を突いてきそうだ。
「俺は落とされたんじゃない、落ちたんだ!」
「謙吾、誰も聞いてないよ……」
どうでもいい謙吾の言い訳をみんなスルーしていた。
「ふむ…そうだな」
「恭介氏相手なら策を練るより…あえてシンプルな策でいったほうが良策だろう」
「くるがや、作戦はあるのか?」
鈴も興味津々だ。
「恭介氏に効きそうな作戦が一つだけある」
「作戦名は――」
「うわーん遅刻遅刻ー! 私の名前は直枝理樹、パパの仕事の関係で今日から新天地に移り住むことになったの」
「けど私には一つだけ秘密があるの。それは見た目は美少女だけど、本当は男の子だってこと」
「新しいクラスのみんなにバレないように生活できるかしら」
「たしかあの角を曲がって真っ直ぐ行けば学校よね、あーん神様ー初日から遅刻は避けれますようにっ」
「角を曲がると――どっすん☆」
「いたたた……。痛ぇーーーっ、おまえどこ見て走ってんだよ!? あんたこそどこ見て走ってるのよ!?」
「なんなのよアイツ!? 謝りもしないで! ホント頭きちゃう、って遅刻しちゃうーーーっ」
「今日からこのクラスの一員になる直枝理樹ちゃんだーみんな仲良くするようにー」
「あああぁぁぁーーー!? おまえはっ!? あんたは今朝の無礼者っ!?」
「そしてなんやかんやでゴールイン」
「――作戦だ」
「え、ええええぇぇぇぇーーーっ!? 今の全部作戦名なのっ!?」
「無論だ」
「何か質問がある奴はいるか?」
「……鈴さんの髪って、綺麗ですね」
「う、うっさい…はずかしい」
「ほれーほれーほれークド公~」
「わ、わふー……目がまわりますぅ~」
「理樹、ちょっとだけでいい。手をつながないか?」
――誰も聞いてなかった!!
「はいっ」
あ、小毬さんが手を挙げてる。
「うむ、なんだ小毬君」
「その『うわーん遅刻遅刻ー!……」
――1分後――
「……ゴールイン』作戦はぁ……」
「途中一箇所違ったから言い直しだ」
判定きびしいっ!
「うわあああああんっ! 長すぎておぼえてないーーーっ」
小毬さん、覚えようとするなんてまじめ過ぎるよ……。
「うむ、少々長すぎたか……」
「ならば略して『棗兄作戦』としよう」
「うんっ、それならわかりやすいね~」
「とてもわかりやすいのですっ」
小毬さんとクドは納得してるけど。
「さっきの作戦名に一字たりとも含まれてないよっ!」
「なんだ美少女、ちょっとくらい可愛いからといって我がままだぞ」
「おっとー、理樹ちゃんが性悪アイドルと化してしまったーっ」
酷い言われようだ……。
「まあ作戦名は置いておいて、作戦自体は至極簡単だ」
「私がまず恭介氏をさり気なくおびき出す」
「そして私の合図で理樹君が廊下の角から飛び出し、恭介氏とぶつかり運命的な出会いを果すのだ」
いや、それはちょっとベタ過ぎな気がする……。
「なるほどな。マンガを読み込んでいる恭介なら、そこから勝手に先の展開を妄想するだろうな」
謙吾がうんうんと納得している。
「……私達は切っ掛けを与えるだけで、あとは恭介さんが自らステレオタイプのストーリーに堕ちていくのですね」
「『策士、策に溺れる』というワケなのですねーっ」
「たしかにきょーすけは、そーいうベタなのに弱いな」
「今回は、無線機はつけてもらうが…私達からの指示はなしだ」
「え、ええっ!?」
「恭介氏の動きをよく読んで、キミが臨機応変に対応するんだ」
来ヶ谷さんに肩をポンッと叩かれる。
「今までの経験を活かせ」
……今までの経験って言われてもなぁ。
――けど。
あの恭介相手にどこまで出来るかわからないけど……。
「うん、やってみるよ」
「うむ、いい返事だ」
「ついにきょーすけをこえる日がきたな」
「理樹ちゃんがんばれ~」
「リキならきっとできますっ」
「理樹ちゃんファイトー」
「……棗×直枝いえ、直枝×棗でしょうか…ついに夢のカードが実現……ぽっ」
「理樹、頑張らなくていいからな」
――みんなの応援で(後半は違う気がするけど)もしかしたら出来るかも、という気が湧いてきた。
「では、理樹君…これをくわえてくれたまえ」
――来ヶ谷さんが後ろからゴソゴソと何かを取り出し、僕に手渡した。
「ト、トースト……?」
「こんなこともあろうかと用意しといた。無論焼きたてだ」
……いつの間に、とかツッコむのはやめておこう……。
――はむっ
とりあえずトーストをくわえてみた。
「……あぁ、異様に萌える……」
来ヶ谷さんが恍惚とした表情で萌えていた。
「……あぁ、萌える……」
謙吾まで恍惚とした表情で萌えていた……。
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